女子高生准査ヌルデバと萌える寄生虫の共生捜査本部 作:ぬるでば
お互いの気持を確認し合った翌日。
二人は、いつものように登校した。
そして、いつものように授業を受け、いつものように下校した。
それまでと全く変わらない一日が過ぎた。
二人の距離が縮んだわけでもなく、変に意識して離れたりすることもない。
元々お互いが相手を好きだということを中学生のころから分かっていた。
それを改めて確認し合ったというだけなので、そのことで二人の距離感が変わることはなかったのだ。
学校からの帰り道。
二人が並んで歩いていると、ふとしたはずみで茶々の手が龍生の手に触れた。
二人は、静電気がスパークしたときのように手を引っ込めた。
一緒に歩いているとき、手が触れることなど日常茶飯事だった。
そして、それを特に意識したこともない。
それが、今日はなぜか二人とも過敏になっていた。
二人の間に急に気まずい空気が流れた。
龍生は、まっすぐ前を見続けて歩く。
茶々は、下を向いたままだ。
いつもはおしゃべりな茶々が無口になった。
結局、二人が別れるところまで一言も会話は交わされなかった。
それは、重苦しい雰囲気ではなく、言葉を必要としていなかったからだ。
「じゃあな」
茶々が手を振った。
「うん、また明日」
龍生が笑顔で返した。
龍生が一人で歩き始めてしばらく進んだところで、背後に気配を感じた。
龍生が後ろを振り返ると、さっき別れたところに茶々がいた。
茶々は、ふにゃふにゃの笑顔で龍生を見つめていた。
龍生が振り返ったのに驚いた茶々は、慌てて凶悪な目つきに戻した。
「な、てめえ、見てんじゃねえよ! さっさとあっち行け」
そう言って足で蹴飛ばすポーズを取った。
龍生は黙って笑顔のまま手を振り茶々に背を向けた。
そのあとは、背中に視線を感じながらも振り返ることなく歩き続けた。
その日の夜。
エージェントから新しい任務の下命があった。
POLICE: ヌルデブいるか
/dev/null: デブって言うなし
POLICE: すまん。タイポした
/dev/null: てめえ殺すぞ。どうやったらAとUのキーを間違えんだよ
POLICE: そうカリカリするな。任務だ
/dev/null: お、今度はなんだ?
POLICE: JKビジネスというのを知ってるか
/dev/null: ああ、知ってるよ。同級生でも何人かやってんな
POLICE: そうか。それに潜入してもらう
/dev/null: また潜入かよ。しかも今度はJKビジネスだと? JKビジネスとあたしらホワイトハッカーに何の関係があるんだよ?
POLICE: 無関係だ
/dev/null: はっきり言い切ったな、このおっさん
POLICE: 東京都でJKビジネスを規制する条例が施行された。茨城県でも同じような条例の制定を検討し始めたところだ。そこで、茨城県内のJKビジネスの実態を調べて欲しい
/dev/null: 目的は分かった。で、なんでそれをあたしに行かせる? 他の女性警察官にでも行かせればいいだろ
POLICE: お前は現役女子高生だろ。しかも黒ギャルだ。潜入しやすい
/dev/null: 黒ギャルじゃねえし。まあいいよ、やってやるよ。で、どこに行けばいいんだ?
POLICE: 土浦の駅前にあるメイド喫茶だ。そこでオプションと称して買春が行われているらしい
/dev/null: おい待ておっさん。お前、あたしにそのオプションをやってこいって言うんじゃねえだろうな
POLICE: 潜入というのは、そういうものだ
/dev/null: ふざけんなよ! あたし、まだ男を知らねえんだぞ! できるわけねえじゃねえか
POLICE: なら経験してから行け
/dev/null: お前、ほんとに鬼畜だな。その性格嫌いじゃねえけどよ
POLICE: 相変わらずのドMっぷりだな
/dev/null: うるせえ。お前にICチップ埋め込まれてもいいって言ってる時点で分かりきったことだろ、いちいち言うんじゃねえよ。恥ずいな
POLICE: じゃあレポートを楽しみにしてるぞ
/dev/null: ちょっと待て! 肝心なこと訊いてねえぞ。援交は、やらなくていいんだよな? あと、この任務は誰のチョイスだ?
