※この作品はR-18です。

嗜虐のぽんこつ神   作:ぬるでば

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第5話 食用神

「天女(あまね)さんは、どうやって身体の損傷を回復するんですか?」

 

 天女の吐血が収まったあと、内臓破裂の出血でぶよぶよに腫れた天女のお腹を心配そうに擦さすりながら悠生(ゆみ)が訊いた。

 

「私が自分で動けるくらいの壊れ方でしたらそのまま放置してください。少し時間がかかりますが、自然と元に戻ります」

 

 天女がにこやかに説明した。

 

「そうなんですね。それじゃあ、天女さんが自分で動けないくらい壊し(癒し)ちゃったらどうすればいいんですか?」

 

 悠生は、自分が天女を自力歩行不能なくらいまで壊すことを前提とした話をしていることに気づいていない。

 

「そのときは、悠生さんのお力をお借しください」

 

「いやです(いいです)よ。なにをすればいいんですか?」

 

「私を生理食塩水に投げ込んでください。そのあと、悠生さんだけが使える呪詛を唱えてください。それで再生します」

 

「投げ込むんですか……」

 

 悠生が苦笑した。

 

「あ、それから、生理食塩水でお願いします。前のものは塩辛すぎて死ぬかと思いました。死んでも生き返りますが」

 

 天女が困り顔を作った。

 

「あはは、ごめんなさい。今度は、ちゃんと塩分濃度を調べて作りますね」

 

「ぜひお願いします」

 

 天女が正座で深い礼をした。

 

「ところで、私だけが使える呪詛って何ですか? 私には、そんな能力ありませんよ」

 

 悠生が首を傾げた。

 

「下界に使わされた神の再生を許された人間だけが使える呪証です。悠生さんは、高御産巣日神タカミムスビノカミ様から許されたお方です」

 

 天女が畏かしこまって説明した。

 

「えっ、私、高木神さんからそんな力をもらっていたんですか?」

 

「そうなのです」

 

「なんか凄いことになっていたんですね。どうやればいいんですか?」

 

「はい、まず私を生理食塩水に放り込んでください。沈んで窒息しても大丈夫ですから姿勢にご配慮は不要です。塩分は、生理食塩水の濃度でお願いします。あ、これを言うとまたお話が循環してしまいますね」

 

 天女が笑った。

 

「じゃあ、放り込んだところから説明をしないで(して)ください」

 

 悠生が促した。

 

「はい、ご指示ありがとうございます。私を放り込んだあとは、再生の呪詛『恢蘇カイソ』を唱えてください。そして、1回だけ拍を打ってください。この拍は、前に私が厳呪証イツノカシリ を使ったときにやった逆手にしないでください。悠生さんのお力次第では、私が消滅する場合があります」

 

「なるほど。呪詛って使い方を間違えると大事な人に災いをもたらしてしまうものなんですね」

 

「悠生さんは賢いお方ですね。そのとおりです。特に呪詛を私利私欲で使った場合、大事な人に災いをもたらすだけではなく、ご自分にも跳ね返ってきます」

 

「私が天女さんを再生させるのは、私利私欲にならないんですか?」

 

 悠生が苦笑しながら訳いた。

 

「なりません! もしなったとしても私が高御産巣日神様にお願いしてお許しをいただきます」

 

 天女がきっぱりと言い切った。

 

「私利私欲になる可能性はあるのね。でも、お願いすれば許してもらえるあたり、高天原って結構ゆるいんですか?」

 

 悠生が笑いながら突っ込んだ。

 

「はい、実はかなりゆるいです。神は、結局人間のあらゆる精神活動が具現化されたものですから、かなりいい加減です」

 

「そ、そうなんですか。人間を賛美しているのかけなしてるのかよく分からない世界線なんですね」

 

 悠生は、苦笑した。

 

「呪詛をお試しになりますか?」

 

「えっ、それには天女さんを自立不能なくらいまで壊さ(癒さ)ないといけないんですよね?」

 

 悠生が恐れをなした。

 

「再生の方法は、死んだ場合も同じです。ですから、殺していただいても結構です。肉片のひとつだけでも残っていれば再生しますので、ひき肉にしていただいても大丈夫です」

 

「ひき肉!」

 

 悠生は頭がクラクラしてきた。

 

「試しません。そんな怖いことできません」

 

 悠生はぎゅっと目を閉じて頭かぶりを振った。

 

「ひき肉で思い出しました」

 

