オリジナルヒロインの逆ハーとなっています
が派手な恋愛、エロは今のところありません。
「どうしたんです、彼女は」
カドフェルの姿を見つけたベリンガーは、おはようの挨拶もそこそこに口を開くと尋ねた。
「君で何度めだろう」
この説明をするのはと思いながら、畑仕事は以外と重労働なんだ、体力も使うしねと独り言のようにカドフェルは呟いた。
「では、額の傷は、一体どうしたんです」
転んだんだよ、そして偶然、運が悪く石があったんだ、大丈夫、たいした傷じゃないといいながらカドフェルはベリンガーを見た。
「ところで、今日は何の用だい、事件でも」
「いえ、そのロバを」
話が見えないと不思議そうな顔をしたカドフェルにベリンガーは彼女が馬に乗るのが恐いならロバはどうかと勧めたことを話した。
体の大きさや高さは馬に比べて小さくて低い、それに歩くのもゆっくりなので、これなら女子供でも乗れるだろう。
ところが、やめたほうがいいなとカドフェルは、きっぱりと言い切った。
「どうしてです、ブラザー」
「ロバがおとなしい生き物でも今は無理だろう、視界が揺れるのが苦手なようだ、それで君は、なんだ」
ベリンガーは少し気まずそうな顔をした。
自分の言い方は少し嫌みに聞こえただろうかと思いながら、言葉を続けようとしたカドフェルだったが、ブラザーと呼びかけ走ってくる若い僧を見て驚いた、ひどく慌てている様子だ。
「ブラザー、お客様です、彼女に、その大変です、奇跡が起きたと」
カドフェルとベリンガーは顔を見合わせたのも無理はない。
「落ち着いてなんていられません、副院長はひどく興奮していて、彼女はどこにいます」
畑仕事に精を出しすぎ、全身筋肉痛で薬草を調合する部屋で寝ているとカドフェルの言葉に若い僧はくるりと背を向けると小屋に向かって走り出した、止めるのも聞かすにだ。
「ありがとうございます」
夫婦は白い髪の女の姿を見ると深々と頭を下げて礼の言葉を述べたが、女はというと、不思議そうな顔をしているだけだ。
「あなたが、私共の娘に下さった子猫が幸運を運んできてくれたのです、お礼を申し上げたくて」
産まれた時から体の弱かった娘が女の連れていた猫の親子、子猫を見て少しずつ起き上がり、話すようになったという。
「実は森で宝石と金貨の入った袋を見つけたのです、盗品のようでした、盗まれた持ち主が見つかり、私共に受け取ってほしいと感謝の品々を下さったのです、ですが、私どもには十分すぎるほどです」
夫婦の喜ぶ姿に女は偶然ではと返事をした、すると男は首を振った。
「娘は一生歩けない、ベッドから起きあがれないだろうと医者から言われていたのです、それに盗品を見つけたのは子猫なのです」
礼をさせて下さいと夫婦は皮袋を渡そうとした、
「いや、これは受け取れないわ、そうだ、たまにでいいから猫に美味しいものを食べさせてあげて、それで十分」
中身が金貨だと知ると女は慌てて首を振った、
「では、こちらの修道院に寄付というのはどうでしょう」
夫婦の言葉に院長のヘリバートが困惑した表情になった、寄付はありがたいことだが、夫婦は彼女に礼がしたいとわざわざ遠いところから尋ねてきたのだ。
それを修道院が受け取ってもいいものだろうかと。
「院長、現在、彼女は、ここで生活しています、我、修道院としては、この寄付を受け取っても異存はないと思いますが、どうでしょう」
ロバートの言葉に院長は軽く目を閉じた、悩んでいる様子だったが。
だが、最後に夫婦は喜んでと皮袋に入った金貨を修道院に差し出した。
野菜の苗や薬草の調合に使う道具などの購入にと十分すぎるくらいの費用を院長からら渡されたカドフェルは喜んだものの、後になって副院長のロバートから嫌みを言われたときには内心、辟易としてしまった。
「聖女である彼女に過度な労働をさせるのはどのようなものだろうか」
