一匹狼の悩み
「ウソ・・・・・・でしょ・・・・・・っ!?」
レナは自分の見た光景がナニカの間違いだと信じたかった。
今日のかえで、なんか様子が変だと思ってた。
かえでがどんくさいのはいつものことだ。たまに我慢できなくなってキツく言い過ぎちゃうのは悪いって思っているけど、あんなに臆病で注意深いかえでが、戦いの最中にボサッとしてるなんて今までなかった。
だからレナはどうしても気になってしまい、ももことも別れてからやちよさんの家に向かうと言ったかえでの後をこっそり追うことにした。
なんぜかえでがやちよさんの家に行くのかというと、やちよさんの家には居候がいる。ソイツに用があるんだ。
ソイツは魔女に両親を殺されて、助けてもらったやちよさんに引き取ってもらっている。レナと同じ学校に通ってるらしいけど、学校じゃ基本誰とも話さないから初めて知った。
しかも、昨日の金曜日にアイツは理科の宿題を忘れたまま帰ったのをレナが見つけて、かえでが渡しに行くと買って出たからだ。それを忘れたんだからかえでもどうしょうもないヤツなんだけど、なんだかんだ言ってレナ達のチームには必要な存在なのは分かってた。
だけど、レナはそんな考えが全部真っ白に吹き飛んでしまった。
無我夢中になって私は飛び出した。小鳥に化けていたことも忘れて、叫びそうになるのを必死に堪えながら今のはナニカの間違いだと言い聞かせるように走り続けた。
自然と息が上がる。魔女と戦っていてもこうはならないのに、それだけ我を忘れている。動悸だって、血が逆流しそうなほど激しく脈打っている。
「ウソよ・・・あんなのウソよッ・・・・・・」
脳裏に焼き付いたそれは、激しく体を動かしながらでも容易に彷彿できた。
やちよさんの家にたどり着いたレナは、魔法で小鳥の姿にに化けていたからすんなり家の窓を覗くことができた。
そして、その中で見たのは、かえでとアイツが交合わっている光景だった。
大きく足を広げたかえでは、お父さんぐらいしか見たことがない男のそれを受け止めていた。相手はアイツだ。そして一番息をのんでしまったのはそこにやちよさんがいたことだ。
やちよさんは、今まで見せたこともないような蕩けた顔をしながら彼と口づけを交わしているかえでを受け止めている。
その常軌を逸した光景を見たとき、まるで頭をハンマーで殴られたような衝撃が走っていた実感がある。。
レナは、ナニカから逃げるように家に飛び込んだ。ママは帰ってきたばかりの私を心配してくれたけど、レナには構ってる余裕なんてなかった。
何も考えたくなかった私は、お母さんには何でもないとだけ言って部屋に飛び込んだ。いつもなら、大好きなアイドルのDVDでも見て気を紛らわしたいところなのにそれすらできない。
・・・・・・うぅ、なんなのよアレ。
かえでの体を貫いていた男性の象徴、それを受け止めて歓喜の混じったような声で身を振るわしていたかえでの姿。
全部が頭に焼き付いて離れない。
夕食も喉を通らずに、お風呂に入ってるときだって鏡に映った自分の裸を見て、どうしてもかえでとアイツがしていたこと思い出してしまうから落ち着くことなんてできなかったレナは、ベッドに潜り混んだ。
もし朝になれば、自分が今日見たことは夢になるんじゃないかと信じたかったけど、それが夢なんかじゃないってことくらい分かってるはずなのに・・・・・・。
きっと、認めたくなかったんだと思う。かえでがあんなことするなんて、信じられなかったから。
だから、夢じゃないと分かっていてもレナは潜り混んだ布団の中で瞼を閉じた。
●
「・・・・・・」
結局、昨日は全然眠れなかった。寝ようとしても、瞼の裏にあの光景が浮かび上がってきて普通じゃいられなかった。日曜日というのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
でもどうしよう。今日だってももこと魔女退治のために街に出るはずなのに、こんなんじゃ絶対戦いに集中できない。それ以前に、かえでに合わせる顔がない。
あんな姿を見たばかりなのに、一緒に戦うなんてできないよ・・・・・・。
「・・・・・・」
ももこには悪いけど、今日は断ろう。こんな状態ならいるだけで足手まといだ。
レナは自分の携帯に登録されている数少ない名簿の中からももこへメールを送る。とりあえず、今日は体調悪いから休むとだけ伝えておこう。
ももこも変なところで鋭いけど、まぁ、体調が悪いって言えば引き下がってくれるだろう。
「っ!?」
メールを送ってから幾分も経たない間に、レナの携帯電話が鳴った。メールじゃない。電話の着信音だ。
