※この作品はR-18です。

女子高生准査ヌルデバと萌える寄生虫の共生捜査本部   作:ぬるでば

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第6話 昨日の友は今日の敵

「んごっ、ふん、やべおーっ!」

 声にならない叫び声を残して茶々が1BOX車の中に消えた。

 その少し前。

 CTF会場のビルを出た茶々の後ろから静かに近づいてきた1BOX車が彼女の横に並んで止まった。

 その1BOX車は、電気自動車でエンジン音がまったくない。

 まるで忍者のように近づいてきた。

 駅までの経路を検索するのに夢中の茶々は、スマホ画面に集中していて自分の隣に車が止まったことすら気づいていない。

 茶々は、自分のすぐ横で車のドアが開く音がして初めてその車の存在に気づいた。

 しかし、気づいたときはもう手遅れだった。

 開いたドアの中から色白の男の腕がにゅっと出てきて、茶々の手を乱暴につかみ車内に引きずり込んだ。

 体勢を崩して上体が車の中に入りかけたところをもう一つの手で口をふさがれた。

 茶々の手をつかんでいた男の手が彼女の後ろから胸に回された。

 乳房を乱暴に握られ、ぐいぐいと車の中に引き込まれる。

 この際だから茶々の巨乳を揉んでおこうという手つきだった。

 最後の抵抗として車のステップに引っ掛けていた足も激しく蹴り上げられて外されてしまった。

 蹴り上げられたふくらはぎに激痛が走った。

「ひはい!」

 痛いと叫んだつもりだったが、口をふさがれているため間抜けな声しか出なかった。

 抵抗むなしく茶々の全身が車の中に吸い込まれた。

 運転席の男が電動スライドドアのスイッチを押してドアを閉めた。

 茶々は、まだ男に抱きかかえられ乳房を揉みしだかれ、口もふさがれたままだ。

 運転席の男が車を発進させた。

 車が立ち去った後には、茶々の金色に輝くミュールが残された。

 茶々は、フルフラットにされた後部シートに投げ出すように転がされた。

 車の窓ガラスには真っ黒のフィルムが貼られていて、外からはおろか中からも外を見ることができなかった。

 運転席の男は、運転席と後部座席を仕切るカーテンを閉めた。

 これで後部座席は外から遮断された個室となった。

 茶々を放り投げた男は、すばやく茶々からスマホを取り上げた。

 外部との通信を遮断するためだ。

 茶々は、車の構造から、これから自分の身に降りかかる事態を察した。

 抵抗すれば身の危険がある。

 抵抗しなくてもボロボロにされることに変わりはないのかもしれない。

 いずれにしても自分はこれからこの男に傷つけられる。

 自分の意思によらない被虐は快感ではない。

 茶々は、固く目を閉じて現実から逃避しようと思った。

 身体の震えが止まらない。

 口は自由になったが声も出せなかった。

「萌に処女を奪われた上、人間との初体験がレイプってなんなのよ、あたしの人生」

 涙が出てきた。

「おい、ヌルデバ」

 茶々は、はっとして目を開けた。

「この男は通りすがりのレイプ犯じゃない。あたしをヌルデバだって知ってる」

 知り合いの中から自分をレイプしそうな男をサーチしたが思い当たるところはなかった。

「どうせレイプされるなら龍生がよかった」

 そんな考えが頭をよぎったが、そういう場合ではないことに気づき意識を現実に戻した。

「だ、誰?」

 茶々は、恐る恐る声を出した。

「久しぶりだな。探したんだぜ」

 男が続けた。

「探した? あんたがあたしを探してた?」

 茶々には心当たりがなかった。

 男の声には、聞き覚えがあるような気がしたが、誰だか思い出せない。

「しっかり目を開けろよ。俺に見覚えないか」

