女子高生准査ヌルデバと萌える寄生虫の共生捜査本部 作:ぬるでば
夏休みが終わり新学期が始まった。
9月とはいえ、まだまだ残暑が厳しい。
茶々が通う高校は、市内を見下ろす高台の上に建つ。
生徒は、毎日長い階段を登って登校している。
自転車通学の生徒は、つづら折りの坂道を懸命に漕いで登らなければならない。
「ちーっす」
白ワイシャツに黒いジャンパースカートの制服を着た茶々は、久しぶりに会った同級生と挨拶をして回った。
プリーツの入ったジャンパースカートの下には、レッグホルスターに収めたワルサーPPKを隠している。
「あれっ、生理早く来ちゃった?」
茶々は、自分の下腹部、具体的には膣の中で何かが動いたような気がした。
生理のときの不快感とは違う、初めての感覚だった。
自分が把握している周期だと、次の生理までまだ1週間くらいある。
茶々は、予備のナプキンを持ってトイレに駆け込んだ。
「きれいなパンツじゃん」
トイレでショーツを下ろして確認したが、ショーツに血は着いていなかった。
下腹部の違和感は、まだ続いている。
その違和感は、不快感からムズムズするような、かすかな快感に変わりつつあった。
「なんなんだよ、これ」
茶々は、混乱した。
自分で得ようとしていないのに身体の中から勝手に快感が涌き出てくるという状態は、快感どころか不安でしかない。
しかも、膣の中で何物かが蠢うごめいているのだ。
正常な精神状態を保てるはずがない。
「ひぃ!」
茶々が悲鳴を上げた。
股間から透明な粘液が糸を引いてショーツのクロッチに滴り落ちた。
「なんだよこれ!」
茶々は、恐怖に震え涙目になっていた。
「これって、映画だったら間違いなくあたしのまんこからエイリアンかなんかが出てくるやつだよね」
脚が震えて立っていられなくなった茶々は、便座に座り股間を覗き込んだ。
〝ちーっす〟
自分ではない誰かの声が聞こえた。
茶々がトイレに入ったときは、他に誰もいなかった。
茶々の後から誰かが入ってきた気配もない。
茶々の勘違いでなければ、いまトイレには自分しかいないはずで、自分以外の声が聞こえるのはおかしい。
茶々は、恐る恐る個室のドアを少し開いて外の様子を見た。
誰もいない。
〝おい、どこ見てんだよ。ここだよ、ここ〟
また声が聞こえた。
「なんなのよ、もーっ!」
茶々は半狂乱になり、頭を抱えて激しく首を振った。
その間にも身体の中から涌き出る快感は増幅を続けた。
茶々は、狂ったように足を踏み鳴らして泣きわめいた。
〝まあ落ち着けよ〟
「お前誰だよ!? 落ち着けって、落ち着けるわけねえだろ!」
〝そりゃそうだな。すまんすまん〟
「ん?」
茶々が顔を上げた。
「お前、あたしと話せんのけ?」
茶々は、姿のない声の主に話しかけてみた。
〝話せるよ。だからそんなに怖がるなって〟
「お前、誰だ?」
〝あたしは、寄生虫。宿主殿の中にいる〟
「もしかして、まんこの中か? この粘液もお前の?」
〝あたしの居場所は正解。でも、この粘液は宿主殿のだよ〟
「話ができる寄生虫か。なんか面白いな」
違和感の正体が分かれば恐怖の対象ではなくなる。
茶々は、落ち着きを取り戻した。
「だけどよ、この粘液はやっぱりお前のだろ? あたしが粘液を出す理由がねえもん」
〝宿主殿だってば〟
「ぢぐぬぐうそつくんでねえぞ。あたしオナニーしてもこんなに濡れねえもん」
〝あたしが出させた。さっきから宿主殿のまんこ疼いてんだろ? それで大量分泌したってわけ〟
「お前が犯人か!」
茶々は、お腹の中の自称寄生虫に怒鳴りつけた。
「やめろよな。びっくりしたじゃん。出すなら出すって予告してからにしろよ。ていうか、出しすぎだし。第一、なんであたしの愛液を出す必要があるんだよ?」
〝予告すればいいんだな。わかった〟
