「
下北沢の居酒屋で
「なんですか」
悠生は、天女に返事をして牛タン塩を口に運んだ。
天女は、すでに生ビールを中ジョッキで四、五杯は飲んでいる。
しかし、以前のように悪酔いすることはなくなった。
悠生が悪酔いする天女を根気よく酒に慣らさせた。
そして、あるとき、殺して再生させたら天女の酒癖が消えていた。
言葉の逆転のように根気よく修正をかけ続けた結果、死後再生という再起動で天女のプログラムが修正されたようだ。
しかし、そもそも5歳の天女に酒を飲ませていいのかという疑問はいつもある。
「悠生さんの額に着いているかなり深い傷が前から気になっているのですが」
天女は、悠生が大洗で負った傷を気にしていた。
「これですか? これは、私が天女さんを愛している証です。とっても大事な傷なんです」
悠生は牛タンをビールで流し込んだ。
「悠生さんが私を愛してくださっているのですか!?」
天女が驚いたように目を見開いた。
「はい、とっても」
悠生は、テーブルに肘をつき身を乗り出してニコニコしながら天女を見つめた。
「衝撃の告白です」
天女は目を潤ませた。
「なにを言ってるんですか。知ってたくせに」
悠生が苦笑した。
「知っててもちゃんと言葉にして伝えてくださると嬉しいです」
「やっぱりそういうものですか?」
「もちろんです」
天女にしては珍しくきっぱりと断言した。
「私は、悠生さんが愛してくださるから何度殺されても生き返ることができるのです」
天女が笑顔に戻って悠生を見つめ返した。
「私は、神です。神としての威厳と尊厳があります。誰に殺されてもいいというものではありません。私を殺せるのは、タカミムスビ様がお認めになり、私が命を託せると信じられる方に限られます。悠生さんは、まさにそのお方なのです。そうではない方が私に侵襲を加えようとすると、
天女は、ニコニコしながら神の威厳と尊厳について話した。
「天女さん、私はそんな立派な人間ではありません。ただのシステムエンジニアです」
悠生が謙遜した。
悠生にしてみれば謙遜ではなかった。
本当に自分はたいしたことがない人間だと思っている。
「そうなのですか? 私は、タカミムスビ様から悠生さんは尊敬に値する方と教えをいただいていますし、本当にそうだと感じています」
天女は真剣な面持ちで悠生に訴えた。
「なんだかむずがゆいです」
悠生が照れ臭そうに首を掻いた。
「あ、ところで、その額の傷痕ですが、私に消させていただけますか?」
天女が小首をかしげた。
「他人の身体にもできるんですか?」
「神ですからあ」
天女がわざと頭が悪そうな話し方で答えた。
「天女さんは本当にかわいい神様ですね」
悠生が目を細めた。
「悠生さんが庇護してくださるからです」
「いやいやいや、神様を庇護するなんて畏れ多いです」
悠生がテーブルに額をつける勢いで頭を下げた。
「悠生さんは、私に頭をお下げになってはなりません」
天女は、笑顔で悠生の頭を上げさせ、左手の人差し指と中指を悠生の額に刻まれた傷痕に当てた。
「カイソ」
天女が呪詛を唱えた。
天女に指を当てられた額がもぞもぞと動き始めた。
天女の指が触れている皮膚が溶け出しているような感じがした。
1分くらい経ったろうか。
天女が悠生の額を軽く撫でて指を離した。
「終わりです」
天女がにっこりと微笑んだ。
「もう終わっちゃったんですか? 私が再生させるよりずっと早いですね」
短時間で傷痕が再生したことに悠生が感心した。
「私の力というより、悠生さんご自身の力に依るところが大きいです」
「またよく分からないことを」
悠生が鏡で額を確かめながら軽くいなした。
「もしかして、私の身体を破壊しても天女さんの呪詛で再生できたりするんですか?」
「できます。死んでも再生可能ですよ」
天女が粘っこい目で悠生を見つめた。
悠生は、それが自分を殺したそうな目だということがすぐに分かった。
「殺したいですか?」
「はい」
天女は屈託ない笑顔で答えた。
「ただ、私たち神が人間を生き返らせるのは禁忌とされ、厳しく戒められています。これをやってしまうと、生態系を壊すことになるばかりか、歴史を改変しかねません」
「それでも私を殺してみたいんですか?」
「はい」
「禁忌を破ったら罰があるんじゃないですか?」
