※この作品はR-18です。

嗜虐のぽんこつ神   作:ぬるでば

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第6話 黄泉還り

 悠生(ゆみ)と天女(あまね)は、毎日一緒に渋谷の会社に出勤している。

 

 初めて井の頭線に乗ったときは、まだ天女が普通のおとなしい服装だったため痴漢に狙われた。

 

 天女を触っていた痴漢は、彼女の逆鱗に触れ、手が丸焦げになった。

 

 むしろ狙った痴漢の方が気の毒なくらいの天罰だった。

 

 ところが、天女が尖ったゴスパン少女になってからというもの、まったく痴漢が寄ってこなくなった。

 

「天女さんのせいおかげで私も痴漢に遭わなくなりました」

 

 悠生が天女に礼を言った。

 

「本当ですか? なんだか嬉しいです」

 

「ところで天女さん、私の勘違いじゃなければ、耳の安全ピンが減って増えてませんか?」

 

「ええ、増えています」

 

 天女の左耳には、安全ピンが4個直じかに刺さっている。

 

「そうですよね。似合わない(お似合い)ですよ」

 

 悠生は、天女のあるがままを受け入れることが普通になった。

 

「ありがとうございます!」

 

 天女が喜んだ。

 

 天女は、身長が優に170センチを超える。

 

 顔立ちも端正で美しい。

 

 豊満なバストをしているが、身体全体の肉付きは均整がとれいて、決して太っては見えない。

 

 そんな天女が尖ったファッションで渋谷の街を歩いているのだ。

 

 スカウトの目に留まらないわけがない。

 

 モデル事務所、芸能事務所、読者モデル、果てはAVやキャバクラまで。

 

 ありとあらゆるスカウトから声をかけられている。

 

 特にモデル事務所からは、とりあえず声をかけたというレベルではない真剣なアタックを数か所から受けた。

 

 どれも破格の条件提示だった。

 

 その条件なら仕事を引き受けてもいい、むしろありがたすぎるくらいの条件だ。

 

 悠生は、天女に好条件の誘いであることを説明して、応じるかどうかの判断を天女に委ねた。

 

 天女は、好条件のモデルには一切興味を示さず断ってしまった。

 

 彼女が興味を示したのはAVだった。

 

 これは、悠生が身を挺して止めた。

 

 天女をAVに出演させたら、とんでもない猟奇的な作品ができてしまう。

 

 とてもじゃないが一般に流通させられないくらいの出血量になるだろう。

 

 ダメだ。

 

 天女に加害することができるのは自分だけだ。

 

 天女の被虐性を理解していない相手に彼女を傷つけさせるわけにはいかない。

 

 悠生には、そういう自負がある。

 

 ネガティブオプション送りつけ商法のような気がしなくもないが、高天原から預かった大事な神だ。

 

 誰にも傷付けはさせない。

 

 特に天女の心は自分でなければケアできない。

 

 ぽんこつを理解していないと会話が成り立たないのだ。

 

 他人に任せることはできない。

 

 結局、天女はすべてのスカウトを断ることになった。

 

「きっと後悔してますね(それでよかったんですか)?」

 

 悠生は、天女が気を遣って遠慮したのではないかと思った。

 

「いいんです。私は悠生さんの僕(しもべ)ですから、いつも悠生さんのおそばに侍(はべ)らせてください」

 

 天女がにっこりと微笑んだ。

 

「でも、前にお仕事をしたいとおっしゃってました」

 

「はい、あれは仕事というものがどういうものかよく分からないときでしたから。私も少しは賢くなりました」

 

「そうなんですね。分かりました」

 

 仕事帰り、二人並んで悠生のマンションに向かって歩いた。

 

 マンションの外階段を3階まで上がり、一番奥が悠生の部屋だ。

 

 悠生が鍵を開けた。

 

 ぱちっ!

