女子高生准査ヌルデバと萌える寄生虫の共生捜査本部 作:ぬるでば
大洗の街は、自転車で走るとそれほど広くはない。
「この旅館に戦車が突っ込んだんだね」
「あ、この店、見たことあるぞ」
二人は、映画の世界と現実の町並みを重ね合わせながら、のんびりと街中を走り回った。
「なあ、お兄ちゃん。やっぱりこのチャリンコは恥ずかしいぞ」
子供用の自転車をあてがわれている茶々は、意図せず周りの視線を集めてしまう。
シャカパンを履き、金色のミュールで子供用の自転車を漕ぐ姿は、やはり笑える。
「恥ずかしい? そっかー」
「おい、なんだよその軽くいなした感じは」
龍生のリアクションがあまりにも軽い。
もうちょっと親身に聞いてくれてもいいではないか。
茶々は不満を漏らした。
「これが羞恥プレイだったらどう?」
龍生がニコニコしている。
「ニコニコしながら言うことじゃねえだろ」
そういうことをやるのが龍生だ。
それは、茶々もよく分かっている。
「ひょっとしてマジなのか?」
茶々は、鼓動が早くなるのを感じた。
「ちゃーちゃんが楽しんでくれるかと思って」
「楽しむわけねえだろ、タコ」
そう言う茶々のお尻が、サドルの上でもじもじしている。
「お兄ちゃん、ちょっとタイム」
茶々が自転車を止めて降りた。
「どうしたの?」
少し先を走っていた龍生が心配そうに茶々の元へ戻ってきた。
「あのね、ちょっと耳貸して」
茶々が赤面している。
「ん、いいよ」
龍生が少しかがんで茶々の顔の前に耳を差し出した。
「あそこが気持ちよくなっちゃって……」
茶々が腿をぴったりと合わせてもじもじしている。
「そうなんだ。それは自前? それとも萌さん?」
自転車を降りた龍生が茶々のお尻を撫でた。
「ひゃっ、ダメだってば。萌! あなた出した?」
〝ばれた?〟
萌が笑いをこらえられない様子で会話に参加した。
今日の萌は茶々の膀胱にいる。
膀胱の中で虫が動き回るものだから茶々は常に尿意に曝されている。
しかし、その尿意はフェイクなのでトイレに行ってもおしっこは出ない。
ときどき萌が尿道に入り込んで外まで出てくることがある。
そのたびに茶々は、尿道を押し広げられる快感に打ち震え、歓喜の声を漏らすことになる。
萌のいいところは、尿道を通られても痛くないところだ。
導尿カテーテルを挿入されたときの焼け付くような痛みがない。
萌が違和感と快感だけを感じられるようにしてくれる。
茶々としては、快感よりも違和感が好きで、違和感さえあればそれを快感に脳内変換できる。
「ねえ萌、今日はずっとそこなの? ただでさえ気持ちいいのに媚液まで出されたら、あたし自転車を漕げなくなっちゃうよ」
茶々は、左手で下腹部を押さえてもじもじしている。
「今日はずいぶんいじめられてるね」
茶々の様子を龍生がニコニコと笑顔で見ている。
「ひゃっ」
茶々が声を上げてしゃがみ込んだ。
龍生が茶々の腰骨のあたりをとんとんと軽く叩いたものだから堪らない。
腰骨から膀胱に振動が伝わって、それまでギリギリで押しとどめていた快感の堰が切れた。
「だ、だめ。いく……」
しゃがみ込んだままの茶々が膝をがくがくと痙攣させている。
快感が絶頂に達してしまったようだ。
「あーあ、みんなが見てる前でいっちゃったね」
「お兄ちゃんがとどめを刺したんじゃない」
茶々は恨めしそうに龍生を睨み上げた。
「ちゃーちゃんかわいいよ」
「もー、恥ずかしいからやめてよ」
「やめていいの?」
「う……」
「ねえ、やめていいの?」
「やめないで」
茶々が手で顔を覆った。
「さ、行こう」
龍生が茶々に手を差し伸べる。
「えっ、もう? あたしの状態分かってる?」
しゃがんだままの茶々が困惑の表情を浮かべた。
「分かってるよ。スタンプラリーの続きに出発しよう」
「お兄ちゃん、優しい顔してるけど、ほんとはすっげー鬼畜だろ」
恨みがましい台詞を吐きながらも茶々は嬉しそうに立ち上がろうとした。
「あはは、立てねえ」
茶々は、立ち上がりかけたが腰が抜けたように地面にぺたんと座り込んでしまった。
「立てないんじゃしょうがないね。先に行くよ」
龍生が自転車に跨がって走り出そうとする。
「おい、ちょっと待ってよ」
茶々が焦って立ち上がろうとするが、腰が砕けていて立てない。
「あはは、冗談。待っててあげるよ」
龍生が自転車を降りて茶々の隣に座った。
「悪いな。お兄ちゃんは、ほんとにいい奴なのか鬼畜なのか分かんねえな」
茶々が龍生の肩にもたれかかり、幸せそうな目をした。
「俺は、ちゃーちゃんが望むものになれるんだよ」
「いい奴にも鬼畜にも?」
「そうだよ」
「うんと鬼畜になってくれって頼んだらどうなるの?」
「分かんないなあ、自分でもどうなるか」
「た、頼んでいいかな……」