「分かりません。まだ誰もやったことがないのです。それくらい重大な禁忌違背ということです」
「それでも殺したいと?」
悠生が笑顔で問いかけた。
天女に殺されることは怖くなかった。
「悠生さんを殺したら、何かが変わる気がするのです」
天女がビールを飲みながら世間話でもするかのような軽さで話した。
「私は、殺されることに異存はないですよ。でも、天女さんと違って無痛ではないので殺し方を工夫して欲しいです」
「どうやって死んでいただきましょう」
天女が楽しそうに枝豆をつまんだ。
マンションに帰った二人は、悠生の殺し方を熱く語り合った。
「せっかく死ぬんだったら、なにも分からないまま死ぬんじゃなくて、死の苦しさや怖さを経験したいです」
「え、そんなことをして精神に異常をきたしたら大変です」
天女が心配した。
「今でも十分おかしいから逆にまともになれるかもしれませんよ」
悠生は自虐的に答えた。
「それもそうですね」
天女が納得した。
「いや、天女さん、今のは納得するとこじゃなくてね……」
「すみません。素直なもので」
二人で抱き合って笑った。
「いつ殺して差し上げましょう?」
「え、もう殺すことになってたんですか!?」
悠生は、まだ話だけだろうと思っていたので少し驚いた。
「昔から善は急げと申します」
天女が涼しい顔で答えた。
「ちっとも善じゃないですよ」
「あら、本当ですね!」
天女がケラケラと笑った。
「分かりました。次の土曜日に殺してください」
悠生が計画実行の日を指定した。
「かしこまりました」
天女が悠生に拝礼した。
金曜日まで悠生は仕事を全力でこなした。
もしかしたら再生に時間がかかるかもしれない。
そうなると仕事を滞らせて会社に迷惑をかけてしまう。
それを避けるために前日まで可能な限り仕事を進めておきたい。
仕事の目処をたてて金曜日を迎えた。
翌日は天女に殺される日だ。
土曜日。
悠生は、殺されるにあたり、シャワーで身を清めた。
悠生を殺すために天女が用意したものは牛刀一本だけ。
解体が目的ではないからだ。
「天女さん、私の身体を焼いてみてください。どこでもいいです」
悠生が天女に自分を焼けと命じた。
「え、そんなことをしてよいのですか?」
天女が戸惑いを見せた。
「いいんです。焼いてください」
「かしこまりました」
天女は、物置から大きめのマイナスドライバーを出してきた。
ガスコンロに点火してドライバーの先端を火で炙る。
徐々にドライバーが熱を帯びて、先端がオレンジ色に発光し始めた。
「これくらいでいいですか?」
天女が焼け具合を訊いた。
「そうですね。それを私の身体に押し当ててください。もしかすると熱くて私が逃げてしまうかもしれませんから、私の上にがっちり乗ってください」
そう言って全裸の悠生が仰向けになった。
「かしこまりました」
赤く焼けたドライバーを持った天女が悠生に跨がり腰を下ろして体重を乗せた。
「参ります」
「どうぞ」
じゅっ
天女が焼けたドライバーを悠生の乳房に押し当てた。
「ぎゃっ!」
悠生が叫び声を上げそうになり、自分で口を押さえて止めた。
悠生の乳房は、じゅうじゅうと焼ける音ともに白い煙を舞い上げる。
肌が焼ける独特の臭いが立ち込めた。
悠生は涙を流しながら首を激しく左右に振って熱さに耐えている。
「天女さん、こ、これが熱いという感覚とそれを受けた人の反応です」
悠生が震える声で天女に自分の状態を説明した。
「はい」
天女は、真剣な眼差しで悠生の様子を見つめている。
ドライバーが黒く変色して肌から煙が出なくなったのを確めた天女は、ドライバーを乳房から離した。
ずるっ
焦げ付いた肌がドライバーとともに剥がれ、黒く焦げた皮下組織が露出した。
天女が腰を上げ、悠生の身体が自由になると悠生は焼けた乳房を手で押さえて苦しみ、のたうち回った。
「天女さん、私をよく見てください」
悠生は、天女に苦しむ姿を見せつけた。
「これが熱くて苦しいということなのですね」
天女が食い入るように悠生を見ている。
「今度は、包丁で切ってください。身体中をたくさん切ってください。ただ、致命傷は避けてまだ殺さないでください。傷だけを増やしてください」
悠生が天女に命じた。
「かしこまりました」
天女がドライバーを牛刀に持ち替えた。
