※この作品はR-18です。

嗜虐のぽんこつ神   作:ぬるでば

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第16話 グルメ

「天女(あまね)さん、夜ご飯のおかずになってもらっていいですか」

 

 夕飯の仕度をしている悠生(ゆみ)が天女に呼びかけた。

 

 天女は、いつものように人をダメにするクッションでダメな神に成り下がっている。

 

「はい、かしこまりました。どこを差し上げればよろしいですか」

 

 クッションから飛び起きて正座をしようとした天女が、慌ててクッションにもたれかかった。

 

 天女は、悠生に呼ばれると反射的に正座をする癖がついていたが、悠生が高木神の名により正座しないよう命じていた。

 

「肝臓と舌をください。あ、舌はご飯のときにテーブルで焼いて食べましょう」

 

「肝臓は、どのように調理なさるのですか?」

 

 天女が興味津々に質問した。

 

「レバ刺しにしようと思います」

 

 悠生は、普通に答えた。

 

「かしこまりました。それでは、なるべく崩さないように肝臓を取り出した方がいいですね」

 

 天女は、キッチンから牛刀を持ち出してバスルームに入っていった。

 

 悠生がガラスのボウルを持ってそれに続いた。

 

 天女がバスルームで全裸になる。

 

「もう取り出してよろしいですか?」

 

「はい、すぐにご飯にしようと思います」

 

「かしこまりました」

 

 天女は床に正座してためらうことなく牛刀で自分の腹を横一文字に切り開いた。

 

 腹圧で大腸と小腸があふれ出て床に広がった。

 

「よいしょ」

 

 天女は、右手を腹の中に突っ込み、中を探っている。

 

「悠生さん、すみません。この太い血管を切っていただけますか。これがなかなか引きちぎれないのです」

 

 切り裂いた腹から肝臓をつかみ出した天女が、肝臓の付け根の太い血管を伸ばして見せた。

 

「はい。ちょっと待ってくださいね」

 

 悠生は、一旦バスルームを出てキッチンから調理用ハサミを持ってきた。

 

「ここですね。この血管は太いから、たくさん血が出そうですね」

 

 悠生が楽しそうにハサミを当てた。

 

 じょきん

 

 床に血が飛び散った。

 

「血は止めてくださいね。このあとご飯ですよ」

 

 悠生が天女に命じた。

 

「かしこまりました。悠生さん、お願いばかりで恐縮なのですが、腸をしまうお手伝いをお願いいたします」

 

「いやです。自分でやってください」

 

 悠生が突き放した。

 

「そんな……ひどいです」

 

 天女が嬉しそうに悲しんだ。

 

 悠生は、天女が取り出した肝臓をボウルに入れてバスルームを出ていってしまった。

 

 残された天女は、ぐにゃぐにゃと逃げる腸をお腹にしまうのに悪戦苦闘した。

 

 天女の肝臓を血抜きして、薄くスライスしたものをガラスの皿に盛り付ける。

 

 透明なガラスとまだ体温が残る肝臓のコントラストが美しい。

 

「悠生さん、ひどいです。腸をしまうの大変でした」

 

 天女がニコニコしながらバスルームから出てきた。

 

 すでに腹の傷はふさがったのだろう。

 

 天女は服を着ていた。

 

「どう? ひどかったでしょ」

 

 悠生が肝臓を切りながら笑顔を向けた。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 ひどくされた天女が礼を言った。

 

 悠生がテーブルにカセットコンロと焼肉用の鉄板をセットした。

 

 テーブルに温かいレバ刺しと真っ白いご飯、味噌汁が並んだ。

 

 悠生と天女は、向かい合わせではなく角を挟んで座った。

 

「いただきます」

 

 悠生と天女が手を合わせた。

 

 悠生がレバ刺しをひと切れつまみ上げ、ごま油と塩のタレを着けて口に運んだ。

 

 温かいレバ刺しというものを初めて食べた。

 

 ついさっきまで天女の腹に収まっていた肝臓を食べている。

 

 背徳感というか罪悪感のような感情はもうない。

 

 口に入れたレバーは、ヌメっとした食感で生臭さはなかった。

 

「おいしい!」

 

