……ごめんね
「アイツ、学校もちゃんと来てるし安心だな」
「まさか、やちよさんが引き取るなんてね」
放課後、私はいつものように魔女退治に出かけるためにももこちゃんやレナちゃんと一緒に教室に集まっていた。ももこちゃんが話しているのは、最近、やちよさんと一緒に暮らすようになった彼のことだ。
やちよさんの所に暮らす彼と会ってから1週間が経った。
会ったというと、初対面のように見えるけど、実は彼とは同じクラスなので話したことはあんまりないけど面識はあったりする。
だから、私、秋野かえでは本当にびっくりしたし、同時にショックも受けた。だってあんな身近にいる人が魔女の被害に遭ってしまうなんて思ってもいなかった。
報告会の時にレナちゃんにやちよさんが怒ったときのことを思い出すと胸が痛くなる。だって彼のお父さんとお母さんが、魔女に殺されてしまったのだから。
やちよさんは、私『達』の責任だといった。
つまり、彼の両親が死んでしまったのは私達、魔法少女の責任なんだ。
「彼のお母さんね、うちの紅茶をいつも買いに来てくれたんだ。なのに・・・・・・」
「うわ、そりゃキツいな・・・。やちよさんも言ってたけど責任感じちゃうよな」
いつも買いに来てくれるたびに私にも声をかけてくれるような人当たりのよくて優しい人。私もよく覚えているけど、あの人がもういないんだと思うとたまらなく辛くなってしまう。
いつもお節介を焼いてくれるももこちゃんも眉をひそめて思い詰めている。
「なら尚更、私達が魔女をやっつけないといけないじゃない」
レナちゃんも、やちよさんに言われたことを気にしているようで早く魔女を探しに行こうと催促する。確かにそうだ。
これ以上彼のような人を増やさないためにも私達が頑張らないといけないんだ。
と、意気込んでいた矢先のことだった。
「ん? あそこって確かアイツの席だよな?」
ももこちゃんが、教室の机の中に何かあるのを見つけた。その机は、ももこちゃんの言うとおり、彼の席だった。
「何これ──って、これ今日の理科の宿題じゃない! アイツ忘れたっていうの!?」
レナちゃんが手を突っ込んで、取り出した途端、声を上げた。
「理科って言えばあの先生か?」
「あのすごく怖い先生だよね」
自然と声が震えてしまう。
理科の先生がどれだけ恐ろしいかというと、それは学校の生徒全員の共通認識と言っても過言ではない。先生が授業をする前のクラスは、休み時間などにおしゃべりなんかせずにずっと静かに教科書を広げて予習に励んでいる。
ただでさえ背が高いのに、強面の顔で怒鳴られるは皆が恐れていることだ。宿題なんて忘れた日には目も当てられない。
今日は金曜日で、理科の授業は月曜日にある。もし夜になって気づいたら大変だ。土日は学校に入れないし。
「どうすんのよこれ。ほっといたらアイツ、偉い目にあうわよ」
「届けに行ったほうがいいよね」
「魔女退治の帰りにでもアイツの家によってやるか」
彼はやちよさんの家で暮らしてるから、すぐにでも会いに行ける。だけど、私たちも魔女退治があるからと後回しにして教室を出た。
「ももこちゃん。プリントは私が持っていくよ」
「お、わかった」
ももこちゃんからプリントを受け取った私は、それを鞄にいれる。
そして、ソウルジェムの反応を頼りに私たちは魔女を探しに神浜の街にくりだしていった。
⚫
『chkfnkquxeb/hnkuqzslyoirvo!!』
「ももこ! そっち行った!」
「任せろ! でりゃあああっ!」
レナちゃんとももこちゃんは、前線に出て間近で魔女と対峙している。後ろにいる私にできることは、二人が下がるタイミングに合わせて攻撃を当てること。
このチームに入ったばかりの頃は怖くてなにもできなかったけど……でも!
私は自分の武器である杖に魔力を込める。私の魔法は植物を生やして攻撃する魔法。威力は二人に比べたら弱いかもしれないけど、動きを封じることならできる!