 そう言いながら天女は、書棚から一冊の薄い本を引き出した。

 

「この本の主人公ですが、おそらく私の主である高御産巣日神様を描いたものだと思います」

 

 天女がその薄い本を悠生に差し出した。

 

「あ、これ!」

 

 悠生が驚いた。

 

「この本の主人公は『高木さん』という不死の女性です」

 

 天女が言った。

 

「違いますね(そうですね)。これって、高木神さんのことだったんだ!」

 

 悠生が興奮しながら本のページをめくっている。

 

「はい。この本では高御産巣日神様が高木さんという不死で食用の家畜として描かれています。私にはうかがい知れないことですが、高御産巣日神様は下界ではドMでいらっしゃったのかもしれません」

 

「天女さん、いつ『ドM』なんていう辞書にないような言葉を……」

 

 悠生が苦笑した。

 

「こちらにある本で学びました。被虐を至上の喜びとする方のことを言うのですよね?」

 

「そ、そうでしょうか(そうですね) 。至上とまでするかどうかは難しいところですけど、まったくもって違います(だいたい合っています)」

 

「ありがとうございます。またひとつ辞書のインデックスが増えました」

 

 天女が頭を下げた。

 

(またひとつぽんこつになった)

 

 悠生は神様をぽんこつにしてしまったことを申し訳なく思った。

 

「あ、でも天女さん。この本は高木さんが生き返るのに特別な呪詛とか必要ないみたいです。自然に再生してますよ」

 

 悠生が高木さんと天女の再生方法の違いを疑問に思った。

 

 「神としての力の差です。高御産巣日神様は、とても強い力をお持ちです。再生に呪詣を必要としません」

 

 天女が高御産巣日神の力を説明した。

 

「あ、そうだ、天女さん。高木さんが食用っていうことは、天女さんも食べられるんですか?」

 

 悠生は、自分で言っておきながら、その発言の恐ろしさに身震いした。

 

「ええ、もちろん食べられます。召し上がりますか?」

 

 天女は、食べて欲しそうにニコニコしている。

 

「無理! 無理ですから」

 

 悠生は即座に断ったが、断りながらどんな味がするのだろうと思っている自分に呆れた。

 

「残念です。特にこのあたりのお肉は、柔らかくておいしいんですよ」

 

 天女は、自分の腿の裏側、ハムストリングをぷるぷる揺らしながら悠生に笑いかけた。

 

「もー、もっと言って(やめて)ください。食べてみたくなっちゃうじゃないですか」

 

 悠生は、天女を食べてみたい衝動に抗えなくなった。

 

 神様を食べるなんて絶対にヤバい。

 

 罰が当たる。

 

 高木神に怒られるかもしれない。

 

「そうだ、高木神さんに相談してみよう」

 

 悠生は、パソコンを立ち上げて高天原に通じるウインドウを開いた。

 

 

 

ゆみ: 神様〜

 

タッキー: ご利用ありがとうございます。神様です

 

ゆみ: 相談があります

 

タッキー: 相談は、有料で別途ポイントが消費されます。いまの残高だと相談に必要なポイントが足りません。プリペイドカードをお買い求めになりますか?

 

ゆみ: え、ポイント減るの早くないですか?

 

タッキー: すみません。そういう仕様なので

 

ゆみ: 仕様じゃしょうがないですね。買います

 

 

 

 システムエンジニアの悠生は、「仕様」という言葉に滅法弱い。

 

 

 

タッキー: ありがとうございます。クレジットカードでのお支払いでよろしいですか。1,000 円、2,000円、3,000円、5,000円、10,000円のカードがあります。2,000円だ と100円、3,000円だと200円、5,000円だと500円、10,000円だと1,500円分のボーナスポイントが付きます

 

ゆみ: え、じゃあ5,000円で

 

タッキー: ありがとうございます。それではカード番号と有効期限、カード名義人をカードに記載されているとおりに教えてください

 

ゆみ: えっと、カード番号はxxxx-xxxx-xxxx-xxxx 、有効期限は20xx年9月3日まで、カードの名義はYUMI YAMATOです

 

タッキー: ありがとうございます。最後にカードの裏に記載されている3桁のセキュリティコードを教えてください

 

ゆみ: えっと、3xxです

 

タッキー: ありがとうございます。これで購入手続きは完了しました。ご相談をどうぞ

 

ゆみ: はい。あの、天女さんを食べることができるって言われたんですけど、そんなことしていいんですか?

