※この作品はR-18です。

嗜虐のぽんこつ神   作:ぬるでば

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第12話 肉を探して (Fase 9)

「天女(あまね)さん!」

 

 悠生(ゆみ)は、展望室の非常階段入口に折り重なっている人の上を乗り越えた。

 

 非常階段のホールに飛び込んだ悠生は、階段を転げるように下りていった。

 

「天女さん、天女さん、天女さん……」

 

 階段を駆け下りながら天女の名を呼び続けた。

 

 普段、あまり運動をしないインドア派の悠生は、すぐ足に疲労がきた。

 

 気持ちだけは先走るが足がついてこない。

 

 階段の途中で足がもつれた。

 

「ぎゃっ」

 

 悠生は、下の踊り場まで宙を舞うように落ちた。

 

 激しく床に打ち付けられた悠生は、倒れたまま動けなくなった。

 

「天女さん……」

 

 悠生は、倒れたまま天女を呼び続けた。

 

 身体中が痛くて立ち上がれない。

 

「拾わなきゃ……」

 

 気持ちが焦るが身体は動かない。

 

「天女さん!」

 

 悠生が渾身の力で叫んだ。

 

 転げたまま床に激しく額を打ち付けた。

 

 額が割れて血が吹き出す。

 

「よし!」

 

 悠生が両腕で身体を支えながら立ち上がった。

 

「こんなところで寝てなんかいられないのよ」

 

 悠生が低い声でつぶやいた。

 

「天女さーん!」

 

 階段に悠生の絶叫が響いた。

 

 悠生は、額を打ち付けることと絶叫することで自分を奮い立たせた。

 

 割れた額から暖かい血が床に滴り落ちる。

 

「ぶっ!」

 

 悠生は、口に入った血を吐き出すと、再び足を前に進めた。

 

 いつもなら自信なさげな悠生からは想像もできない険しい表情になった。

 

 始めはよろよろと進めていた足が徐々に速くなっていく。

 

 外からはけたたましいサイレンの音が聞こえてくる。

 

「天女さん……」

 

 全身の痛みを引きずりながら悠生は必死に階段を駆け下りた。

 

 階段が無限に続いているような気がしたが、ようやく階段の終わりが見えた。

 

 1階に着いたのだ。

 

 非常階段から外に出ると、あたり一帯は阿鼻叫喚の世界になっていた。

 

 展望室から人が飛び出して空中で爆発した。

 

 爆発で粉々になった人の肉片や臓器が血の雨となって地上に降り注いだ。

 

 地上にいた人がそれを頭から浴びた。

 

 パニックにならない方がおかしい。

 

 辺りは地面がまばらに血で染まり、肉片のようなものが広い範囲に散らばっていた。

 

 悠生は呆然とした。

 

「天女さん、どこ……」

 

 目の前に散らばっている肉片は、天女と爆弾男のものが混ざっている。

 

 どれが天女のものか見分けがつかない。

 

「もしもし、怪我をされているようですが」

 

 額から血を流したまま立ち尽くす悠生に救急隊員が声をかけた。

 

「あ、ありがとうございます。大丈夫です」

 

 天女の肉を拾わなければならない。

 

 怪我の手当てを受けている場合ではない。

 

 悠生は、肉片が散らばっている中を歩き回った。

 

「天女さんはどこ、どれが天女さんなの」

 

 うわ言のように言いながら徘徊する悠生の姿は、まるで幽霊のようだった。

 

「分かんないよ。天女さんが見つからないよ……」

 

 悠生は、ぺたんとへたり込んだ。

 

 それまで我慢していた涙が一気にあふれ出た。

 

 悠生は、泣きながら天を仰いだ。

 

「高木神さん、ごめんなさい」

 

「神様から預かった天女さんがバラバラになってしまいました」

 

「どれが天女さんの肉なのか見分けがつきません」

 

 ぽん

 

 誰かが悠生の肩を叩いた。

 

 叩いたというより、優しく手を添えられたような感じだった。

 

 悠生は、はっとして後ろを振り返った。

 

 そこにはピンク色の髪にミニスカートのメイド服を着た、かわいらしい女性が立っていた。

 

 首には赤い首輪が巻かれている。

 

 瞳はきれいな青色で豊満な乳房は深い谷間を作っている。

 

 その乳房には「食用」と書かれていた。

 

 その女性は、穏やかな笑みをたたえ、静かに頷いた。

 

「高木神さん……」

 

 悠生は、その女性が高木神の下界での姿であることを理解した。

 

 涙があふれ高木神の姿が見えなくなった。

 

 悠生は、手で目をこすった。

 