悠生は、乳房の火傷が痛くてまだ丸くうずくまっている。
「血が出ますからバスルームに移りませんか?」
天女が提案した。
「そ、そうですね」
悠生がふらふらと立ち上がり、天女の肩を借りてバスルームに移動しようとするが、膝が震えて足が進まない。
天女が悠生を抱き締めて悠生をバスルームに引きずるようにして連れていった。
「天女さん、幸せです」
天女に抱かれた悠生は幸せだった。
「私もです」
天女が悠生にキスをした。
長いキスを終えた天女は、悠生をバスルームの床にそっと寝かせた。
「どうぞ切ってください」
悠生が目を閉じた。
緊張で悠生の呼吸が早くなっている。
悠生のお腹が小刻みに上下する。
天女が無言で牛刀の切先を悠生の白い腹のみぞおちに当てた。
悠生が呼吸を止めた。
天女は、牛刀自身の重さを切先に乗せてみぞおちから真っ直ぐ下腹部まで下ろした。
「痛い!」
悠生が悲鳴を上げた。
牛刀の軌跡がぱっくりと口を開いて、そこから血がにじみ出た。
「大丈夫ですか?」
天女が悠生のコンディションを心配した。
「い、痛いです。もっと切ってください。もっと私を苦しめてください。苦しむ私を見てください」
悠生の顔面から血の気が失せている。
それでももっと切りつけろと命じた。
「かしこまりました」
天女は、意を決したように返事をした。
今度は、牛刀で悠生の腹を横一文字に素早く切り裂いた。
「ぎゃっ」
悠生は悲鳴を上げて背中をのけ反らせた。
さっきより深く切れたお腹は、脂肪の層が露出した。
「これが痛いということです」
「はい!」
天女も悠生の教えに懸命に応えようとする。
天女は、致命傷を与えないよう細心の注意を払いながら、悠生の身体を縦横に切り続けた。
バスルームには悠生の悲鳴と荒い息づかいだけが繰り返し響いた。
「もうよろしいですか」
悠生の血を浴びた天女が伺いをたてた。
「天女さんは満足ですか」
悠生が虫の息で確認した。
悠生の身体は、多数の傷というより、傷がついていないところを見つける方が難しいような有り様だった。
「痛いということがよく分かりました」
天女が沈痛な面持ちで悠生を見つめている。
「よかった。じゃあ殺してください。殺し方は天女さんのお好きなようにしてください」
悠生は、死を覚悟した。
不思議と怖くはなかった。
むしろ性的な快感に満たされていた。
天女に殺されることが、これほど甘美な経験になるとは思ってもみなかった。
「以前殺していただいたやり方なのですが、喉を切らせていただいてよろしいですか」
天女が自分の喉を指差した。
「分かりました」
悠生は、血でぬるぬるする身体を起こし、四つん這いでバスタブに近づき、両腕をバスタブの縁にかけるようにして身体を預けた。
悠生の後ろに立った天女は、左手で悠生の頭を抱え込んで顎を上げさせた。
右手に持った牛刀の刃が悠生の喉に当てられた。
「いよいよ死ぬんですね」
悠生がうっとりとした口調で確認した。
「はい、死んでも悠生さんは私の主です」
天女は泣きそうな声で最期の挨拶をした。
「さようなら」
悠生が死を告げた。
その直後、牛刀が悠生の喉を深く切り裂いた。
バスタブが大量の血で真っ赤に染まり、悠生は痙攣しながら息絶えた。
天女は、悠生の死体をバスタブに移し、カイソの呪詛を唱えた。
天女が呪詛を唱えると、悠生の死体はみるみるうちにドロドロと溶け出し、ヒルコとなった。
悠生がヒルコになったのを確認した天女は、シャワーで血を洗い流し、バスルームを出た。
翌日の朝、天女が薄い本を読んでいるとバスルームからシャワーの音が聞こえた。
「しょっぱ、しょっぱ」
シャワーの音に続いて悠生の声がした。
「悠生さん!」
天女は、バスルームに飛び込んだ。
「あ、天女さん。ただいま黄泉還よみがえりました」
悠生がシャワーを浴びながら天女に再生の挨拶をした。
「お帰りなさいませ」
天女が正座してバスルームの床に額をつけた。
「殺してくれてありがとうございます」
悠生が礼を言った。
「そんな、畏れ多いことです」
顔を上げた天女が恐縮しながら笑顔になった。
「ただ天女さん、すごくしょっぱかったですよ」
悠生が苦笑した。
「私が海水に浸けられたりしたときのしょっぱさを知っていただこうと思いまして」