 

タッキー: どうぞ食べてあげてください

 

ゆみ: 高木神さんに怒られたりしませんか?

 

タッキー: 私に? 怒りませんよ。食べられるものを食べてどこがいけないんですか? 天女は人間ではありません。ですから食べることに倫理的な罪悪感を感じる必要はありません

 

ゆみ: そうなんですね、分かりました。ところで

 

タッキー: ところで?

 

ゆみ: 高木神さん、「高木」という名前で地上に降りていたことありませんか?

 

タッキー: え、えっと……

 

 

 

 高御産巣日神は、明らかに動揺していた。

 

 

 

ゆみ: あるんですね。いいんですよ、隠さなくても

 

タッキー: あ、あります。なぜご存知なんですか

 

ゆみ: だってマンガになってますよ

 

タッキー: えええええーっ!?  マンガにですか!? ちょ、ちょっと、なんで描いちゃったのよ、あいつ。マジ勘弁なんですけど。やめてよ、もう。信じらんない

 

 

 

 高御産巣日神の狼狽ろうばい振りは尋常ではない。

 

 

 

ゆみ: ふふふ、高木神さんって面白い人ですね

 

タッキー: 人じゃないです。神ですってば。あー、恥ずかしい、天岩戸(アマノイワト)があったら入りたい

 

ゆみ: マンガでは、高木さんがドMな食用家畜という設定で描かれてました

 

タッキー: ぎゃーーーっ! やめて、やめて、もうそれ以上言わないで!

 

ゆみ: 史実だったんですねww

 

タッキー: ね、ね、このチャット、永久無料にしてあげるから、さっきのカード代も返金処理してあげるから、誰にも言わないで。お願いっ m(__)m

 

ゆみ: え、でも、まだ高木神さんがドMだと確認できたわけじゃないですよね

 

タッキー:意地悪しないでってば。私は食べられたいドMの変態です。これでいいんでしょ? (泣

 

ゆみ: 高木神さん、ほんとにかわいい。誰にも言いませんよ。もちろん天女さんにも

 

タッキー: ほんと、マジ天女にだけは言わないで!

 

ゆみ: 承りました

 

タッキー: というわけだから、天女のことを食べても大丈夫です

 

ゆみ: あ、元の神様に戻った

 

タッキー: だからやめてってばww

 

ゆみ: あはは。あ、そうだ。天女さんのことを殺してもいいんですよね?

 

タッキー: もちろん好きなようにしてくださって結構です。私たち神は下界で死ぬことができませんから

 

ゆみ: 高天原では死ぬことがあるんですか?

 

タッキー: 神によってのみ死、というか消滅させられます

 

ゆみ:そうなんですね。でも、天女さんが私の呪詛で消滅することがあるって言ってました

 

タッキー: それは間違いではありません。悠生さんは天女にとって神です。そして、悠生さんがいらっしゃる空間が高天原だからです

 

ゆみ: 私が神? で、私がいるところが高天原?

 

タッキー: そうです

 

ゆみ: なんか理解できないです

 

タッキー: そういう仕様です

 

ゆみ: 仕様なら仕方ないですね

 

 

 

 悠生は、仕様という言葉ですべて片付けられる女だった。

 

 

 

ゆみ: 今日は色々ありがとうございました

 

タッキー: とんでもないことです

 

ゆみ: じゃあまた。高木さん

 

タッキー: だから、それはやめてって。恥ずいじゃん。じゃあね

 

 

 

「神様って、ほんとフリーダムなのね」

 

 悠生は、パソコンの画面を見ながら一人でニヤニヤしていた。

 

「悠生さん、さっきからお一人で笑っていらっしゃいますけど、どうなさったんですか?」

 

 天女が悠生の顔を覗き込んだ。

 

「ううん、なんでもない」

 

「そうでしたか」

 

 天女は、人を疑うことがない。

 

 言われたままを受け入れる。

 

「天女さん」

 

「なんでしょう」

 

「天女さんのハムストリングですけど、お勧めの調理法ってありますか?」

 

「え、食べてくださるんですか? 嬉しいです」

 

「食べると決めたわけじゃないんですけど……」

 

 悠生が口を濁した。

 

「ざっくりと輪切りにしてオーブンでこんがり焼いたら塩コショウで食べるのがお勧めです。シンプルですけど一番好きな食べ方です」

 

 天女が楽しそうに自分のレシピを披露した。

 

「輪切りって、骨から切るんですか?」

 