「時間を区切って? それともずっと?」
「え、それをあたしに選ばせるの? それだけで十分鬼畜だよ」
「だってちゃーちゃんの気持ちが分からないと対応できないでしょ」
「えー、いっつもいじめられていたい。でも、それは辛いかな……でも、それはそれで嬉しいかも……でも、やっぱり優しくされるのも好きだし……」
茶々は「でも」ばかりが出て答えに詰まった。
どれも本音だから選びようがない。
「選べないっていうことだよね」
龍生は、初めから茶々が選べないのを分かって聞いていた。
「うん、選べないや」
「ていうことは、俺の好きなようにしていいってことだね」
「そうそれ! お兄ちゃんの好きなようにされたいのよ!」
さっきまで困惑していた茶々の表情が喜びに変わる。
「分かった。じゃあ俺が好きなようにする」
「はい、あたしをお兄ちゃんの好きなように使ってください」
「うん」
龍生は、とにかく優しい。
怖さや厳しさで茶々をコントロールしようとしない。
茶々が自分の意思で被虐に入り込めるように誘導してくれる。
「やっぱお兄ちゃんは頭いいな」
茶々は、龍生のやり方に感心した。
「どうして?」
龍生が首をかしげて茶々の顔を覗き込む。
「結局あたしが自分からいじめてくれって言ってるんだよ、いっつも」
茶々は、拗ねたふりをしてみた。
「自分から言った方が楽しいんじゃないかと思って」
「う……図星」
龍生には、自分の考えていることが全部見抜かれているようだ。
「さ、そろそろ立てるでしょ。行こうか」
「ああ」
龍生が休ませてくれたおかげで茶々も落ち着きを取り戻した。
すっくと立ち上がると自転車に跨がる。
「あ……」
股間がサドルに当たると声が漏れてしまう。
「まだ収まってなかったね」
龍生が冷やかした。
「お兄ちゃんのバカ!」
茶々がふにゃふにゃの笑顔で毒づいた。
龍生が走り始め、茶々がそれに続くように走り出した。
「あ、あの肉屋さんが串カツで有名なお店じゃね?」
スタンプラリーの途中で茶々が一件の肉屋を見つけた。
「うわ、お店の中が見えないくらいたくさんの張り紙だね」
龍生が自転車を降りて店の前に停めた。
茶々も隣に子供用の自転車を停める。
「ここは、朝早くからお店を開けてるらしいよ」
龍生は入り口の引き戸を開けて茶々を促す。
「お、さんきゅ」
茶々が龍生の肩を軽く叩いて店に入った。
「はぁー、肉屋なんだろうけどアニメショップみたいだな」
店の中には所狭しとアニメのキャラクターが描かれた張り紙やグッズが並べられている。
「かあさん、パスワード分かんなくなったぞ」
店の奥から男の声が聞こえた。
「今朝変えたからね」
店番をしていた女性が奥にいる男性に顔を向け、大きな声で答えた。
「え、また変えたのかよ。で、今度のパスワードはなんだ?」
どうやら何かのログインパスワードを奥さんが変更して、前のパスワードしか知らないご主人がログインできずに困っているらしい。
「また変えたって、あんた、パスワードは定期的に変えなきゃいけないんだろ」
「そうかもしれねえけど、何も毎月変えなくなたっていいんじゃないのか。それで、新しいパスワードを教えろよ」
「ちょっと待ってよ。あ、すいませんね、お恥ずかしいところお見せしちゃって」
奥さんと思われる女性が茶々たちに申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ、あたしたちは大丈夫ですよ。待ってますから、ご主人にパスワード教えてえあげてください」
茶々は、対外的には普通に敬語を使えるらしい。
「なあ、お兄ちゃん。パスワードって定期的に変える必要あると思うか」
「うーん、よくセキュリティの解説なんかだと定期的に変えることを推奨してるよね」
「だよな。だけどよ、推測できないパスワードだったら変える必要ねえと思うんだよ、あたしは」
「どうして?」
「お兄ちゃんの得意な確率だよ。ここに10個のボールがあるとするだろ。で、それぞれに0から9までの数字が書いてあるんだ。いま、仮にパスワードを0のボールだとするんだ。これにランダムに攻撃を仕掛けて0のボールを引ける確率は?」
「1/10だよ」
「そうだよな。それくらいならあたしにも分かるんだ。ここからが本題なんだけど、定期的にパスワードを変えましょうという啓発どおり、今度は1のボールをパスワードにしました。さあ、このパスワードが破られる確率は?」
「さっきと同じ1/10だね……あっ!」
「分かっただろ」
「推測できないような固いパスワードだったら、変えても変えなくても破られる確率に変化はないんだ!」