画面を見れば、ももこだとすぐに分かる。
どうしよう。前みたいに無視したりしたら余計に不自然がられるし・・・・・・。出るしか、ないよね。
意を決して通話ボタンを押して、恐る恐る耳に携帯を当てだった。
「レナ? あたしだけど」
当然、携帯の向こうからももこの声が聞こえてくる。
「あ・・・えっと・・・」
いざ体調が悪いなんて口実を作ったのにも関わらず、ももこの声を聞くとどう説明すればいいかわからなくなる。ももこのことだから、こういうときに心配して声をかけてくるのは分かってたのに。
「体調悪いって言ってたし、なんか声もやつれてるような気がするけど大丈夫?」
「えっと・・・今日はあれよ。その・・・・・・」
「あ、もしかしてアレか? なら仕方ないか。レナだって女の子なんだもん」
ももこが勝手に解釈してくれたおかげで、それらしい言い訳を思いつくことができたレナは、取り繕ったようにその話をする。
「そ、そう。今日は頭痛いから魔女退治できそうにないの」
「なんか、ごめんな。いくら女の子同士っていってもデリカシーがなかったよ」
・・・本当の月経はもう終わってるんだけど、そういうことにしておこう。昨日のことを考えると、余計に体調が悪くなってきそうだし。
「そっか、それじゃ今日はかえでとだけになるのか。あ、かえでにはちゃんと話とくからさ気にしないで良いよ」
「あ、かえでは・・・・・・」
ももこの口からその名前が出てきた途端、つい口に出してしまった。
かえでも、もしかしたら今日は戦えないかもしれないんだ。だって昨日、あんなことになっちゃったんだし。
「ん? かえでがどうかしたのか?」
携帯越しからももこの声が聞こえる。でもこんなこと、とてもじゃないけどももこには話せないよ。
「・・・・・・なんでもない」
多分、これ以上ももこと話していたら余計にボロが出る。そろそろ切らないと、気づかれてしまうかもしれない。
「そっか。でもさ、なんか合ったら相談してよ。話聞くくらいならいつでもできるからさ」
「・・・うん、わかった」
ももことの通話が終わる。
内心ホッとしたレナは、携帯電話をベッドに放り投げたあとそのまま自分の体すらも、同じように投げ出した。
柔らかいベッドは小さいレナの体を受け止めてくれる。
きっと、ももこには何か隠してるのはもうバレているかもしれない。いや、きっと勘づかれてるはずだ。なのに、わざわざ気づかない不理までしてくれて・・・・・・。
「・・・・・・何やってんのよ、ホント」
勝手にかえでもことを覗いて、ももこにもウソついて、汚い自分が嫌になる。
いつもそういう自分に嫌気がさしている。かえでのことだって大切に思っているはずなのに、家庭菜園の野菜つまみ食いしたり、ペットのことキモいとか、ペットのえさ代をちょろまかしたりとか、申し訳ないって思っているのに、結局うまくいかない。
だから、今回のこともレナはかえでになんて言えばいいかわからないんだ。
行き場のない気持ちが、閉め切った部屋に立ちこめている。そこにいるだけで息が詰まりそうになっている。
このまま目を閉じれば、本当に心臓が止まってしまいそうなほど、思考がぼんやりしていた。
「・・・・・・ちょっと、外の空気でも吸おう」
ベッドから起き上がったレナは、部屋の窓を開けてベランダに出る。
窓から突き抜ける新鮮な空気を風が運んできて、籠もっていたものが少しだけ解けていくのを感じる。ため息のような深呼吸だとしても、ごちゃごちゃになりすぎた頭を整理するのには十分だった。
とりあえず、明日からはちゃんとかえでと話そう。盗み見したことは黙っておいたほうがいいだろうけど、ももこにまで知られる訳にはいかない。
ウソは自信がないけど、かえでもあまり話したくないだろうからなんとかなるだろう。
ゆっくりと、これから自分がするべきことを順序立てていると、また、レナの携帯電話が鳴った。
予告もなく音が出てきたからビクンっと肩をふるわしてしまう。
携帯は、レナがさっき放り投げたベッドの上。
メロディはすぐに止まない。だとすればメールではなくて電話だ。ももこからと思ったけど、急いで部屋に戻って携帯を手に取れば、誰からかかってきたのかすぐに分かった。
「かえで・・・」
携帯の液晶画面には、かえでの名前が記されていた。
明日と思っていたことが、今起きようとしている。そう思うと、急に怖くなってくる。ちゃんと話せるのだろうか。不自然に思われて勘づかれたりしないだろうか。
一定の周期で鳴り響くメロディが、レナの焦燥心を煽る。だめだ。ここで出ないと余計に怪しまれる。
