※この作品はR-18です。

恥丘征服   作:トラロック

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06 チャタル・ヒュユク

 

 次の日、早々に帝国から離れて自宅を目指す。

 直線的に移動しても一日二日はかかる。転移魔法なら一瞬だが。

 のんびり馬車移動するわけにはいかないけれど、少しだけ時間をかけて『チャタル・ヒュユク』に戻り、獲得した動物モンスターを保管しておく。

 一週間ほどの留守にも関わらず、外も中も特に異常は見られなかった。

 

「……淡々とした日々だ……」

 

 取り立てて変わった事が無い。日記を書こうとしても今日は特に何も無かった、としか書けない。

 様々なニュースが手に入る近代的な時代ではないから仕方が無いけれど。

 便利な時代に生まれた弊害だ。

 物事は本当はとてもゆっくりとしか進まないものかもしれない。農村に住んでいる人達は収穫を終えれば次の収穫の用意と季節ごとの対処に家畜の世話。

 意外と仕事が多いな、とナコトは何となくだが思った。それくらいの忙しさが必要かもしれない。

 確かに冒険者の依頼を毎日のようにこなせばいいのだが、他の冒険者の分を取るのではないかと気を使ってしまう。

 サラリーマン根性が根強く残っているせいなのか。

 他の都市の仕事内容も調べておく必要がある。

 

「それはそれとして……」

 

 だだっ広い地下施設の中を歩く。

 何も無い部屋に少しずつ物を置いていくと少しは賑やかになる、と頭では思っていた。

 実際はあまりにも規模が大きすぎて一生かけても部屋を満杯にすることは出来ないのではないか。

 大人用のベッドを適当に並べてみたものの数十万体でも足りない気がする。そして、それにもまして天井が高い。

 二階層の部屋でも相当な高さがある。

 金貨の部屋に数百枚ほど散らしてみたが小銭にしか見えない。

 何のありがたみも無い。むしろ、上から落ちてくる金貨が凶器に見える。

 三百メートル以上の高さから小さい貨幣とはいえ落ちてくるのだから迂闊に真下に居れば頭に刺さってしまう。

 それはもうガスっと。

 下手をすれば人体を貫通するのではないか、と。

 

「……適度に浮遊する何かを置いておきべきか」

 

 緩衝材となる物は必要だと思う。

 とりあえず、ベッドを置いてみる。

 小さな貨幣を落としてみると掛布団に刺さることは無いが、見ている分には少し怖かった。

 擬音的にポスっとなる程度だが。

 浴場は使う時に沸かすことにして停止。

 他は荷物の搬入以外は特に珍しいことも無い。

 大規模な家畜小屋だと思えば楽かもしれない。

 

「羊皮紙だけあっても駄目だった」

 

 自前で色々と物資を集める為には購入以外にも生産も出来た方がいい。

 羊皮紙の材料は農家に任せているが次はインク類だ。

 壁に時計と光りを設置したり、外に試験的に温室などを設営したりする。作物は無いけれど。

 それとタオルや布団類の乾燥場も必要だ。

 後は思いついた時に追加していけばいいと判断し、地上の自宅に向かう。

 地上と地下を往復しなければならないのは少し面倒だが位置を変更する事が出来ないかもしれないので我慢するしかない。

 あまり移動が自由だと他人に利用されるおそれもありそうだ。

 空中要塞などはどうなるのか疑問になってくるけれど、メインとなる施設を確保するだけならば少しは安心できそうだが、そのあたりも色々と調査する必要がある。

 まず地下施設の地図を確認する。

 個人のコンソールなら既知のマップはだいたい表示できる。

 自分と相手キャラクターを点で表したり、時間とか何がしかの表示があったが今は最低限度のものしか出てこなくなった。

 まず折角作った屠殺場(ルヴァ)にンフィーレアと女淫魔(サキュバス)を配置する。

 普通なら二人共ぐったりと寝転んだまま動かない。

 大きなおっぱいは触り心地が良かった。他の利用方法が全く浮かばないのが勿体ないぐらいだ。

 

「まずはステータスの確認から」

 

 専用の魔法があったりするがコンソールで出来る機能を確認する。

 仲間なら専用の項目があり、敵の場合はコンソールで確認することは常識的には出来ない。

 もし出来たら誰も苦労はしない。

 

「……出ない場合はどうすればいいのやら。………」

 

 フレンド登録するのが一番の早道なのは分かっているが、そのフレンド登録の項目が存在しない。

 これが無いと『同士討ち(フレンドリーファイア)』を設定できず、味方に攻撃が通ってしまう。

 

「試しに……。仲間になります、と言わせてみるか……」

 

 何事も一歩から。

 冒険者でチームを組むのに特別なことは無いと聞いている。

 気の合う者同士集まってチーム名を付けるだけの簡単なものだったりするとか。

 正式なギルドの設立には色々と面倒な決まりごとがある。それがそのままこの世界でも同じかは分からない。

 言わせる為だけにいちいち現場に行かなければならない。

 転移だと早いが阻害対策すると面倒臭くなる。

 そのあたりも考えておかなければならない。

 

「上がったり下がったり……。命令伝達システムの構築も必要だな」

 

 執務室の机で気になった事を次々とメモしていく。

 真面目に作業しているとサラリーマン時代の事務作業を思い出す。

 平凡な人間が異世界で何をしているのやら。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 簡易的な命令にもかかわらずメンバー登録があっさりと成立していた。

 確かに仲間になるのに複雑な手続きはこの世界では無さそうだし、そうじゃないかなという予感はあった。

 ゲームの中でのギルドの設立というのはイベントと同義で、色々と面倒な手続きを必要とする。

 単なるフレンド登録とはまた違っている。しかし、ギルドマスターになった事がないのでナコトはあまり詳しくは知らない。興味も無かった。

 試しにクビだ、と通告すると名前欄から消えた。

 

「………」

 

 あっさりしていると逆に不安だ。

 それでいい世界だと思うことにする。

 仲間になった途端にステータスが確認出来た。当たり前かもしれないけれど、これは中々油断できない事ではないのか、と不安をまた感じる。

 つまり今のナコトはギルドマスターという立ち位置に居る事になる。

 でも、ギルド武器は無いので、詳しい調査は時間をかけなければならないので、今は目の前の事に集中する。

 拠点を確保するともらえるポイントは無さそうだ。というか自力で作り上げた施設にボーナスなんてものがあるのか疑問だ。

 ポイントが得られないならNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)を創造する事は出来ないので一覧表には載っていない。

 メンバーリストにのみ名前が記載されている。

 

「……名前が出ているのは色々と不味そうだな……」

 

 他人のキャラクターの秘密が暴露されているに等しい。これが露見するとナコトにとって不利になる可能性が高い。

 こういう場合は発覚する前に証拠を隠滅するのが吉だ。

 またはリストから外してしまえばいい。勿体ないし。

 

「……レベル100か……。オリジナルのアイテムは共有していない、と……」

 

 もし共有していれば、こっそりと奪う事が可能になってしまう。

 便利な反面、バレると恐ろしい。

 ほぼ複製にもかかわらずステータスはオリジナルと一緒だとは。

 試しに同じ個体を起動させると同(・)じ(・)名(・)前(・)が並んだ。

 名前の変更はクリエイトツールで出来た。

 髪の色とか他にも変化できそうな部分を調査していく。全く同一では後々混乱する。特にナコト自身も。

 うっかりオリジナルを処分しては一大事だ。

 

「……他にも気になるが……。そろそろ真面目にしないとな」

 

 服まで複製は出来ないので裸だが、服飾の用意も考えておく事にする。

 まずンフィーレアに魔法の行使を命令する。MPの補充要員を用意し、後はひたすら放ち続けてもらう。その間にコンソールで彼の経験値の増減を確認する。

 現場ではひたすら魔法を唱える光景が拝めるけれど、コンソールは持ち込めない。

 高レベル相手に魔法を使っているので結構な量の経験値が溜まって行く。

 本来は討伐した方が一気に増えるがレベル差が離れすぎているので、現時点では不可能に近い。

 実際、魔法一発受けても女淫魔(サキュバス)のHP(ヒットポイント)は1ポイントずつしか減っていない。

 全てのスキルを解除するように命令しているからダメージを受けているのだが、ある程度の時間になると少し回復する。

 それはMP(マジックポイント)の回復と同じ原理かもしれない。

 一度減った体力は絶対に自然回復しない、わけではないので。

 その影響で女淫魔(サキュバス)のHPは減ってもすぐに満タン状態に戻ってしまう。

 数値の変動としては極端に増える事は無く、逆に減っていないようなのでしばらく放置してみる。

 三日もあればレベル50になれるくらいの経験値が溜まるかもしれない。

 おっぱいで魔法を弾くかどうかに少し興味があるが。

 丁度いいレベル差があるので別(・)の(・)ンフィーレアに浴場の方で頑張ってもらう事にする。

 まず睾丸だけ除去しておく。

 後はひたすら性交し続けてもらう。これでも経験値が入れば凄い。

 