天女が肩をすくめて舌を出した。
「やられました」
悠生が天女に抱きついた。
テーブルの上の取扱説令書が淡く赤い光を纏っていた。
説令書を開くと項目が増えていた。
3 普段のお手入れ
◯できるだけ過酷な暴力を与えてください。
◯標準的な辞書程度の語彙力を持っています。
◯ほめられることが罵倒に、罵倒されることがほめられることになります。
◯普通の人にとって痛いことが癒やしや愛情になります。
◯ときに痛みが性的快感に代入されますが、ランダムな確率です。
◯痛みは感じません。
◯怪我をさせても大丈夫。死なない限り自分で勝手に再生します。
◯痛みを求めたときは、できるだけ与えてあげましょう。
◯相手に災いをもたらす呪詛を使いますが、レベル感が分かっていません。
◯身を隠す呪詛を使います。
◯高御産巣日神の名をもって神命を下すことができます。
◯ファッションは、ゴスパンを好み、巫女さんの衣装を嫌います。
◯下着が汚れません。
◯自分でピアスを開けることができます。
◯高天原に対する反抗心を抱いています。
◯血を吐くまで殴れます。
◯吐いた血は自分で掃除させてください。
◯自力歩行不能又は死んだときは恢蘇の呪詛で再生します。
◯相談は有料です。(タダにしてあげるから天女には内緒にしてよね)
◯天女は食べられます。
◯おいしい部位はハムストリングで、お勧め調理法は、骨付き肉のオーブン焼きです。
◯高木神は、下界でドMの食用家畜でした。(だからそれはやめて!)
◯AC100ボルトを直に流すと死にます。
◯死体の移動は分解しないと大変重いです。
◯再生中、ヒルコの状態を経由します。
◯天女は、ヒルコの血統を受け継いでいます。
◯再生するとカラーリングした髪は元に戻ります。
◯天女のプログラムと言語テーブルは、オンメモリーなのでライブで修正したら再起動で反映されます
◯ぽんこつだった天女の言語テーブルだけは修正されました。
◯悠生さんの神性が上がりました。
◯再生後、安静は不要です
◯性器に包丁を突き刺しても大丈夫です。
◯子宮口に包丁を刺すとコリコリした軟骨のような感触があります。
◯片足のモモ肉を削ぎ落としても自立歩行可能です。
◯モモ肉は、唐揚げにするとおいしいです。
○天女の寝姿を見ることはできません。
○舌も食べられます。
○桜の花を咲かせる力があります。
○神を人間支配の道具に使われることを極度に嫌い怒ります
○高木神がメイド服でコスプレをするために高木さんとして下界に降臨しました。(言うんじゃないわよ)
○「アレ」の呪詛で混在する肉片の中から天女の肉片を見つけることができます。
○海水を満たしたペットボトルに肉片を保存すると再生したとき「しょっぱ」と文句を言われます。
○お腹から飛び出した小腸は、元に戻しにくいです。
○目の前でオナニーをしても気にしないでください。
○暴力は、見た目の残酷さを重視します。
○千切れた乳房は、ゴミとして捨ててください。
○酒に酔うとビッチになります。(知らなかったわよ)
○処女です。
○フィストファックができます。
○損傷した処女膜は、一度殺して再生させると復活します。
○首を絞めると死にます。
○天女は人前でも平気で皮をはぐなどの身体破壊をします。
○主の指示に従えないことをひどく悲しみます。
○指示に従えないことに罰を与えると、いつも以上に喜びます。
○痛みは感じませんが、いきなり目に指を突っ込むと驚きの声を上げます。
○失血死させると「逝って参ります」と挨拶をして死にます。
○生きたまま肝臓を取り出すときは手伝いが必要です。
○舌は、牛タンと同じ食感です。
○切断した身体の一部を家庭ゴミとして出すと誤解を招きます。
○天女の血液は、ルミノールに反応しません。
○切り離した身体の一部は、天女が再生すると消滅します。
○物として消滅するだけでなく写真の被写体となった場合は、写真の中からも消滅します。
○天女は死んだ人間を再生させる力があります。new!
○警告! 死んだ人間を再生させるのは重大な禁忌違背です。new!
◯天女を殺した回数: 4(感電死、爆死、扼殺、失血死)
○天女を食べた回数: 2(唐揚げ、シチュー、レバ刺し、タン塩)
○天女に殺された回数: 1(失血死)new!