休日。
週休二日の制度がないこの時代では、戦いのない日々こそが休みになるのかもしれない。
最初は世間を賑わせていた黄巾党も、戦線を拡大し過ぎてまとまりがとれず、各個撃破され、終息に向かっていると聞く。
おかげでこの幽州ではほとんど賊が湧かなくなり、皆が四人そろって家にいるのも珍しくなくなった。
だが、こっちの女は戦わないと元気が有り余るのか。つかの間の平和を噛みしめていると、誰かしら騒動を起こすのがお約束となっていた。
そんなトラブルメーカー筆頭の、ぶっちぎりでヤバイ奴。ナンバーワンの趙雲は、今日もやらかしてしまったのか。ところどころにほつれた服と、生傷を作った体を引きずり、部屋で桃香とだらだらお茶を飲んでいた俺の元へ、丸い物体を抱えて駆け込んで来た。
「主、しばらくかくまって下さい!」
「今回は何をやったんだよ、趙雲」
「いえ、それが愛紗と鍛錬をし――ぼっこぼこにしてやろうかと思っていたのに、ぼっこぼこにされた挙句、殺されかけましてな。今も追われているのです」
「それ、鍛錬じゃなくて私刑だろ」
「間違ってはないかも。さっき愛紗ちゃんが、星ちゃんにちょっとお灸をすえるって言っていたし」
趙雲、本気でお前なにやったんだ?
俺が疑わし気な視線を向けると、趙雲はそっぽを向いてピーピーと口笛を吹いた。
ダメだこれは。
おおよその話を知っているであろう桃香へ改めで目で問うと、困ったような笑みを浮かべる。
「星ちゃん、禁止されているのに夜の出歩きを止めないから、たぶん愛紗ちゃんが怒ったんじゃないかな」
「子供か。別にそれくらい許してやれよ。どうせ酒とメンマを買いに行っただけだろうし」
「その通り。いや、主はわかっておりますな」
「わかってない。わかってないよ、ご主人様は」
他に理由があるのかよ。
しかし言えるなら二人とも話すはずだし、俺に聞かれると不味い内容なのだろう。
ならあえて口を割らせる必要もない。
俺に伝えてもどうしようもない事ってあるからな。
例えばさっき桃香から、ケツに指が三本入るようになった。とか自慢げに語られたけど、本当にどうしようもない。
「追及はしないけど、俺に迷惑だけはかけるなよ」
それさえ守ってくれれば、特に俺からの不満はなしだ。
と、ここでこの話題は終えたかったのだが、部屋に来てから趙雲がずっと手にしている輪っかに見覚えがあり、俺は嫌な予感がしつつも尋ねた。
「あー、ところで趙雲。お前の持っているそれって――」
「愛紗の首枷ですな。理不尽に殴り蹴られましたので、つい腹が立ち。隙をついて奪ってやりました」
「迷惑かけるなって言っただろ!」
人には、超えてはいけないボーダーラインがあるというのに。怒髪天を突く愛紗のイメージが今、脳裏をよぎったぞ。誰がなだめると思っているんだ。
なのに愛紗をキレさせた趙雲は、盗んだ首輪をテーブルに置き、駄々っ子のように逆ギレしてわめき散らかした。
「私は悪くありませぬ。こんな物を使って、まやかしの力を手に入れた、愛紗が悪いのです」
「何をどう考えたら、ただの鉄が身体能力を強化させる便利な品になるんだよ。想像するのは勝手だが、人様にまで押しつけるな」
「明らかにおかしいではないですか。愛紗がこの首枷を着ける前は、十に二の勝ちは拾えました。それが現在、引き分けに持ち込むのがやっとで、一つも勝てぬ有様ですぞ!」
「その首輪をしてから、色んな意味で手がつけられなくなったよね、愛紗ちゃん」
「それはある」
けど、どう趙雲が難癖をつけようとも、そいつの原材料はオリハルコンやミスリルではない。純度百パーセント鉄だ。
あえて曰くがあるとすれば、外に出られない俺が、警邏に出かける桃香に首輪の説明をして店に注文を頼んだら、出来上がったのが罪人に着けるような拘束具になってしまったくらいか。
だがそんな鉄の首輪でも着けていれば、パンツを脱いでいた頃よりも、遥かに充実した愛紗の顔があったんだ。だから趙雲は、マッハでそいつを愛紗に戻してこい。