「……増えてはいるな」

 

 攻撃魔法ではなく、ただの行動だ。それでも何がしかの経験値になっているようだ。

 このまま続けていくと未知の職業(クラス)を得られたりすれば面白い。

 性交で得るクラスは何があるのか。

 しばらく悩んでみたが全く浮かばない。

 同じようにエンリとマーレという闇妖精(ダークエルフ)で試しておく。

 卑猥な風景に対して他の者は羨ましいと思うか、それとも見ている方が興奮すると思うか。

 実体験してがっかりするなら観賞で充分という事もある。

 ナコトとしてはきっと後者かもしれない。アバターで得られる快感などあまり期待できないようだし。

 感じ方は人それぞれだとは思うが率直な感想を知りたいと思う時がある。出来れば全否定以外の感想がいい。

 変な事が始まったが、黙っているのも暇だ。

 実験的に動かしてはいるが、本命はオリジナルでレベリングする事だ。

 失敗した時のレベルダウンの方法が適用されるかどうかも知っておかないと困ると思うので。

 失敗したから死んで、とは言えない。たとえ言えたとしても相手側はすんなりと死んでくれたりはしない。自分でも断る。アバターでなければ絶対に。

 復活費用もまだ充分に用意できていない。

 待っているのも暇なので一の部屋(アーソナ)に向かう。

 誰も居ない施設は次の部屋に向かう時、誰かが居るのではないかと胸の置くが騒ぎ出す。

 寂しい気持ちを感じるからなのか、臆病な部分があるからなのかは分からない。

 内臓系を保管するようになっているので人間的に恐怖を感じているのかもしれない。しかし、それは至極当然の感情とも言える。

 何も無い部屋に一人で地味に作業するのは精神的に良くない気がした。やはり強引にアルシェ達を探しておけば良かったかな、と思わないでもない。

 次の日に街に向かい、買えるだけのベッドを注文しておく。といっても百体は多すぎるので十体ほど。

 近隣に出来た新しい村に顔出しもしておかないと不安に思われると思うので、村人に気さくに挨拶しておく。

 人付き合いは大切だ。

 更に数日後にベッドが届き、それぞれ設置していく。

 それらを一人で作業していることに意味があるのか、と不安に思う事が多くなる。

 寂しさには勝てない、ということか。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 一の部屋(アーソナ)の地下二階層にベッドの他に仕切り板も設置し、容器別に並べていく。

 腐ってはいない筈だが乳房を並べてみる。

 血が通っていない単品なので、いずれは腐りそうだが保存の魔法が機能していれば問題は無い。けれども魔法による効果がちゃんと機能するのか、現地の人間ではないナコトには理解出来ない概念かもしれない。

 単に触りたいだけで集めたわけだが、別の活用方法が無ければ全くの無駄なものに成り下がる。それは他の内臓系にも言えるけれど。

 

「………」

 

 よくよく考えれば今の段階でどうしようもない事に気付く。

 レベリングにより、必要な職業(クラス)を得る事が先決だった。

 折角並べたものだが元の場所に戻して、それからため息を吐く。

 気長に取り組むしかないことは理解した。

 数日間かけて容器の追加注文をし、地味な冒険者の仕事を再開しておく。

 近隣の村の作物の状況も忘れずに確認すれば日にちはあっさりと過ぎていく。

 半月も経てば結構な経験値は溜まった筈だし、放置したままだと餓死するかもしれないので身体(しんたい)の調査は丁寧に行(おこな)った。

 治癒担当を側に置いておいたのは正解だった。

 

「経験値の割り振りは……どこまで出来るかな」

 

 モンスター討伐では無いものは微々たる増加だが、新しいクラス取得の条件が満たされているかもしれない。

 中水月(三年目の五月)になると村々の活動が活発化する。

 施設内は外の喧騒とは無縁なので時間経過が曖昧になっている。

 容器類は増えた。次はモンスターを捕獲する作業に移るべきかと思案する。

 単なる攻撃だけでは経験値は増えにくい。卑猥なことも一緒だが。

 やはり実際にモンスターを捕まえて討伐するしかない。今のままでは百年くらいあっさりと経過してしまう。

 決断は早い方がいい、という事で近くの狩場としてはやはり南方が相応しい。

 近くにスレイン法国があるが、ちょっかいをかけられれば迎え撃てば良いだけだ。

 運が良ければ祖対が増える。更にエルフの国の所在も分かるかもしれない。

 ナコトは早速行動に移る。もちろん、魔法を行使する作業は人数を増やして継続しておく。

 まず山を越えた先にあるアベリオン丘陵に向かう。

 海沿いにはローブル聖王国があるのだが、荒野にはたくさんの亜人達が日々、人間の国に攻め込む為の戦力を整えているという。

 基本的に動物が二足歩行している生物なのだが異形との違いが分けにくい。

 魔法の中に亜人に効果があるものがあり、それで区別する事が出来ると言われているが見た目では区別できそうにない。

 とにかく化け物だ。その理解で今はいいと判断する。

 最初は豚鬼(オーク)しか住んでいないと思っていたが実際には多種多様な種族が居て驚いた。

 猿、鼠、山羊。馬に蛇。蛙や蛞蝓(ナメクジ)のような姿もあった。

 魔法を使う人食い大鬼(オーガ)の種族。

 とにかく、片っ端から捕まえて吟味していこうと思った。

 種類別に十体ほどを目標に行動を開始する。

 闇夜に紛れて動けば大きな騒動には発展しないと思うが、まず襲うよりは拠点作りから始めておく。

 別に急いでも相手は逃げないので。

 森の奥にグリーンシークレットハウスを収める場所を確保。容器類は充分な数がある事を再確認しておく。

 後は無言で行動するのみだ。

 最初に捕まえたのは山羊人(バフォルク)。山羊が二足歩行した種族だ。

 土精霊大鬼(プリ・ウン)。水精霊大鬼(ヴァ・ウン)。この二種は人食い大鬼(オーガ)の近親種と言われている。

 他には蛇王(ナーガ・ラージャ)。守護鬼(スプリガン)。獣身四足獣(ゾーオスティア)。

 蛇身人(スネークマン)。鉄鼠人(アーマット)。洞下人(ケイブン)。藍蛆(ゼルン)。刀鎧蟲(ブレイダー)。馬人(ホールナー)。人蜘蛛(スパイダン)。石喰猿(ストーンイーター)。半身半獣(オルトロウス)。半身半馬(ケンタウロス)。魔現人(マーギロス)。翼亜人(プテローポス)。

 途中からは捕まえた亜人達からの情報だが、色々と居る事は分かった。

 殺戮が目的では無いので用が済めば開放する。藍蛆(ゼルン)は亜人ではなく異形種だと判明した。

 もちろん帰す前に記憶を消しておくことは忘れない。

 無駄な殺戮をすると後々うるさい事態になるので。

 他には居ないかと思ったところで聖王国にたくさん人間が居ることに気付く。しかしすぐに今回は行かない事にした。

 脱線すると目的を見失うからで、数ヶ月先に行く事をメモに書いておく。

 あくまでもスレイン法国よりに活動するのが今回の目的だ。国は逃げないし、いきなり滅びたりはしない筈だ。

 土精霊大鬼(プリ・ウン)が居るなら他の属性も居るのでは、と思った。

 例えば風精霊大鬼(バー・ウン)、火精霊大鬼(ア・ウン)。雷精霊大鬼(イン・ウン)など。

 全ての亜人が一箇所に集結している保証は無いので、それらは何所かに居るかもしれない。しかし、亜人である必要も無い。

 ようは適度にモンスターであればいいだけだ。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 一通りの数を用意できた次は一旦帰還し、荷物の入れ替えをする。

 その作業の繰り返しになる。

 往復するだけで三日は消費され、経験値の積み重ねの確認作業も適度に行(おこな)う。

 それだけみれば立派な仕事なのだが内容は酷いものだ。

 一人で作業するしかない現状では色々と面倒臭い。

 

「経験値の量はどうなったかな~」

 