 

 天女がドアノブに手をかけて開けようとしたとき、天女とドアノブの間に静電気がスパークした。

 

 天女が反射的に手を引っ込めた。

 

「いま、ぱちっと音がしました。なんでしょう?」

 

 天女が首をかしげた。

 

「あ、それは、静電気です」

 

 悠生が教えた。

 

「静電気というのですね。気持ちがいいです」

 

 悠生は、天女の目に妖しさが宿るのを見逃さなかった。

 

「これは、どうやればまた経験できるのでしょう?」

 

「スパークするくらいの静電気を作るのは難しいと思います。静電気じゃなくて普通の電気なら感電させてあげられますよ」

 

 悠生が平然と提案した。

 

「電気を感じるから感電というのですね。感電したいです」

 

 天女が目を輝かせた。

 

「さて、どうやったらいいんだろう?」

 

 悠生が天女の感電計画を思案した。

 

 食塩水に浸けて電気を流せば全身くまなく感電させられるのは分かっている。

 

 だが、これやったらブレーカーがぶっ飛ぶ。

 

 そこまでいかずに適度な感電ができればいい。

 

「とりあえずAC100ボルトを直に流せばいいか」

 

 それがどんな結果になるかは考えないことにした。

 

 たとえ死んでも自分にはカイソの呪詛がある。

 

 部屋に入り二人でくつろいだ。

 

 天女は、人をダメにするクッションがお気に入りで、そこが定位置になっている。

 

 いつも、そこで悠生の薄い本を読んでいる。

 

「天女さん、パンツが見えてます」

 

 悠生が注意した。

 

「あら、ごめんなさい。じゃあ、はい、どうぞ」

 

 天女は、悠生に謝るとショーツを脱いで渡した。

 

「あ、大きなお世話(ありがとう)」

 

 天女からショーツを受け取った悠生は、クロッチに鼻を当てて匂いを嗅いだ。

 

「うん、今日も臭い(無臭)です」

 

「毎日、私のパンツを嗅いで飽きないのですか?」

 

「飽きないですよ。いつか匂う日があるんじゃないかと楽しみなんです」

 

「悠生さんも変な趣味をお持ちなんですね」

 

 天女がクスっと笑った。

 

「あなたほどじゃないけどね」

 

 そう言いたくなったが、言葉を飲み込んだ。

 

 天女の変な性癖は、彼女のプログラムミスからきているものだ。

 

 天女自身に自覚はないし、その責任もない。

 

 直接ぶつけても彼女を傷つけるだけで、改善が見込まれるものでもない。

 

「天女さん、感電してみますか?」

 

 悠生が玄関でのことを思い出した。

 

「はい、ぜひお願いします」

 

 下半身丸出しで、だらしなく寝そべっていた天女が、ぱっと起き上がって正座した。

 

「ちょっと待っていてください。準備しますから」

 

 悠生は、使わなくなった延長コードを引っ張り出した。

 

 ニッパーでメス側の端子を切り落とし、コード被膜を剥いて中の導線を露出させた。

 

 台所から洗い物用のゴム手袋を出して手を入れる。

 

 延長コードのプラグをコンセントに差し込んで準備はできた。

 

「それじゃあ、すっぽんぽんになってください」

 

 悠生が天女を促した。

 

「かしこまりました」

 

 天女が指示に従って全裸になった。

 

「電気の流れをよくするために身体を濡らしますね」

 

 そう言って悠生は用意しておいた塩水を天女の身体に塗った。

 

「それじゃ、いきますよ」

 

「はい、お願いします」

 

 悠生は、二つに分けた導線を左右の手に一本ずつ持って構えた。

 

 悠生の手が震えている。

 

 本当は怖かった。

 

 自分が怖がっていると天女が萎縮する。

 

 だからなるべく平然と事を進めているように見せている。

 

 それでも人に危害を加えるという行為には、なかなか慣れることができない。

 

 初めのうちは、怖くて目を開けることもできなかった。

 

 しかし、天女のありのままを見てあげたい。

 

 そう思ってしっかりと見るようにした。

 

 ばちん!

