※この作品はR-18です。

嗜虐のぽんこつ神   作:ぬるでば

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第3話 呪詛

 天女(あまね)の取扱説令書は、3番目の項目「普段のお手入れ」が悠生(ゆみ)と天女の経験に応じて追加されることがわかった。

 

 失業中とはいえシステムエンジニアの悠生は、こういうシステマチックなことが好きだ。

 

 説令書の項目を増やしていきたい衝動に駆られるが、それには天女に暴力を加えたり身体を傷つけなければならない。

 

 暴力が苦手な悠生にとって、それは苦行でしかなかった。

 

 天女にせがまれて一度だけ軽くビンタをした。

 

 それだけでも、もの凄く怖かった。

 

「私に暴力は無理よ」

 

 なんとかして天女の感覚を正常に戻したい。

 

 そう思った。

 

「でもあれでしょ、感覚の取り違えがハードコーディングされてるんじゃ直しようがないよね」

 

 プログラムにハードコーディングされてしまったバグを修正するのがどれほど困難なものかは仕事を通じて痛感している。

 

 しかも、天女は稼働中のシステムだ。

 

 それをライブで修正しようというのだから尚さら難しい。

 

「そうだ、高木さんに訊いてみよう」

 

 悠生は、高天原にいる高天原に通じる道(takamimusubi.godのチャット)を開いた。

 

 

 

ゆみ: 神様~

 

タッキー: ご利用ありがとうございます。神様です

 

ゆみ: あのですね、お預かりした天女さんなんですけど、ほんとにポンコツでした

 

タッキー: 商品説明に偽りはなかったでしょ

 

ゆみ: そうなんですけど、あの感覚の取り違えはなんとかならないんですか?

 

タッキー: なんとかなるものならとっくにバグフィックスしています

 

ゆみ: そうですよねー

 

タッキー: そうなんですよー

 

ゆみ: 直せないのは仕方ないとは思います。でも、私は暴力が苦手なんです。殴ってくれってお願いされても怖くて無理です

 

タッキー: ゆみさんはお優しいんですね

 

ゆみ: 臆病なだけです

 

タッキー: 臆病は、優しさの別名です。恥ずべきことではありません

 

ゆみ: 神様に言われると、すごく説得力がありますwww

 

タッキー: ごまかしではありますけど、殴ると思うと怖いので、殴るのではなく抱きしめるとか撫でるという言葉に置き換えて考えてみてはいかがですか

 

ゆみ: 私にもぽんこつになれっていうんですね

 

タッキー: 私があえてぽんこつという言い方を避けたのにww

 

ゆみ: 神様も正直で面白い

 

タッキー: 古事記の世界の神は、めちゃくちゃ人間臭いですから。エログロ、スカトロ、近親相姦などなど、なんでもありです。神は、高潔なんじゃなくて、人の業をあるがまま受け入れて体現する存在です

 

ゆみ: なんだか神様に親近感を覚えます

 

タッキー: そうでしょう。その理由は、きっといずれゆみさんにも分かりますよ

 

ゆみ: 今日は、ありがとうございました。なんだか少し気持ちに余裕ができたような気がします

 

タッキー: それはよかったです

 

ゆみ: じゃあ、また

 

タッキー: ご利用ありがとうございました

 

 

 

「高木さん、好きかも」

 

 悠生は、高木神のフレンドリーな応対に惹かれた。

 

「あ、面接に行かなくちゃ。天女さん」

 

「はい、なんでしょう」

 

 天女が人をダメにするクッションにだらしなくもたれかかりながら本を読んでいた。

 

 早くも人間界に馴染んでいるようだ。

 

「天女さん、パンツ見えてま……あ! ちょっと! その本!」

 

 悠生が慌てて本を取り上げた。

 

「ああ、ちょうどお話が盛り上がって面白くなってきたところでしたのに」

 

 天女がしょんぼりした。

 

「よくやってくれました(なにやってるんですか)! ここにある本は天女さんにぜひ読んで欲しい(天女さんが読んだらダメな)やつです。天女さんの心が浄化され(汚され)ます」

 

 悠生は、焦りを隠せない。

 

 その上、言葉の意味を逆転させなければならず面倒くさい。

 

「私の心が汚れるんですの?」

 

「そうです。だから必ず読ん(読まない)でください」

 