 高レベルに低レベルが攻撃しているので効率よく増えている。だが、倒しているわけでは無いので増え方自体は微増。

 ゲーム的なレベル差による討伐不可能域というものが効率化を邪魔している。

 倒せないわけではない。

 

 倒しきれないだけだ。

 

 ただの一般人程度のキャラクターがハイレベルエネミーに打つ勝つのは都合のいい方法があったとしても至難の技。

 そこら辺は『ユグドラシル』ならではといえる。けれども、ここはゲームの世界ではない。その筈なのだがゲーム的な仕様が随所に散りばめられているところから、この世界がどういうものなのか大よさの見当は付いている。

 少なくともユグドラシルの続編ではない。

 その根拠は単純にして冥界だ。

 制作会社にここまでの世界を構築する能力が無いだけだ。

 もっと言うならば現代日本の技術であっても不可能だ。

 どんな高性能なコンピュータを用いたとしても不可能である事は不可能だとしか言えない。

 

「だからこそ……。こんな馬鹿げた事が可能となっている」

 

 量子コンピュータと呼ばれる前時代の骨董品でも再現出来ないものがある。

 だが、ここは仮にありえない事を想定するならば正しく空(・)想(・)を(・)具(・)現(・)化(・)した世界だと言える。

 机上の空論はどんなに時代が進んでも決して実現しないし、実現してはいけない禁忌の技術だ。

 それこそ魔術と魔法も持ってこないと。

 

「……そんな事は現代人の自分には考えるだけ不毛だが……」

 

 自力で地球に行く計画を立てている自分にとって大事なのは世界の謎の解明より、形となった計画の方に比重が傾いている。

 自分の予想では真っ当な方法のままでは決して不可能である。

 それが例え地球に到達できたとしても、それはきっと変わらない。

 そ(・)れ(・)を解決しない限り、一歩前にある分厚い壁は乗り越えられない。

 少し真面目に思考したが今の時点ではどうにもならない事は確定している。

 だからといってのんびりしていればあっと言う間に老衰で死んでしまう。そうなれば全てが台無しだ。

 ナコトとしては生き急ぎたくない。

 数十年先まで余裕のある冒険が出来れば満足ではある。けれどものんびりし過ぎは良くない。

 既にあっさり三年が経過しているのだから。

 

「……しかし、部屋を満たすほど容器を詰め込めるのか……」

 

 全体としてはまだ微々たる数だ。

 増やしていないから当たり前とも言えるけれど。

 いずれは竜(ドラゴン)などの大型も入れる事になるのかもしれない。

 その時はどうやって入れるのか悩むし、入れる容器がそもそも存在しない。

 大型のプールを別途作る必要がありそうだが、今はそこまで考えても仕方が無い。

 その前に容器を購入する代金が莫大になる。ここはスキルで生産できるようにしたい。

 その為の錬金術師(アルケミスト)であり、生産系クラスの確保だ。

 狙うは品目細工人(アイテム・スミス)。というか職人系は一通り揃えたい。

 

「一人で活動するのはやはり……」

 

 大変だ。

 あれこれ同時進行で作業するには頭数が圧倒的に足りない。

 モンスターを捕獲する係。

 施設の見回りをする係。

 レベリングを管理する係。

 コンソールを操作する係。

 村人たちに挨拶する係。

 税金管理する係。

 

「……一度に出来るかボケナスが……」

 

 つい本音が言葉として出てしまう。

 深くため息を付きながら複(・)数(・)人(・)のンフィーレアが魔法を行使する様子を眺める。

 治癒魔法だけではいずれ餓死するのではないかと思うのだが、どうやって食事を取らせるべきか。

 料理人(コック)の確保も必要のようだ。

 

「色々と欲しい物があると集めるのも一苦労だ」

 

 やれやれと呟きつつ外に出る。

 農家に頼んでおいた山羊が数頭放牧されている。もちろん、家畜類はいくつか居るのだが、こちらの餌管理は村人の協力で今のところ問題は無い。

 次はスレイン法国方面に行くべきか、その先にある竜王国に気晴らしに行ってみるか。

 獣人(ビーストマン)が手に入るかもしれない。

 遠いのが難点だが。

 

 そもそも『チャタル・ヒュユク』自体、王国のどの都市からも遠い。

 

 交通の便が悪いのは不可抗力だから諦められるが、楽をして王都の近場では秘密の作業がやりにくい。

 あまり北上すればアーグランド評議国や謎の闇妖精(ダークエルフ)の感知に引っかかりそうだ。なので、この辺りが無難なのだが捕獲の度に記憶を消すのは何かと面倒だ。そうは思うのだが切れ味のいい武器も捨てがたい。

 近隣の村人を五十人集めたとしても部屋を満たす規模にはまだ程遠い。尚且つ、天井が高い。

 積層構造であれば十万人は余裕を持って収納できるのではないか、と。

 移動が大変になるし、隠蔽作業は出来なくなりそうだ。

 集めても活用できなければ意味が無い。だからこそ選定はとても大事だ。

 

「そういえば地球に行く目的があったっけ?」

 

 宇宙開発は想定ないとしても自力での期間はものの勢いかな、と疑問に思う。けれども目標は大きい方がいい。

 荒唐無稽でも構わない。

 とにかく月には到達したい。

 四季で言えば春も中ほど。施設の周りは活気付いて居る筈だが外に出ないナコトにとっては季節感があまりない。

 買い物に出かける事はあるし、荷物の搬入時には外に出る。

 それと家畜の飼育もしなければならない。

 育ちが早い仔山羊などはさっさと処理しておかないと困る。

 問題はただ保存するだけでは駄目だという事だ。

 地上と地下を往復すれば下水月(三年目の六月)に入った。つまりアルシェを取り逃して半年程経過した事になる。

 帝国にいちいち確認に行くのも面倒くさくなったけれど帝国魔法学院の生徒の問題も残っていた。

 それはそれとして備蓄の食糧が随分と溜まったので地下に運び込み、保管庫となる部屋の増設を検討しようかと思う。

 意味も無く並べていればいずれは腐ってくるかもしれない。そこは放置できない問題だ。

 新しい月に移動したので地道に続けていたレベリング結果を確認しておく。

 

「……やはり微増か……」

 

 微増と言ってもレベルアップ程度は溜まっている。

 問題は新しい職業(クラス)の取得だ。

 錬金術師(アルケミスト)と医師(ドクター)を既に取得していた彼の次なる発展は上級職への道だ。

 職人(クラフトマン)も持っているので発展させ創作者(クリエイター)を充実させる。

 神の手(ゴッドハンド)も取れれば取得させる。

 少しレベルが上がったのなら魔力系も増やしておく。そうすればモンスター討伐も効率的になる。

 というか、経験値の割り振りがちゃんと出来た事に感動を覚える。

 この調子で職人系の人間を色々と試すのもいいかな。

 地上の事務室にて色々とメモをまとめていく。

 資料をまとめないと忘れそうだ。それくらい色んなことに挑戦している自分に気がつく。

 

「あっ、そういえば本体が死んだ場合……。ほとんど台無しになるんだった……」

 

 その場合はやむを得ず廃棄するしかない。

 重大な失念していたとは情けなくて言葉もない。

 

「またやり直しか……」

 

 NPCは放っておいてもいいとして、一般人は取り直ししなければならない可能性が出る。

 また地道な収集か。

 今度は完全な誘拐になってしまうし、本物の『複製(クローン)』を使うにはまだ色々と足りないものがある。しかし、この魔法とて弱点はある。

 悔やんでも仕方が無い。生きている素体だけで活用しなければ。

 本体が既に死んでいるかは流石に確認しようがない。それが一番難しい問題だ。

 確保した素体の殆どを処分するのは勿体ないが持っていても腐るだけ。

 ナコトは唸りつつ新しい職業(クラス)を選定する。

 ンフィーレア達はおそらく無事。

 急にやる気が無くなってしまった。それでも証拠隠滅が自動的に出来ると思って諦めるしかない。

 幸い、死にそうにない者が居るので作業の全てを否定されたわけではない。

 

「……せっかくの様々なおっぱい達が……。ああ、クレマンティーヌ……と……」

 

 聖王国で新しい出会いがあったりするかもしれない。それにまだ森妖精(エルフ)の国がある。

 それと謎の漆黒聖典。

 とにかく、悔やんでも仕方がない。さっさと必要な職業(クラス)を確保する作業を続ける。

 モンスターは後で別の方法を取ることにする。

 

「まずは錬金術師(アルケミスト)と職人(クラフトマン)を充実させておくか」

 