 男に促されるまま、茶々はゆっくりと目を見開き、シートの端に座っている男を下から見上げた。

「あ! お前!」

 茶々は、男の顔に見覚えがあった。

 顔だけではない、でっぷりとした色白で締まりのない体つきにも思い当たる人物がいる。

「覚えていてくれて光栄だな」

 男がわざとらしい言葉を吐いた。

「てめー、ニクシロン、なんてことしてくれるんだよ!」

 相手が誰だか分かってしまえば遠慮することはない。

 茶々は、起き上がり、後ずさって男と距離をおいた。

「お前、あたしを拉致って乱暴して滅茶苦茶にしようっていうんだろ!?」

 そう言ったところで茶々は重大なことに気づき青ざめた。

「あたし、男の経験ないんだぞ。初体験がレイプな上に、その相手がお前なんて不幸のずんどこだよ。お前、あれだろ。あたしに感度5千倍とかなっちゃう薬を射って、滅茶苦茶にして悪堕ちさせようってんだろ。でも、レイプされるのはしょうがないから股を開いてやるよ。殺されるよりマシだからな。でもさ、ゴムだけは付けてくれよな、頼むから。いや、妊娠したら困るとかっていうことじゃねえんだよ。中出しされたってすぐに産婦人科で緊急避妊薬をもらえばなんとかなるんだから。だけど、中出しされたら、っていうか生で突っ込まれたら取り返しがつかないことになるんだ。だから、頼む。ゴムを付けてくれ。な、な」

 茶々は、手を合わせて必死の表情で懇願した。

 男は黙ったままだった。

「頼む! ゴムを付けてくれ。あとはなにをされてもいいから」

 茶々が土下座した。

「お前、バカか」

 ずっと黙っていた男が口を開いた。

「え?」

 土下座でシートに額を付けていた茶々が顔を上げた。

「昔からバカだと思っていたが、今でもやっぱりバカだな」

 男が笑った。

「なに笑ってんだよ! お前、あたしをレイプしたいんだろ?」

 茶々は、自分の発言がどこか変だと思った。

「俺はお前をレイプしようなんて思っていない」

 男が呆れたように言った。

「あたしに魅力がないっていうのかよ」

 茶々が追及した。

 その言葉もやはり変だと思った。

「お前、レイプされたいのか?」

 男が首をひねった。

「だって、さっき、あたしのおっぱい揉んだじゃねえかよ。痛かったんだからな」

「あれはおまけだ」

「おまけってなんだよ。失礼なデブだな」

「お前もそこそこデブだぞ」

「デブって言うなし!」

 二人の間の緊張感がほぐれてきた。

「レイプじゃねえんだな。じゃあさっき言ったゴムの話は忘れろ」

「お前の醜態なんて覚えるつもりもない」

「醜態って言うなし!」

 茶々が怒鳴った。

「で、ニクシロンがあたしに何の用だよ。あたしはもうUG界から引退したんだぜ」

 茶々は、土下座からあぐらに姿勢を変えて腕組みした。

「説明してやる」

 男が口を開いた。

「お前は、俺が作ったUG組織『その焼鯖』のメンバーだった。俺は、お前のスキルに惚れ込んでいた。勘違いするな。惚れ込んでいたのはお前のスキルだ。お前に惚れていたわけじゃない」

「お前に惚れられたら気持ち悪いだけだ」

 茶々が毒づいた。

「俺は、海外で活動するanonymousに対抗できる国内組織として『その焼鯖』を作った。そのメンバーには、国内UG界の中でもトップクラスのスキルを持つクラッカーを厳選して声をかけた。その中にお前もいたわけだ。お前は、俺が見込んだとおり、ずいぶん暴れまわってくれた」

「まあな、だけどよ、組織の目的はよかったとは思うよ。でも、ネーミングセンスが最悪だろ。『アノニマス』に対抗して『その焼鯖』ってどういう発想から出てくるんだよ」

 茶々が突っ込んだ。

「大きなお世話だ。名前を考えたときは、めちゃめちゃクールだと思っていたんだ。そんなことはどうでもいい。勝手にお前のペースに持ち込むな。ここは俺が主導権を握っているんだ」