「いや、そういうことを言いたかったわけじゃ……まあ、でも教えてくれるならいいよ、出しても。あたしも気持ちいいし」
〝宿主殿は、順応性めっちゃ高い人だな。普通は発狂するぞ〟
「まあな、こうみえてもドMだからさ」
〝そういうことか〟
「でさ、なんで愛液出させるわけ?」
〝あたしの食べ物だから〟
「愛液が食べ物? お前、変態か?」
〝慣れたとたん口が悪いな〟
「いや、お前だって最初っからタメ口じゃねえか」
〝お互い様だろ。あたしはヒトの体液が栄養源なの。だから愛液だけじゃなくて、身体から分泌される体液ならなんでも食べる〟
「体液じゃないと生きられないのか?」
〝残念ながらそういう生き物だ〟
「そうなんだ。なんだか気の毒だな」
〝寄生虫だからな。そういうもんだよ〟
「お前、どんな姿してんの?」
〝見たいか?〟
「せっかく寄生されたんだから会いたいよ」
〝わかった〟
茶々は、下腹部の中で蠢いていた寄生虫の動きが大きくなったのを感じた。
そして、その動きは膣の奥から外に向かっているようだった。
正体のわからない寄生虫が体の中を這っているという事実をリアルに体感している。
早く会いたい気持ちと吐き気を催す嫌悪感が混ざり合って茶々の精神をかき混ぜた。
お腹の中の塊がもうすぐ外に出そうなところで、下腹部にめりめりと強引な力が加えられた感触があった。
「なんかやな感じ」
茶々は、嫌な予感がした。
〝よっ〟
声と同時にお腹の中の塊が膣からぬるりと出てくるのがわかった。
茶々は、そのぬめる快感と膣を異物が通る不快感に鳥肌が立った。
茶々が恐る恐る股間を覗き込むと、そこには10センチメートルほどの白いナマコのような生き物が膣から顔を出し、粘液の糸を引いてぐにょぐにょと動きながら垂れ下がっていた。
生理的に吐き気を催すグロテスクな絵だった。
「おえっ、気持ちわりい……あ、ごめん、お前も生き物だったな。気持ち悪いなんて言って悪かった」
〝宿主殿は、思っていたよりいい奴だな〟
「あたしのこと、どう思ってたんだよ」
〝知らねえよ。寄生してまだ日が浅いんだから〟
「ならいい加減なこと言ってんじゃねえよ。まったく」
茶々と寄生虫は、初対面にもかかわらず、すっかり打ち解けた。
ここで茶々は、さっきの嫌な予感を確かめようと思った。
「なあ、お前どうやって膣から外に出てきた? あたし処女だぞ」
〝処女膜を拡げて出てきた〟
「あぁ……」
茶々は天を仰いだ。
「やっぱりな。あたしの処女は寄生虫に奪われちまったってわけか。あーあ、初体験は人間がよかったなあ」
〝なんか、ごめん〟
寄生虫がしょげた。
「いいよいいよ、気にすんなって」
「ところでさ、処女膜破られたはずなのに全然痛くなかったし、血も出なかったぞ」
〝あたしが分泌する粘液は、止血と麻酔の作用があるからだよ。あ、今のうちに言っとくけど、あたしは宿主殿の身体の中を自由に動き回れるからそうなっても驚くな〟
「わかった。害はないの?」
〝あたしたちは宿主に直接害を与えることはない。寄生虫の中には宿主を殺しちまうアホがいるけど、あたしたちの種は共生をモットーとする良心的な寄生虫なんだ〟
寄生虫が胸を張った(ように感じた)。
「良心的な寄生虫ねえ。初めて聞いたわ」
茶々が苦笑した。
〝ところで宿主殿〟
「なんだ」
〝授業、始まってるぞ〟
「うわっ、やべえ! おい、中に戻れ!」
〝よしきた〟
寄生虫がにゅるっと膣の中に潜り込んだ。
「ひゃっ!」
茶々が股間を手で押さえて震えた。
茶々は、愛液で汚れたショーツのクロッチをトイレットペーパーで拭き、ナプキンを貼り付けると慌てて教室に戻っていった。
「寄生虫に処女を奪われちゃった……」
「寄生虫に処女を……」
「寄生虫に……」
授業中、茶々は寄生虫に処女を奪われたことばかり考えていた。
〝おい、ちゃんと授業聞けよ〟