 ほとんど噛まずにレバーを飲み込んで喉ごしを楽しんだ悠生が歓声を上げた。

 

 悠生が食べるのを待っていた天女がレバ刺しに箸をつけた。

 

 ちょいちょいとタレを着けて自分の肝臓を口に運ぶ。

 

 天女は、数回咀嚼して歯ごたえを楽しんだ。

 

「おいしいですね。全然血生臭くありません。これはお酒が欲しくなるおいしさです」

 

 天女が喜んだ。

 

「天女さんは、酒癖が悪いからダメです」

 

 悠生が天女を諭した。

 

「えー、私、そんなに乱れましたか?」

 

 天女がしょんぼりした。

 

「大変だったんですよ。ギャルになっちゃうし、ビッチになって隣のテーブルの男性にセックスを迫っちゃうしで」

 

 悠生が具体的に説明した。

 

「そんなに……」

 

 天女が絶句した。

 

「でも、ビールはおいしかったです!」

 

「飲みますか?」

 

 悠生は、天女の朗らかな顔を見ていたら、また飲ませてあげたいと思うようになった。

 

「よろしいんですか?」

 

「天女さんが飲みたいなら」

 

「お願いします」

 

「分かりました」

 

 悠生は、冷蔵庫から缶ビールを1本取り出した。

 

「どうぞ」

 

 悠生は、にこやかに天女の前に缶ビールを置いた。

 

「ありがとうございます!」

 

 天女は、喜んでビールを手に持つとプルタブを引いた。

 

ぷしゅっ!

 

 飲み口から軽く泡が立った。

 

「いただきます」

 

 缶を軽く掲げると天女はゴクゴクと喉を鳴らしてビールを流し込んだ。

 

「ぷぁーっ!」

 

 天女が豪快に声を出した。

 

 普段のおしとやかな天女からは想像できない力強さがある。

 

 ビールを煽ったあと、また自分の肝臓をぱくついた。

 

 新鮮なレバーは酒が進む。

 

 レバーとビールは、どんどんなくなっていく。

 

「天女さん、舌を焼いて食べましょう」

 

 悠生がカセットコンロを点火した。

 

「切るんでしょ、悠生っち」

 

 酔っ払った天女が長い舌を出した。

 

「ううん、そうじゃないんです。切らないで焼くんです」

 

「へ? どうやんの?」

 

 天女が首をひねった。

 

「この鉄板が焼けたら、天女さんがその鉄板に舌を乗せて焼くんです」

 

 悠生が舌を出して鉄板に乗せるジェスチャーをした。

 

「あー、おもしろーい!」

 

 天女が喜んだ。

 

 油を塗った鉄板から熱気が伝わる。

 

 だいぶ熱くなってきたようだ。

 

「さあ、乗せてください」

 

「いえあ!」

 

 天女が舌を出せるだけ出して鉄板に乗せた。

 

じゅっ

 

 舌が焼ける音がした。

 

 天女はニコニコしている。

 

 舌から軽く煙が上がり始めた。

 

「ひっくり返せないから切りましょうね」

 

 悠生は調理用ハサミを持った。

 

べりべり

 

 焼けて鉄板にくっついた舌を天女が剥がした。

 

 舌の裏の血管や粘膜が鉄板に残った。

 

「見せてください」

 

 悠生が天女の舌を持ち上げて裏側を見た。

 

 天女の舌は鉄板の模様で茶褐色に焦げていた。

 

じょりっ

 

じょりっ

 

 舌の根元にハサミを入れて切り離した。

 

 天女は、寄り目になりながら舌が切られるところを見ている。

 

 ハサミで適当な厚さに切り分けて鉄板に戻す。

 

「舌を切ってしゃべれるんですか?」

 

 悠生が訊いた。

 

「はへへはへんへ(しゃべれませんね)」

 

 天女は、まともにしゃべれない自分が面白くて仕方がないという様子だった。

 

「やっぱりしゃべれないんですね」

 

 悠生が苦笑した。

 

「そろそろ焼けたかな」

 

 悠生が舌を箸でつまんで裏側の焼け具合を確かめた。

 

「いい感じです」

 