「はいはい」

「組織のメンバーは、みな優秀で国内ばかりでなく海外のサーバーにも大きな被害を出してくれた。それは面白かったもんだ。ところがだ、俺に次ぐスキルを持っていると思っていたroot6が2年前に突然姿を消した。その1年後、今度はお前、ヌルデブが消息を絶ちやがった」

「デブって言うなし!」

 茶々は、思わず笑ってしまった。

「ちょうど俺が大きな攻撃を計画しているときに、root6とお前がいなくなったことで計画は頓挫した」

「その大きな計画って?」

「マイナンバーの乗っ取りだ」

「それってそんなに大きなことなのか?」

「お前、ほんとにバカだろ」

「うるせえな、殺すぞ」

 茶々が苛立った。

「マイナンバーは、国民ひとりひとりにユニークな番号を付けて、税金やらなんやらを一元的に管理しようという制度だ。これを乗っ取ってしまえば、国民の財産は俺たちの思うがままだ。どうだ、大きいだろう」

 男が胸を張った。

「大きいのかどうかよくわかんねえ」

 茶々は、計画のイメージが描けなかった。

「マイナンバーのシステムは相当固い。それを落とすには、お前やroot6の力が必要だ。だから俺はお前らをずっと探していた。そして、今日、女性オンリーのCTFがある。お前が来るんじゃないかと思って張り込んでいたんだ。そこにお前が現れたというわけだ」

「要はストーカーだろ、お前。それにしても一度しか会ったことがないあたしの顔をよく覚えてたな」

「人の記憶はTTLが短い。だがメディアに記録してしまえば長く残せるんだ」

「隠し撮りしやがったな」

「人聞きの悪い事を言うな。お前が気づかなかっただけだ」

「だから、そういうのを隠し撮りっていうんじゃないのかよ」

「認識の相違だ」

「なんだよ、ああ言えばこう言いやがって。だから大人は嫌いなんだよ」

 茶々が膨れっ面をした。

「ということでだ。どうだ、また力を試してみないか。もちろん、これは仕事としてのオファーだ。報酬に糸目はつけない」

 男がにやりと笑った。

「報酬? いくらくれるんだ?」

「そうだな、仕事のできにもよるが、いい仕事をしてくれたら1億は出そう。今回の仕事は、それくらい金になる」

「い、いちおくぅ?」

 茶々の声が裏返った。

「どうだ、ヌルデバの名を伝説にしたくないか」

「伝説……」

 茶々は、報酬の額と伝説になれるという言葉に惹きつけられた。

 悪い話じゃない。

 いや、むしろありがたい話ですらある。

 茶々の脳裏にヌルデバとして暴れていた頃の爽快感が蘇った。

 あの爽快感には依存性がある。

 一度味わってしまうと抜け出せなくなる。

 自分は、エージェントに負けたことで引退を決めたが、クラッカーとしての性さがが消えてなくなったわけではない。

 茶々は、次第に高揚感を覚える自分に気づいた。

「わかった……」

 茶々が話し始めた。

〝茶々〟

 萌の声だ。

 その声は、いつになく固く緊張しているようだった。

「なに?」

 茶々は、声に出さずに返事をした。

〝騙されちゃダメよ〟

「騙される? 私が?」

〝そう、そのデブは宿主殿とroot6を騙そうとしてる〟

「どういうこと?」

 茶々と萌が問答を始めた。

「おい、どうした。わかったというのは、こっちにつくということか?」

 急に黙ってしまった茶々に男が訝った。

「いや、ちょっと待ってくれ。少し考える時間をくれ」

「いいだろう、待ってやる」

 男が猶予を与えてくれた。

「ねえ萌、こいつは私の味方じゃないっていうことなの?」

〝そうよ。こいつは宿主殿とroot6を使い捨てにしようとしているわ〟

「どうして? 昔の仲間よ。それに今回だって悪い条件じゃないわ」

〝だからなのよ〟

「だから?」

〝私は、ずっと昔からヒトに寄生することで生きてきたわ。何代も生殖を重ねてね。その度に個体としての命は誕生と死滅を繰り返すけど、記憶が受け継がれてきたの。だから私は、幼生ではあるけど意識はババアっていう感じ〟