「仕方ありません。かしこまりました」

 

 天女が読んでいたのは、書棚いっぱいに詰め込まれた陵虐もの、いわゆるリョナの薄い本だった。

 

 しかも、悠生の趣味はどぎつくグロテスクなものばかり。

 

 こんなものを神様に見せたら罰ばちが当たる。

 

 かといって、これだけ大量の本を隠しておけるスペースもない。

 

 とりあえず読むなと言って、納得してもらえたようなので大丈夫だろう。

 

「じゃあ私は面接に行きますから、天女さんはお留守番していてください」

 

 悠生は、スーツに着替えながら天女に留守番のお願いをした。

 

「私ひとりでここにいるのですか? なんだか寂しいです」

 

 天女が上目遣いで悠生を見つめた。

 

「あー、もう。なんでそんなに憎たらしい(かわいらしい)仕草するんですか! おっきな身体して」

 

 悠生は天女の仕草に身悶えしそうになった。

 

「ひとりで残されたら、また裸で外に出てしまうかもしれません……」

 

 天女が畳み掛けた。

 

「分かりました。一緒に行きましょう。でも、面接を受ける会社には入れませんからね」

 

 また悠生が根負けした。

 

「ありがとうございます。嬉しいです」

 

 天女が手を合わせて喜んだ。

 

「また神様に手を合わされた」

 

 悠生が恐縮した。

 

「いいですか、じゃあ行きますよ」

 

「はい」

 

 悠生が天女の着替えを待って玄関を出た。

 

 天女がそれに続いた。

 

「天女さん、井の頭線はときどき痴漢が出ますから、ドアの近くとか連結部分の近くには立たないようにしてくださいね」

 

 悠生が電車に乗る時の注意事項を教えた。

 

「痴漢て何ですの?」

 

 天女が首をひねった。

 

「電車とか公共の場所で、知らない人の身体を勝手に触ることです。ものすごく気持ち悪いから、本当に気をつけてください」

 

「知らない人に身体を触られると気持ち悪いのですね。分かりました」

 

 天女は、言葉の意味は理解したようだったが、痴漢をされると気持ちが悪いという感覚が正しく伝わったのかどうか疑問だった。

 

「天女さん、もし電車で誰かに身体を触られたら私に教えてください。捕まえて警察に突き出してあげます」

 

 本当は、痴漢をされると怖くて声も出せずに触られ放題の悠生だった。

 

 声も出さずに我慢していると、痴漢はどんどん大胆になる。

 

 冬場は厚着になるのであまり被害はないが、夏場だとパンツの中にまで手を突っ込まれる。

 

 それだけで終わればいい方で、ひどい痴漢だと膣の中に指を入れてくる。

 

 ブラジャーのホックを外され、乳房や乳首を弄ばれることもある。

 

 ここまでされると本当に気持ち悪い。

 

 途中下車してトイレで吐いたことも一度や二度ではない。

 

 天女には、こんな思いはさせたくない。

 

 高天原から預かった神様だ。

 

 自分が守らなければ。

 

 悠生は、天女のためなら痴漢をみつけて声に出して助けを求めたり、その手を払ったりすることができると思った。

 

 午前8時台の井の頭線は、身動きがとれないほどの混雑ぶりだ。

 

「私から離れないでください」

 

「はい」

 

 天女が必死に悠生に追随する。

 

 悠生と天女は手を繋いでいる。

 

 知らない人から見たら、母親か姉に連れられている小娘だ。

 

 もちろん悠生が小娘に見える。

 

 天女は、おっとりとした顔立ちで、一見すると気が弱そうに見える。

 

 身長が高い上に豊満な乳房と切れそうに細いウエスト、丸く持ち上がったヒップが男の目を引きつける。

 

 痴漢にとって格好のターゲットだ。

 

 悠生の心配したとおり天女は痴漢に狙われた。

 

 まず、ホームで電車を待っている間にも獲物を物色する痴漢にロックオンされた。

 

 いつの間にか天女の後ろに男の壁ができていた。

 

 電車が到着すると、男の壁が天女と悠生を取り囲むように電車の中になだれ込んだ。

 

 そのとき、すでに数人の手が天女のお尻を撫でたり弾力を確かめるように押し当てたりした。

 

 しかし、動きの中でのできごとだったので、天女にはそれが痴漢だと認識できなかった。

 