 悠生が青ざめた。

 

「もちろんです。皮付きのまま焼いてください。パリパリに焼けた皮は北京ダックのようで格別です」

 

 天女が腿の皮をつまみあげて楽しそうに話した。

 

 天女の説明を聞いていた悠生は胃の内容物がこみ上げてきた。

 

「うっぷ」

 

 悠生が口を押さえてトイレに駆け込んだ。

 

「私の常識って何だったのよ……」

 

 トイレで吐いた悠生が便器に顔を突っ込んで嘆いた。

 

「悠生さん」

 

 悠生の背後から天女が声をかけた。

 

「私のためにご無理をなさらないでください。悠生さんは、悠生さんが使いたいように私をお使いください。いいえ、使わなくても結構です。それが主である悠生さんの在るべき姿です」

 

「大きなお世話(ありがとう)」

 

 悠生が便器から顔を上げて天女を見た。

 

「よいしょっと」

 

 悠生が掛け声をかけて立ち上がった。

 

 洗面所で口をゆすいでリビングに戻る。

 

 天女は、リビングの隅で心配そうに悠生を見つめている。

 

 悠生は、ぱんぱんと両手で軽く自分の顔を叩いた。

 

「天女さん、こっち来て」

 

「はい」

 

 天女が悠生の前に立った。

 

「ばちん!」

 

 悠生が力いっぱい天女の顔にビンタを食らわした。

 

 そのビンタは、天女の腹を殴ったときよりずっと力が入っていた。

 

 天女の顔ががくんと回転した。

 

 驚いた天女が打たれた頬を手で押さえて目を丸くした。

 

「天女さんの不幸(幸せ)が私の幸せよ」

 

 そう言って反対側の頬を思い切り叩いた。

 

 天女の鼻から血が流れ出した。

 

 天女の両頬が赤く腫れあがり見るからに痛々しい顔になった。

 

 悠生が天女の鼻血を指ですくって自分の口に運んだ。

 

 口の中に薄い塩味とかすかな鉄の香りが広がった。

 

「これじゃダメな(これでいい)んでしょ?」

 

 悠生がにっこりと天女に微笑みかけた。

 

「はい! ありがとうございます」

 

 天女が満面の笑みで喜んだ。

 

 天女は、楽しそうに腫れあがった頬を撫でている。

 

 悠生は、高木神のあの楽しそうな変態っぷりに自分の考えを改めさせられた。

 

 神が堂々と変態なんだ。

 

 自分が常識という訳の分からない、実体のない「雰囲気」のようなものに縛られているのがバカバカしく思えた。

 

 天女が望むことを施すのに、なぜためらう必要があるのか。

 

 天女に対する暴力と他の人に対する暴力とでは、まったく意味が違う。

 

 悠生は、トイレでつまらないこだわりをゲロと一緒に吐いた。

 

 つまらないこだわりだけに、トイレは詰まらなかった。

 

 

 

 取扱説令書に項目が増えた。

 

3 普段のお手入れ

 

◯できるだけ過酷な暴力を与えてください。

 

◯標準的な辞書程度の語彙力を持っています。

 

◯ほめられることが罵倒に、罵倒されることがほめられることになります。

 

◯普通の人にとって痛いことが癒やしや愛情になります。

 

◯ときに痛みが性的快感に代入されますが、ランダムな確率です。

 

◯痛みは感じません。

 

◯怪我をさせても大丈夫。死なない限り自分で勝手に再生します。

 

◯痛みを求めたときは、できるだけ与えてあげましょう。

 

◯相手に災いをもたらす呪詛を使いますが、レベル感が分かっていません。

 

◯身を隠す呪詛を使います。

 

◯高御産巣日神の名をもって神命を下すことができます。

 

◯ファッションは、ゴスパンを好み、巫女さんの衣装を嫌います。

 

◯下着が汚れません。

 

◯自分でピアスを開けることができます。

 

◯高天原に対する反抗心を抱いています。

 

◯血を吐くまで殴れます。

 

◯吐いた血は自分で掃除させてください。

 

◯自力歩行不能又は死んだときは恢蘇の呪詛で再生します。

 

◯相談は有料です。(タダにしてあげるから天女には内緒にしてよね)

 

◯天女は食べられます。

 

◯おいしい部位はハムストリングで、お勧め調理法は、骨付き肉のオーブン焼きです。

 

◯高木神は、下界でドMの食用家畜でした。(だからそれはやめて!)

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