「あー、前に『生まれたばかりの幼生』って自分で言ってたのに、本当はそうじゃなかったんじゃない」

〝うふふ。言葉の綾ってやつよ。ごめんなさい〟

「まったくもう」

〝ね、宿主殿は滅茶苦茶素直でしょ。だからころっと騙されるのよ〟

「あ、ほんとだ!」

〝私は、何代もヒトに寄生して、宿主の意識の中を覗き見してきたわ。だから、他人を騙そうとする人のパターンもたくさん見てきたのよ。そこのデブは、まさに詐欺師のそれだわ〟

〝それでね、なんでこいつが詐欺師なのかっていうと、悪い話を全然しないでしょ〟

「ん? そうね。いい話だから乗ろうと思ったんだし」

〝ほら、そこがあいつの狙い目。今回のオファーは、はっきり言ってリスクだらけの危険な仕事よ。それを説明しないで高い報酬や名誉をちらつかせて誘うのは詐欺師の手口だわ〟

「そっか。言われてみればそうね」

 茶々が冷静さを取り戻した。

「1億円とか伝説とかっていう言葉に踊らされるところだった」

〝なに言ってるの。もう踊らされてたのよ。私がいなかったら宿主殿、今度こそ牢屋の中よ〟

「そうだった。ありがとう!」

 茶々は目を開いた。

「悪いな。この話は受けられない」

 男に自分の意思を伝えた。

「そう来るだろうと思っていたよ」

 男は落胆することもなく余裕の態度だった。

「お前は俺の誘いを断った。だが、その前段階で俺の計画を聞いてしまった」

「ああ、聞いたよ。聞きたくもなかったけどな」

「今回の計画は、組織的なサイバーテロだ。この話に加わっただけで共謀罪に問われることになる。つまり、お前はもうどうやっても逃げられない。残念だったな」

 男は余裕たっぷりに薄ら笑いを浮かべている。

「おい、どういうことだよ。あたしはお前に拉致られて、それで一方的に話を聞かされただけだぞ。それがなんで共謀罪なんだよ?」

 茶々が焦った。

「それが共謀罪の本質だ。テロの計画を聞かされただけで逮捕される」

「そ、そんな……」

 茶々が声を詰まらせた。

「ねえ萌!」

〝なに?〟

「こいつの言ってることって本当なの?」

〝ごめんなさい。共謀罪って新しすぎて私の記憶に引っかかるものが何もないわ〟

「そうよね。ありがとう」

〝力になれなくてごめんなさい〟

 茶々は、萌と短い会話を交わした。

「どうする。こちら側に来て伝説になるか。それとも共謀罪で捕まるリスクだけ負って逮捕に怯える日々を過ごすか。好きな方を選べ」

 男が決断を迫った。

〝茶々!〟

 珍しく萌が強い口調で茶々を呼んだ。

〝あなたのおっぱいに挟んでいるものは何? その責任の重さを思い出しなさい〟

 茶々は、目の前に光明が開けたような気がした。

「萌、ありがとう。私はこの手帳をもらうときにした宣誓を守るよ。たとえ共謀罪で捕まることがあってもこいつらとは組まない」

〝それでこそちゃーちゃんよ〟

 茶々が言った「宣誓」は、公務員がその職に就くとき、必ず行わなければならないもので、警察官の場合は、一般の行政職員より重い内容となっている。

「私は、日本国憲法、法令、条例その他の諸法規を忠実に擁護し、命令を遵守し、警察職務に優先してそれに従うべきことを要求する団体又は組織に加入せず、何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず、良心のみに従って、公正に警察職務の遂行に当たることを厳粛に誓います。」