これでまた愛紗が物足りなさを覚え、ノーパンになったらどうしてくれる。
「とにかく、首輪は愛紗に返せ。俺も一緒に行ってやるから」
「私も行こうか、ご主人様?」
「いいのか。だったら助かる」
そうすれば趙雲は、半殺しくらいで許されるだろう……たぶん。
全殺しに比べれば、とても魅力的なこの条件。しかしそれに賭けるどころか、趙雲は逆張りして不利へ不利へと自らを追い込もうとする。
「お断りします。この首枷さえなくなれば、いずれ愛紗の力は抜け、私より弱くなるはず。この機会、みすみす逃す訳にはいきません」
反対にそれ、もっと強くならないか。下手したらいずれ呂布も超えるぞ。
三国志最強が首輪をつけたノーパンとか最悪だ。あかん愛紗が極まってしまう。
「落ち着け。仮に趙雲の妄想が現実だったとしても、愛紗が弱くなるまでどうやってしのぐつもりだ。さっき、殺されかけたんだろ」
「ふっ、見くびってもらっては困りますぞ主。この趙子龍。逃げに徹すれば、愛紗の追撃をかわす自信がある」
「そこまでして、愛紗ちゃんに勝ちたいんだ」
「当然ですとも。愛紗ばかり勝ってずるいではないですか。私だって常勝したい。そして主に、ちやほやされたい」
別に俺、強いからって愛紗をひいきしているつもりはないんだが。
それに趙雲が愛紗との戦績が悪いのは、別の要因があると俺は思う。例えば最初の出会いとか。
力量や技術を計れない俺でも、あのファーストコンタクトで、格付けが済んでしまった感がする。
そうして趙雲の苦手意識が克服されないまま、愛紗が絶好調期間へ突入したせいで、ますます勝てなくなった。
と、いうのが素人の見解であるが、非戦闘員の俺に、こんな話を趙雲も聞かされたくはないだろう。まず当たっているかどうかすら不明だし。
なのでその意見は横に置き、もっと趙雲が喰いつきそうな、実りのある話題を俺は披露した。
「ひとまず愛紗を弱らせるより、趙雲が強くなるのを目指したらどうだ。天の世界では、覚醒というものがあってだな」
「かくせい?」
「ああ。ふとした拍子に、自分の内に宿る潜在的な力が開放される状態の事をいうんだ。身近な奴で例えると、首輪を盗まれた愛紗が、怒りと悲しみからそうなっていると思っていい」
「なかなか興味深い話ですな。しかしそのように緩い条件ですと、私はすでに何回か覚醒をしているのでは?」
「そればっかりは俺もわからん。覚醒の仕方も、人それぞれだしな」
「そうなんだ。だったら私にも覚醒できるかな、ご主人様?」
「桃香はムリじゃね?」
だって桃香だし。
「まじで?」
「マジマジ」
と、こんな風に俺が桃香と遊んでいる傍ら、趙雲は俺の言葉を刻み込み一人で真剣に考えていた。
「ふむ…覚醒、覚醒、覚醒……」
それからしばらくし、手のひらをポンッと拳で叩く。
「おお、主。私の覚醒の方法がわかりました」
「意外と早かったね」
「ああ。期待はしてないけど、言ってみろ」
「星。と主に呼んでもらえれば、私はもっと強くなれる気がします」
「……すまん、それはムリだ。他の手段を当たってくれ」
「何故です。私の真名なのに、どうして頑なに呼んで下されないのです!」
だからだろうが。
しんのなまえで、真名。これを趙雲から始めて聞かされた時、俺は悟ったね。
ああ、趙雲は厨二病だと。
だが俺は、人類皆平等な博愛に満ち溢れた男。厨二だからと言って、趙雲を差別したりはしない。
しかしそれは、趙雲が分別をわきまえていればである。ぼくのかんがえたせってい。をごり押しして、相手に強要させるのは、よくないと俺は思う。
その辺りの自覚を趙雲には持ってもらいたいのだが、まだまだ道のりは遠そうであった。
趙雲は今も元気に発症し、こじらせていた。
「真名とは心を託した、信頼の証でもあります。それを特に理由もなく呼ばぬのは、失礼に当たるというもの。ですから主も、そろそろ覚悟を決めましょう。よろしいですか?」
「落ち着けよ、趙雲」
「あるじぃ!」
厨二の片棒を担がせようとする趙雲に、俺は常識的な拒否を示す。