 電車が動き出すと、痴漢の手は大胆に活動を始めた。

 

 始めのうちは、抵抗の気配を探るため手の甲をお尻に押し当てていたものが、天女が抵抗しないとみるや手を返して手のひらで撫で回し始めた。

 

 その手は、徐々にお尻から股間に向かっていった。

 

「悠生さん」

 

「なんですか」

 

「お尻を触られています。だいたい4人くらいから」

 

「えっ、大変、痴漢ですよ、それ」

 

「これが痴漢というものなのですね」

 

「そうですよ。なにをせかせか(のんびり)しているんですか」

 

「すみません、知らなかったもので」

 

 そうしているうちに、痴漢の手は天女の股間に達して、柔らかく重なる襞ひだの感触を楽しむかのように撫で回した。

 

「痴漢が私の性器を弄んでいます。これは、いけないことなのですよね」

 

 天女が悠生に訊いた。

 

「はい。とても推奨される(絶対に許せない)ことです」

 

「わかりました」

 

 そう言うと穏やかだった天女の表情が一変した。

 

 物静かな雰囲気は変わりないのだが、目に怒りが込められている。

 

「厳呪詛(イツノカシリ)イツノカシリ」

 

 天女が呪詛を唱え、両手の甲で拍を打った。

 

「ぼうっ」

 

 一瞬、天女が青い炎に包まれたように見えた。

 

「うわーっ! 手がー!」

 

 天女に触れていた痴漢の手が弾かれるように離れた。

 

 4人の男がそれぞれの手を反対の手で押さえて苦しんでいる。

 

 天女に触れていた手は、どれもひどい火傷のように爛ただれていた。

 

「神である私の性器に触れて生きていられるだけでも僥倖と思え!」

 

 天女は苦しむ男たちに吐き捨てるように言葉を投げつけた。

 

「これでいいのですか?」

 

 元の穏やかな表情に戻った天女が悠生に確認した。

 

「い、いやダメです(いいんです)けど、まだまだ手ぬるいです(ちょっとやりすぎかもしれません)」

 

 悠生は、天女の計り知れない能力が怖くなった。

 

 天女には、悪を懲罰する呪詛の能力があるらしい。

 

 ただ、彼女心自身が「悪」の基準を持たず、それに対する懲罰のレベル感もないようだ。

 

 だから、天女の呪詛は自分がアドバイスをしてコントロールさせてあげよう。

 

 痴漢の男たちは、次の停車駅で転げるように電車を降りていった。

 

 周りの乗客は、なにが起こったのか理解できない様子で唖然としてる。

 

 当の天女だけは、にこにこと穏やかな微笑みをたたえている。

 

 悠生と天女を乗せた井の頭線は、終点の渋谷に着いた。

 

 人の流れに押し出されるように電車を降りた二人は、改札を出て桜丘方面に向かった。

 

 ときどき悠生が天女の所在を確認しながら、ゆっくりとした速さで歩いている。

 

「もうすぐ面接を受ける会社に着きます。そこはセキュリティが厳しいビルだから天女さんも入れます(は入れません)」

 

「そうですか。かしこまりました」

 

 天女がにこにこしながら返事をした。

 

(あれ? 置いていかれたら寂しいとか言わないのかしら?)

 

 悠生は、天女の意外なリアクションに戸惑った。

 

「悠生さん、ちょっと止まっていただいてよろしいですか」

 

 面接会場であるビルの入り口で天女が悠生を呼び止めた。

 

「よいしょっと」

 

 天女は、頭から髪を一本抜き取った。

 

「隠(オン)」

 

 短く呪詛を唱えて髪にふうっと息を吹きかけた。

 

 天女に息を吹きかけられた髪は、ふわっと宙を舞って悠生の肩に静かに乗った。

 

「これで私も中に入れます」

 

 天女が嬉しそうに言った。

 

「え、できます(無理です)よ。登録した人しか入れないんですから。

 

 悠生が天女を遮った。

 

「鏡をお持ちですか?」

 

 天女が悠生に尋ねた。

 

「ありますよ」

 

「それでは、お持ちの鏡に私を写してみてください」

 

「あ、はい」

 

 悠生は、バッグの中の化粧ポーチから丸い小さな手鏡を取り出した。

 