 茶々もこの宣誓書に署名をして提出している。

 クラッカーであった過去とは決別しなければならない。

「お前とは組まない。あたしは二度とクラッカーに戻らない」

 茶々は、男にはっきりと宣言した。

「そうか。せいぜい逮捕される日に怯えるがいいさ。分かっていると思うが、このことを他人に話したらすぐお縄になるぞ」

 男が他言無用の釘を差した。

「停めろ」

 男が運転の男に命じた。

「降りろ」

 車が止まると、男は茶々に降りるように促した。

「降りろって、おいデブ。あたしのサンダル返せよ。さっき拉致られたときに脱げちまったぞ。裸足で帰れっていうのかよ」

 茶々は、裸足だった。

「知るか」

 男は吐き捨てるように言うと茶々にスマホを投げて渡した。

 電動スライドドアが開くと、男は茶々を車の外に蹴落とした。

「じゃあな」

 そう言い残すと男は走り去って行った。

 茶々は、見知らぬ土地の道路に転がされ、みじめに這いつくばった。

「どこだよ、ここ」

 理由もなく涙があふれた。

 クラッカーとして組織に所属した過去を後悔した。

 茶々は、スマホで自分の現在地からの帰り道を検索した。

 泣きながら裸足のままふらふらと歩く茶々は、まるで幽霊のようだった。

 竜ヶ崎の駅に着くまで、茶々の様子を心配した人から何度も声をかけられた。

「大丈夫です。大丈夫です」

 茶々は、泣きじゃくりながら俯いて繰り返すだけだった。

 途中で履物を買うという発想も出ないほど憔悴しょうすいしきっていた。

 竜ヶ崎駅から自転車で家に向かう途中、ふらついて何度か転んだ。

 茶々は、擦り傷から血をにじませながら家に着いた。

 家族は茶々の様子に驚いて心配したが、茶々は一言も交わさず部屋に閉じこもった。

 一日中締め切っていた部屋は、むっとする暑さだった。

 じっとりと汗が滲み出す。

 茶々は、エアコンもつけずに汗が流れ落ちるまま放心した。

 茶々の愛車、ひろちゃん号の持ち主であるおじいちゃんが、心配して部屋におにぎりを差し入れてくれた。

「ひろちゃん、ありがと」

 おじいちゃんからおにぎりを受け取ると、ベッドの端に腰かけて一口食べた。

 涙がおにぎりに塩味を加えた。

「うまい」

 おにぎりを食べ終わった茶々は、机の前の椅子に移って煙草に火を着けた。

〝宿主殿〟

 萌が呼びかけた。

「なに?」

〝辛いと思うけど、今日の判断は間違ってないわ〟

「うん。ありがとう」

「ねえ萌」

 茶々は、煙草の火を消すと全裸になった。

〝いいわよ。手伝ってあげる〟

「またばれちゃったわね」

 茶々は、頭を空っぽにして何も考えられなくなるくらい乱れたかった。

 今日あったことを全部忘れてしまうくらいバカになりたかった。

 萌は、茶々のその思考を汲んでくれた。

〝MAXでいっちゃうけど、いい?〟

「うん」

〝戻ってこれなくなる人もいるくらいだけど、ほんとにいいのね?〟

「壊して……」

 自分が自分でなくなるくらい壊れたかった。

「っ!!」

 茶々は、声も出せなかった。

 身体が跳ね上がり椅子から転げ落ちた。

 息ができない。

 背中がのけ反り手足が痙攣する。

 経験したことのない快感が尾てい骨から頭を貫き、電気が走ったように指先がしびれる。

 呼吸ができずに意識が遠のき、目の前が暗くなってきた。

「死ぬ……」

 一瞬、死の恐怖が頭をよぎった。

 茶々は、池の水面で口をぱくぱくさせる鯉のように酸素を求めた。

 死んでもいい。

 それくらい苦しく、気持ちよかった。

 茶々の身体は、脂汗でべたべたになった。

 全身がクリトリスになったように敏感だ。

 空気の振動だけでも絶頂に達する。

 その度に茶々は意識を失った。

 しかし、そのまま寝かせてはもらえなかった。

 萌の責めは執拗で容赦なかった。