 とにかく一人でも高レベル帯に置いておけば作業もはかどるかもしれない。少なくとも高レベルエネミーを多く倒さなければならないので。

 それと自動人形(オートマトン)の増産と廃棄を繰り返しておく。

 金属の身体であることが幸いしたのか、換金率が高い。

 治癒魔法で充分という点も素晴らしい。

 高レベルのNPCのお陰で作業効率自体は随分と高くはなっている。けれども命令を正確に与えなければ十全に機能しない所は心許ない。

 とにかく、魔力譲渡を駆使して増産を繰り返せば一週間ほどでンフィーレアのレベルを格段に上げる事が出来る。

 それと金貨も随分と山盛りになってきた。だが、実際には数千枚程度だと思うけれど。無いよりマシだと思うことにする。

 とにかくまずさっさと最高レベルにまで到達してもらう。それから色々と応用すれば良いだけだ。

 三の部屋(ルヴァ)に移動し、まず適度に増やした自動人形(オートマトン)を配置。それと騎士(ナイト)職を持つ高レベルエネミーである女淫魔(サキュバス)を複数用意。それと魔力譲渡と治癒担当を多数配置。

 後は解体、治癒、魔力枯渇時に譲渡するように命令し、放置。

 一連の流れ作業を命令によって自動化してみる。

 ナコト一人で地味な作業するのは大変な労力だ。ならばゲシュタルト崩壊しない担当に任せておけばいい。

 問題があるとすれば命令以外の行動を取らなかった場合だが、これはトライアンドエラーで改善すればいい。

 低位のモンスターより失敗が少なくて済む筈だが、どうなるかは後日判明する。

 広い部屋の一角だけしか使えなかった仕事も多数で効率よく運用する。それが十全たる仕事といえる。

 地上に向かい、気分転換に運動し、近隣の村々に挨拶周りをしておく。

 その中の数人はこっそりと誘拐でもしようか、と思うだけで実行には移さない。

 必要な素材が揃えば確保も辞さないが、色々と抜けがある今の段階では待つことしか出来そうにない。

 収入に関して余程の天候不順が起きない限り、税収入に問題は無い。

 羊皮紙生産をする予定だったが仕事が立て込んで忘れていたが、育った仔山羊は処分するしかない。

 準備なしでは色々と問題が発生するのはどこの世界でも一緒のようだ。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 広い部屋を数日放置した程度では溢れるほどの増加は起きず、その間にナコトは都市観光を行(おこな)っていた。

 当初の案ではアルシェ達を迎え入れて色々と作業をする筈だったのだが、失敗に終わった。

 彼らが死んだ、という噂は聞かない。

 気に病んでも進展しないので冒険者家業を少し経験しておく。

 新しいモンスターの情報が手に入るかもしれないと思って。

 あと、武器屋に行って色々と品物を物色し、魔術師協会で魔法の調査も行(おこな)ってみる。

 この世界にしかない魔法というものがあるらしいので。

 

「……もう三年も過ぎたのか……。それなのにさっぱりイベントが進展しない……」

 

 転移ものにありがちな騒乱イベントが起きていない。

 騒動を避けているから気付かないだけで実際は色々と何かが起きているのかもしれない。だが、ナコトの知る限りにおいて目立った事は無かった。

 このままこの世界で朽ちるのは面白くないけれど、暇すぎるのも退屈だ。

 何も起きない方が無難であり、平和な事にありがたみを覚えなければならないのだが。

 独り身だと楽しみを見つけるのが難しい。

 適当に子供を洗脳して遊ぶとしても今更面白い事は無い。

 面倒ごとと平和主義という相反する気持ちが鬩(せめ)ぎあっているようだ。

 転移ものにあるように主人公が良く騒動に巻き込まれる流れがある。だが、ナコトはそれらを無視したプレイに励んでいるので色々と気が付かないうちに時代は物凄い勢いで変化しているのかもしれない。

 戻りたいと思うほど日本の暮らしが良ければ何がしかのアクションを起こそうと必死になるところだ、普通ならば。

 そういう欲などが無い場合は現地に溶け込んで、気が付いた時には死んでいる。

 そういう人生になる事もあるかもしれない。

 

「………」

 

 空を見上げつつナコトは黄昏(たそがれ)る。

 女体を好きに扱える能力がある分、ここはそんなに悪くない。

 後は老化防止などを確保すれば色々と気持ち的な余裕が生まれる。

 平凡なまま歳を取って死ぬのはつまらない人生だ。ならば少しでも面白いと思えるような生き方をすべきだ。

 それには途方も無い時間と労力が必要だが、別に悪い気はしない。

 ゲームのように遊べたら楽しいかもしれない。けれども終わりはやってくる。

 現実の世界に戻り、退屈な人生が始まる。

 けれども今は空想の世界が現実にあり、元の世界に戻れないときている。

 魔法も自在に扱えるし、ある程度のアイテムも扱える。

 覚めない夢ならばいいのだが、この夢が覚めたら自分はきっと退屈で死んでしまうに違いない。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 取り立てて大きなイベントは無く、まっすぐ自宅であるチャタル・ヒュユクに帰還する。

 数日ほどのんびりしていたら部屋の中は凄い事になっていた。

 早い話しが人口が増えていた。しかし、部屋を満たすほどではない。

 これらを更にンフィーレア達に粉砕してもらうのだが、命令をどう与えるべきか。

 育たない人材に材料を提供するのは意外と大変だ。だが、一人二人と完成すればする程効率が上がる。

 今は地道に頑張るしかない。

 

「ンフィーレアのレベルを15として……。40台はまだ無理か……」

 

 レベル差が開いていればいるほど獲得経験値は多くなる。だが、同時に討伐しにくい。

 理想は10未満。

 自動人形(オートマトン)は人間のような生ものとは違い、増産がし易い。あと、後片付けも楽だ。

 相手が無防備であれば倒しにくいだけで討伐は出来るか、とナコトは試しに一体を倒させてみる。

 本(・)来(・)の(・)エネミーであれば勝ち目が薄い相手だ。

 

「何とか倒せているか……」

 

 今のンフィーレアなら一体倒すと430くらい。千体討伐しても一気に50レベルには届かない。

 だが、レベル100のンフィーレアなら相当な経験値を持っている事になるし、倒しやすい筈だ。

 とにかく、続けてもらうしかない。

 あと、エンリにも。

 基礎となる素体はどうしても必要だ。それが一番手間がかかるのだが、何をするにも大変なのはどの世界でも変わらない。

 まずは増産体制をもっと効率的にする。

 そうして一週間が経過するのはあっという間だ。

 残骸処理で金貨も増えてきた。さすがにベッドでは具合が悪い。どうせ魔法のコストとかに使うのだから板状の物をいくつか浮かべて置く。

 第一位階の『浮遊板(フローティング・ボード)』という魔法があったが重量や持続時間に問題があった。

 無いよりマシなのは確かだが。

 ベッドのままだとめり込むおそれがあるので応急措置としてた(・)だ(・)の(・)金属板を置く事にした。

 数百メートル上ではバラバラになった金属の塊(かたまり)がエクスチェンジ・ボックスに流れ落ちていく。

 囲いだけのアイテムなので本来なら、そのまま真っ逆さまに床に落ちてくるところだ。だが、アイテムの効果により一切、ゴミは落下していない。

 実際に落ちてくるのは査定を終えた金貨のみ。

 熱力学第二法則の対応策だ。

 

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 適度に育てた後は高レベルの闇妖精(ダークエルフ)討伐だ。