 目を開けるとそこには誰もいなくなっていた。

 

「高木神さん?」

 

 返事はなかった。

 

「アレ(現)」

 

 突然、悠生の頭に言葉が飛び込んできた。

 

 悠生は、無意識にその言葉を口にした。

 

「ぱん!」

 

 拍手の音が1回、辺りに鳴り渡った。

 

 誰が叩いたものか分からないが、まるで澄んだ鈴の音のように悠生の全身に響き渡った。

 

 すると、あたり一面に散らばった肉片に変化が起こった。

 

 ところどころの肉片が淡い光を放ち始めたのだ。

 

「私はここにいます」

 

 天女が悠生に訴えかけているようだった。

 

「天女さん、天女さんなんですね」

 

 悠生は、四つん這いで近くの光を放つ肉片を一つ拾い上げ、手のひらに乗せた。

 

 その肉片を手に包み込むと、悠生は鳥居のある海岸に向けて走り出した。

 

 マリンタワーから鳥居までは、近いようでそこそこ離れている。

 

 悠生は、ぜえぜえと息を切らしながら走り続けた。

 

 鳥居のある海岸に着くと、血で汚れたショルダーバッグからお茶のペットボトルを取り出した。

 

 キャップを外して中味を捨てた。

 

 打ち付ける波をものともせずペットボトルを海水で満たす。

 

 左手には肉片が握り締められている。

 

「一緒に帰りましょう」

 

 肉片に話しかけ、そっとペットボトルの中の海水に沈め、キャップで密封した。

 

 波に打たれた悠生は、びしょ濡れになったが額から出た血もきれいに洗い流してくれた。

 

 辺りはまだサイレンが鳴り渡り大規模な交通規制がしかれている。

 

 大洗駅まで行く循環バスは運行できていないだろう。

 

 悠生は、重い足を引きずりながら大洗駅に向かって歩き出した。

 

「カイソ(恢蘇)」

 

 電車を乗り継いで帰宅した悠生は、バスタブに生理食塩水を張り、ペットボトルの中の肉片を海水とともに流し込んだ。

 

 そして、再生の呪詛を唱え、1回だけ両手で拍を打った。

 

「お願い、再生して。また天女さんに会わせて」

 

 悠生は、バスタブに向かって手を合わせた。

 

 持ち帰った肉片が天女のものであれば、24時間後くらいには再生するはずだ。

 

 もし爆弾男のものだったら再生することはない。

 

 そうなったら二度と天女には会うことができない。

 

 悠生は、パソコンを立ち上げ、高天原に通じる窓を開いた。

 

 

 

ゆみ: 神様

 

タッキー: ご利用ありがとうございます。神様です

 

ゆみ: 今日はありがとうございました

 

タッキー: なんのことかしら?

 

ゆみ: 高木さんがメイド服で来てくれましたよ

 

タッキー: さあ? 私じゃないんじゃない?

 

ゆみ: そうなんですか? ちゃんとおっぱいに「食用」って書いてありましたよ

 

タッキー: やばっ、消し忘れた

 

ゆみ: 消し忘れたんですかww

 

タッキー: え、違う、違う。なんにも言ってないから

 

ゆみ: しらばっくれなくてもいいのに

 

タッキー: 天女は、立派な働きをしてくれました。きっといいことがあるでしょう

 

ゆみ: あ、高木さんから神様に戻りましたね

 

タッキー: やめてってww

 

ゆみ: ふふ。高木神さん、ちゃんと見てくれてるんですね

 

タッキー: べ、別に。あなたたちのことが気になってた訳じゃないんだからねっ。勘違いしないでよね

 

ゆみ: はいはい

 

 

 

 高天原とのチャットを閉じた悠生は、天女の身体の形を残す人をダメにするクッションにもたれ込んだ。

 

 天女に抱かれているような心地よさを感じて、いつの間にか眠りについた。

 

 翌朝、悠生は目覚まし時計のアラーム音で目を覚ました。

 

「痛い……」

 

 全身が痛く、身体のあちこちにアザができていた。

 

 特に額の傷がズキズキと疼いた。

 

「天女さん、どうなったかな」

 

 悠生は、バスルームの様子を見に行った。

 

「あ、ヒルコさん!」

 

 悠生の表情がぱあっと明るくなった。

 

 バスタブの中は、血液とゲル状の肉が蠢いている。

 

 この状態になっていれば天女は再生する。

 

 初めてこのヒルコを見たとき、悠生は気持ち悪くて嘔吐した。

 

 でも、今ならここに浸ることもできる。

 

 ヒルコは天女そのものなのだから。

 

