女子高生准査ヌルデバと萌える寄生虫の共生捜査本部 作:ぬるでば
「萌、いよいよダメかもしれないわね」
〝そのようね〟
「楽しかったわ」
〝私も〟
「最後に思い切り強烈な一発をちょうだい。怖くておしっこちびりそうなのよ。理性が吹き飛ぶくらいにして欲しいの」
〝いいわ、いくわよ〟
「きて」
茶々は、萌から最後の媚液をもらった。
一瞬、茶々の身体が跳ねるように震えた。
意識がなくなりそうになるほど気持ちよかった。
いっそこのまま意識を失ってしまえば怖さも感じないまま死ねる。
そう思った。
茶々は、かろうじて立っている状態だった。
ジャキン
茶々の左後ろの方で金属的な音が響いた。
その音とともに爆弾男の顔が一瞬引きつった。
茶々には、その音は聞き覚えがあった。
自動式拳銃の遊底スライドを引く音だ。
この中に誰か拳銃を持っている人がいる。
そして、今、この瞬間に遊底を引いて薬室に弾を装填した。
誰だ?
茶々は快感で遠のきそうになった意識を必死にたぐって戻した。
後ろの群衆の中から自分の方に向かってゆっくりと歩み寄る足音が聞こえた。
「撃たれる」
茶々は覚悟を決めた。
「ちゃーちゃん、俺だよ」
その足音が茶々の左隣で止まり、聞き覚えのある声で呼ばれた。
茶々がちらっと声の主を見ると、まぎれもない龍生だった。
「お前、下に降りたんじゃねえのか」
「ごめんね。俺も准査だったんだ。だから俺も逃げられないんだ」
「そういう衝撃の告白を、この場面でするのやめてもらっていいかな」
「ごめん、ごめん」
龍生は、県警から貸与されたシグ・ザウエルを両手で把持して爆弾男に照準を合わせている。
龍生の学生服は、前ボタンが外されていた。
学生服の中、左脇にホルスターが吊されている。
「学ランの理由はこれか」
茶々が横目で龍生を見ながら訊いた。
「そういうこと」
龍生は、爆弾男から目を離さずに答えた。
遊底を引いたシグは撃鉄が起きている。
龍生は引き金に指をかけていつでも激発できる体勢をとっている。
本気で撃つつもりだ。
「さっき県警の応援を呼んだ。応援が来るまで時間稼ぎをしたい」
茶々が龍生に言った。
「じゃあ、あいつに演説をぶたせよう」
「どうやって」
「ニクシロンについて語らせればいいんだよ」
「そうか、分かった」
「萌、媚液止めて。悶えながら犯人と対峙じゃかっこ悪いもんね」
〝了解〟
「撃てるもんなら撃ってみな。そのときは、この起爆装置が働いてお前らみんな天国だ」
爆弾男がふてぶてしい態度で言い放った。
「おい、ちょっと話を聞かせろ」
茶々が爆弾男に話しかけた。
「なんだよ」
爆弾男は、頭上に掲げた起爆装置を下ろした。
下ろした手をジャケットのポケットに突っ込んだ。
起爆装置は持ったままだ。
「お前、ニクシロンの仇をうちたいんじゃねえのかよ」
この男はニクシロンの残党だ。
ニクシロンのことを向ければ、いくらでもしゃべりたいことがあるはずだ。
「だからさっきも言っただろ。仇なんて小さいと」
「じゃあ、何が目的なんだよ」
「これから死ぬのにそんなこと聞いてどうするんだ?」
「訳わかんねえまま死にたくねえだろ。だから教えてくれよ」
茶々は、男を興奮させないように下手に出た。
「そうか。じゃあ教えてやる」
男が話し始めた。
「ニクシロン様は、ただのクラッカーなんかじゃない。もっと大きな目的をお持ちだった。いいか、今、世界を牛耳っているのは大資本とそれに結託した政治だ。その仕組みを実現可能にしたのがインターネットだ」
「お前ら愚民は、自由を謳歌しているつもりかもしれないが、所詮大資本の手のひらの上で踊らされているに過ぎない。お前たちは自由なのではない。管理されることに慣らされ、それを自由と思うように洗脳されているのだ」
「そして最も重要なことは、本当の自由などというものはこの世に存在しない。幻想ということだ。真に自由な状態は弱肉強食の暗黒の世。そんな世界にお前たちは住みたいか? 否、住みたくないはずだ」
「だからニクシロン様は、お前たちを管理という軛くびきから解放させようとした。ニクシロン様という絶対的な支配者の力により、お前たちを大資本による管理と洗脳から解き放ち、理想の自由社会を築くことを目指したのだ」