 つい先日まで忘れていた。

 それらの増産を終えて討伐を何度か繰り返せばレベル100のンフィーレアとエンリがそれぞれ出来上がる。

 職業(クラス)は適当だが。

 一日かけて部屋の掃除を終えて改めて何を取得すべきかを決めていく。

 信仰系。魔力系。超位魔法を取得できるのか不明だが。

 戦士(ファイター)に聖職者(クレリック)。様々な職業(クラス)をどれだけ取れるのか。

 農民であるエンリは農業に関わるものを取らせてみる。

 娼婦とかも育てたらどうなるのか気になるけれど。

 医師(ドクター)、錬金術師(アルケミスト)、創作者(クリエイター)などのレベルを極端に上げてみる。

 条件が整えば新しい選択肢が出現する。

 神の手(ゴッドハンド)とか。

 鍛冶師(ブラックスミス)などを極めさせれば色々と出てくる筈だ。

 特殊なアイテムで上級職を得る場合もあるし、転職アイテムで別の種族になる事もある。ただ、都合のいいアイテムは入手方法が不明。

 分からない事はないが、今は手が出せない。

 農業関係で言えば農家(ファーマー)、達人農家(マスターファーマー)、収穫者(ハーヴェスター)、村長(ビレッジ・チーフ)。

 商人(マーチャント)に交渉人(ネゴシエイター)。

 料理クラスだと料理人(コック)と料理長(シェフ)。

 大工(カーペンター)も増やしたいところだ。

 総合レベルは100までだが、限界突破が出来ると混沌と化すが面白い事になるかもしれない。

 後の考えると怖さが大きいので保留にしたいところだ。

 種族やカルマの値によって得られる職業(クラス)が変わる事もある。

 聖騎士(パラディン)がいい例だ。

 機械に関する職業(クラス)も設定では存在している筈だ。自分達の職業(クラス)が適用されているのであればありそうだが。

 文明の進歩によって職業(クラス)も変わる事があると思うので、無いとは言い切れない。

 科学者(サイエンティスト)が取れれば色々と期待が膨らむ。

 普通のプレイヤーならば選ばないようなメチャクチャな職業(クラス)構成はドン引きものだが、今は誰にも文句は言われない実験が出来る。

 もちろん、良い職業(クラス)ならば本(・)物(・)にも適用する可能性がある。

 一つ一つをメモに取りながら職業(クラス)を色々と選ばせていく。その後で各種特殊技術(スキル)の獲得作業が始まる。

 普通ならば出来ない。

 この世界では一人の人間の人生に関わる事だから。それが人為的に操作できる人生となってしまったのならば、なんとつまらないことか。

 もちろん、当事者が悔やむ事だが。

 失敗すれば処分される。やってる事は大量殺人と変わらない。

 ゲーム的というかゲーム感覚というか。

 神様が存在するならば飽きずにプレイするのは難しいのではないかと。

 他人の人生について考えても仕方が無い。

 ここに居るのは肉の塊のようなものばかり。

 思考を切り替えて作業に専念する。そうしないと自分もいずれ消えてしまう気がした。

 まず最初の頃から欲していた職業(クラス)に極端な経験値を割り振る。

 アイテム製作に特化ものと医療技術者。

 回復役に治療師(ヒーラー)も追加。

 この辺りは現地の助手では出来ないことかもしれない。

 

「……人間が増えても全裸ばかり……」

 

 いちいち服を着せるのも面倒臭い。けれども残す者には服を着せた方がいいとも思う。

 本物が見たら発狂するか、感心するか。

 それが自分であれば人生を諦めるのか。

 知るのは怖い。けれども、魔法文化があるのだから今更な話しだ。

 

「本物が生きている限り増やし続けられる」

 

 それゆえに本物に死なれてしまうと困る。

 折角の素体を全て処分する事になる。それらの解決方法も考えなければならない。

 不死性のモンスターなら寿命を気にしなくて済む。もちろん可能性の問題だ。

 森妖精(エルフ)なら二百年以上は安泰だ。成長が遅いので。

 身体が華奢なところは不満だが。

 

「とにかくアイテム製作の確認だ」

 

 まずは簡単な物から。

 スキルを使用するには素材と金貨を消費する。素材が無くても金貨だけあればいい場合もある。

 一度獲得したスキルは気軽に外す事が出来ない。簡単に取り替えられれば苦労はしない。

 それと魔法のリスト作成。この世界特有の技である『武技』の確認。

 資料は自然と膨大になり、引きこもりがちになる。

 数日に一度は地上に出て新鮮な空気を味わう。たまの気晴らしは絶対に必要だ。

 そうして気が付けば十年経過するのも不思議ではない。それはそれで有意義に時間を遣っているとも言えるし、現地の変遷を確認できない勿体なさがある。

 せっかくなので森妖精(エルフ)探しに出かける事にする。

 

「地上にお手伝いさんを置くのはやはり必要か……」

 

 そろそろアルシェの捜索を本格的に行(おこな)う必要があるかもしれない。

 そんな事を考えつつスレイン法国の近くに存在する広大な森に侵入する。

 森妖精(エルフ)の国は森の中にあり、大きな湖の近くを拠点としている。

 今回は容器の在庫と治癒担当が豊富だ。

 真っ当なら奴隷市場が無難かもしれないが金が勿体ない。とはいえ、結局は人攫いだ。

 潜伏している工作員に目星をつけて確保していく。

 

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 深夜、森の中では無敵を誇る森妖精(エルフ)達も規格外の存在が相手では手も足も出ない。

 短時間で姿を消していくこととなる。

 総勢三十人。うち男は七人。

 死体は残っていないが現場に彼らの備品が散乱しているのみだ。

 巨乳の森妖精(エルフ)の存在は早々に諦めたナコト。

 一人ひとりを裸にしてベッドに乗せ、戦利品を眺めていく。

 殺戮が目的ではないので用が済めば故郷に帰す気でいる。ここしばらく殺戮の衝動が起きていないのは良い兆候だと自分では思っていた。

 代わりに大量に死んでいる存在が居るせいだと思うけれど無視する。

 金髪碧眼が基本的な種族だと思っていたが色には個人差があるようで金髪以外にも居た。

 それは地毛なのか染めたのかは分からない。全部同じよりはマシだと思う。

 顔を隠すと全部同じに見える気もする。まずは股間部分の小高い盛り上がりを撫でていく。野郎は隔離しておく。

 手触りはだいたい三人目辺りで飽きてしまう。

 華奢な体型のせいか、恥丘(ちきゅう)がよく目立つ。しかも森妖精(エルフ)。

 人間の女性でも見る事が出来ないような景色はとても希少価値が高い。

 美しい顔立ちだから首をまず切り落とすか、という可哀想な考えが浮かんだ。失敗すると勿体ないので首は避けるが、まずはどうしようかと思案する。

 

「……まずは胴体から」

 

 観賞はほどほどに、という事にして助手を用意し、作業に移る。

 睡眠、治癒、移動担当をそれぞれの森妖精(エルフ)に配置。後は流れ作業だ。

 

 ザン。ザン。ザン。

 

 大きな悲鳴は無く、無骨な大剣で胴体をぶった切られる森妖精(エルフ)達。

 床に打ち捨てられる下半身。

 生きが良いものは激しく暴れる。中には血尿を噴出するものも。

 ちなみに野郎の場合は去勢すると射精が始まる。子孫を残そうとする反応だと思われる。

 それを何巡かする頃には数百人以上に増えている不思議な光景が広がる。

 

「……こんなに増やしてどうするんだって言われそうだ」

 

 上位種族や種族変更アイテムを使うなら森妖精(エルフ)がいいだけの話しだ。

 増やした森妖精(エルフ)達を早速浴場に運び込ませる。

 自我が無いので放置すると溺死する可能性があるから扱いは慎重にする。

 問題は保管方法だ。

 自発的に飲食しない。床ずれなどの問題が浮かぶ。それらを解決する都合のいい魔法のあ(・)て(・)はある。けれどもまだ調査中の為に使用できない。

 無抵抗すぎて弄る楽しみが湧かない。だからといって意識があるとうるさくなる。

 ずっと悩んでても仕方が無いので捕まえた森妖精(エルフ)を本国に送り返すか、と思ったが、すぐに死んでは困る問題を思い出す。

 しばらく匿っておく事にしようかな、と。

 早速オリジナルを収容する為にベッドや部屋の整備を整えていく。

 四分割された部屋とはいえ、本気で収容する場合は数万人は余裕で入れる事が出来る。ただし、備品は充分に揃っていないけれど。

 手に入れた分は問題ない。

 見目麗しい森妖精(エルフ)が手に入ったのだが、量産体制にはまだまだ不安が残る。

 単なる増殖ではいずれ何らかの障害が生まれる可能性がある。それを解決するには自然分娩が望ましい。しかし、それとて早くて半年ほどかかる。

 三日で人間一人が生まれるような馬鹿げた肉体構造は誰も持ち合わせていない。それは小鬼(ゴブリン)でも同じ事だ。

 自己分裂する粘体(スライム)ならまだしも、多くのクリーチャーは単純かつ早急に増えたりしない。

 仮に早急に増えるのであれば世界は既に危機に立たされている。

 ナコトは職業(クラス)や特殊技術(スキル)の一覧表を作りながらため息をつく。

 人生はここまで性急ではないけれど時間がかかると待つのも大変だ、と。

 女淫魔(サキュバス)と性交しても男淫魔(インキュバス)にならない事も忘れずにメモする。

 種族の特性や特殊技術(スキル)の影響を恐れていたが特に何も起きないようだ。だからといって油断する事は出来ない。

 折角高レベルのキャラクターを作成できたので『超位魔法』を取得できないか調査する。

 狙うは『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』だが、魔法にかなり傾けないといけないし、仮に使えてもレベルダウンですぐに使用不能になる。