「えぇい!!」
魔女の周囲に複数の植物を生成して、それを縄のようにして魔女の動きを拘束する。
『slcfyliszgamtkcoxptgajwdgwdk@mag』
でもやがてその枷も外れるだろう。でも、二人はその隙を見逃さない。
「これで……!」
「どどめっ!」
ももこちゃんの大剣と、レナちゃんの槍が、魔女の体を貫く。
『csyhfytjagydjtleatgzlcvszkgamuemxmd──!!』
魔女は大きな断末魔のような鳴き声とともに絶命していった。
やがて、周囲は不気味な魔女の結界などではなくなり、殺風景な廃ビルに変わった。魔女がさっきまでいたであろう場所には、グリーフシードが落ちている。
「よっし! 今日はうまくいったな」
「レナがいるんだもの、当然よ」
うまく魔女を退治することができた。私も足を引っ張らずにちゃんと攻撃できた。
ももこちゃんもレナちゃんも上機嫌だ。
まだ一人だと怖いけど、レナちゃんやももこちゃんといれば頑張れる気がする。
「かえでもよくやったな。最近は上手く魔法使えてるよ。な、レナ」
「そ、それくらいできるならチームに入ったときからやりなさいよね」
「うぅ……ごめんね」
このチームに入ったばかりの頃は、レナちゃんに怒られたりしたから、つい落ち込んでしまう。
今思い返すと、本当に情けなかったなって嫌になる。
「レーナ。せっかくかえでのおかげで勝てたのにそんな言い方ないだろ」
「あ……あぁもう! 悪かったわよ!」
でもレナちゃんもすぐに謝ってくれて、私も安心する。やっぱり、レナちゃんは大切な友達だ、
たまに言い方がキツくなったりするけど、それでも根は優しいんだということを、私が頑張って取ったクレーンゲームのウサギのストラップがそれを物語ってくれる。
レナちゃんは2回で取ってくれたけど、私は5000円もかかったんだよなぁ。
「んじゃ、今日はこのくらいでお開きにしよっか」
ももこちゃんがパンッと手を叩いてたのを合図で、私たちは各々を家路についた。
あ、そうだ。帰りにホームセンターに寄ろう。新しい野菜の種やハッちゃんやペロちゃんの餌とかも買って帰ろう。
「……」
あれ?
なにか忘れてるような気がするんだけど……まあいいか。早く行こっと。
私は自分から買って出た彼の宿題を渡すことを忘れて、呑気に寄り道して帰ってしまったのでした。
そして──
「あーーっ!!」
私は夜中、自分の部屋で宿題をしようとしたときに、彼の宿題が鞄のなかから出てきて声をあげる。
そうだ、彼が宿題を持って帰るのを忘れていたから届けないと行けないんだった!
「ど……どうしようっどうしようっ!」
私はとりあえず時計を見る。時計の針は9時を刺している。今からやちよさんの家はそう遠くないし、今から行けばまだ寝る前には間に合うはず。
その時の私は、慌てすぎていて明日の朝にでも返すという考えが浮かばなかった。
「お母さん! ちょっと出掛けてくる!」
私は彼の宿題を持って家を飛び出して、夜の街を走る。
日が落ちて暗くなった神浜市はどこか幻想的な不気味さが感じられる。
やちよさん曰く、ここは他の街よりも魔女が多いと言われてるせいかそういう風な印象を受けてしまうのだろうけど、用心に越したことはない。
当然、夜の街には不審者とかの話も聞くけど、それも怖かったりするんだよね。
ちょっと茂みとかが風で揺られただけで悲鳴をあげてしまいそう。
だから私はできるだけ早く帰ろうと息を切らしながら必死になって走る。
「はぁ……はぁっ……」
魔法少女の私は、ももこちゃんやレナちゃんに比べれば体力は少ないけど普通の人よりは体力があったりする。
だからすぐにやちよさんと彼が暮らす大きな家にたどり着いた。
「やっと着いた~」
ようやくひと安心する。だけど、やちよさんの家には違和感があった。
人気がなかった。夜には家にいるだろうし、この時間でもさすがに寝ているなんてことはないはずだ。
出掛けてるのかな?