 

 2本の導線が天女の左右の乳房に触れた瞬間、静電気がスパークしたときのような音がした。

 

 悠生は、あわてて手を引っ込めて導線を天女の乳房から離した。

 

 天女は、一瞬、身体をのけ反らした。

 

 のけ反らしたというより、電気の刺激に筋肉が勝手に反応して痙攣したような動きだ。

 

「これは素晴らしいですね!」

 

 天女の表情は、宝物をみつけた子供のように輝いていた。

 

「もっと感電させていただいてよろしいですか」

 

 天女がねだった。

 

「だめ(いい)ですよ」

 

 悠生が優しく答えた。

 

 悠生は、深呼吸をして自分を鼓舞した。

 

 意を決したように2本の導線を天女の乳房に押し当てた。

 

 天女の身体が跳ねた。

 

 悠生は、飛ばされそうになったが、なんとかすがりついた。

 

 天女が白目をむいて激しく痙攣している。

 

 もはや直視できなかった。

 

 悠生は、我慢できずに目を閉じた。

 

「悠生、さ、ん……」

 

 天女が何かを言おうとした。

 

「なんですか?」

 

 導線を必死に押し当てながら悠生が返事をした。

 

「もっ……と……」

 

 天女は、まともに声も出なくなっていた。

 

 口がガクガクと痙攣して泡を吹いている。

 

「ひっ」

 

 天女は、短く叫ぶとその場に崩れ落ちた。

 

「天女さん!」

 

 崩れ落ちた天女に悠生が慌ててすがった。

 

 天女が息をしていなかった。

 

 悠生は、すぐに脈をとった。

 

 手首でも首でも脈は触れなかった。

 

 天女が死んだ。

 

 悠生は、強いショックを受けた。

 

 神を殺めてしまった。

 

 いくら再生させられるからといって、神を殺めたらただでは済むまい。

 

「そうだ、高木神に報告して謝ろう」

 

 悠生は、パソコンで高天原への窓を開いた。

 

 

 

ゆみ: 神様

 

タッキー: ご利用ありがとうございます。神様です

 

ゆみ: すみません、天女さんを殺してしまいました

 

タッキー: あらっ、もう殺しちゃったの? やること早いわねww

 

ゆみ: 笑い事じゃないです。人間の私が神様を殺しちゃったんですよ? 大変なことです

 

タッキー: もー、ゆみさんは真面目すぎです。前にも言いましたけど、天女は人間ではありません。食べても殺しても罪になる対象ではありませんよ

 

ゆみ: でも……

 

 

 

 悠生は、理屈では理解できても、感情がそれを許さなかった。

 

 

 

タッキー: 殺すのも慣れれば毎日の排泄と同じくらい気軽にできるようになりますから。とりあえず、今回は再生の呪詛を使って生き返らせてください。やり方は聞いてますね?

 

ゆみ: あ、はい。分かります

 

 

 

 悠生は、チャットを閉じて生理食塩水の濃度を検索した。

 

 そして、バスタブに水を張り、食塩をとかして生理食塩水の濃度に調整した。

 

「お、重い……」

 

 天女の死体を浴室に運び込もうとしたが、重くて動かせなかった。

 

「そうだよね、死んだら私が一人で運ばなきゃならないんだよね」

 

 悠生は、途方にくれた。

 

 このままでは天女を再生させられない。

 

 天女を放置しておいたら、いずれ腐敗する。

 

 腐敗したら再生できなくなるのでは?