授業中、寄生虫の声が聞こえた。
茶々は驚いて周りを見回した。
他の人に寄生虫の声を聞かれたら大変なことになる。
しかし、教室内はいつもどおりの授業風景だった。
〝こらっ、きょろきょろすんな〟
また寄生虫の声が聞こえた。
「おかしいなあ、誰も声に反応してない」
茶々が首をひねった。
〝心配すんな。あたしの声は宿主殿にしか聞こえてない〟
「ちょっと待て。あたしは今声を出してないぞ。なんであたしが思ったことが分かるんだ?」
茶々は頭の中が混乱した。
〝宿主殿は、案外頭が悪いな。宿主殿とあたしは意識の中で会話してるんんだ。声は必要ない〟
「すっげー! テレパシーかよ!」
茶々が興奮して鼻の穴を拡げた。
〝残念でした。テレパシーじゃねえよ〟
「違うの?」
〝違うね。宿主殿とあたしは、宿主殿の脳の中で直接つながってる〟
「へ? どういうこと? 意味わかんないんだけど」
〝わかんねえよな普通〟
「わかるわけねえよ普通」
〝話せば長くなるぜ〟
「いいよ。どうせ今日はお前に処女を奪われたことでドキドキしちゃって授業どころじゃねえから」
〝そうか〟
〝宿主殿は、あたしの終宿主じゃない。中間宿主なんだ〟
〝中間宿主って分かるか?〟
「わかんない。教えて」
〝宿主殿は素直だな〟
「えへへ、あざす」
〝寄生虫は、最終的に寄生する生物が決まっている。あたしの場合はヒトのオス、つまり男だ。寄生虫は、終宿主に寄生すると成虫になる。でも、その前に他の生物に寄生することがある。それが中間宿主だ。あたしの中間宿主は宿主殿、お前だ。宿主殿は、ヒトのメスだな。あたしの中間宿主は女っていうわけだ〟
〝中間宿主に寄生している間、寄生虫は成虫になれない。幼生のまま生活する。だから、あたしは幼生、かわいい妖精ってとこだ〟
「グロテスクな寄生虫がよく言うよ。ぶっ飛ばすぞ」
〝できるもんならやってみな〟
「今度顔を出したらぶん殴ってやる」
〝あー、怖い怖い〟
〝それでだ。なんであたしが宿主殿と脳内で会話できるかっていう話だったな。あたしは幼生のとき、一度だけ無性生殖ができる。簡単に言えば一回だけ分裂して2つの個体になれるっていうわけだ〟
〝そのうちのひとつが脳に移動する。脳に移動した個体は、脳内の言語野に鉤かぎでしがみついて一体化する。その個体を通じて宿主殿とあたしが会話をしてる〟
「あたしの頭の中にもう一匹のお前がいるんだ」
〝そういうことだ〟
「いま、あたしは頭の中で考えてるだけでお前と会話できてるよな。言葉に出さなくても会話ができるっていうことは、あたしが考えてることは全部お前に筒抜けってことか?」
〝もちろん。宿主殿が考えていることで言語化されているものは全部分かる〟
「えー、やだなー、エッチなこととか考えてるのもばればれじゃんよ」
〝何を考えるか知らねえけど、こっちが恥ずかしくなるようなことはやめてもらいたいね〟
「そっちが恥ずかしくなるようなことを覗き見されるこっちはもっと恥ずかしいっつーの」
〝二人で恥ずかしくなろうぜ。はっはっは〟
「うぅ……」
茶々は、寄生虫と会話しながら授業を聞けるようになっていた。
「ところでさ、お前、名前なんていうんだ?」
茶々は、寄生虫をずっと「お前」と呼んでいたが、寄生虫なら何か名前があるだろうと思った。
〝あたしの名前?シムオフンニ。和名だと萌色孤虫もえいろこちゅうっていわれてる〟
「『もえいろこちゅう』ね。グロテスクな見た目なのに名前はかわいいんだな。
〝グロテスク言うなし!〟
シムオフンニが文句を言った。
「萌色孤虫だから『もえ』でいいな。それにしても萌は口が悪いな」
〝そりゃそうだろ。宿主殿の言語野から言葉を取り込んでるんだから、宿主殿に口調が似てて当然だろ〟
「あー、そういうことだったのか。納得できた」
〝だから、宿主殿がきれいな言葉を使えばあたしもそうなる〟