POLICE: お前がやりたければやれ。任務は、数ある中から俺の趣味で選んだ。以上だ、健闘を祈る
/dev/null: ああ、分かったよ。やればいいんだろ、やれば。どうせ断ったらまた頭痛地獄なんだろうからな
POLICE: お前もすっかり権力の犬らしくなったな
/dev/null: おかげさまで
「県警のおっさんがとんでもない任務をよこしやがったよ」
翌日、学校で龍生に会った茶々は、ぷりぷり怒りながら訴えた。
「なにを言われたの?」
龍生は、いつものようにニコニコしている。
「土浦で援交してこいって」
「ざっくりした任務だね。ほんとに援交させられるの?」
「ああ、あたしが男の経験ないって言ったら、やってから行けだと」
「それはまた厳しい任務だね」
龍生は他人事のようにあっさりと聞き流している。
「おいおい、あたしが他の男に寝取られるんだぞ? お前、よく平気で答えてるな」
「だって、ちゃーちゃん、そんなつもりないんでしょ?」
「なんだよ。分かってたのかよ」
「ちゃーちゃんの処女をもらうのは俺だから」
「はあ? 勝手に決めんなよ。誰がお前にやらせるって言ったよ。それにあたし処女じゃねえからな」
「えっ?」
龍生の表情が曇った。
「え、じゃねえよ。あたしは、処女じゃありません。何度も言わせんな」
茶々は、笑い出したいのをこらえながら無愛想に答えた。
「ちゃーちゃん、誰としたの……」
龍生の表情から血の気が失せた。
「誰ともしてねえよ。強いて言えば萌とだな」
「あー、萌さんに先を越されたのか。それならしょうがないや」
龍生が苦笑した。
「おいおい、お前、それでいいのかよ? もっとショック受けろよ」
茶々も耐えきれなくなって笑いだした。
「ちょっと悔しいのは事実だけど、処女かどうかは全然重要なことじゃないと思うよ。だから気にしないよ」
「お前、ほんとにいい奴だな」
茶々が龍生の腕に乳房を押し付けた。
「ちょ、ちゃーちゃん、学校ではダメだよ」
「ダメとか言いながら逃げないのはどうしてですかー? 学校じゃなきゃいいんだな?」
「う、うん」
「スケベ」
茶々が龍生にアカンベェをした。
「ねえ、ちゃーちゃん」
「ん? なんだ?」
「メイド喫茶っていったら、メイド服着るんでしょ?」
「ああ、そうだろうな」
「写真送って」
「ああ、いいよ」
「やった!」
龍生がガッツポーズをした。
「なんだよ。お前、メイド好きだったのか」
茶々が龍生の脇腹をつついた。
「違うよ。ちゃーちゃんのメイド姿が見たいんだよ」
龍生が身を捩りながら答えた。
「お前、口がうまいな」
茶々がふにゃふにゃの笑顔になった。
その週の土曜日。
茶々は、土浦駅前の繁華街にあるメイド喫茶にアルバイト希望の高校生を装って面接に訪れた。
店内は、茶々が予想していた華やかな店の作りではなく、落ちいた喫茶店という感じだった。
そこで働いているメイドも、ミニスカートにフリルをふんだんに使ったメイド服ではなく、ビクトリア調のオーソドックスな長いスカートだった。
そして、なにより意外だったのは、メイドが「お帰りなさいませ、ご主人様」という決まり文句を言わないことだった。
「うちは、正統派のメイド喫茶だから、そういうことは言わないのよ」
店を案内してくれた先輩のメイドが説明してくれた。
「こんなシックなお店のメイドが援交してんのか?」
茶々は信じられなかった。
しかし、裏の事務所で面接を受けると、すぐにその疑問は消えた。
「うちでは、喫茶店が女の子の品定めの場になっていて、気に入った子がいると客がその子を指名して店外でオプションをやってもらうことなっているから」