 悠生は、にっこりと笑って焼けた舌を二人の取り皿に取り分けた。

 

 さっと塩を振って口に運ぶ。

 

 タン独特の食感は牛と変わりがない。

 

「天女さん、おいしいですよ」

 

 悠生が箸で舌をつまみ上げて天女の口に運んだ。

 

「はい、あーんして」

 

「あーん」

 

 天女が大きく口を開けた。

 

 天女の口に天女の舌を放り込む。

 

 天女が食感を楽しむように噛み締めた。

 

「あへほよ(あげぽよ)!」

 

 天女は膝を叩いて喜んだ。

 

 二人は、天女の肝臓と舌を堪能した。

 

「ごちそうさまでした」

 

「おひほーははへひは(ごちそうさまでした)」

 

 悠生と天女がタイミングを合わせて手を合わせた。

 

 悠生は、食材になってくれた天女に感謝した。

 

 天女は、食べてくれた悠生に感謝した。

 

「ういはん(悠生さん)」

 

「なんですか?」

 

「ほほひっへふははい(ここ切ってください)」

 

 天女が右肩を切り落とすジェスチャーをした。

 

「切り落とすんですか?」

 

 天女がこくこくと頷く。

 

「ほーひひへふははひ(ぽーいしてください)」

 

 天女がゴミ箱に腕を投げ捨てるジェスチャーで説明する。

 

「切り落とした腕を捨てるんですか?」

 

 天女がこくこくと頷く。

 

「ひどいことをされたいんですね」

 

 天女が激しく頷いた。

 

「ご自分で切ってみますか?」

 

 悠生が提案した。

 

「はひ(はい)!」

 

 天女の目が輝いた。

 

 天女は、キッチンから解体用の包丁を持ってバスルームに行った。

 

 悠生は、わざと無視して無関心を装う。

 

 天女をみじめな気持ちにさせるためだ。

 

 それが天女の性的興奮を刺激する。

 

「んーっ」

 

「んふほーっ」

 

「ふんへー」

 

 ブスルームから天女の言葉にならない声が聞こえてきた。

 

 自分の肩を包丁で切りつけているのだろう。

 

「ういはーん(悠生さーん)」

 

 天女がバスルームから悠生を呼んだ。

 

「なんですか」

 

 悠生がバスルームの入り口から顔を出した。

 

 バスルームの中の天女は、左肩がずたずたに切り刻まれている。

 

 関節が見えるくらい深く抉られ、血が流れ落ちていた。

 

「はいほほほへはいひはふ(最後をお願いします)」

 

 天女が床に正座して額をつけた。

 

 左腕は神経が切られているらしく、だらんと垂れ下がっている。

 

「分かりました」

 

 悠生は、天女の左腕を抱えてぐるぐると回した。

 

 肩の関節がだいぶ壊れたところで、普通ならあり得ない方向に回して関節をねじ切った。

 

「取れましたよ。自分で捨てましょうね」

 

 悠生は優しく言って、もぎ取った左腕を天女に持たせた。

 

「あーい(はーい)」

 

 天女は、左腕を胸の抱え、軽い足取りでバスルームを出た。

 

「ほんはふへはほーいへふ(こんな腕はぽーいです)」

 

 まだ温かい左腕をためらいもなくゴミ箱に投げ入れた。

 

「はひはほふほはいはひは(ありがとうございました)」

 

 天女は、悠生に拝礼した。

 

 ずたずたに壊れて骨が露出してる天女の肩は、もう血が止まっている。

 

 シャワーで血を洗い流した天女は、またいつものように人をダメにするクッションで悠生の薄い本を読みふけった。

 

 ただ、右手しかないので読みにくそうではあった。

 

 翌日は、可燃ゴミの日。

 

 ゴミ箱には、まだ天女の腕が転がっている。

 

 すでに一部腐敗が始まり、変色しているところもある。

 

 見た目はグロテスク極まりないが、悠生にとっては愛おしい天女の腕だ。

 

 まったく気持ち悪さを感じない。

 

 悠生は、ゴミ袋を重そうに引きずりながら集積所に出して、マンションの部屋で仕事を始めた。

 

 天女の左腕はまだ再生していない。

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