「萌にきれいな言葉で話しかけて欲しかったら、あたしもそうすればいいってことだな?」
〝そういうことだ。あたしは宿主殿を写す鏡みたいなもんさ〟
「それでさ、今さらだけど萌の性別は?」
〝メスだ。あたしたちはメスしかいない単為生殖動物だ〟
「やっぱりメスなんだ。なんか嬉しいな」
〝メスに処女を奪われたことがそんなに嬉しいのか?〟
「いや、そうじゃねえよ。なんとなくだよ、なんとなく」
〝ふーん、宿主殿の言語化された思考は全部分かるんだけどな〟
「分かってても言わないのが大人の心遣いってもんだろ。バカ!」
〝いやあ、あたしは寄生虫、しかも幼生だからヒトの大人の心遣いってもんがわかんねえんだよなあ。いひひ〟
茶々は、萌に自分の思考を全部覗き見されていることが分かり、軽い不安と興奮を覚えた。
「なあ萌」
〝なんだ〟
「お前さあ、なんかとんでもない能力ってないの? ラノベの異世界転生ものとかでよくあるじゃん。普通の女の子が突然すごい能力を身に着けちゃう、みたいな」
〝幼生の寄生虫にそこまで求めるなよ〟
「そっか。しゃべれるだけでもすごいもんな」
〝分かればいい〟
萌とのおしゃべりが楽しく、授業時間はあっという間に過ぎて下校時間になった。
萌が普通の寄生虫ではないということは分かったが、まだまだ聞きたいことがたくさんあった。
萌はどこから来て、どうやって自分に感染したのか。
自分が中間宿主というなら、終宿主にはどうやって移るのか。
萌はどうやって食餌するのか、一日三食なのか。
萌には感覚器官があるのか。
萌のライフサイクルはどうなっているのか。
聞いてみたいことが次から次へと思い浮かんだ。
「これも全部萌に読まれてるんだよな」
わざわざ言葉にして話しかけなくても萌に通じるのは便利だと割り切った。
茶々の順応性は驚異的だ。
この異常な状況にすぐ順応してしまった。
順応するというより、茶々自身は、異常な状況に置かれることに快感を感じているようだった。
もっと萌えに身体の中を這いずり回ってもらいたい。
茶々の身体が熱くなった。
〝ナプキンを敷いておいてよかったな〟
茶々は、ナプキンで吸いきれないほど濡れていた。
「なんでそういうこと言うのよ。まったくデリカシーがないわね、萌は」
萌にばれていると分かっていても、自分が濡れていることを他人(虫)に指摘される恥ずかしさといったら尋常ではない。
茶々は、恥ずかしさのあまり赤面して、つい言葉が女の子になってしまった。
〝好きなんでしょ。こういうの〟
萌は、笑いながら話しかけてきた。
萌の言葉責めだ。
「す、好きなわけないでしょ。だいたいね、私が濡れてるのも萌のせいじゃない。私が好きかどうかなんて関係ないじゃん!」
茶々は、もじもじしながら言い返した。
〝残念でしたー。あたしが催淫効果のある粘液を分泌するのは、お腹がすいたときだもんね。朝、トイレで宿主殿の愛液をもらったから今はお腹いっぱいなの〟
「え、そういうものなの……」
〝ていうことは、なんで宿主殿が濡れてるのか……お分かりよね?〟
「えーーーーーっ! 知らない、知らない、知らないよ! 理由なんて知らないんだから!!」
茶々の動揺は半端ではない。
〝宿主殿は本当に素直でかわいい女の子ね。このキャラの方がずっと魅力的よ〟
茶々の変化に応じて萌の言葉遣いも変わってきた。
「そんな……そう? 萌もこっちの私がいい?」
〝うん。どっちの宿主殿も私の大事な食料だけど、どっちかといえばかわいい宿主殿から栄養をもらいたいわ〟
茶々は、火を吹きそうなほど真っ赤な顔をしてくねくねと身を捩らせた。
「わかったよ。萌がそう言うならそうするね」
〝ありがとう〟
茶々は、萌に抱かれたような心地よさを感じた。
その日、茶々と萌は、お互いのことを夜通し語り合った。