まだ20歳そこそこくらいに見える若い店長が事務的に説明した。
「あ、そうすか」
あらかじめオプションの存在を知っていた茶々は、驚きもせず淡々としていた。
「オプションなしで働くこともできるけど、うちはオプションをしないとお給料はほとんど出ないんで、オプションした方がいいよ。あ、君はうちには珍しい黒ギャルだし、すごくいい身体してるから、すぐにお客さんがついて人気になると思うよ。頑張って稼いでね」
「あ、はい」
(ゴミクズが)
茶々は、従順なふりをしながら腹で唾棄した。
その日から茶々はお店に出ることになった。
まず最初は、先輩から客の迎え方、案内の仕方、オーダーのとり方、サービスの仕方などを教わった。
「ここの客は、みんな喫茶店のサービスよりエッチが目的だから、サービスなんて適当でいいのよ」
先輩のメイドが客を軽蔑するような目で見ながら説明してくれた。
オプションの指名が入った場合の対応も教わった。
オプションの指名が入ったら、更衣室で私服に着替え、待っている客と店外に出る。
そして、店と提携しているホテルに入り、セックスをする。
ラブホテルは、通常18歳未満の子供を入れさせない。
だが、この店と提携しているホテルは、店の子が明らかに18歳に満たない幼い高校生(場合によっては中学生もいる)と分かっていても黙って入場させていた。
客の希望があればメイド服での対応もする。
オプションには、更にオプションがある。
コンドームなしでのセックスはプラス1万円。
生中出しはプラス2万円。
ゴムなしフェラチオはプラス5千円。
飲精はプラス1万円。
アナルセックスはプラス5千円。
などなど、細かいオプションが設定されていた。
これらは、あらかじめ店に前払いで申し込んでおくのが建前になっている。
しかし、女の子が自分の小遣いを稼ぐため、ホテルで個別に交渉してオプションを付けることが多い。
店内のフロアにいると客の視線が体中を舐め回すようにまとわりつく。
「すっげーキモいんだけど」
茶々は寒気がした。
「あたしドMだけど、こういうのには感じねえんだよ」
吐き捨てるように独り言をつぶやいた。
「ミモザさん、オプション入りましたよ」
店ではミモザという名前をもらっていた。
店に出てすぐに指名が入った。
店長が言ったように、黒ギャルの珍しいメイドであることと、巨乳が客の目を引いたらしい。
「はいよ」
茶々は、気のない返事をした。
「ミモザさんは、ゴムなしNGでしたよね。今回は、基本のコースプラスメイド服になりますから、きちんとゴムを付けてもらってください」
受付の女の子からコースの説明を受けた。
「はいはい」
茶々は、話をろくに聞かず更衣室に消えていった。
更衣室で私服に着替え、メイド服を備え付けのバッグに放り込んで外に出た。
外で待っていたのは、40歳くらいで、ぱっと見たところ会社員風のあまり特徴がない男だった。
「ミモザさんですね」
男が話しかけてきた。
「あ、はい」
茶々は、男と目も合わせずに返事をした。
さっさと仕事を終わらせて退散したい。
それしか考えられなかった。
男の後をついてホテルの部屋に入った。
ラブホテルに入るのは、初めてだった。
「へー、こんな風なんだ」
茶々は、物珍しそうにきょろきょろと室内を見回した。
「初めてなのかな?」
男が声をかけてきた。
「あ、はい」
「大丈夫だよ。怖くないから」
茶々の緊張した様子を察したのか、男がニヤニヤしながら話を続けた。
「ほら、早く着替えて」
男が着替えを要求した。
「あの、どこで着替えれば……」