その時、得たいも知れない雰囲気を感じた私は、玄関を前にしたのにチャイムを押さずに庭の方に回ってしまった。
魔が、差してしまった。
いつも綺麗で、ミステリアス、女性から見ても魅力的なやちよさんが普段どうしてるのか気になってしまっ
「……」
……見つかったら怒られるよね。
暗い庭を進んでいくと、下宿として使われていた一室だけ電気がついていた。
この家にはやちよさんと、彼しかいない。つまりこの部屋に二人ともいるってことだよね。
勉強でもしてるのかな?
なら宿題も早く渡してあげないといけないのに。
……それでもあの部屋から感じる未知の雰囲気が、私の好奇心を逆撫でしてつい、こっそり中の様子を窓から覗いてしまった。
二人がいるであろうその部屋の中を。
そして──
「……っ!?」
私は、絶句してしまった。
窓から見た光景に。
「あっ、ああっ! あっあっ、んっ、んんっ!」
「やちよさんっ……やちよさんっ! やちよさんやちよさんやちよさん!」
部屋にいたのは彼とやちよさん。
二人とも裸になって、身をぶつけ合っていた。
やちよさんは魔法少女の姿のときに見せるキレイな足を大胆に広げて、腰を打ち付ける彼を受け止めている。
「き…気持ちいいですか?」
「え…えぇっ、気持ち、いい、わっ…、あ、そこ、もっと、おねが、んんっ!」
やちよさんは無理やりそれをしているわけではないのが、声からわかる。
懸命に腰を振る彼を優しく受け止めてる。
いつもクールで格好いいとすら思える顔も、幸せそうに蕩けている。
二人が何をしているのか、教科書でしか見たことがないけどわかる。
セックスだ。
お父さんとお母さんが、私を生むためにした行為。
保健体育の授業でならっただけで、それを実際見た経験はない。
「~~っ!?」
始めて見るその光景に私は言葉を出すことすらできない。頭のなかが真っ白になる。
向かい合ってる二人が繋がっている場所がはっきりと目に映ってしまっている。
「んぁっ、あぁっ、クる、一番、おっきいの、あぁ!」
「ぼ……僕も、やちよさんやちよさんやちよさんんんっ!」
二人はさらに激しく体をぶつけ合いながら、目を閉じてキスをしはじめる。
ファーストキスすら体験していない私は、舌を大きく絡み合うそれを始めてみる。それはさらに私の度肝を抜いた。
「んんんっ、ンッっ、んん──っ、ンゥウンンゥウンッ!」
激しく体を震わせ合う二人。深いキスをしながら、頬を深紅に染め、余韻に浸っている。
「……っ!」
その光景を最後まで見てしまった私は、目的なんてとおに忘れて庭から飛び出してしまった。
「はっ……はぁっ、はぁっ!」
無我夢中になって、来た夜道を走る。さっきまで走っていたのに、自然と体が前へ前へと動いてしまう。
その間、不意に下腹部が暑くなって汗をかいてるにしては下着が湿り始めてしまうのが変に気持ち悪くなる。
家に帰った私は、脇目も降らずに自分の部屋に入る。目の前に見たあの光景を忘れるように、ベッドに潜り込んだ。
「……」
それでも、下腹部の熱が収まることはない。むしろ布団にくるまっているせいかさらに熱くなる。
目を閉じても、窓から除いた光景が脳裏に浮かんで眠れない。
……熱い、熱いよぉ。
「ん……」
自然と下腹部に手が伸びる。下着越しに熱くなってるところを触れてみると、私の指先は濡れていた。
「んんっ、あ、あぁ……」
このときに脳に走る快感が、堪らなくなり下着を通り越してさらに奥へと指を押し込んでしまう。
「あっ…………あっ…………あっ………ああっ……」
触れれば触れるほど、さらにかき混ぜてしまう。声も殺そうとしてもでてしまう。
「あっ……ああっ……んっ、ああっ……あっ……」
指どころか手が熱いなにかでびしょびしょになり、指を動かすたびにぐちゃぐちゃと滴る音が耳に響いてそれを助長する。
確か……、やちよさんのここが、彼のアソコを……。
「ゆふ…っ、ぁあ、んっ、あっ、あっ、あっ!」