 悠生は、額の傷に絆創膏を貼ると仕事に行く支度を始めた。

 

 本当は休んで天女の再生を待ちたかった。

 

 だが、あいにくその日は悠生でなければ対応できない案件があったため出勤しなければならなかった。

 

「天女さん、ごめんなさい。仕事に行ってきますね。再生したら外に出ないで待っていてください」

 

 悠生は、後ろ髪を引かれる思いで出勤した。

 

 出勤した悠生は、仕事に集中した。

 

 普段以上に早く、ていねいに取り組んだ。

 

 天女との生活を続けるためには、経済的な安定が必要だ。

 

 今の会社は、天女のおかげで就職できたようなものだ。

 

 天女の恩に報いるためにも仕事で成果をあげよう。

 

 悠生は、午前中のうちにその日の仕事を片付けてしまった。

 

 悠生の仕事ぶりを見ていた上司が、彼女に帰宅の許可を出した。

 

 そして、会社に出勤せずに仕事ができるテレワークの許可もくれた。

 

 これで天女と一緒にいられる時間が増える。

 

 悠生が天女のためにと思ってやっていることは、不思議と自分にもいい結果をもたらしていた。

 

 会社を出た悠生は、大急ぎでマンションに帰った。

 

 息を切らして階段を駆け上がると玄関を開けて部屋の中の様子を窺った。

 

「しょっぱ、しょっぱ」

 

 バスルームから天女の声がした。

 

「天女さん!」

 

 悠生は玄関を閉め、キッチンから包丁を持ち出してバスルームに飛び込んだ。

 

 バスルームでは、全裸の天女がシャワーのお湯を出そうとしているところだった。

 

「悠生さん!」

 

 悠生の姿に気づいた天女が笑顔になった。

 

「天女さーん!」

 

 悠生は、包丁を腰だめに構えて身体ごと天女にぶつかっていった。

 

ずん!

 

 包丁が天女の腹に深く刺さった。

 

 悠生がぶつかった勢いで二人がバスルームに倒れ込んだ。

 

 天女が起き上がって腹に刺さった包丁を抜いた。

 

 包丁を抜いたところがぱっくりと口を開け、中から灰白色の小腸がにゅるにゅると出てきた。

 

 天女は、両手で包丁を悠生に捧げた。

 

「ただいま黄泉還りました」

 

 正座でバスルームの床に額をつけて再生の挨拶をした。

 

「天女さん、おかえりなさい」

 

 悠生は、両手で包丁を握り締めると大きく振りかぶった。

 

 そして、床に額をつけている天女の背中に思い切り突き立てた。

 

 天女は、小さく声をあげたが、悠生の許しがあるまで微動だにしない。

 

 悠生は、繰り返し包丁を背中に突き刺した。

 

 天女の背中は包丁の刺し傷だらけになり血にまみれた。

 

 悠生が握り締めている包丁は、肋骨や背骨に当たって刃こぼれを起こした。

 

 悠生は、包丁投げ捨てた。

 

「天女さん」

 

 悠生が優しく天女の名を呼んだ。

 

「はい」

 

 天女が顔を上げた。

 

「またお会いできて光栄です」

 

 血だらけの天女が満面の笑みで答えた。

 

「私もです」

 

 悠生が天女に抱きつこうとした。

 

「ちょっとお待ちください」

 

 悠生を天女が制した。

 

「おっと」

 

 悠生が両手を上げてストップした。

 

「腸をしまってよろしいですか?」

 

 天女が恥ずかしそうに申し出た。

 

「あ、ごめんなさい。そうだ、私にやらせてください」

 

「とんでもない。こんな汚いものを悠生さんに触らせるわけには……」

 

 天女がためらった。

 

「いいんです。ちっとも汚くなんてありません」

 

「そうですか。ではお願いいたします」

 

 天女が腹を見せた。

 

 彼女の腹からは、小腸が20センチくらい出ていた。

 

 悠生が腹からはみ出した小腸を手に持った。

 

 人間の内蔵を触るのは初めてだった。

 

「温かくて柔らかいです」

 

 悠生が楽しそうに小腸をこねくり回した。

 

「くすぐったいです」

 

 天女が腰をもじもじさせた。

 

「それじゃあお腹に戻りましょうね」

 

 そう言って悠生は小腸に軽くキスをした。

 

「あれっ、なかなか入りませんね」

 

 ぐにゃぐにゃした小腸は、傷口に押し込もうとするとにゅるっと逃げてしまう。

 

「入りませんか? 私もお手伝いします」

 

 天女も作業に加わった。

 

 悠生と天女が二人で小腸を戻すのに奮闘した。

 