ラブホテルには、ベッドルームと浴室、それとトイレしかない。
茶々は、部屋のどこで着替えればいいか分からなかった。
「どこでって、そこで着替えてよ」
男はニヤニヤしている。
「え、ここで、ですか……」
茶々は困惑した。
「あ、あとで着替えますから、す、少しお話しませんか……」
とにかく着替えを先送りにしたかった。
「ああ、いいよ」
そう言うと男は持っていたカバンから小さなポーチを取り出した。
ポーチを開けて中から細い注射器と注射針を出して、針を注射器にセットした。
次に、靴下の中から四角いビニールの小袋のようなものを出した。
ビニールの中には、白い結晶が見えた。
「おいおい、これまずいだろ」
茶々は身の危険を感じた。
私服のサーキュラースカートの上からワルサーPPKの所在を確認した。
いざとなったら撃つしかない。
男は上着を脱いで上半身裸になった。
男の左腕の内側は、赤黒い内出血が広がっている。
男はホテルのコップに水道の水を少し入れると、ビニール袋を破いて中の結晶を水に溶かした。
それを注射器に吸い込んで、バッグに入っていたゴムのチューブで左の上腕を縛った。
静脈が浮き出たところで、右手に持った注射器の針を左肘の内側に射し込んだ。
針が静脈に入ったことを確認した男は、注射器のピストンを押して溶液を体内に取り込んだ。
「ふう、冷てえ」
注射針を射したまま男が気持ちよさそうにつぶやいた。
「ミモザさんもやろうぜ」
男がゴムのチューブを解きながら茶々に注射を勧めた。
「いや、いいです」
茶々は両手を左右に振って断った。
「ヤバい薬じゃないぜ。痩せ薬なんだよ。ミモザさん、ちょっとぽっちゃりだろ。この薬を使うと楽に痩せられるんだ」
男が見え透いた嘘で誘いを続けた。
男は、そわそわと落ち着きがなくなり、瞳孔も開いているように見えた。
「ヤバいな、どうすっか」
茶々は、なんとかしてここから逃げ出そうと思った。
「ホテルの中では、抵抗すると危ないから、絶対に抵抗しないこと」
店で教わったことだった。
「んー、確かにこの状況で抵抗するのは危ないよな。とりあえずおとなしくしとくか」
当面の対処方針が決まった。
「ミモザさん、挨拶がまだだよ」
男がねちっこく迫った。
「あ、すいません。よろしくお願いします」
茶々は軽く頭を下げた。
「そんな挨拶があるかってんだよ!」
いきなり男は茶々の肩に手をかけて、茶々を床に転がした。
「痛っ!」
茶々が男を睨んだ。
「お、なんだその目は」
男が笑った。
「す、すいません」
茶々は、男をなだめるため謝った。
「いいか、ミモザさん。挨拶っていうのは、土下座して床に頭を付けて『お願いします、ご主人様』って言うんだ、わかったか」
男が急に優しい声になった。
「くそ、いい気になりやがって」
茶々は、奥歯を噛み締めたが、ここは従うしかない。
起き上がると男の前に正座をして床に頭を付けた。
「お願いします、ご主人様」
茶々が挨拶をした。
「やればできるじゃねえか」
男は満足げだ。
「いいかいミモザさん、お前は俺のメイドだ。メイドっていうのはな、ご主人様の言うことをなんでもきかなきゃいけないんだ、分かるか」
そう言いながら男は茶々の頭を土足で踏みつけた。
「くっ……」
茶々は、足を手で払い除けたかったが、じっと耐えた。
「おい、返事はどうした」
男が声を荒らげた。
「はい、分かりました」
茶々の声は震えていた。
怖かったのではない。
怒りが爆発しそうだった。
「これが龍生君だったら、あたしびしょ濡れだよ」
相手が違うとこうも感じ方が違うものか。