 ゲームでは連発できないがこの世界ではやりようによっては連発できそうだ。

 そのためだけに人材を使い捨てるのは倫理的にアウトだが、取締りが無いだけで人間は何でもやってしまいがちになる。

 願望はいつの世も魔性のものだ。

 世界征服然(しか)り。ハーレム然り。

 

「この世の富の独占もまた然り」

 

 数日かけてまとめたリストに並ぶ魔法。その数は二千を超えた。

 職業も千を超えそうなほどの数が集まってきた。こちらは魔法とは違い、見た目の変化は分かりにくい。

 ある日、医師(ドクター)などの医療職業(クラス)に傾けたンフィーレア達を地下に集める。

 事前に増やした女淫魔(サキュバス)を並べておく。

 まず首や手足などの余計な部位を切り離していく。する事はとても残酷なものだが、どうなるのか興味がある。

 これが現実の世界ならば、というか血まみれになるような光景は普通は出来ないし、ナコト自身も気持ち悪くてしない。更には凄惨な現場を見る事に精神的に耐えられない。

 ゲーム的な気持ちがあるから平気でいられる不思議な現象には首を傾げる。

 本当に良く自分はこんな事が出来るなと他人事のように思う。

 呆れつつまずは最初の一体は首を残して胴体を分割する。

 ようはブロック状に肉体を並べる。

 生命力の強い肉体を持つ身体でなければ維持するだけで多大な生命力が失われる。それが不死性のモンスターなどの身体ならばどうなるのか。

 実際に確かめた方が早い。

 大量に出血し、床が血で真っ赤になるけれど気にしてはいられない。

 肉体同士を繋ぎ合わせると気持ち悪い身体が出来上がる。

 もちろん作業中の光景さえ見なければいいのだが、見てしまうと顔をしかめたくなる。

 九つの上半身が正方形に組まれる。

 十八個の大きなおっぱいが突き出たクリーチャー。

 これに足を追加すれば重みで折れる。それが人間ならば。

 人間を凌駕するモンスターであれば充分に耐えられる。理論的には、だが。

 血流維持の為に心臓が必要になるとはいえ背後からは見たくない姿が出来上がる。

 殆ど成長しない。鬱血しそうにない肉体でなければ維持し続けるのはとても困難だ。

 

「三つの下半身が繋がると……、美しさもかなり台無しだな」

 

 身体を支える六本の足。上に更に積み上げていけば足への負担もかなり増える。

 重量の軽減も今後の課題となる。

 これを解決する魔法はある。だが、どう使うのかはまだ考えていない。

 

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 小一時間かけて作り上げた間抜けなモンスターに名前はつけたくないが、おっぱいがたくさんある女淫魔(サキュバス)が出来上がった。

 九つの心臓による血液の循環は滞りないようだが、長生きするのか心配になってきた。

 おっぱいに血管だけ繋げた場合、次第にしぼみそうだったので上半身を賽の目にしてみたのだが、想像と現実は違うものだと思い知った。

 

「……うん、気持ち悪い」

 

 やはり普通が一番いい。

 結論が出たところで肉塊は廃棄だ。ナコトはそう結論付ける。

 内臓の管理とか面倒な事が多いし、廃棄を早めに決定して良かったのかもしれない。

 それと得体の知れない身体にされた状態で自我を持てばきっと暴れだすに違いない。

 

「……しかし、奇怪な肉塊を作り上げるとは……。職業(クラス)は侮れない」

 

 こんな事で挫折している場合ではない。ナコトは心機一転して科学者(サイエンティスト)を用意する。

 こちらは起動さえできれば半自動的に作業が捗(はかど)る。

 問題は素材が少ない事だ。

 時間のかかる作業をいつまでも眺めても仕方が無い。

 特殊な条件が要る職業(クラス)は横において他にできることを模索する。

 永続化の為の金貨増産や他の魔法に希望を持つしかない。

 女性体は動かないと人形と変わらないので弄り甲斐がない。かといって人間の女はだいたい似たような反応しかしない。

 もう少し反応がよくなるキャラクター設定をすべきだったか、と今更ながら後悔しても遅いのは分かっている。

 ただ、とても勿体ない。

 目の前にたくさんの女体が転がっているというのに。

 

「何でも思い通りも楽しくはないな」

 

 国を取っても運営に魅力はない。けれども王女が居た。

 うっすらと忘れかけていたが。

 美しい女性は今でもまだ好きだと言える。

 安易に手に入れるのも面白くない。竜王国やローブル聖王国もまだ行っていないので。

 捕まえた森妖精(エルフ)も放置するわけにはいかない。

 その他諸々を一人で考えるのはやはり大変だ。

 

「そろそろ探しに行くか……」

 

 偽名で過ごしたせいで探しにくくて諦めた、という事も考えられる。

 自分でもナコトかモーデのどちらを名乗ったのか既に忘れているくらいだ。

 

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 そうは思ってもせっかく作り上げられる実績は得たのだから他の事にも挑戦してみたい。それが好奇心というものだ。

 おっぱいは失敗した。ならば次は女性器だ。

 同じようにブロック状に並べるだけならば問題は無い。

 

「……どう並べるか。出来るだけ興味を引くようにするにはどうすればいいのか」

 

 性的興奮が湧かないものは基本的に無意味であり、無駄であり、廃棄する事になる。

 人体が何故、美しく見えるのか。それは自分が人間だからだ。

 もし、異形種などであれば美的感覚はおそらく違ったものになる。

 

「ただ、違う身体同士は接合できないんだよな」

 

 普通に考えて無理だ。

 血液型が異質だと人体に悪影響が出る。仮に万能血液であればいいのだが、さすがに現地の人間にだって血液型くらいはあるはずだ。

 そういう医療知識は錬金術師(アルケミスト)によって確立されていると思うけれど。

 並べるならば形が良くて綺麗なものがいい。

 早速、一体取り寄せて手足を落としてみる。既に行動が非人間的である事に苦笑を覚える。

 内臓が散乱するような現場に自分はいやに慣れてきた。

 恐怖心は人並みにあるはずなのに、平然としていられるのはアバターの影響か。

 人を殺すスリルが味わいたい、などと思わないだけマシなのかなと思わないでもない。だが、どの道、他人から見れば残酷極まりない殺人鬼だ。

 

「変に意識してしまうと何も出来無くなる。ここは医者になったつもりで……。なんて都合よくはいかないよな」

 

 出来るだけ声を発するように心がけているとはいえ、自分の声が退化しないか心配になる。

 地上に出た時、全く音量が足りなければ買い物も不自由してしまうので。

 そんな事を考えつつ四肢を落とされた女体を転がして出来栄えを確認する。首まで落とす予定は無い。

 最低限、生きてもらわなければならない。

 

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 全くの無反応の女体は弄り甲斐がなくて困る。けれども自我がある者だとひたすらにうるさくなるので困る事になる。

 ほとほと自分はわがままだ。

 かといって造ろうとしている肉塊に自我があっては何かと面倒だ。

 

「喘ぎ声マニアは垂涎だと思うけれど……」

 

 それと皮膚が引っ張られて歪になりやすくなる。

 成長する肉体であれば避けては通れない。

 肉体は伸縮するものだから。

 

「……じゃあ無理じゃん」

 

 かといって普通では面白くない。

 このジレンマのような堂々巡りに終わりを見つけなければ先に進めはしない。

 とりあえず、妄想だけではどうしようもないので色々と造ってみる。

 気分は食肉加工をする人間のようだ。

 そうして試行錯誤した結果は惨憺たるものだった。もはやオブジェと大差なく、利用価値はほぼ無いに等しい。

 初期の期待を裏切り、性行為は普(・)通(・)が一番いいという結論に至りそうだ。

 実際そうなのだろうと思う。

 肉体は自然が一番完成されている。それだけ分かれば充分かもしれない。

 ナコトは早々に諦め、掃除を開始して元の綺麗な部屋へと回帰させる。

 所詮は動かない肉の塊たちだ。

 魔法がどんなに万能でも人間の欲望を十全に叶えたりはしない。そういうものなのだと理解する。

 

「それはそれとして……」

 

 リストの製作はこれまで通りだ。

 それと同時に新たな興味の探訪に務めなければならない。

 具体的に何をすればいいのか。

 リストがある程度出来上がってから考える事にする。

 