 そして、天女に背を向けて手鏡に天女を写した。

 

「うそっ!」

 

 鏡の中に天女の姿がなかった。

 

 悠生は、くるっと後ろを振り向いた。

 

 そこには、天女がにこやかな笑顔で佇んでいる。

 

「どういうこと?」

 

 悠生は混乱した。

 

「先ほど、悠生さんの肩に飛ばした私の髪で、周りの人には、悠生さんと私が一体化して見えるようになりました。でも、実体である私はここにいますから、悠生さんだけには見えます」

 

 天女が種明かしをした。

 

「つまらない(すごい)技をお持ちなんですね」

 

 悠生が感心した。

 

「さあ参りましょう」

 

 天女が悠生を促した。

 

 悠生は、ばれるのではないかとドキドキしながら受付を済ませ、セキュリティゲートを通った。

 

 自分はパスをもらっているので問題なくゲートを通れる。

 

 でも、天女は通れないはずだ。

 

「ご心配なく。ちゃんと通れています」

 

 悠生の心配を見通した天女が悠生の前に現れた。

 

「通れたんですね。よかった」

 

「神をみくびってはいけませんよ」

 

 悠生は、天女が神様だということを忘れていた。

 

 神様が下界のシステムに縛られるはずがない。

 

 天女が付き添っていてくれる安心感から、面接でも緊張することなく、自分の能力や長所などを積極的に売り込むことができた。

 

 今までは面接が怖くて仕方がなかったのに、今回の面接は不思議と自信に満ちていた。

 

「大きなお世話だったわ(ありがとう)。おかげで即決よ」

 

 面接を終えた悠生が天女に礼を言った。

 

 今回の面接は落ちる気がしなかった。

 

 これで自分も憧れの一部上場企業の社員だ。

 

「ねえ天女さん、私は来月からここに通うことになるんですけど、天女さんはどうするんですか?」

 

 まさか毎日着いてくることはないだろうと思ったが、念のため訊いてみた。

 

「下界での生活に慣れるまでは、ご一緒させていただこうと思います」

 

「慣れたらどうするんですか?」

 

「そうですね、私も何かお仕事をしてみようかしら」

 

「え、でも天女さん……」

 

 悠生は、「言葉の意味があべこべだから仕事はやめた方がいい」と言おうと思い、言葉を飲み込んだ。

 

 天女自身は、このことに気づいていない。

 

 なにもわざわざ彼女が傷つくようなことを言う必要もない。

 

 だが、仕事に出たいという天女の希望は容れられない。

 

 コミュニケーションがとれない。

 

「私は、高木神さんから天女さんを預かりました。神様を働かせるわけにはいきません。私が仕事のときは、お部屋で待っていてください」

 

 もっともらしい理由を取り繕った。

 

「高御産巣日神(タカミムスビ)様のお名前をもって命を下されたのであれば致し方ありません。お仕事のときは、お部屋でお待ちします。お待ちしますけれど、ひとつだけお願いを聞き入れていただけますか?」

 

 高木神の名前を出すと、それが神命として天女を従わせるらしい。

 

「お願いってなんですか?」

 

 悠生は、桜丘から渋谷駅に向かう坂道をゆっくりと歩きながら天女の顔を見上げた。

 

「悠生さんのお部屋にある本を読むお許しをください」

 

「げっ」

 

 悠生は絶句した。

 

 あの本はまずい。

 

 血みどろの残虐なものばかりだ。

 

 思いつく限りの非道を尽くした作品を買い集めている。

 

 神様の教育上よくない。

 

(あ、でも待ってよ)

 

 天女の取扱説令書の初期状態に「できるだけ過酷な暴力を与えてください」と書いてあった。

 

 天女は暴力を受けることを好む。

 

 実体験で学んだ。

 

 リョナ本を読むことで、天女の被虐願望が昇華されるのではないか。

 

 そうすれば自分が直接天女に暴力を加えなくて済む。

 

「わかりました。絶対に読まないで(どうぞ読んで)ください」

 

 悠生は、にっこりと天女に許可を与えた。

 

「わっ、ありがとうございます!」

 

 天女がしゃがんで悠生に抱きついた。

 

 身長差が20センチ以上はあるので、天女が悠生を抱擁するにはしゃがまなければならない。

 

