女子高生准査ヌルデバと萌える寄生虫の共生捜査本部 作:ぬるでば
「相談したいことがあります。学校の帰り道で拾ってもらえませんか」
茶々は県警の占部に手紙を書いた。
なぜ手紙なのか。
電話やメールなどのインターネットを経由した連絡には盗聴の可能性があり、盗聴の主に知られたくない連絡だったからだ。
アナログの方が勝まさっている場合もある。
茶々が手紙を投函した3日後、占部からの返信が届いた。
「次の火曜日の放課後、迎えに行く」
占部からの返信はごく短いものだった。
占部は、茶々と龍生が定期的に面接している県警の警察官で、県警と非公然部隊の連絡役として活動している。
約束の火曜日。
学校の帰り道に占部が乗ったごくありふれた白いミニバンが停まっていた。
「走らないでここで話をさせてください」
龍生と車の後部座席に乗り込んだ茶々が開口一番占部に伝えた。
「それじゃあ、その日の15時に」
占部と打ち合わせをした茶々と龍生がミニバンを降りた。
占部は、軽く手を上げて走り去った。
「まさかそういうことだったとはなあ」
占部と別れた後、龍生が落胆を隠せない様子で独り言をつぶやいた。
「さてと、お前のおじさんだかなんだかに医者がいたよな」
「うん、おじさんが外科医やってる」
「ここ、頼めるか」
茶々が首の後ろを手でさすった。
「聞いてみる」
「頼むわ」
翌日。
「やってくれるって」
学校で会った龍生が問い合わせ結果を教えてくれた。
「そうか、ありがとな」
茶々は、龍生に連れられて市内で開業している龍生のおじさんを訪ねた。
「首の後ろにICチップがあって、そこからリード線が脊髄に入ってます。これを取って欲しいんです」
茶々が用件を伝えた。
「そうですか。簡単にできますから、すぐやりましょう」
龍生のおじさんは、快く応じてくれた。
ICチップの摘出手術は、あっという間に終わった。
「傷口の消毒に1回くらい来てください。それだけで大丈夫です」
「ありがとうございました」
茶々は龍生と二人で頭を下げた。
取り出したICチップは、リュックサックに入れて持ち歩くことにした。
「龍生、お前、あたしの口調を真似できるな」
「任せて。ちゃーちゃんよりうまくできると思うよ」
龍生が胸を張った。
「いや、それおかしいから」
茶々が笑った。
「幼稚園のときからずっと一緒だもん。真似するんじゃなくて自然に言葉が出るよ」
「そうか。じゃあ頼むぜ」
「ああ、任せろ」
「まだいいんだよ」
「そっか」
二人で笑い合った。
占部と約束をした日の朝。
龍生が茶々の部屋に来た。
茶々は、襟が伸びきったTシャツ一枚で寝ていた。
龍生は、一言も発しないで茶々の乳首をひねり上げた。
「ぎゃー!」
茶々が悲鳴を上げた。
「お目覚めでいらっしゃいますか?」
龍生がとぼけた口調で応じた。
「龍ちゃん、ひどいよ。寝てるところを襲うなんて」
茶々がふにゃふにゃした顔で怒った。
「こっちも」
茶々は、怒りながらも反対側の乳首を差し出した。
「はいはい」
龍生が反対側の乳首のピアスを引っ張った。
「痛っ」
茶々が痛がりながら喜んだ。
「ね、飲ませて」
茶々がベッドから這い出て龍生の股間にすがりついた。
「朝ご飯?」
龍生が笑いながらズボンを脱いだ。
「ご飯にはならないわよ」
茶々が龍生を見上げた。
「よっと」
茶々が龍生のペニスに被っている皮を剥いた。
露出した亀頭の匂いを嗅ぐ。
「臭くていい匂い」
茶々がうっとりした。
「あーん」
亀頭を口に含んで匂いのもとを舐め取る。
「あ、ちゃーちゃん、それ弱い、ダメ……」
龍生が腰を引くと同時に茶々の頭を乱暴に押さえつけた。
「あん」
茶々が甘い声を上げてペニスを喉に迎え入れた。
喉の奥深くに龍生の精液を受け止めた。
自然と精液が胃に落ちる。
尿道に残った精液を吸い出した茶々は、舌なめずりをした。
「まずい」
満面の笑みで味の報告をする。
「龍ちゃんのまずい精液を飲まされるの大好き」