すると、滅多に聞かない底冷えするような声で俺の名を呼び、趙雲は両肩をつかんでガックンガックン揺さぶった。
やはり厨二に現実の投薬は拒否反応が強いか。
だがここで治療を行い、少しでも趙雲の病の進行を食い止めておかいないと、のちのち大変になるのは必至。
具体的にはその内、俺は最強だ。とか叫んで敵に突貫し、返り討ちにされたあげく、助けに来てくれた仲間に、邪魔をするな。と殴りつけるくらいに悪化するだろう。
趙雲よ、せめて自己完結型の厨二に治まるのだ。目が、とか、腕が。とか言ってる分に関しては、誰も迷惑にならないから。
「私をおちょくって、楽しいですか?」
「そんな趣味はないな」
「ならば今されているのは何なのです。白蓮殿だけではなく、愛紗や桃香も私と真名の交換は済ませてあるのに。もう残っておられるのは主だけですぞ!」
「えーっと、私からもお願いしてもいいかな、ご主人様。ちゃんと星ちゃんの事、読んであげて」
桃香ぇ。
お前ら三人がそうやって設定に合わせて趙雲を甘やかすから、こいつは調子に乗ってつけあがるんだぞ。
数年後に星と呼ばれもだえ苦しむのは、趙雲本人だというのがなぜわからん。
「大人になったら考えてやるよ」
だから俺は延命治療で回復を見越した、模範的な回答に留めておく。
この場合、口にしたのは当然、精神的な面である。しかし趙雲ときたら何を勘違いしたのか、俺のチンコに目をやり、舌舐めずりをした。
「それは本当ですかな?」
「あ、ああ。だがなぜ俺の股間を見た」
「女が大人になるのなど、一つしかありますまい。いやはや、すみませぬ。主のそのようなお考えを察せられぬとは、私もまだまだ未熟というもの」
「……ご主人様。私、愛紗ちゃんを呼んでくるね」
「頼む」
俺の身の危険を感じた桃香が軽い足取りでドアを開ける。
それで命の灯を感じた趙雲は俺からガバッと離れ、片膝をついて首を垂れた。
「それだけはご容赦ください」
ならするなよ。こうなるの、わかっていただろうに。
「桃香、もう愛紗はいいぞ」
「う~ん、ちょっと遅かったかも」
「ん?」
振り向くと、部屋の外に愛紗がいた。
趙雲と喧嘩をした割には愛紗の服や体はまだ身ぎれいだったが、いつもの髪留めがなく、ぼさぼさになった髪が顔を覆い、どうにもホラー映画に出てくる幽霊を連想させられる。
「……私の首輪……私の首輪……私の首輪……私の首輪……私の首輪……私の首輪……」
しかもぶつぶつと何かを呟いており、ますます愛紗ならぬ幽紗の雰囲気があった。
「ぎゃああああああああ!」
それに恐怖した趙雲は絶叫し、ドアへと疾走。前にいた桃香を横に突き飛ばし、慌てて愛紗の侵入経路に蓋をする。
「ひぐぅっ!」
「おい、大丈夫か?」
俺は俺で床に倒れた桃香に駆け寄り、優しく抱き上げた。
すると桃香は涙目で俺の胸に顔を埋める。
「うえ~ん、ご主人様~」
「よしよし、どこか痛いところはあるか。なでてやろう」
「お股」
「一人でマスをかいてろ」
一瞬で手のひらを返した俺は、サッと桃香から体を離した。
そして今度は後頭部を激突させた桃香が、死ぬほど痛そうに頭を抱えて悶える。
「うっ、くぅぅ」
そんな桃香を俺は無視し、気になっていた趙雲の行方を追うと、愛紗と共に静かな接戦を繰り広げていた。
「ぐおおおおお、ぉぉ、ぐぎぎ……」
どうやら愛紗とドアの綱引きをしているらしい。
肩口を預け、体重をかけてドアを押す趙雲はとにかく必死だった。それこそ息を止め、顔色を赤くさせながら、愛紗を室内へ入れまいと全力を尽くす。
そのせいで入り口がミシミシと悲痛な音を鳴らした。
おいおいおい、俺の部屋だぞ。
このままではドアが破壊されてしまう。そうなったら俺は、どこで引きこもればいいんだ。
誰かと相部屋だけはしたくなかった。チンコが枯れるから。
不安に駆られる俺の気持ちが届いたのか。ひとまず愛紗側が諦めたようで、不吉な音が止む。
「はぁ」
これにホッとする俺であったが、一つ大切な事を忘れていた。