 

 悠生には焦りの色が浮かんだ。

 

「しょうがない。あれをやるか」

 

 悠生は物置からレジャーシートを探し出した。

 

 天女の死体を転がして、広げたレジャーシートの中央に乗せた。

 

 キッチンから包丁を持ってきて死体の側に佇む悠生は、猟奇殺人の犯人そのものだ。

 

 悠生は、天女の左肩に包丁を刺し込んだ。

 

 表皮と皮下脂肪の柔らかい層を切るぐんにゃりとした感触が手に伝わった。

 

 既に死んでいる天女は、包丁で切っても思ったほどの出血はなかった。

 

 生きているときに切創を負うと、傷口がぱっくりと開く。

 

 しかし、死体の場合はそうならない。

 

 皮のついた鶏肉を切るのと同じで、ぐにゃっと切れるだけだ。

 

 このような生きているときだけに起こる反応を生活反応という。

 

 悠生は、天女の左肩にざくざくと包丁を刺しながら、ぐるっと一回り切った。

 

 肩の関節が見えた。

 

 関節に包丁を入れ、左腕を切り離そうというのだ。

 

 悠生の両手は血にまみれた。

 

「服を脱がないと血だらけになるよね」

 

 悠生は、包丁を天女の乳房に突き刺し、キッチンで手を洗って全裸になった。

 

 乳房に突き刺さっている包丁を事務的に引き抜くと解体作業を再開した。

 

 関節を切り離すのは思ったより大変な作業だった。

 

 最後は切ることをあきらめて、左腕を無理矢理ねじって関節を壊した。

 

 手羽先をひねって引きちぎる要領だ。

 

 天女の死体から切り離された左腕は、ずっしりと重かった。

 

 悠生は、左腕を生理食塩水で満たしたバスタブに放り込んだ。

 

どぼん

 

 左腕が音をたてて沈んだ。

 

「とりあえず、これだけでも再生するんだよね。でも、残りも使ってあげないと生ゴミとして捨てなきゃいけなくなるから可哀想」

 

 悠生は、天女の死体に戻ると解体を続けた。

 

 右腕を外してバスタブに放り込む。

 

 脚は股関節から切断した。

 

 身体から切り離した脚の重さに驚いた。

 

 悠生は、両手で抱えて脚を運んだ。

 

 悠生の身体も天女の血にまみれた。

 

 悠生は、四肢を切断した天女の死体を眺めているうちに、なぜかとてもいとおしい気持ちになった。

 

 悠生は、天女に添い寝するように、血が広がるレジャーシートに横たわった。

 

 右腕を天女の首の下から通し、両手で抱き寄せた。

 

 天女は、まだ温かかった。

 

「天女さん、もうすぐ再生してあげますからね」

 

 そう言って血だらけの天女の唇に唇を重ねた。

 

 悠生は、天女の髪の毛をつかんで胴体を引き起こそうとした。

 

「くっ、重い」

 

 胴体は、やっぱり重かった。

 

 やっとの思いで胴体を引き起こすと両手で抱き上げ、よろよろしながらバスルームに運んだ。

 

 胴体をバスタブに放り込もうとしたとき、悠生はバランスを崩して一緒にバスタブに落ちた。

 

 解体した死体と水に浸っても怖さはなかった。

 

 天女と一緒にお風呂に入っているようで楽しかった。

 

 でも、水は冷たかった。

 

 身体が冷えてしまった。

 

 寒くなった悠生は、バスタブから出て呪詛を唱えた。

 

「カイソ」

 

 そして、両手で一回だけ拍を打った。

 

 これで天女は再生するはずだ。

 

 悠生は、レジャーシートに溜まった血をバスルームに流してシャワーで洗った。

 

 次に全身血だらけになった自分をシャワーで洗い流した。

 

 バスタブの中のバラバラ死体に変化はない。

 

 悠生は、バスルームを出て服を着た。

 

 リビングに天女がいない。

 

 いつもは人をダメにするクッションにだらしなくもかれかかっている天女がそこにはいない。

 

 クッションには、天女の身体でできたくぼみが残り、それが天女の存在を示す名残となっていた。

 

 悠生は、ひどく疲れていた。

 