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 当初予定していた楽しみが次々と潰えていくと生きていることも退屈に感じてしまう。

 かといって殺人に興じる事も能力を十全に活用して世界を制することにも楽しみを覚えそうにない。

 部外者の存在が大事なのかな、と。

 動かせる人材では味気ない。その点がナコトにとって重要なもののように感じた。

 数ヶ月も結果待ちしなければならない事と失敗した時の喪失間は更なる精神的負担を強いる結果となる。

 それを何となく理解してしまうと楽しみがまた無くなってしまう結果になる。

 

「無心に女遊びが出来る性格であれば良かったかな」

 

 悩みの無い人間であればそれなりに、と思わないでもない。

 無知は幸せだ、と誰かが言っていた気がする。

 それはきっと真理だ。

 

「……まずは……大掃除からだ。それから考えよう」

 

 残すもの以外を片付けて地上に上がれば夕暮れ時だった。

 原始的な文化が中心の異世界で近代的な暮らししか知らなかったナコトは先の展望について思い悩む。

 とにかく、風呂に入ったり眠ったり食事したりしながら時間を潰そうと思った。

 それからしばらく経ち、片づけが終わる頃には月が変わっていた。季節で言えば夏真っ盛りといったところだ。

 先の予定の一つであるリスト作りを除けばほぼ白紙状態となったナコトの人生計画。

 まだやるべき事は色々と残っている。だが、意欲が湧かない。

 単独行動ばかりしていた弊害かもしれない。

 なので早めに仲間を見つける必要がある。それを決断するのに少し手間取っているのが現在の状況のようで笑えてくる。

 保管している容器類に問題は無く、地上はもう少し畑を広げるべきか迷うところ。

 栄養の摂取は生物には必須だ。

 それと南方に赴きモンスターというか亜人の様子をうかがい、持ってこれるかどうかも検討する。

 無いよりマシだ、という気持ちで。

 国境を越えた情報はなかなか集めにくく、閉鎖的なのは街道を旅する者が少ないから。

 活気を出す為には行路の安全性を確保する必要がある。それゆえに大抵は軍を用いての越境に終始するのが一般的だ。

 『チャタル・ヒュユク』は南方寄りの山岳地帯に位置するので時間をかけずに『アベリオン丘陵』に向かう事が出来る。

 広大な『エイヴァーシャー大森林』の中を探訪するのも悪くはないが、手っ取り早く様子をうかがえる地点を確保したかった。

 

「各十体ずつ手に入ればいいか」

 

 亜人に恨みがあるわけではなく、単なる研究目的だ。

 絶滅させては狩り場が無くなる。それに人間以外は絶滅してもいいとはナコトも思っていない。

 せっかくの異世界の文化は最低限でも尊重したいと思っているので。

 

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 一週間かけて多くの亜人達が住むというアベリオン丘陵での狩りを終えて、次なる目的地に『ローブル聖王国』を追加する。

 ここは亜人達との争いの為に他の国との交流が困難になっている。まず一般人は踏破してこない。

 情報が殆ど無いので急ぐ必要は無いと判断し、まずは整理から。それからアルシェの捜索も視野に入れる。

 段々と一人で活動するのが退屈、または寂しさを感じてきたからだ。

 何も喋らない人間がたくさん居ても仕方が無い。

 ナコトとしても気兼ねなく話せる友達は欲しいと思う。ただ、趣味の合わない人間とは仲良く出来そうにないのが問題だ。

 かといって洗脳などで言いなりにしても面白くない。そこは色々と悩みどころだ。

 数日かけて整理を終え、次はアルシェの捜索だが、まず何をすればいいのか。

 身一つだと広大な国をしらみつぶしに探すのはいくら高レベルのナコトとて難しい。だが、便利な捜索系の魔法ならば意外と簡単に見つかってしまう。

 あまり楽な方法ばかり選ぶと毎日の暮らしに張り合いが無くなってしまう。それと人生を楽しむ事もままならない。

 一つの行動方針が決まったところで早速行動に移る。後回しにしては次に機会が訪れるのは三年後になってしまうかもしれないので。ここは迅速が最適解だと判断する。

 拠点である『チャタル・ヒュユク』にて必要な資材をそろえる。といっても大した物はまだ無い。というか、様々な事柄が中途半端だ。

 羊皮紙然り。人材然り。

 大量の自動人形(オートマトン)も途中だ。

 

「人物捜索の方法は何が最適だったかな~」

 

 鼻歌を歌いつつ捜索に必要なアイテムやら魔法やらを探す。

 エロに全振りしていたので、改めて学習し直す必要があった。実際、色々な事を忘れている。

 楽な方法ばかり取っていたツケかもしれない。

 物などを探す場合は『物体発見(ロケート・オブジェクト)*1』だが、人物だと『思考感知(センス・ソウト)*2』などが必要になる。

 ピンポイントで必要な魔法はあったとしても都合よく習得しているわけではない。必要な時に使えない場合が多々存在する。

 一般プレイヤーは何事にも万能ではない。漏れが多数あるものだ。

 それぞれの魔法には制限があったりする。それは距離だったり、時間制限だったり。

「相手に関わる物品があればそこから探るのが容易になるけど……。漠然とした情報だけで人物を特定するのは難しい」

 『フォーサイト』というチーム名だけで特定の人物が何処に居るのかを探し当てる。そんな事が出来るのは精神系でも上位者くらいではなかろうか。

 となれば今から魔法のリスト造りをして、同時進行で必要な魔法も探し当てなければならなくなる。

 

 つまり面倒臭い。

 

 広大な世界から特定の人物を探し当てるとなると『世界級(ワールド)アイテム』でも難しい。

 そんな事が出来ると粘着質なプレイヤーとなってしまう。あと、ゲーム的に補正がかけられる案件だ。

 尤も、事前に伝言(メッセージ)*3で精神的にリンクしておけば楽だ、というのは数時間後に気付いた。だが、今更な話しだ。

 

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 アルシェ達と別れて半年以上が経つ。彼らは帝国に居るのか、それとも王国か、それ以外の国なのか。そろそろ本格的に調査しようと思った。これも暇つぶしの一環だ。

 拠点の作業は自動化によって少しの間、放っておいても大丈夫だが侵入者対策はあまり取っていない。そこが一番の問題点だ。

 外部の隠蔽程度しか出来ない気がするし、さてどうしたものかとナコトは悩む。

 

「今すぐに、という性急的な案件でもないし、ゆっくり考えるしかないか」

 

 外部委託は今は考えられない。

 かといって誰も寄せ付けないのは逆に怪しまれる。

 事前に人材確保に邁進すべきだったと反省する。あと、独り言を呟くのが癖になってしまっている。

 なにせ、ここはバカみたいに広い空間。声に出していないと不安が襲ってくるようなところだ。

 悩むなら足で調べるのが精神的にも健康的だ。

 魔法にばかり頼っても仕方が無い。こういう場合は帝国に乗り込んで地道に聞き込み調査する。

 早々に思考を切り替えたナコトだが、いきなり遠くの帝国に向かうより、近場である王国の都市部にまず赴いて、聞き込みしてからでも遅くはない。

 彼らが半年も経過してまだ帝国に居るという保証は無く、入れ違いもありえると思ったので。だが、その前に留守の間の対策を練る必要がある。その後で少し旅に出ることにした。

 室内を自動巡回させる命令だけで一週間。大事なものは容器類くらいだが、盗賊などに占領されて荒らされるのは面白くない。最低限の防衛策を用意する。それらを終えて外に出る頃には一ヶ月が経過していた。

 やはり一人での作業には限界がある。それと王国の街並みからかなりの辺地である事も原因だ。これは避けられない問題だが、何にしても一つずつ解決していかなければならない。

 まず城塞都市エ・ランテルへ。

 帝国や法国からの旅人はまず訪れる都市だ。しかし、冒険者組合を中心に探し回ってみたが有力な情報は手に入らなかった。

 やってくる冒険者や旅人は数が多いので偽名を使われればまず特定は不可能に近い。

 特徴的な容貌は半森妖精(ハーフエルフ)だけだが、こちらも人間種中心の社会では珍しくはあるが唯一ではない。それゆえに多くの目撃例が報告される。その殆どがバラバラ。

 顔や髪を隠されればどうしようもない。それと王国以外にも都市国家があるので、そちらに行っている可能性もある。

 

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 絶対に見つけなければならない逼迫した理由が実は無いナコトにとって暇つぶし程度のものだったが、やはり見つからないと素直に悔しかった。