「いいか、もう一度言う。真の自由など存在しない。絶対的な存在による絶対的な支配の下でのみ自由は存在し得るのだ。そのためにニクシロン様は、絶対的な神となるべきお人だったのだ」
「しかし、ニクシロン様の全人類的な大戦略が理解できない大資本と政治は、警察力を使って、インターネット破壊という些末な戦術を取り上げてニクシロン様を弾圧した」
「だから、我々ニクシロン様の意志を継ぐ者は、その目的を妨害する大資本を打倒しなければならない。そして、大資本に踊らされ金銭を消費し、大資本に奉仕する家畜となっているお前たち愚民を粛正しなければならないのだ」
「ニクシロン様は神なのだ。神となって万物を、そして人類を支配する。それが理想郷創造への道程なのだ」
案の定、男の話はとどまるところを知らない。
「神は人間を支配などしません!!」
茶々が次の言葉を発しようとしたとき、突然右後ろの群衆の中から女性の怒鳴り声が聞こえた。
茶々が驚いて声のした方を見た。
声の主は、真っ赤な髪と黒ずくめの服を着た、一見してパンクと分かる女性だった。
「電車の中で一緒だった子か」
茶々が思い出した。
その女性は泣いているようだった。
「神を……神を……神を人間の支配に使わないでください!!」
ものすごい怒声が展望室中に響き渡った。
声というより雷鳴のような迫力があった。
女性の髪は逆立っているように見えた。
その女性は、隣にいる連れの女性に一言、笑顔で話しかけた。
「うるさいお嬢さんだな。もう演説は終わりだ」
爆弾男がポケットの中の手に力を入れた。
「お兄さん、10時の方向、外に敵! 撃ってください!」
さっきの女性が叫んだ。
その言葉に龍生が反応した。
龍生は、自分から見て10時の方向、爆弾男の右斜め後ろのガラスに向かって拳銃を発砲した。
ぱん!
乾いた爆発音が響き、龍生のシグがブローバックして排莢はいきょうと次弾の装填そうてんを同時に行った。
それに続いて狙った先のガラスが音を立てて割れた。
ガラスが割れるのとタイミングを合わせるように、パンク少女が爆弾男めがけてダッシュした。
低い体勢で爆弾男の腰めがけてタックルした。
タックルを受けた爆弾男は、驚愕したような表情を浮かべた。
パンク少女は、タックルのまま割れた窓に向かって走り続ける。
がしゃん!
パンク少女と爆弾男がガラスを突き破って展望室の外に飛び出した。
茶々と龍生はことの成り行きを唖然と見守るしかなかった。
窓の外に飛び出した二人の姿が展望室から見えなくなった。
その直後、展望室の下の方から腹に響くような大音響とともに爆発が起きた。
爆風で展望室が大きく揺れた。
窓ガラスも何枚か割れて怪我人が出た。
割れなかったガラスには、血液や肉片が飛び散っていた。
下で起きた爆発の爆風で吹き上げられてきたのだろう。
展望室内は絶叫と怒号で埋め尽くされた。
「アマネさん!」
パンク少女の連れの女性が割れた窓の際に走り寄った。
窓枠につかまって地上に向かい、パンク少女の名前を叫び続けた。
「二人、死んじまったのか」
茶々は、へなへなと座り込んだ。
「あの爆発じゃあ生きてないだろうね。爆発で死ななくても地上55メートルから落ちたら無理だと思う」
龍生は、シグの引き金から指を離すとデコッキングレバーで撃鉄を落とし、ホルスターにしまいながらつぶやいた。
上空からヘリコプターの音が聞こえた。
ヘリコプターの音は展望室の上で動かなくなった。
ホバリングしているようだった。
展望室の窓の外に上空から2本のロープが垂れてきた。
そのロープをつたって全身黒ずくめで背中に自動小銃を背負った男が2人、展望室内に飛び込んできた。
男たちの胸には「POLICE」と書かれている。
県警の特殊部隊が到着したようだ。
その直後、マリンタワーの非常階段からも特殊部隊が展望室になだれ込んできた。
「アマネさん!」
パンク少女の連れの女性が叫びながら特殊部隊が開けた非常階段の入り口に向かって走り出した。
女性は、重なりあいうめき声を上げている人の山を踏み越えて非常階段で下に降りていった。
「行こう」
龍生が茶々の腕を肩に回して担ぐように立ち上がらせた。