「そういうこと。だから、セキュリティを固くするのに必要なことは、定期的なパスワード変更じゃなくて、推測や辞書攻撃で破られない固いパスワード設定ってことだ。で、固いパスワードを設定すれば、しょっちゅう変える必要なんてねえんだ。実際、あたしだってパスワードを変えてねえぞ。世界中のクラッカーから狙われてるあたしでさえ破られないんだから、まず普通の人が固いパスワードを破られるなんてことねえよ」
茶々が得意げに持論を展開した。
「あれー、パスワードがはじかれちゃうわね」
「ほれみろ、しょっちゅう変えるから分かんなくなったんだよ。だから付箋に書いて貼っておけって言ったじゃないか」
店の奥では店主夫婦がパスワードで揉めているようだ。
「な、パスワードをしょっちゅう変えると、ああなるんだ。人間、そんなに複雑な文字列なんて覚えていられねえ。だからセキュリティを上げれば上げるほどパスワードを忘れやすくなる。そうするとどうなるか。付箋に書いてモニタに貼っておくっていうことになるんだ。本末転倒だろ」
「ほんとだね。定期的なパスワード変更って、ネットワーク越しのアタック対策じゃなくてソーシャルクラッキング向けの対策っぽいよね」
「んだな。肩越しに後ろから覗かれたりすることがよくあるから、そういうことへの対策にはなるな」
「それにしても付箋に書いて貼っちゃダメだよね」
「付箋。ダメ。ゼッタイ」
二人は店の奥を気にしながら笑った。
「あのー、ご主人。あたし、県警のサイバー捜査をやっている警察官なんですけど、差し支えなかったらお手伝いしましょうか?」
茶々が背伸びをして古いショーケースから顔を出そうとしたが無理だった。
仕方なくシャツの中から首に提げた警察手帳を取り出し、頭上にかざして左右に振って見せた。
「え、あ、いや、警察の方でしたか。なんとかなるんですか?」
店の奥から主人がサンダルをつっかけて出てきた。
「なんとかなる保証はありませんけど、なんとかしてみます」
「そうですか、いや、すみませんね。よろしくお願いします。さ、どうぞ」
主人が二人を店の奥に案内した。
店の奥のデスクにパソコンが一台置かれている。
モニタにはOSが立ち上がってログインするための画面が表示されている。
どうやらOSのログインパスワードを忘れてしまったらしい。
「パスワードは、何かの単語を使っていますか?」
茶々がバッグからUSBメモリを取り出しながら奥さんに質問した。
「はい、いつも店の名前に適当な数字を組み合わせています」
「そうですか、分かりました。それならなんとかなります」
茶々は、パソコンの電源を落とした。
「電源を落としちゃうんですか?」
主人が訝しげに聞いてきた。
「はい、これからちょっと小細工をしますけど、パソコンのデータは見ませんし、何も変更しません。でも、ちょっと見られると困るので、しばらく離れていてもらっていいですか」
「あ、はい、分かりました。信用しますからね」
「ありがとうございます。信用は裏切りませんよ」
茶々がにっこりと微笑みながらUSBメモリをスロットに差し込んだ。
パソコンの電源を入れ、BIOSの設定画面を呼び出し、起動ディスクにUSBメモリを指定する。
茶々が持っているUSBは、Linuxが起動できるようになっている。
そして、起動させたLinux上でそのシステムに対して様々なクラッキングを行うことができるツールが満載されている。
もちろん辞書攻撃も可能だ。
茶々は、起動させたLinuxでいくつかのツールを使い、簡単にパスワードを破ってしまった。
「分かりましたよ」
少し離れたところに座っている店主夫婦に声をかける。
「え、もうできちゃったんですか」
店主が驚きの声を上げた。
茶々が作業を開始してから10分くらいしか経っていない。
「特定の単語に数字の組み合わせだから、あっという間に破れました。これからは、類推できないパスワードにしてください。そうすれば頻繁に変える必要ありませんよ」
USBメモリを抜き取ってパソコンを再起動させた茶々が解析したパスワードでOSにログインしてみせた。
「へー、ほんとにパスワードを破っちゃったよ、このお巡りさん。たまげたね」
奥さんが感心したように手を叩いた。
「助かりました。これ、お礼にもならないけど、どうぞ持ってって」
主人が串カツを一揃い袋に詰めて差し出した。
「ありがとうございます。こんなにたくさんもらっちゃっていいんですか?」
と言いながらしっかりと袋を受け取る茶々であった。
「それじゃあ、あたしたちはこれで」
茶々と龍生は店主夫婦に頭を下げて店を後にした。
「相変わらずちゃーちゃんのスキルは惚れ惚れするね」
自転車を漕ぎ出した龍生が後ろを振り返る。
「おい、惚れるのはスキルにだけかよ」
茶々が頬を膨らませた。
「あはは、ごめん。惚れてるのはちゃーちゃんで、スキルには感心してるよ」
「それでいい」
茶々が満足げに頷いた。