「もしもし?」
通話ボタンを押して、電話に出る。声が少し震えてしまっているのを、隠すことができなかった。
「あ、レナちゃん?」
携帯からは、レナやももこよりもずっと女の子っぽい声が聞こえる。かえでの声だ。耳に入ってくる口調は、どこか機嫌がよさげというか、ハキハキと話している印象だった。
少なくとも、昨日の姿など思わせないような。
「さっきももこちゃんから連絡が来たんだけど、今日は魔女退治、お休みするんだよね?」
ももこ、もう連絡したんだ。
それと、かえでが何も知らない辺りから察するに、多分ももこはかえでにはレナが休む理由を話してないんだと思う。
やっぱりバレてたんだ。また悪いことしちゃった。
「・・・そうよ。悪い?」
「ううん。そんなことないよ」
かえでのくせに、随分と物わかりが良いような。いつもならももこみたいに何か探りを入れようとするけど結局言い出せないみたいな感じの雰囲気出すのに、なんだか鏡の魔女の迷宮で戦うかえでの偽物と話しているみたいだ。
「それならね、今からちょっとレナちゃんのところに寄っていい?」
「えっ?」
突然の提案に息を呑んでしまう。そりゃ、ももこやかえでとはたまにうちに遊びに来たりするけどそれもたまにだ。普段は魔女退治のあとカフェとかで休んだりするのが当たり前だったし。
かえでがいきなりそういうことを言ってくる自体が珍しい。
ただ経験則、かえではこういう雰囲気のときは何か企んでるときがというのは容易に想像できた。
「ダメかな?」
「・・・・・・えっと」
このとき、レナは断る理由を思いつくことができなかった。かえでと話すなんて藪から棒すぎて何を話せば良いかわからなかったからだ。
結局、レナはかえでを家に呼ぶことになった。正直不安だったのが、携帯越しから聞こえるかえでのいる場所に他に誰かいそうな気配がしたような気がしたのに。
……しばらくすると、玄関の方からチャイムが鳴る音がした。
ここまで来て追い返すなんてできなかったレナは玄関を開ける。そして、目の前の光景に心臓が止まりそうになった。
「あ、どうも……」
ニコッと笑うかえでの後ろには、昨日、かえでと身をぶつけ合っていたアイツがいた。
「な、なんでソイツまでいるのよ!?」
「えっ、かえでさん、レナさんに話してなかったんですか!?」
声をあげると、アイツまでびっくりした顔をする。だけど、かえでは何食わぬ顔をしているだけだった。
「あ、ごめんね。忘れちゃった」
忘れたって……。
昨日も似たような言ってたじゃない。いつもなら、もっとキツイ言い方になるけど今はどうしても弱気になってしまっている。
「でも、別に初対面でもないからいいかなって」
……まさか、かえで、自分の彼氏を自慢しに来ただけ?
かえでらしい無邪気な笑みを浮かべているのを見ているとなんとなくそういう風にも見てとれる。
前にも、ペットの蛇を見せてきたりしたこともあったし。アレは冗談抜きでキモかったんだけど、似たようなものなのかな。
「……まあ、上がったら?」
なんか二人の考えがわかってきたせいか、いつもみたいな感じの悪い言い方で二人に答えることにした。
今日はお父さんもお母さんも、弟をつれて出掛けてる。だから、二人を家にあげるのはそう困ることじゃない。
「お邪魔するね」
「僕も、お邪魔します」
二人をレナの部屋に案内する。かえでを部屋に呼ぶのは何回かあるけど、男を部屋に入れるなんて初めてだ。
「適当に座っといて」
……でも、かえでに彼氏かぁ。想像つかなかった。いや、それこそレナなんかよりずっと女の子らしいんだから仕方ないだろうけど。
なんでやちよさんがいたのかはわからないけど。
「ねぇ、レナちゃん」
とりあえずレナも適当なところに座ろうとしたとき、かえでに名前を呼ばれて振り返る。
「なによ?」
「私達ね、付き合うことになったんだ」
予想通りの言葉がレナを貫く。
かえでらしい無邪気な笑顔に、言葉をなくしす。
「……ふーん。それで?」
棘のある口調で返すけど、かえでは機嫌を損ねたりしなかった。
「えっとね、私考えたんだけど」
「?」
「レナちゃん『も』どうかなって」
突然言われた意味のわからない言葉、それを聞き返す前にかえでは左手に指輪としてしまっているソウルジェムが姿を見せる。
「――え?」
次の瞬間、レナの視界は紅葉色に輝く光に遮られた。
まどかさんとレナちゃんレベルのレベルを80にできました(覚醒はまだ)
やちよさんも一段階覚醒、素材集めもなかなか順調です。
ただ、気になってた五十鈴れんのイベントが尊すぎてR-18なんて書けない(血涙)