それを考えるとまた指の動きが激しくなる。からだの奥から何か大きな波のようなものが溢れてきそうになる。
それは指で触れている下腹部よりも熱いのを予感させ、その先が怖くなる。
でも──辞められない。指は止まってくれない。
「あっっ、ああッ! あっあっ、あっッ、ああっ!」
熱い、怖い、でもどうすればいいかわからないまま指を動かし続けてしまう。
やがて…そのときはやってきた。
「あッあッあアァアアアッ!」
視界がチカチカと揺らぐ。下腹部の熱が最高潮になり、そこから噴水のように熱いものが飛び出して手を濡らす。
「ぁ……あ、あつ……いぃ……」
波が過ぎ去ったあとの静かな余韻が漂う。
頭がほんやりしてまともじゃいられない。
熱いところから手を出して、目の前にしてみるとトロトロした液体が、指と指の間に絡み付いている。
「……」
……でも、まだ足りない。
きっと、二人が感じていた感覚はこんなものじゃない。
「ぁ……あっ、ん、あぁっ、あっ」
私は、また下腹部に手を伸ばした。
⚫
「──ちょっとかえで! そっち行った!」
突然、レナちゃんの叫び声が聞こえた私はハッとする。
『裹@螺t霞蠡k3m卷儺鱸atg/!!』
目の前には、レナちゃんやももこちゃん達が引き付けていたはずの魔女が私に向かって迫っている。
「きゃっ……きゃあ!」
私は咄嗟に飛んでくる魔女の斜線から飛び出て、攻撃が当たらずに済んだ。
「こんのぉ!!」
『彌眞謨¥♭簾鯆曁€輻₩nro──!!』
私がギリギリ避けることができて生じた隙を、ももこちゃんがすかさず狙ってくれたおかげで魔女を倒すことができた。
でも──
「ちょっとかえで! なにぼさっとしてんのよ! 昨日はあんなに上手くいってたのに!」
「ご……ごめんね」
厳しいレナちゃんは、私のこんなところは見逃さない。さっき避けられたのは運が良かったからだ。レナちゃんが私に叫んでくれなかったら私は今頃……。
もしそうなってしまっていたらと思うと、背筋が凍る。
「まあまあ、上手くいくときもあるし、そうじゃないときもあるよ」
ももこちゃんは、結果オーライだと言ってレナちゃんをなごませてる。
でも、今のは私が悪い。
「ごめんね、ホントに」
昨日、結局朝になるまで一人でするのを止められなかった。火照る体を鎮めるどころかどんどん熱くなる。
始めてみるその光景は、それだけ私の頭に焼き付いて離れないんだ。
「何かあったのか?」
落ち込んでる私を見かねたのか、ももこちゃんは私に訪ねてくる。
ドキッとしてしまう私は、一度昨日あったことを話そうかと考えるけど踏みとどまる。
もし、レナちゃんやももこちゃんに、二人のことを言ったらどれだけ動揺するかわからない。何より、勝手に家を覗いてしまったのをバレたくないな。
「あ、そういえば昨日の夜、思い出したんだけど、かえで。アイツの宿題ちゃんと渡したのか?」
「あっ……忘れちゃってて」
「アンタ、自分が買って出たことじゃないのよ」
「……ごめん」
レナちゃんは怒るのを通り越して呆れてる。そうだよね。昨日はあんなに調子がよかったのに今日は全然だ。
それに今日はちゃんと宿題、持っていかないと。
「私、今日は帰るね。宿題渡しにいきたいし!」
「お…おう。なるべく早くな。今のアイツが先生に怒られるところなんて見たくないし」
「そうだよね。じゃあ、もう行くねっ」
これ以上一緒にいたらボロが出てしまいそうになった私は、急ぎ足で二人と分かれることにした。
レナちゃんも、ももこちゃんも、不自然がっていたけどあんなこと言えないよっ……。
彼の宿題を鞄のなかに、私は彼が暮らすやちよさんの家に向かう。
二人が、あんなに激しく体をぶつけ合っていたあの場所にもう一度。
……なんだか、思い返しただけで変な気分になってきた。
「……」
それでも自分を圧し殺して、私は二人の家にたどり着く。
「──!?」
私は咄嗟に身を隠してしまう。
玄関からは丁度、やちよさんが家を出ていくところだった。