茶々は、相手との関係性の重要さを痛感した。
「よしよし、じゃあ俺の言うことをきけ。まずは、この痩せ薬を射て」
男が残りの溶液を注射器に吸い込んだ。
「針の使い回しかよ。やめろよ、肝炎とかエイズが移るじゃねえか」
茶々が焦った。
薬を射たれることそのものよりも、針の使い回しで病気を移されることの方が怖かった。
「薬は、やめてください、ご主人様」
茶々は、正座のまま男に懇願した。
「あ? 薬はやめろだ?」
男の顔つきが変わった。
ぐしゃっ
茶々が後ろに吹っ飛んだ。
男が茶々の顔に蹴りを入れた。
茶々の口の中が切れた。
あっという間に口の中が血で満たされた。
口の中が切れるのと同時に茶々の堪忍袋の緒も切れた。
「ぶっ」
立ち上がった茶々が口の中の血を男に吐きかけた。
茶々は、乳房の間に挟んでいた警察手帳を取り出して男に示した。
「おい、ずいぶん手荒な扱いしてくれたな。茨城県警だ」
男の顔が引きつった。
男に蹴られた茶々の左頬は紫色に腫れ上がっている。
ただでさえ凶悪な目は、これ以上ないほどの敵意を表している。
「サツ官かなんか知らねえけど、ホテルで1対1じゃ男にかなうわけねえだろ。けけけ」
男は薬が回ってきたらしく、意味もなく笑い始めた。
〝茶々、拳銃!〟
それまでじっと黙っていた萌が声を出した。
「あ、そうだ。あたし拳銃持ってたんだ」
茶々は、右太ももに付けたワルサーPPKの存在を忘れていた。
「萌、ありがとう」
そう言うとサーキュラースカートをたくし上げ、褐色で張りのある太ももに付けたレッグホルスターから初めてワルサーPPKを抜いた。
「悪さをする奴は、このワルサーが許さねえ」
そう言ってワルサーPPKを男に向けた。
〝冗談を言ってる場合じゃないのよ〟
萌が茶々に突っ込んだ。
「あ、分かった?」
茶々が表情に出さず、意識の中で笑った。
「おい、ちょっと待て。いや、待ってください。撃たないでくれよ」
男は、茶々の人差し指が引き金に掛かっているのを見て、本気で撃つつもりだと判断した。
拳銃は、撃つ直前まで引き金に指を掛けないのが基本だ。
しかし、拳銃操法を聞き流していた茶々は、基本を知らなかった。
正しい扱いを知らなかったので、特に意識することなく引き金に指を掛けただけだった。
しかも、茶々は拳銃に弾を込めるという概念がなかった。
本来であれば、遊底を引いて弾倉から薬室内に弾を装填する。
それができなければ引き金を引いたとしても絶対に弾は発射されない。
男に拳銃の知識がないことが幸いした。
茶々は、両手で拳銃を構えて男に銃口を向けたまま、じりじりと間合いを詰めた。
男は恐怖にこわばった顔で両手を上に上げている。
銃口が男の胸に着くところまで近づいた。
「ゴミクズが」
そう言うと、茶々は軽くジャンプして男の鼻っ柱目がけて思い切り頭突きを食らわした。
ごぶしゅ
鼻骨が折れる音がした。
男は意味の分からない悲鳴を上げ、鼻血を吹き出しながら床を転げ回った。
茶々は、冷ややかな目で男を見下ろし、顔を踏みつけた。
踏みつけた勢いで辺りに血の飛沫が飛んだ。
茶々の足にも返り血が飛んできた。
返り血を浴びて男を踏みつけ、拳銃を向けている茶々の姿は鬼のようだった。
「女をなめんな」
そう言って男に口の中の血を吐いた。
「さてと、110番……しちゃいけなかったんだな」
茶々は、警察組織の中でもその存在を秘匿されている非公然部隊に所属する。
事件を扱ったときでも110番することを禁じられていた。
エージェントに決まったメッセージを送ることで、緊急時であることを知らせることができるようになっている。