 強烈な快感で意識を引き戻される。

 また酸素欠乏と快感に苦しめられる。

 そして、それを何度も求め続けた。

「もっと! もっと苦しめて!」

 まだ萌に話しかけられるうちはダメだと思った。

 全身に焼け付くような快感がまとわりついて離れない。

「もうやめて!」

 苦痛に耐えられなくなった茶々が萌に懇願した。

〝やめていいのね〟

 萌は、茶々のコンディションに気を配りながら調整してくれていた。

「やめないで!」

「もうやめて!」

 何度繰り返したか分からない。

 脳髄が焼き切れそうだった。

 乳首がくるみのように固く尖っている。

 乳首に開けたピアスが引き攣れて茶々に激痛を与える続ける。

 それは、言語野にとりついた萌の分身を通して萌にも伝わっていた。

 実は、萌もほとんど同じ苦痛を受けていた。

 そろそろ萌も限界に近づいていた。

〝最後、いくわよ〟

「お……ね……がい……」

 茶々の意識はほとんど切れていた。

「ぎゃっ!」

 茶々は、膣に拳をねじ込まれたような激痛と頭の中に焼きごてを突っ込まれたような熱さを感じて叫んだ。

 全身が大きく痙攣する

 両手が何かをつかもうとして虚空をさまよう。

 脂汗でぬるぬるする身体で床をのたうち回る。

「ぶちっ」

 何かが切れた音が聞こえた。

 茶々の意識が完全に切れた。

 茶々は、漆黒の闇に落ちて行った。

 落ちていく間、とても幸せだった。

 どれくらいの時間が経ったか分からない。

 茶々は、饐すえた汗臭さに目を覚ました。

 時計を見たら午前4時だった。

 前日、意識が切れるまで責めを受けて失神してしまった。

「起きなきゃ。学校あるし」

 両腕で支えてようやく上体を起こすことができた。

 脂汗から水分だけが蒸発したようで、身体はひどい臭いとべたつきだった。

「うわっ、臭い」

 茶々は、顔をしかめた。

 喉が渇いて仕方なかった。

 部屋の小さな冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、一息に飲み干した。

「萌」

〝おはよう〟

「おはよう。昨日は、いじめてくれてありがとう」

〝大丈夫だった?〟

「いん。気持ちよかったよ。ちょっとクセになりそう」

〝昨日のレベルは、死と隣り合わせだから、あんまりお勧めしないわ〟

「そんなに強かったの?」

〝MAXって言ったでしょ。あれで何人も殺してきてるのよ、私は〟

「ひえーっ、そんなにすごいレベルだったの?」

〝そうよ。よく平気で起きられたわね。死ななくても廃人よ、普通は〟

「あはは。じゃあ、私はすごい耐久力だったってことね」

〝そうみたいね。またやる?〟

「うん。そのうちやってみたい」

〝わかった〟

 茶々は、自分が越えてはいけない一線を越えたことを自覚した。

 いつかきっと自分は萌に殺される。

 宿主である自分が死ぬとき、萌も一緒に死ぬ。

 萌と一緒に死ねることが楽しみになった。

 自分が死んでも萌の記憶は別の個体に引き継がれて生きるに違いない。

 それまでの間、後悔のない生き方をしようと思った。

「ねえ萌、いつか、そう、いつ来るかわからないけど、いつか私のことを殺して」

〝いいわ。一緒に死にましょう〟

 二人に死の契ちぎりが交わされた。

「私、萌に殺してもらえる日を迎えるために頑張るよ」

 死ぬために前向きに生きようという決意が生まれた。

〝いいわよ。でも、私は簡単には殺さないから。死にたかったらまずは『あの』目標に向かって頑張りなさい〟

「うん、頑張る。でもあれね、とりあえず邪魔なあのデブを始末しなきゃね」

〝そうね〟

 茶々と萌の逆襲が開始された。

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