その晩、
泣き腫らした目は真っ赤に充血して、まるで夕べのスーパームーンのようだった。
悠生は、ふらふらと立ち上がると洗面所で顔を洗った。
いつも
「天女さん、本当にいなくなっちゃったんですね」
悠生はまた泣いた。
悠生には、なぜ天女が高天原たかまがはらに帰らなければならなかったのか、その理由が分からなかった。
「まだつながるのかな」
独り言をつぶやくとパソコンを立ち上げた。
https://www.takamimusubi.god/chat
ブラウザのブックマークは残っている。
悠生は、チャット画面を開いた。
ゆみ: 神様
もう返事は来ないだろうと思ったが高木神を呼び出してみた。
たっきー: ご利用ありがとうございます。神様です
「高木神さんいた!」
悠生は嬉しくなった。
天女はいなくなってしまったが、このチャットが高木神と通じている間は天女との縁が切れていないような気がした。
ゆみ: 高木さん、ひどいじゃないですか。天女さんを返してくださいよ
無茶な願いだと分かっていたが、一言文句を言ってやりたかった。
たっきー: ごめんなさい。天女を返すことはできません。天女が正しい神になった最初の大満月の夜、彼女を召還するということは既定で覆せないのです。でも、ゆみさんには本当に感謝しています。私たちの手に負えないぽんこつだった天女をあそまで立派に修正してくださいました。やはりゆみさんに託してよかったとアマテラスと話していたところです
ゆみ: なんで私だったんですか?
たっきー: ゆみさん、あなたはお気づきでないかもしれませんが、あなた自身が神だったのです。あなたは、成長を加護する
ゆみ: その割に背が伸びないんですけど……
たっきー: あなたの成長とは言っていません
ゆみ: う、詐欺師のドMめ
たっきー: やめてってば
ゆみ: 私が神なんですか?
たっきー: おっしゃるとおりです。ですから、ヒルコの血を引く天女を託してその成長を加護していただきました。あなたの名前ヤマトユミそのものがヤマト国の成長を加護する破邪顕正の呪詛なのです
ゆみ: 私の名前が呪詛……
悠生は、あまりにスケールの大きい話に唖然とするしかなかった。
大きすぎて騙されているのではないかという気すらする。
ゆみ: だから私が呪詛を使えたんですね
たっきー: そうです。そして、天女が必死にイツノカシリを止めたのも、ゆみさんの力が強大で危険だったからです。もっとも、止めた理由は力の大きさより、その力が向けられる対象によるところが主です
ゆみ: よく分かりません
たっきー: 高天原も神も、その存在を認識する者の中にのみ存在するのです
ゆみ: ますます分かりません
たっきー: あなたなら分かります。なぜならあなた自身の中に高天原があり、あなた自身がアマテラスなのですから
ゆみ: 分からないことを分かれということですね
たっきー: さすがゆみさんですね
ゆみ: 天女さんが高木さんのように下界に遊びに来ることはできないんですか?
たっきー: できないこともありませんが、今はちょっと問題があってそのご要望にお応えできない状況です
ゆみ: じゃあ、いずれは?
たっきー: はい、可能性はあります
ゆみ: そうなんですね、分かりました。色々と教えてくださりありがとうございました
たっきー: いいえ、またのご利用をお待ちしています
悠生は、チャットのウィンドウを閉じた。
また天女に会えるのならそんなに落胆することもない。
悠生は明るさを取り戻した。
「それにしても自分が神だったとは驚いたな」
そうは言われても自分は高天原のことはなにも知らない。
そして、神なら天女と一緒に高天原に連れて行ってくれてもよかったではないか。
いろんな疑問が浮かんだ。
「そもそもあのチャットサービスはどこにサーバーがあるのよ」
インターネットがつながるということは、どこかにサーバーがなければならない。
悠生は、nslookupでサーバーのIPアドレスを検索した。
>nslookup www.takamimusubi.god
回答:
名前: localhost
Address: 0.0.0.0
Aliases: www.takamimusubi.god
「えっ?」
悠生は、目を疑った。
IPアドレス「0.0.0.0」は、ローカルホスト、つまり自分自身を指す。
(終)