ホラー映画であるのならば、ここからが本番というのを。
「はっ?」
ドガッとでも言いそうな破壊音と同時に、木の板から白い拳が生える。
しかも一度では済まず、すぐさま引っ込んだと思ったら、二度三度とドアを手で突き破った。
「ひええぇ!」
これは誰だって怖い。
その場に尻餅をついた趙雲が、情けなくも後ずさるが、俺も心境的には似たようなものだ。
そうして固唾を呑んで愛紗が登場する瞬間を注目する。と、ヤクザキックでドアを蹴り飛ばした愛紗が、ダイナミックにお邪魔した。
吹き飛ぶドアは、もろに趙雲の直撃コース。
「おわわっ!」
ギリギリで転がって趙雲が避けるものの、それで激突の対象が変更された木材の凶器は、テーブルを粉砕し壁へと刺さる。
オデノヘヤハボドボドダ!
人であれば生命維持装置を着けなくてはならないほど荒らされた室内に、俺はショックを受けた。
「あ、ああぁあ、あるじぃ、どうすれば!」
俺が聞きたいわ。
でもそうだな。趙雲に一言だけ言葉を送るとすら、これしかない。
ほふく前進でにじり寄ろうとする趙雲に、俺は告げた。
「諦めろ」
「……えっ?」
悠然と歩く愛紗が、趙雲の背後にまでたどり着き足を止める。
そして首根っこを掴んでから、ズルズルと趙雲を引きずった。
「お、おのれ。は、離せ、化け物め!」
そのまま闇夜で葬るのかと観察してみるが、どうやら昇天が愛紗のマイブームらしい。
窓をまた蹴りで広げた愛紗は、無慈悲にも捕まえた趙雲を外へ摘まみ出す。
これには趙雲も焦り、手足をバタつかせて宙で抵抗した。
「ま、ままま、待て愛紗。この高さから落とされれば、私でも怪我をするかもしれんぞ!」
「死ぬんじゃないのか」
「それはほれ、鍛えておりますので」
地味にハイスペックだな。
俺の部屋は人目から忍ぶ為に、最上階の角にあるのだが、自分がここから飛び降りたらスクラップになる自信がある。
「ですので鍛錬で骨を折っても、己の未熟で済ませられますが、こんな馬鹿げた事で怪我を負いたくはありませぬ」
そのバカな中心人物は、主に趙雲で構成されているのだが。
ただ、これで骨折されては困るのは俺も同感である。また賊がいつ出現するかもわからないし、愛紗にはここで矛を収めてもらわなくてはいけない。
「……ご主人様、これ」
さて、どう愛紗を説得したものか。と頭を悩ませていると、桃香が横から首輪を差し出してくる。
「拾っておいてくれたのか」
「うん……目と鼻の先に落ちて来て、死ぬかと思った」
それは俺も死ねる。桃香は桃香で九死に一生だったようだ。
半べそ状態な桃香の肩を叩き、俺は首輪を受け取った。
「サンキュー。後で労ってやるよ」
「わーい、さんきゅー」
訳せない癖に、やまびこをするなよ。
まぁ、最近の俺はこれを期待してわざと横文字を使ってたりするけど。
ひとまずこいつで愛紗。否、幽紗を沈める準備は整った。俺は手でメガホンを作り呼びかける。
「愛紗。聞こえるか、首輪はここにある。だから大人しく趙雲を解放するんだ!」
「本当ですか、ご主人様!」
「あっ」
「あっ」
「……ああっ!」
あえて事故の顛末を語るのならば、愛紗は素直すぎた。
俺の要求通りに愛紗は趙雲を手放したものの、そこは当然、空の下。支えを失った趙雲は、物理法則の掟に逆らえず落下した。
「うぅぇぇぇぇぇぇぃぃぃ!」
「……………………」
どうすんだよ、この空気。
おも~い沈黙が続く。誰もが次のリアクションを取れないでいた。
そんな最中、窓際からヌッと一本の腕が伸び縁に手をかけると、葉っぱまみれの趙雲が這い上がる。
「あ~い~しゃ~」
まさにその形相は森に住む鬼。無傷のカムバックを果たした趙雲は、ブラとパンツだけという事もあり、余計に鬼へと近い姿をしていた。
って、服はマジでどうした。
「服が木の枝に引っかかっておらねば、受け身も危ない状況だったぞ」
それで助かったのか、運がよかったな趙雲。いや、もともと運が悪いから、ああなったのか?