それがあって、萌のことがずいぶんと明らかになった。
まず、茶々は、龍生と大洗海岸に遊びに行ったとき、萌に感染した。
感染源は、茶々に欲情して海中でオナニーをしたあの男だった。
その感染は、シムオフンニの生活史と深い関わりがあった。
シムオフンニの中間宿主はヒトのメス。
終宿主はヒトのオスだ。
シムオフンニは、女性の体内で幼生のまま、終宿主である男性に感染する機会を窺っている。
感染している女性が男性と性交したときが終宿主への感染時期になる。
女性の膣内に潜んだシムオフンニは、膣に挿入されたペニスから尿道を経由して相手の男性に移動する。
男性の尿道から前立腺を通り精巣に達したシムオフンニの幼生は、そこで初めて成虫として成熟する。
成虫のシムオフンニは、精巣に寄生したまま卵を生み続ける。
感染した男性が女性と性交すると、射精された精液に混ざって大量のシムオフンニの卵が相手女性の膣内に放出される。
そして、女性の膣内で卵が孵化して幼生となり、次の感染を待つ。
これがシムオフンニ、和名萌色孤虫の生活史だ。
男女間の感染を促進するため、シムオフンニは性欲を亢進させる粘液を身体から分泌する。
シムオフンニに感染した男女は、本人の意思と無関係に欲情し、有り余る性欲に悩まされることとなる。
さらに、萌のようにシムオフンニは人間と会話ができる能力と知能を持っている。
茶々は、半狂乱になりながらも、そこにいるはずのない他人の声が聞えることを受け入れ、精神崩壊の危機をぎりぎりで耐えることができた。
しかし、たいていの人は、その異常な事態に順応できず、精神に異常をきたす。
よくある「いるはずのない人の声が聞こえる」という症状は、シムオフンニが原因の場合が多い。
シムオフンニに感染した人は、異常に亢進した性欲に悩むか、聞こえるはずのない人の声に悩んで自ら命を絶つことが多くなる。
茶々のようにシムオフンニとコミュニケーションを取れる人は、極めて珍しいレアケースといえる。
そのため、シムオフンニが増殖するのは非常に難しく、個体の確認報告も世界中で数例しかない。
しかも、生活史が明らかでないため、幼生と成虫が同定されていない。
幼生と成虫が同定されていないことから幼生に「孤虫」という名前がついている。
そして、性欲を亢進させることから「萌色」が冠され、萌色孤虫と命名された。
大洗で海中オナニーをした男は、シムオフンニに感染していた。
男の精液には、シムオフンニの卵が大量に含まれており、それが海中に拡散した。
シムオフンニの卵は、海中では短時間しか生存できない。
今回は、運よく近くに中間宿主であるヒトのメス、つまり茶々がいた。
海中を漂って茶々にたどり着いた卵のひとつが、水着の隙間から彼女の膣内に侵入することに成功したのだった。
〝コンドームってあるでしょ。あれ、大っ嫌い!〟
萌は言葉に力を込めた。
「どうして?」
茶々が首を傾げた。
〝コンドームを使われると、私が男性に移動できないし、感染した男性から女性に卵を産み付けることもできないのよ。ほんと、人間てひどいことするわよね〟
萌が憤ってみせた。
「あー、そういうことねえ」
茶々は苦笑するしかなかった。
「じゃあ、私が萌とバイバイしたくなったら、男の人と生でエッチすればいいのね」
茶々が思いつきでつぶやいた。
〝そう。そうなの。そうなったら私の気持ちと無関係に身体が動いて、私は相手の男に乗り移らなきゃならなくなるわ〟
萌が寂しそうに答えた。
「萌がいなくなったあと、私の脳の中にいるもうひとりの萌はどうなっちゃうの?」
〝溶けて消えるわ〟
萌が泣き出しそうな声を絞り出した。
「安心して、その予定はないから」
茶々がカラカラと笑った。
〝今はそうみたいね〟
萌が茶々の言語化された思考を全部スキャンしても、その兆候をみつけることはできなかった。