 神を殺めたこと、そして死体を解体したこと。

 

 どちらも異常極まりないことだ。

 

 精神的には、壊れる寸前といったところだったが、高木神とつながっているという意識が辛うじて悠生をこちら側につなぎ止めてくれた。

 

 悠生は、人をダメにするクッションに身体を投げ出し、深い眠りについた。

 

 どれくらい寝ていただろう。

 

 悠生は、カーテンも閉めていなかった窓から射し込む陽の光がまぶしくて目を覚ました。

 

「天女さん、どうなったかな」

 

 人をダメにするクッションから身体を起こした。

 

「痛っ!」

 

 身体のあちこちが筋肉痛になっていた。

 

 人をバラバラに解体して運ぶというのは、思いの外筋力がいる作業だったらしい。

 

「あいたたた」

 

 悠生は、肩をさすりながらバスルームに入った。

 

「おえっ」

 

 悠生は、その場で嘔吐した。

 

 バスタブは、血液で満たされドロドロとゲル化した肉のようなものが蠢うごめいている。

 

「なにこれ、気持ち悪い」

 

 ただ血と肉があるだけならどうということはない。

 

 しかし、そこにあったのは溶けた肉のようなものがぐにゃぐにゃと蠢いているのだ。

 

 悠生は、バスルームを飛び出すと高天原に通じる窓を開いて高木神を呼び出した。

 

 

 

ゆみ: 神様

 

タッキー: ご利用ありがとうございます。神様です

 

ゆみ: 再生の呪詛を唱えたんですけど、天女さんが再生するどころじゃない変なドロドロの肉になっちゃいました

 

タッキー: それでいいんです

 

ゆみ: よくないです。天女さんを生き返らせてください。あんな肉のできそこないみたいなドロドロが天女さんだなんて嫌です

 

タッキー: まあまあ、慌てないで。あれは、天女が再生する過程の姿です

 

ゆみ: そうなんですか?

 

タッキー: はい。あのドロドロした肉のできそこないなみたいなものはヒルコ(蛭水子)です

 

ゆみ: ヒルコ?

 

タッキー: そうです。ヒルコというのは、イザナギとイザナミとの間にできた子供ですが、どろどろとした骨のないぽんこつでした。私や天女は、そのヒルコの血を受け継ぐ神です。ですから、天女は、再生の過程でヒルコの状態を経過します。今がその状態というわけです

 

ゆみ: ヒルコから人の形になっていくんですね

 

タッキー: その通りです。その速さは、呪詛を唱えた主との信頼関係の深さによります。信頼関係が深ければ、ヒルコから完全に再生するまで1日くらいです

 

ゆみ: 分かりました。私は、待っていればいいんですね

 

タッキー: はい、ゆっくりお茶でもしていてください

 

ゆみ: ありがとうございます

 

タッキー: また殺してあげてくださいね

 

 

 

 また殺してあげろと言われても、はい分かりましたとは言いにくい。

 

 自分が天女を殺すことにどんな意味があるというのか。

 

 悠生にはまだ理解できなかった。

 

 天女の祖先が元祖ぽんこつ神のヒルコだったというのは意外だった。

 

 しかし、高木神の説明でなんとなく納得できた。

 

 その日、悠生は筋肉痛がひどかったので仕事を休んだ。

 

 天女と同伴出勤できないつまらなさもあってのことだった。

 

 天女がいつ再生するか分からないので、外出もせず日がな一日部屋で過ごした。

 

 日も傾き、夜の帳とばりが降りる頃、バスルームからシャワーの音がした。

 

「えっ?」

 

 悠生は驚いてバスルームの扉を開けた。

 

「きゃー、変態!」

 

 シャワーを浴びている天女が悠生を見つけていたずらっぽく叫んだ。

 

「天女さん!」

 

 悠生は、服も脱がずに天女に抱きついた。

 

 二人にシャワーの水滴が降り注ぐ。

 

 シャワーが悠生の涙を隠してくれた。

 

ばしっ! ばちん!