「因果応報だろうに」
ボソッと愛紗が毒づくが、一理ある。
ただそれで納得するどころか、むしろ業を煮やした趙雲は、荒々しく下着を脱ぎ捨てマッパになった。
「……なぜ脱いだ?」
「愛紗を倒せば、後はこの布切れも不要になりますので」
Q&Aになってないぞ。
「それだけは、阻止させてもらう」
通じたのか、愛紗?
「愛紗ちゃん、頑張って~」
「お任せください、桃香様」
あれっ、ひょっとして俺だけ。置いてけぼりなのは。
一人だけアウェーな俺であったが、ぼっちな自分にも役割はあった。
「ふっ、不完全なお主を倒しても面白くはない。主、愛紗に首枷を」
「いいのか?」
散々ドーピングアイテム扱いをしていたのに、どういう風の吹き回しだ。
「私は憎しみにより覚醒しました。もはや愛紗など、恐れぬに足らず」
そう言って、シュババババババ。と葉っぱを散らしながら、パンチとキックを織り交ぜたデモンストレーションをする趙雲。
はええ。けどその覚醒パターンは、負けフラグ臭いぞ。
「体が軽い。こんな気分になったのは始めてです。もう何も恐れる者はありません」
「さようか……なら愛紗。首輪を着けてやるからこっちに来い」
俺は愛紗を手招きする。しかし躊躇いがちに俺を見るだけで、愛紗はなかなか動こうとしなかった。
「どうした?」
「いえ。不意を突かれたとは言え、大切な首輪を奪われてしまった私が、再び首を通していいものかと」
「そんな心配しなくてもいいんだ。無くなったとしても、何度だって作り直して着けてやるよ」
「ご、ご主人様。わっ、私は、私は――うう、くっ」
「泣くなよ、愛紗」
共感できない俺が、悪いみたいじゃないか。
「早くして下さいませぬか?」
ほら、趙雲も半ギレだし。
「着けるぞ」
「……はいっ!」
目元を拭った愛紗は、髪をかき分け首を晒す。そこに不釣り合いなほどごつい首輪を回した俺は、留め金をはめ装着を完了させる。
ブゥン!
「わっふぅうぅううう!」
これにてデンジャラスワンコへと変身を果たした愛紗は、肉体のスイッチが切り替わったかのごとく発情した。
傍目に見てもわかるほど内股となり、胸を押さえたまま前のめりにかがむ。
おかげでスカートの中が丸出しとなり、かなりヒモな黒い下着と共に、ケツ穴に挿入されたペンの存在が確認される。
「うむ」
よし、パンツはあるな。
そしてなぜケツにペンがあるかと言えば、昨夜。俺が愛紗にぶち込んだからだ。
これまでの躾で少しマンネリを感じた俺は、プレイの趣向を変更。しばらくは体ペイントと奉仕で重点的に愛紗をイジメてやろうと思い立ったのだ。許可するまで抜いてはいけない。と最後にペンを入れたのは、何ていうかノリ?