茶々は、スマホでエージェントにメッセージを送った。
すると、1分もしないうちにホテルの部屋に武装した警察の特殊部隊がなだれ込んできた。
その中に、定期的に面接をする警察官の姿もあった。
「ヌルデバ、無事でよかった」
その警察官が声をかけてくれた。
その声を聞いたとたん、茶々の下半身から力が抜けた。
茶々は、その場にへなへなと座り込んでしまった。
男は、青少年健全育成条例違反、傷害、覚せい剤取締法違反などで逮捕された。
そして、茶々が潜入したメイド喫茶も売春防止法違反、児童福祉法違反などで摘発された。
治療を受けた茶々のケガは、口の中が切れていたことと顔面の内出血で、全治一週間程度ということだった。
茶々は、県警の覆面に送られて家に帰った。
月曜日に登校した茶々の顔を見た同級生は、一様に驚き心配した。
「たいしたことない。土浦で地元のヤンキーに絡まれてケンカしちまってな」
友達にはそう言い訳をした。
一番心配したのは、もちろん龍生だった。
「ちゃーちゃん、大丈夫? 痛そう」
「ああ、痛かったよ」
「蹴飛ばされてこのくらいで済んでよかった」
龍生は、ケガの程度が思いの外軽かったことに安堵した。
「よくねえよ。軽かろうがなんだろうが痛えんだよ」
「あ、そうだね。ごめん」
龍生が頭を下げた。
その日の昼休み、別館の屋上。
「この前事故ったときは、萌があたしが落ちる寸前に顎を引けって言ってくれたから頭をケガしなくて済んだんだ。でな、今回もシャブ中の男に襲われかけたとき、萌が『拳銃』って言ってワルサー持ってることを思い出させてくれたんだよ。萌は、2回もあたしの命を救ってくれたんだぜ。最高の相棒だよ」
茶々は、龍生に萌の活躍を喜々として紹介した。
「そりゃすごいね。やっぱり萌さんはちゃーちゃんに必要な人なんだ」
そう言って龍生は茶々の首を破って顔を出している萌の頭を撫でた。
萌が嬉しそうに身体を振動させた。
「ねえ、ちゃーちゃん、この萌さんが開けた穴って痛くないんでしょ?」
「なんだよいきなり。痛くねえよ、むしろ指突っ込むと気持ちいいぞ」
「え、そうなの? やったの?」
「ああ、最近じゃクセになってる」
「俺もやってみたい」
「ちょっと待って。お前が私の首に指を入れるの? それはちょっと待ってよ……」
茶々が赤面した。
龍生に指を突っ込まれたら快感で声が漏れるのを我慢できそうにない。
すぐにでも突っ込んで欲しかったが、声を聞かれるのは恥ずかしい。
茶々の心は揺れた。
〝宿主殿、私が軽く麻酔をかけてあげるから。そうすれば声が漏れるほど感じないはずよ〟
「ほんと? ありがとう」
茶々は、萌の提案に乗った。
「どうしても指、入れたい?」
茶々は、上目遣いに龍性を見つめた。
「うん、だってちゃーちゃんの身体の中に俺の指が入るんでしょ? めちゃくちゃ興奮するよ」
「そうみたいね」
龍生の股間を見た茶々が苦笑した。
「わかった。入れて」
萌を首から抜いて口の中に移した茶々が穴の開いた首を龍生に差し出した。
龍生が唾を飲み込んだ。
「いい?」
「ん」
萌を口に含んでいる茶々は、声に出さずに返事をした。
龍生が茶々の首に恐る恐る手を伸ばす。
茶々の首に開いている穴の入り口にそっと指を添わせた。
「んん」
茶々が鼻からくぐもった吐息を漏らした。
思ったより気持ちが良かったからだ。
(ちょっとヤバい。これで指を入れられたら絶対声が出ちゃう)
茶々は、焦った。
だが、やめてとは言わなかった。
やめて欲しくなかったからだ。
龍生と身体を繋ぎたい。
その欲望のほうがずっと強かった。
(もう声が出てもいい。早く入れて)