茶々が龍生にキスをした。
「うー! うー!」
龍生が慌てた。
茶々の舌とともに精液の匂いと味が口に入ってきた。
茶々が唇を離した。
「こんなにまずいものとは思わなかった」
龍生が青い顔をしている。
「まずいでしょ。飲んであげてる私に感謝しなさい」
「いつも飲んでくれてありがとう」
龍生は、素直に感服していた。
「1回抜いたから落ち着いたでしょ」
茶々が龍生のペニスをつついた。
「そうだね。ありがとう」
龍生がパンツを履きながら礼を言った。
〝宿主殿〟
「あら、萌、おはよう」
〝いよいよ今日ね〟
「うん、緊張する」
〝大丈夫、宿主殿ならやり遂げるわ〟
「ありがとう。龍ちゃんもいてくれるから心強いよ」
茶々は緊張の面持ちでパジャマから私服に着替えた。
右太ももにワルサーPPKを収めたレッグホルスターを着ける。
牛乳瓶の底のようなメガネからコンタクトレンズに替える。
今日は、一段と目つきに凶悪さがある。
「龍ちゃん、留守番頼んだぞ」
そう言って龍生にICチップとスマホを手渡した。
「あと、これが最後のキスになるかもしれねえから、あたしの味、よーく覚えておけ」
茶々が龍生に抱きついてキスをねだった。
「行ってらっしゃい。こっちは任せて。大丈夫、ちゃーちゃんは必ず帰ってくる」
龍生が茶々をきつく抱きしめてキスをした。
長い、長いキスだった。
二人の唇が離れたとき、茶々の頬に一筋の涙が伝った。
「じゃあな」
茶々は、龍生に背中を向け、片手を上げて部屋を出て行った。
廊下の足音が離れていく。
「ママ、ちょっと出かけてくるね。龍ちゃんが部屋にいるけど、ママ、食っちゃダメよ」
茶々がキッチンで片付けをしていた母親に声をかけた。
「あら、一人で出かけるの? 気をつけて行ってらっしゃい。龍生君を食べたりしないわよ。でも、龍生君から迫られたらどうしようかな……」
茶々の母親が思わせぶりに笑った。
「そうしたらしょうがないけど、帰ったら奴をぶっ殺すわ」
茶々が明るく笑いながら返した。
玄関で茶々は大きく息を吸い込んだ。
この家の匂いを記憶に刻み込むために。
茶々は、自転車で竜ヶ崎駅に向かった。
竜ヶ崎駅で関東鉄道竜ヶ崎線に乗って終点の佐貫駅で降りる。
終点といっても、途中に一駅しかないからあっという間だ。
佐貫駅で常磐線の下り列車に乗り換えて水戸に向かった。
以前、大洗に行くとき、同じ列車に乗り合わせた女性二人のことを思い出した。
あの二人、いや一人は爆死したはずだから、残された女性はどうなったのだろう。
少し気になったが確かめるすべもない。
茶々は、目を閉じた。
そして、今日これからやることを頭の中でシミュレーションした。
〝それで大丈夫〟
茶々のシミュレーションを横取りして確認した萌が太鼓判を押した。
「そう? 萌にそう言ってもらえると安心する」
茶々が笑顔を見せた。
列車は、土浦、石岡、友部を経由して水戸駅に到着した。
「んー」
茶々は大きく背伸びをした。
「いま何時かな」
茶々は、腕時計を確認した。
時計の針は、午後0時30分を指していた。
「ふう」
緊張を解きほぐすため深呼吸をした。
茶々は、水戸駅南口の改札を出た。
「初めて降りたとこは全然分かんねえな」
溜息交じりに独り言をつぶやいた。
茶々は、いつものミュールをかっぽんかっぽん鳴らしながら駅前に掲示されている案内板に歩み寄った。
「たしかこのバスに乗るんだな」
目的のバス乗り場を見つけた。
「うわっ、本数少な!」
茶々が目を丸くして驚いた。
1時間に一台しか運行されていなかった。
毎時0分発ということだったので、次は午後1時の発車だ。
「まあ待つか。まだ時間あるし」
茶々は、バス停の前でなにをするでもなく人と車の流れを追って時間をつぶした。
スマホは自宅に置いてきた。
忘れてきたのではない、わざと置いてきたのだ。
「あ、やっと来たか」
目的のバスが来た。
茶々は、運賃箱に360円を入れてバスに乗り込んだ。