 天女が小腸が逃げないように手を添える。

 

 悠生は、小腸をお腹の中にぐいぐい押し込む。

 

「こんな経験なかなかできないですね」

 

 悠生が笑った。

 

「本当ですね」

 

 天女もクスクス笑った。

 

「できたー!」

 

 なんとか小腸がお腹の中に収まった。

 

「でもこれって、手を離したらまた出てきますよね?」

 

 悠生がお腹の穴を押さえている手を気にした。

 

「お任せください」

 

 天女が悠生の手の上に自分の手を重ねた。

 

「もう大丈夫です」

 

 悠生の手の上に手を重ねた天女は、しばらく目を閉じていたが、目を開けて宣言した。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 

 悠生が天女のお腹からそっと手を離した。

 

「ほんとだ、出てこない」

 

 悠生が驚いた。

 

 傷口は開いているのに腸は出てこなかった。

 

「外側はふさがっていませんけど、奥の方はもうふさがりました」

 

 天女が説明した。

 

「天女さんて本当にすごいですね」

 

 悠生が感心した。

 

「神ですから」

 

 天女が珍しく肩をすくめて舌を出した。

 

「悠生さん」

 

天女が悠生の顔を覗き込んだ。

 

「はい?」

 

「ペットボトルの海水は、しょっぱかったです」

 

「えー、肉片でも分かってたんですか」

 

悠生は失笑した。

 

 

 

 テーブルの上の取扱説令書に項目が増えた。

 

3 普段のお手入れ

 

◯できるだけ過酷な暴力を与えてください。

 

◯標準的な辞書程度の語彙力を持っています。

 

◯ほめられることが罵倒に、罵倒されることがほめられることになります。

 

◯普通の人にとって痛いことが癒やしや愛情になります。

 

◯ときに痛みが性的快感に代入されますが、ランダムな確率です。

 

◯痛みは感じません。

 

◯怪我をさせても大丈夫。死なない限り自分で勝手に再生します。

 

◯痛みを求めたときは、できるだけ与えてあげましょう。

 

◯相手に災いをもたらす呪詛を使いますが、レベル感が分かっていません。

 

◯身を隠す呪詛を使います。

 

◯高御産巣日神の名をもって神命を下すことができます。

 

◯ファッションは、ゴスパンを好み、巫女さんの衣装を嫌います。

 

◯下着が汚れません。

 

◯自分でピアスを開けることができます。

 

◯高天原に対する反抗心を抱いています。

 

◯血を吐くまで殴れます。

 

◯吐いた血は自分で掃除させてください。

 

◯自力歩行不能又は死んだときは恢蘇の呪詛で再生します。

 

◯相談は有料です。(タダにしてあげるから天女には内緒にしてよね)

 

◯天女は食べられます。

 

◯おいしい部位はハムストリングで、お勧め調理法は、骨付き肉のオーブン焼きです。

 

◯高木神は、下界でドMの食用家畜でした。(だからそれはやめて!)

 

◯AC100ボルトを直に流すと死にます。

 

◯死体の移動は分解しないと大変重いです。

 

◯再生中、ヒルコの状態を経由します。

 

◯天女は、ヒルコの血統を受け継いでいます。

 

◯再生するとカラーリングした髪は元に戻ります。

 

◯天女のプログラムと言語テーブルは、オンメモリーなのでライブで修正したら再起動で反映されます

 

◯ぽんこつだった天女の言語テーブルだけは修正されました。

 

◯悠生さんの神性が上がりました。

 

◯再生後、安静は不要です

 

◯性器に包丁を突き刺しても大丈夫です。

 

◯子宮口に包丁を刺すとコリコリした軟骨のような感触があります。

 

◯片足のモモ肉を削ぎ落としても自立歩行可能です。

 

◯モモ肉は、唐揚げにするとおいしいです。

 

○天女の寝姿を見ることはできません。

 

○舌も食べられます。

 

○桜の花を咲かせる力があります。

 

○神を人間支配の道具に使われることを極度に嫌い怒ります

 

○高木神がメイド服でコスプレをするために高木さんとして下界に降臨しました。(言うんじゃないわよ)

 

○「アレ(現)」の呪詛で混在する肉片の中から天女の肉片を見つけることができます。

 

○海水を満たしたペットボトルに肉片を保存すると再生したとき「しょっぱ」と文句を言われます。

 

○お腹から飛び出した小腸は、元に戻しにくいです。

 

◯天女を殺した回数: 2

 

 

 

「私が2回殺したみたいになってる。高木さんひどくないですか……」

 

悠生が苦笑しながら膨れっ面をした。

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