 逆に悠生が天女を抱擁したとすると、電柱に止まっているセミのようになる。

 

「ねえ天女さん」

 

「はい、なんでしょうか」

 

 悠生は、抱擁をし終えた天女を見上げた。

 

「いま、天女さんのお洋服って、一揃いしかありませんよね」

 

「ええ、そうですね。悠生さんが選んでくださったものなので気に入っていますよ」

 

 天女が着ている服を見ながら嬉しそうに答えた。

 

「これから毎日一緒に通勤するようになるから、新しい服をいくつか買いませんか?」

 

「え、買っていただけるのですか? 嬉しいです」

 

「どんな服がいいですか? 巫女さんみたいな服は目立っちゃうからお勧めします(やめましょう)」

 

「そうですね。実は、私、あの手の服が好きではありません」

 

「あ、そうなんだ」

 

(神様でも巫女さんの衣装が嫌いってことがあるのね)

 

「じゃあ、どんな服が嫌い(好き)なんですか?」

 

 悠生は、天女の着せ替え遊びに興味が出た。

 

 背が高くてスタイルも抜群。

 

 おまけに日本の神様らしくないファッションモデルのような顔立ちだ。

 

 何を着せても見栄えがすることは間違いない。

 

「すみません。なにがいいかと問われましても、どのような服があるのかあまりよく知らないもので……」

 

 天女が申し訳なさそうな顔をした。

 

「きゅん」

 

 悠生の心臓の鼓動が一瞬早まった。

 

(え、なに? 今の感じ)

 

 申し訳なさそうな顔の天女を見たら、得も言われぬ不思議な気持ちが湧いた。

 

「そうですよね。よく分からないですよね」

 

 悠生が苦笑した。

 

 悠生は、渋谷駅近くの本屋に行き、様々なジャンルを網羅したファッション雑誌を買った。

 

 帰りの井の頭線の中で二人並んで座りその本を眺めた。

 

「これかわいいです!」

 

 天女が一人のモデルを指差した。

 

(もうこの神様のセンス分かんない)

 

 悠生は呆れた。

 

 天女が指差したモデルは、金髪で全身黒ずくめ。

 

 けばけばしい化粧に挑発的な表情を作っている。

 

 そして、血の飛沫や蜘蛛の巣のような絵がプリントされているTシャツを着ている。

 

 パンツもダメージ加工が施されたようにボロボロで所々に穴が開いている。

 

 いわゆる「ゴスパン」と呼ばれるジャンルだ。

 

 ゴシックとパンクを融合させたもので、頽廃的でありながら暴力的なイメージが強く押し出されている。

 

 神とは対極の存在と言っていい。

 

「こ、これですか……」

 

 悠生は言葉に詰まった。

 

「着たくない(着たい)んですよね」

 

「はい!」

 

 天女が元気に返事をした。

 

(そういう元気で明るいイメージとは正反対なんだけどなあ)

 

 自分では、天女のイメージと真逆だと思っていても、天女がこれを着たいと言っているのだ。

 

 この服を着ることが何か問題になるものでもない。

 

 それであれば自分が禁止したり他に誘導するべきではない。

 

 悠生はそう考えた。

 

「分かりました。じゃあ今度原宿に行きましょう」

 

 原宿には、ゴシックやゴスパンの服が豊富に揃っている。

 

 二人が帰宅すると、テーブルの上の取扱説令書が仄かに青白く光っていた。

 

 悠生は、説令書を手に取った。

 

 

 

3 普段のお手入れ

 

◯できるだけ過酷な暴力を与えてください。

 

◯標準的な辞書程度の語彙力を持っています。

 

◯ほめられることが罵倒に、罵倒されることがほめられることになります。

 

◯普通の人にとって痛いことが癒やしや愛情になります。

 

◯ときに痛みが性的快感に代入されますが、ランダムな確率です。

 

◯痛みは感じません。

 

◯怪我をさせても大丈夫。死なない限り自分で勝手に再生します。

 

◯痛みを求めたときは、できるだけ与えてあげましょう。

 

◯相手に災いをもたらす呪詛を使いますが、レベル感が分かっていません。

 

◯身を隠す呪詛を使います。

 

◯高御産巣日神の名をもって神命を下すことができます。

 

◯ファッションは、ゴスパンを好み、巫女さんの衣装を嫌います。

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