日曜の午後、この路線に乗る客はほとんどいない。
茶々の貸し切りになった。
バスが発車して駅から遠ざかっていく。
茶々は、窓の外の景色を物珍しそうに眺めている。
途中、渋滞もなく15分ほどでバスは終点に到着した。
「県庁前」
終点のバス停にはそう書かれていた。
「お世話になりました」
バスの運転手にお礼を言ってステップを降りる。
「ヌルデバ、乗れ」
バスを降りたらすぐに声をかけられた。
占部がバス停で待っていた。
占部は、バス停のすぐそばに停まっている黒塗りのセダンを顎で示した。
茶々は、占部に続いてセダンの後部座席に乗り込んだ。
セダンは滑らかに走り出すと県庁の地下駐車場に入った。
「ICチップとスマホは置いてきてるな」
占部が確認した。
「ああ、大丈夫だ」
茶々は、リュックサックの中を確認して答えた。
「突入は午後3時ちょうどだ。それまではここで待機する。下手に庁舎内を歩き回らない方がいい」
占部が指示した。
「分かった。ちょっとトイレ行きたいんだけど」
茶々は、緊張が高まり尿意を催した。
「一旦外に出る」
占部は県庁の駐車場を出ると、県庁から少し離れたコンビに車を停めた。
「こんなとこで済まないな」
「いや、全然構わねえよ」
茶々は、コンビニのトイレでさっさと用を済ませ、自分と占部のコーヒーを買った。
「お待たせしました。占部さん、はい」
後部座席から手を伸ばしてコーヒーを占部に手渡した。
「お、ありがとう」
占部が笑顔でコーヒーを受け取り、プルタブを引いた。
「なあヌルデバ、お前、よく気がついたな」
コーヒーを一口飲んだ占部が茶々に問いかけた。
「気がついたっていうか、論理的にそうなるんじゃねえかって思ったんだ」
茶々もコーヒーを飲みながら淡々と答えた。
「いや、たいしたもんだよ」
占部は感心した。
「あたしが気がついたんじゃねえけどな」
「龍生か?」
「いや、そうじゃない」
「他に秘密を知っている人間がいるのか?」
占部が警戒した。
茶々が准査の秘密を他の人間に漏らしていたとしたら重大なインシデントにつながる。
「人間じゃない。寄生虫だ。あたしの身体の中には寄生虫がいる。それが言葉を話せてあたしと会話ができる。で、その寄生虫がやたら論理の組み立てに敏感でな、矛盾にすぐ気がついてくれるんだ」
「おいおい、ずいぶん大胆な作り話だな」
占部が苦笑した。
「作り話じゃねえよ、なあ萌」
〝失礼しちゃうわね〟
萌は、半分笑っていた。
「ほら、占部さん、見ろよ」
茶々は、首の皮を破って顔を出している萌を占部が見やすいように上半身を前に乗り出した。
「うわっ、本当に虫だ」
占部が驚いた。
「な、嘘じゃねえだろ」
「嘘じゃないな」
占部は額に汗を浮かべている。
「おっと、そろそろ戻ろうか」
占部が気を取り直して車を発進させた。
占部と茶々を乗せたセダンは、再び県庁の地下駐車場に入った。
「14時か。あと1時間だな」
占部が車の時計をちらっと見た。
「そうですね」
茶々は、暇を持て余している。
占部は車のミラーや周囲の状況に目を光らせている。
午後2時30分。
スーツを着た五十代くらいの男が車に近づいてきた。
その男は占部とアイコンタクトを取ると、茶々の隣の座席に乗り込んできた。
「監察官室長の富永です」
スーツの男が茶々に挨拶をした。
「あ、白川茶々です」
茶々が挨拶を返した。
「ヌルデバさんですよね」
監察官室長は、笑顔で握手を求めた。
「室長、50分になったら車を降りて現場に向かいます」
占部が監察官室長に告げた。
「分かりました。部隊の配置は終わっているんですね」
監察官室長が腕時計を確認した。
「はい、すでに秘匿配置が完了しています」
占部が右耳を指で押さえながら答えた。
占部の右耳には、イヤホンが着けられていた。
いつ着けたのか、茶々はまったく気づかなかった。
「龍ちゃん、頼んだよ」
茶々が膝の上で手を組み、小さな声でつぶやいた。
膝の上の手が震えていた。