そんな成れの果てがあの愛紗である。
太ももに書いた『俺、専用』やら『調教犬』の文字にまで愛液を垂れ流し、尻尾のようにアナルペンを揺らす愛紗は、一夜明け冷静になると酷い絵面だった。
「うわぁあ……」
桃香もドン引きだ。
でも桃香にその権利はない。白蓮よりはマシだとは言え、こいつはこいつで、相互オナニーとかせがむからだ。
「出たな変態。今日こそ退治してくれる」
そりゃ、趙雲もこんな奴に負けっぱなしなのは悔しいよな。自ら全裸になったけど。
この、五十歩百歩感よ。
「はぁ、はぁ。き、貴様にだけは言われたくない。ご主人様は、私が守る」
「ふはは、お主には無理だ。目覚めた私の力を、思い知るがいい!」
調教VS露出。マニアックな性癖をかけた底辺の戦いが、開幕する。
ファイ!
「せいぃぃぃいいい!」
「あいしゃあぁぁぁあああ!」
こうして両者は激突した。したのはいいが、五分も経たない間に、趙雲は愛紗にフルボッコされ、再び窓からぶん投げられた。
「こ、今回は私の負けにしておいてやるうぅぅう!」
清々しいまでの捨て台詞を吐いた趙雲は退場。後に残されたのは、一方的な諍いで朽ち果てた廃墟のごとく、ズタボロな俺の部屋だけである。
「よくやった、愛紗。ご褒美をくれてやろう」
「はいぃ、ご主人様。愛紗に、愛紗にご褒美を下さい」
俺に土下座屈服し、突き出される愛紗のケツ。そこへ靴を脱いで素足で踏んだ俺は、グリグリと踵でいびりながら、清掃を命じた。
「このまま片付けをしろ。元通りになるまで、尻のペンを抜くのはお預けだ。嬉しいだろう?」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
完全に罰ゲームなのに、これをご褒美に出来るのが愛紗クオリティ。クソゲー並みの仕上がりである。
「いいから、早くしろよ」
「きゃう、ご主人様。今、不浄の穴を攻めるのはお許しを。愛紗は、力が出なくなってしまいます」
足先でアナルペンを突っつくと、愛紗はペタンと床に伏せる。
これだと命令を果たせないと弱気な発言の愛紗であるが、わざわざ俺がそれを聞く必要はない。
「俺に口答えをする気か?」
「そ、そのような事は決して!」
「なら黙って掃除しろ」
「はいぃぃぃい、申し訳ございませんでしたぁああ!」
のそのそと愛紗はガレキを拾う。
そんな調教ボランティアを行っていると、なし崩し的に俺へ抱き着いた桃香が、しなを作って耳に息を吹きかけた。
「ご主人様、私も労ってくれるんだよね」
今ここでするのか。
こいつらやっぱり、似た者同士だな。
「日が高いし、口づけでいい?」
「わーい、ちゅう。ご主人様とちゅう」
それ以上の事もしているのに、たかだかキスではしゃげる桃香は、間違いなく純粋だった。ただしじゅんすいで変換をすると、淫乱とトップに表記されるが。
そして桃香とキスをしつつ、適度に愛紗の尻を刺激する。自分でも何者なのかを見失ってしまいそうなアホアホマンの俺は、頭の片隅で趙雲の心配をした。
ぼちぼち愛紗くらいは軽く退けてもらわないと、このご時世。生きていけなくなるんだが。
本格的に趙雲の覚醒が急務だ。
スーパー趙雲、育成計画を俺は密かに練った。
「ちゅう、れろ、はむっ。じゅるるる」
「ぅぅう、はうっ。あっ、あっ」
もちろん、こんな状況でまともな案など浮かぶはずもなく。趙雲計画は、翌日に持ち越された。
なお、夕暮れになり。休憩と食事の為に俺達が桃香の部屋に移動すると、いつからか。廊下でこっそりコッチをうかがっていた白蓮と、バッタリ遭遇する。
「いいな、みんな楽しそうで。私も混ぜて欲しいな」
これ見よがしに恨み節な白蓮を、俺ら三人は示し合せ、全力で見なかった事にした。
「構ってくれよ、ご主人ちゃま。拗ねるぞ!」
だから触れたくないと、学習してくれ白蓮。
実はこの話が、当初の四話想定でした。
しかし書いていて、この話に繋がる説明回がいると思い、この話は五話へと繰り越しに。
ネタを詰め込み過ぎると、まさか話数も増えるとは。
読めなかった、この((::X::))の目をもってしても。