おそらく、魔女退治に出掛けたんだと思う。やちよさんは基本的にチームに属さない魔法少女だ。
たまに私たちを助けたりするし、報告会みたいなものを開いたりとよくしてもらっている。
だけど、どうも私たちから一線、距離をおいているような印象がある。だから、あのとき魔が差してしまったんだと思う。
……それがあんなことになるなんて。
「……」
私はなんで隠れたんだろう。
後ろめたいことはあるけど、それとやちよさんから隠れる理由なんてないのに……。
やがて、やちよさんと思われる足音が遠ざかっていくとワタシはどこかホッとして入れ違いになった彼がいるやちよさんの家の前に立つ。
昨日は勝手に庭の方の回っちゃっけど、今日はちゃんと玄関の前にあるチャイムを鳴らした。
「はーい」
すると、やちよさんのいない家から、彼の声が聞こえる。私はドキッとして身構えるけど、足音がどんどん近づく前になんとか心を落ち着かせることができた私は、彼を待ち構える。
やがて、ガチャリと玄関のドアが開いた。
「あ、かえでさん。どうかしました? やちよさんならさっき出掛けたばかりなんですけど」
「……あ、そのね。昨日、これ忘れてたから届けに来たの」
来る前から準備していた言葉を、たどたどしくても言えた。
プリントを差し出すと、彼は顔色を変えた。
「あっ、それ理科の宿題ですよね!? ありがとうございますっ!」
嬉しそうにそれを受けとる彼を見て、昨日のやちよさんとしていた時の顔がちらついて、変な気分になってしまう。
体が……熱くなってしまう。
「……かえでさん、大丈夫ですか?」
「……ぇ、えぇ!?」
「熱とかあるんじゃ……まさか、魔女退治でどこか怪我をしてしまったとか!?」
「ううん! そんなんじゃないの」
ここまで心配してくれる彼を見ているのと、昨日自分がしたことを思い出して嫌気がさす。
私がやったのは普通に怒られるようなことだ。それに勝手に悩んで。しかもチームのみんなにも迷惑かけて。
「そうですか。でも、とりあえず上がって休みませんか? 魔女退治で疲れてるでしょう?」
「……」
私は、断れなかった。
どうしてか、断りたくなかった私はやちよさんの家に上がることにした。
昨日、二人が激しく体をぶつけ合っていたここへ。
「今、お茶いれますね」
やちよさんがいつも報告会で開いているリビングに、私は腰かけている。
いつもはレナちゃんやももこちゃんも一緒で、優しいお姉さんのようなやちよさんが、お菓子や紅茶を運んでいた場所。
レナちゃんが勝手にドーナツを食べたせいで、やちよさんがちょっと怒ったけど、すぐに許してくれたのを覚えている。
それだけ思い入れのある場所なのに、ここにいることに現実味を感じない。
なぜかふわふわとした気分になる。
「お茶持ってきましたよ」
彼はリビングに戻ってきた。知っている紅茶の香りと一緒に。
「これ、かえでさんのお母さんが作ってくれた紅茶なんですよね。母が…大好きだったんですよ」
「……そうなんだ」
ちょっと悲しそうな顔をしながら、お母さんが作ってくれた紅茶を出してくれる。
何度も嗅いだことがあるそれは、私を落ち着かせてくれる気もするけれど、私の下腹部が熱くなるのを鎮めるほどではなかった。
彼はきっと傷ついてる。でも、それでも立ち直れているのはきっとやちよさんがいたからだ。
もしかして、やちよさんはあぁ言うことをしてあげたから彼は元気になれたのかな。
だったら、どうなるんだろう。
私が朝までしても鎮められなかった熱も、なんとかなるのかな。
……それだけ、気持ちがいいことなのかな。
ズルいなぁ。やちよさんは。
下腹部が、ドンドン熱くなるのを感じる。
もう、我慢したくなかった。
「……ねぇ」
私は、彼の名前を呼ぶ。紅茶を飲んでいた彼はキョトンとした顔をした。
「かえでさん?」
「……ごめんね」
私は、魔法少女の姿になった。
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