茶々が焦じれた。
龍生が指に力を入れたのがわかった。
(来るっ)
そう思っただけで茶々の股間からはねっとりとした熱い泉が湧いた。
「ああ……」
龍生の指が首の穴に入った。
茶々は、声を我慢することができなくなり、切なく悶えた。
龍生の指が震えている。
その振動が茶々の快感を増幅させる。
「もっと入れて……」
茶々が指を入れている龍生の手に自分の手を添えて、より深くへと誘った。
「大丈夫なの?」
龍生が心配した。
「指一本なら全部入るから……あん……」
茶々は息も絶え絶えになっている。
「分かった」
龍生が指を首の奥へと進めた。
「ああ、あひっ……」
茶々が身体を震わせた。
「もう、抜くよ」
「ん」
龍生がゆっくりと指を抜いた。
「ひゃん! んあーっ!」
指を抜かれた摩擦の快感に耐えきれなくなった茶々が絶頂に達した。
身体を大きく痙攣させて苦しそうに息をしている。
もう龍生に見られていることなど気にする余裕はなかった。
「あ……も、え……」
茶々が大きく口を開けて悶えた拍子に、口の中から萌を吐き出してしまった。
萌が屋上の床の上でぐにょぐにょ動いている。
「ご、め……ん」
茶々が萌を拾い上げようとするが、身体が痙攣してうまくつかめない。
そのときだった。
龍生がすっと萌を拾い上げ、自分の口に入れた。
「萌さんは乾燥が苦手なんだよね。こうすれば大丈夫でしょ」
萌を口に入れた龍生が、もごもごと言った。
萌は、男性の睾丸以外に寄生したことがなかった。
口の中に入れられた自分がどうなるか知らない。
〝宿主殿〟
茶々を呼んでみたが茶々の個体を離れてしまったので声が届かなかった。
茶々の意識も読めない。
〝……〟
萌は、自分がどうなるのか、じっと待つより他になかった。
〝……〟
1分くらいが経過した。
なにも変わらない。
分かったことは、龍生の唾液がおいしいということだけ。
自分が成虫に変化する兆候もまったくない。
「あ……龍生……萌は?」
ようやく我を取り戻した茶々が起き上がって龍生に訊いた。
「ん、ん」
龍生が自分の口を指差した。
「え? お前、萌が成虫になっちゃうよ」
茶々の心配はもっともだった。
「だいひょふらよ」
萌を口に含んだまま龍生が言った。
そして、口から萌を摘み出した。
「はい、あーん」
「あーん」
茶々は、龍生に言われるがまま口を開いてしまった。
「はい、おうちにお帰り」
龍生は萌を茶々の口に戻した。
茶々は、喉を鳴らして萌を飲み込んだ。
「龍生、ありがとな。だけど、お前、萌を口に入れてなんともなかったのか?」
茶々がお腹をさすりながら言った。
「うん、なんともなかったね。萌さんが成虫になることもなかったよ」
龍生はニコニコしている。
〝宿主殿〟
「何? あ、さっきはごめんなさい。落っことしちゃって」
〝いいのよ。龍生君に助けられたわ。それより、すごい経験をさせてもらったわ。私、男の人の睾丸以外に寄生したことがなかったの。さっき、初めて口に入れてもらったんだけど、全然身体に変化がなかったのよ。それだけじゃなくて、龍生君の唾液って、すごくおいしいわよ〟
「そうだったの。それじゃあ、あれね。これからは、龍生に萌の一時預かりをお願いできるわね」
〝そうね、たまにはいいかも〟
そう言って二人は笑った。
「ちゃーちゃん」
「なんだよ」
「また、指入れていい?」
龍生が人差し指を立てて首を傾げた。
「な、お前、そんなこと訊くなよ、ごじゃっぺ」
茶々が頬を紅く染めて俯いた。
「お願いします……」
そう言った茶々には、いつもの無愛想な態度は欠片もなかった。