 

 悠生は、天女の頬を強く叩いた。

 

「さっさと消え失せろ(お帰りなさい)」

 

 悠生が天女を笑顔で見上げた。

 

 天女がその場で正座して床に額をつけた。

 

「ただいま黄泉還りよみがえりました」

 

 天女が再生の挨拶をした。

 

 悠生が天女の後頭部を素足で踏みつけた。

 

「還ってこなきゃよかったのに(待っていたんですよ)」

 

 悠生が涙声で罵倒した。

 

 頭をあげ、悠生の足を両手で押し頂いた天女は、嬉しそうな笑顔を見せ足に頬ずりした。

 

 不思議なことに血と肉で満たされていたはずのバスタブには、一点の血痕もなくぴかぴかに磨いたような輝きを放っていた。

 

 再生した天女の髪は、金髪ではなくなっていた。

 

 元の黒々と艶のある長い髪に戻った。

 

「悠生さん、今までたくさん反対の意味で言葉をかけてくださりありがとうございます。お陰で私は、言葉の正しい意味を理解することができました」

 

 天女は、またバスルームの床に額を着けた。

 

 悠生は驚いてしばらく言葉が出なかった。

 

 天女は、悠生の言葉を待つように床に額を着けたまま微動だにしない。

 

「天女さん……」

 

「はい」

 

 天女が顔をあげた。

 

「ご存知だったんですか? ご自分がぽんこつだっていうことを」

 

 悠生は、恐る恐る訊いた。

 

「はい、存じ上げておりました。知ってはいましたが、自分ではどうすることもできなかったのです。それを悠生さんが時間をかけて丁寧に教えてくださいました」

 

 天女が嬉しそうに説明した。

 

「でも、天女さんのぽんこつは、プログラムにハードコーディングされいて、直せないはず」

 

 悠生は不思議に思った。

 

「それが私にも分からないのです」

 

 天女が首をかしげた。

 

「訳は分かりませんけど、天女さんが普通になってくれて私もほっとしました」

 

 悠生が天女の手を取って立ち上がらせた。

 

「あ、悠生さん、そうではありません。言葉が直っただけで、無痛と被虐は直っていないのです。ですから、これからも暴力を加えてください。お願いします」

 

「えー、そういう仕様なんですか。仕方ないですね」

 

 悠生が苦笑した。

 

 とりあえず、言葉の意味が正しく伝わるようになっただけでもずいぶん助かる。

 

「あのお、じゃあ、こういうことですか? 天女さん、還ってきてくれてありがとうございます!」

 

 そう言うと悠生は、天女の乳首を捻りあげた。

 

「あっ」

 

 天女は、嬉しそうに身体をよじった。

 

「はい、そのとおりです。ありがとうございます」

 

 天女が悠生に頭を下げた。

 

「よかった」

 

 悠生が安堵した。

 

 悠生は、もう一度高天原に通じる窓を開いた。

 

 

 

ゆみ: 神様

 

タッキー: ご利用ありがとうございます。神様です

 

ゆみ: 天女さんが一日かからずに再生しました

 

タッキー: それはすごい! 新記録かもしれません

 

ゆみ: そうなんですか。光栄です。ところで、天女さんの言葉があべこべでなくなりました

 

タッキー: そのようですね。ゆみさんのお陰です。私からもお礼を申し上げます。ありがとう

 

ゆみ: いや、なんで私のお陰なのか分からないんです

 

タッキー: 天女の言語設定テーブルはハードコーディングされていて、プログラムそのものを改修しなければ直りません。ですから、なかなか直すことができませんでした。そこで私は、システムエンジニアとして高いスキルを持つゆみさんにライブでのバグフィックスを託しました

 

ゆみ: そんな話は聞いてません

 

タッキー: 言い忘れたかしら?