強制したわけでもないと反論してもよかったのだが、口論したところで無駄と思い、ただ頭を下げた。
その日の夕方のこと。
「怒られたんでしょう、あたしのことで」
一日の仕事が終わり、そろそろ寝ようと思っていると、カドフェルは突然、呼び止められた、振り返ると彼女が立っていた、ほんの少し緊張した顔に見えるのは気のせいだろうか。
白い髪が、まるで光を放っているように見えるのが不思議だった。
ごめんなさいと頭を下げられて、カドフェルはすぐには何のことかわからず不思議そうな顔をした。
だが、副院長から怒られたんでしょうと女から言われて、ああ、そのことかと苦笑した、そのことに対して自分は不満に思ったこともない、気にしなければいいだけのことだ。
別に気にしなくていいと言おうとすると、突然、話題を変えるように。
「畑仕事って大変ね」
と言われて返事に迷った。
「慣れればそうでもないが」
こんな言い方をすると、また彼女は夢中になってしまうかもしれない。
{それで、いつまでいるつもりかね」
ここにと言いかけてカドフェルは気まずい気分になった。
「ああ、いや、迷惑とか、そういうことではなく」
慌てて言葉を取り繕うに言い直すと、女は小さく溜息を漏らした。
そのとき、荒々しい怒り声が聞こえてきた。
近づいてくるのはベリンガーだった、だが、一人ではない<どうしたんだとカドフェルが尋ねるとベリンガーは叫んだ。
「泥棒ですよ、この男、薬草小屋に忍び込んで」
「違う、俺は盗みなんてしていない、ただ、ちょっとだけ運がよくなればと、あの猫を」
猫と言う言葉に女は驚いた。
「ベリンガーさん、猫は小屋にいるんでしょう、怪我をしていて」
「いや、駕篭の中にはいなかったが」
その言葉に慌てたように女は小屋に向かった。
「猫を盗もうとしたのか」
ベリンガーは問いつめると男はある夫婦の話をした、白い髪の女が娘にくれた子猫が言えに来てから子供が元気になっただけでなく、大金が舞い込んできたことを、子猫のお陰だという夫婦の話を聞いて、猫は子猫だけではなく母猫も連れていたという話を聞いて、母猫ならもっと幸運を招いてくれるのではないかと思ったのだという。
ベリンガーは呆れた、いや、一緒に聞いていたカドフェルもだ。
「本気でそんなことを信じているのか、あの猫は彼女が旅の途中で拾った、ただの猫だぞ」
ベリンガーは空を見上げた、日は暮れかけているし、天気もよくない雨でも降るのでは、そんな雲行きだった。
ああ、とうとう降り出してきたのか、窓の外に目を向けたカドフェルは探しに行くべきかと思い、本を閉じた。
そのとき、足音とドアの開く音がした、中に入ってきた女は何かを抱えている、猫は見つかったようだ、だが、部屋の薄暗い明かりに照らされた女の泥だらけの顔を見てカドフェルは驚いた。
ベッドのそばの駕篭に猫を入れてやると女は、はあっと溜息を漏らした。
「転んだのかね」
よく見ると顔だけではない、服も汚れている。
「大丈夫」
何が大丈夫なものか、顔についているのは泥だけではない、わずかだか擦り傷もある、川の畔の湿地帯の草で切ったのかもしれない。
確か、擦り傷に効く薬草を仕込んだばかりだと思いだした。
じっとしてと声をかけ、額や頬の汚れを拭いて、こんな間近で女の顔を見るのは初めてではないかと思いカドフェルは妙な気分になった。
「ありがとう」
「い、いや、じっとして、薬を塗るから」
壺の中から取り出した薬を柔らかな布に浸して、それを傷口で拭うと女は小さな声を漏らした。
「少し沁みるかもしれないが」
そう言った後、カドフェルは思わず笑いを漏らした。
「どうしたの」
女が驚いたように尋ねた。
「いや、君の」
顔、表情がと言いかけた口から出てきたのは。
「きれいな髪だと思ってね、その、本当に」
このとき、自分は、あの男、ベリンガーと同じことを言っているのではと気づいたが、それは、後になってからだった。