 

ゆみ: わざと言わなかったんでしょ! 高木さん!

 

タッキー: 高木さんは、やめてよ! ぶっちゃけ言うと、天女はオンメモリーで動いてます。だから、ライブのままプログラムを修正できれば、そのあと一回殺して再起動かけると直るんです。でも、高天原と下界を含めても、ライブで修正できるだけのスキルを持った神や人がみつからなかったんです。やっとみつけたのが、あなた。ゆみさんです

 

ゆみ: 私にそんな高度なスキルがあったんですか?

 

タッキー: あるから天女を直せたんです。ゆみさんが根気よくあべこべの言葉をかけてくれたお陰で、天女の間違ったテーブル設定が少しずつ修正されていきました。そして、昨日、天女を殺して再生させたことで、修正後のテーブルが反映されて、あべこべの言葉だけは直ったのです

 

ゆみ: だから殺せ殺せって言ってたんですね。なんとなく理解できました。でも、直ったのは言葉だけで、暴力を受けたがったり死にたがったりするのは今までどおりってことですか?

 

タッキー: そうです。言葉が正しく使えるようになった天女の要求は、よりハードになるんじゃないかしら。ふふふ

 

ゆみ: えー

 

タッキー: あなたならできるわ。だってあなたはヤマトユミさんですもの

 

ゆみ: よく分からないけど頑張ります(^^;

 

タッキー: 高天原から見てるわ。じゃあね

 

ゆみ: じゃあまた

 

 

 

「天女さん、高木神さんに近づきましたね」

 

「悠生さんの神性も上がりました」

 

「えっ?」

 

 

 

 テーブルの上の取扱説令書が、それまでにない明るい光を纏まとっていた。

 

 悠生が説令書を開いた。

 

 取扱説令書に項目が増えた。

 

3 普段のお手入れ

 

◯できるだけ過酷な暴力を与えてください。

 

◯標準的な辞書程度の語彙力を持っています。

 

◯ほめられることが罵倒に、罵倒されることがほめられることになります。

 

◯普通の人にとって痛いことが癒やしや愛情になります。

 

◯ときに痛みが性的快感に代入されますが、ランダムな確率です。

 

◯痛みは感じません。

 

◯怪我をさせても大丈夫。死なない限り自分で勝手に再生します。

 

◯痛みを求めたときは、できるだけ与えてあげましょう。

 

◯相手に災いをもたらす呪詛を使いますが、レベル感が分かっていません。

 

◯身を隠す呪詛を使います。

 

◯高御産巣日神の名をもって神命を下すことができます。

 

◯ファッションは、ゴスパンを好み、巫女さんの衣装を嫌います。

 

◯下着が汚れません。

 

◯自分でピアスを開けることができます。

 

◯高天原に対する反抗心を抱いています。

 

◯血を吐くまで殴れます。

 

◯吐いた血は自分で掃除させてください。

 

◯自力歩行不能又は死んだときは恢蘇の呪詛で再生します。

 

◯相談は有料です。(タダにしてあげるから天女には内緒にしてよね)

 

◯天女は食べられます。

 

◯おいしい部位はハムストリングで、お勧め調理法は、骨付き肉のオーブン焼きです。

 

◯高木神は、下界でドMの食用家畜でした。(だからそれはやめて!)

 

◯AC100ボルトを直に流すと死にます。

 

◯死体の移動は分解しないと大変重いです。

 

◯再生中、ヒルコの状態を経由します。

 

◯天女は、ヒルコの血統を受け継いでいます。

 

◯再生するとカラーリングした髪は元に戻ります。

 

◯天女のプログラムと言語テーブルは、オンメモリーなのでライブで修正したら再起動で反映されます

 

◯ぽんこつだった天女の言語テーブルだけは修正されました。

 

◯悠生さんの神性が上がりました。

 

◯天女を殺した回数: 1

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