 調査は引き続き続行するが、その間に折角外出したのだから手に入る献体候補を見つけておく。とはいえ、人間は充分に揃っているので他の国にも目を向ける必要がある。

 有名どころは抑えるとして自分の欲望に適う存在は早々に見つけられない。

 ナーベやアウラのような特殊な存在がゴロゴロ居るとも思えない。

 チームを組む冒険者相手だと一人であるナコトにとっては難敵だ。

 ここはやはり単独行動になりやすい人材に絞る必要がある。その候補としては王国の第三王女が居た。

 彼女と親しい友人は女冒険者チームとして有名な『蒼の薔薇』だが、こちらは何やら切り崩すのが難しそうな予感がする。

 手に入れた情報が確かなら迂闊に手が出せない。

 特に野盗(ローグ)職は相性が悪い。

 リーダーであり、大剣使いの『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』くらいなら何とかできそう、という程度。

 アダマンタイト級の冒険者でもあるので単純な正攻法では返り討ちに遭う可能性がとても高い。つまりは大きな騒動になってしまうということ。

 秘密裏に、ひっそりと事が済む方が精神衛生上良い。

 あまり大っぴらに行動するのは色々と面倒臭いし行動が制限されるのは勘弁願いたいところだ。かといって違う国家といえばスレイン法国とローブル聖王国だが、距離的に遠いのが気になる。

 帝国より南方にある竜王国もいずれは訪れたいと思っているし、正反対のアーグランド評議国も一応は予定に入れている。

 色々考えても身体は一つだ。ここは思い切って決断するに限る。

 

 王都へ行こう。

 

 人探しも同時に行(おこな)う。その後はまた改めて考える事にする。

 ナコトは三日かけて情報を収集した後で王都リ・エスティーゼに向かう事にした。

 ほぼ人探しなので時事の情報を仕入れ忘れていたが人々の噂話しによれば大きな変化は確認できなかった。自分が作り上げた『チャタル・ヒュユク』についても気になる話しは出て来ない。

 出ていれば要警戒が必要なのだが少し安心した。

 一つの事柄に数日から一ヶ月掛かるようでは非効率的。そこがソロプレイヤーの悩みどころだ。

 

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 ナコトは傍から見ればごく普通の一般人。または旅行者であり、王国民と大差がないほど地味で目立たない容貌だ。

 専用の武具を身に付ければ多少は目立つ、という程度。

 全身鎧(フルプレート)のプレイヤーでもない限り異質さは感じない。

 そんな彼が本気で地味さを演出すれば誰も彼を見つけることはできないし、死んだところでその他大勢の死体の一つとして処理される。

 転移した世界で誰にも見つけられないまま寿命を迎えるまで生活する事に恐怖は無いかと聞かれれば素直に怖いと言う自信がある。

 しかし、迎えが来たところで元の世界に戻るよりは往復できる方がいいし、自分の趣味全開の暮らしは手放したくないもの。

 退屈な日常より欲望全開の暮らしを優先させたい気持ちが強い。これはアバターの影響ではなく、ナコト個人の強い意志だ。

 そんな彼は王都まで自分の過去を振り返りつつ多少の罪悪感を振り払って歩き続けた。

 親しい友人と呼べる者は無く、作ろうとしなかったのは色々と下準備に時間をかけすぎたせいだと言い訳にする。

 そんな自分が今は仲間を必要としている。ある程度の下準備が整ったからだ。

 数年も無駄に過ごしてきたからには元を取りたい。

 

「……無欲は単なる悟りと変わらない」

 

 折角、異世界で生活できるのに何もしないのは人生を無駄にしている事と同義だ。

 そこに何の面白みも無いのは明らかだ。

 王都の検問所を抜けて人の営みが視界に飛び込んできた時、ここから冒険が始まると初心者のような気持ちが湧く今の自分の気持ちは決して嘘ではないと思いたい。

 前にも来た事があるけれど心機一転という気持ちが強かった。

 早速、近場の宿屋を拠点に定め、王都を巡る。

 まずは冒険者組合に行き、色々と情報を集める。と言っても噂話し程度だ。

 目立った活動をしていないのでナコトを気にする冒険者はほぼ居ない。身なりもそこらの住人と大差がない質素なものだ。

 現に原住民も依頼をする為に訪れる。

 

「またモモンが大活躍だとよ」

「遠く離れた王都にも名声が届くとはな」

 

 耳に入るのは漆黒の全身鎧(フルプレート)姿の冒険者の事ばかり。

 ナコトと分かれてからも活躍の幅を広げているようだ。ついでに『美姫ナーベ』の事も話しには出ていた。

 散々エロい事をした罪悪感が湧いてきたが噂の中に体調不良については出てこなかった。妊娠でもしたとか騒ぎの種が出ると覚悟していたが何も無いようなので今は良かったと安心する。仮に出た場合は考えたくないので身を隠して情報を改めて分析するけれど、やはり自分の悪評は聞きたくない。

 

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 情報を集めながらアルシェ達が居ないか何気なく探す。

 今も請負人(ワーカー)か冒険者をしているという保証は無いけれど念のために。

 後で商店街も捜索の予定に入れる。

 一人で探りを入れる姿は不審者と変わらないので依頼内容なども確認しておく。次の昇進まではまだ余裕がある筈だが、情報収集する上で人との繋がりはどうしても必要になってくる。特に今のナコトのように人探しをしている人間にとっては。

 一時間ほど彷徨ったりしながら耳で集めた中に目ぼしい情報は無かった。次に受付に向かい人探しの依頼を出そうか考えた。しかし、他の大都市に居る可能性がある場合、何だか依頼料を払うのが勿体ない気がした。もしそういう場合なら自分で現場に行く、という気持ちが湧く。

 だからといってそんなことが離れた場所に居るらしい事をナコトに分かるわけがない。

 そういう都合のいい超が付くような知覚能力は持っていないので。持っていたら苦労はしない。

 

「四人組みの冒険者で……」

 

 偽名を使っている事を考慮しつつ受付に人物の特徴を告げてみた。

 単なる質問ならタダだ。それと時間の都合で来ていないだけかもしれない。

 ナコトの質問に対して受付は小首を傾げて思案するも大勢が利用する組合なのですぐに答えが出せなかった。

 登録者の名簿を確認する為に上の階へと移動する。

 多くのが利用する組合では様々な話題が飛び交う。それらに一人が全てをこなせるほど余裕は無い。

 四階構造になっている組合の上の階には相談室や資料室があり、適時受付や専用の人材が往復していた。

 数分後に戻ってきた受付は大きな資料を机に広げて名前を確認する。

 

「『フォーサイト』というチーム名はございませんが……、お尋ねの人物の名前は登録されておりますね」

「そうですか。……それはいつごろの話しなのでしょうか?」

 

 チーム名は勝手に名づけられるし、たまたま同じ名前の人間である可能性もある。それは利用者が偽名でも登録できるからだ。もちろん、同名が存在するかどうかは調べられる。

 問題の彼らは帝国の請負人(ワーカー)なので王国の資料には記載されていないと思われる。

 特段の不都合でも無い限りアルシェ達は登録されていても不思議ではない。

 問題の名前は四人共に同じチームとして登録されている。登録場所は『エ・レエブル』で、チーム名が『フルト』となっていた。

 王都の冒険者組合は他の大都市からの情報を集約して保管している。その事にナコトは全く気づかなかった。というよりはそこまで細かい情報を調べていなかっただけだが。

 

「……三ヶ月前ですね。この情報も来月には改めて改訂される予定ですので今も居るかは不明です」

「ありがとうございます」

 

 登録場所が分かっただけで今は良しとしておく。

 広い王国の中で特定の人物を探す行為は移動手段が限られている場合、意外と見つけるのが困難である事が分かった。

 転移や浮遊を使えばいい、という安易な方法は実際の文化には無く、徒歩と馬車移動が中心のこの世界において感覚以上に大変であった。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 組合から出た後、王城かアルシェ達の捜索か。

 拠点が気になるので今日は深夜に王城での仕込みの(・)み(・)を済ませ、エ・レエブルに行く事にする。

 支払った金額は決して少なくない。あと、寄付したわけではない。

 もし見つけたらどうするのか。

 どうもしない。普通に連れ帰るだけだ。それに、充分に失敗作は拝んだ。この後も色々と失敗を続けていくと思うけれど、人生は成功ばかりではない。

 宿屋に戻り、夜の訪れを待ってから行動を開始する。

 以前忍び込んだ経験から警備体制が前以上になっていない限り、問題は無い筈だ。

 まずは警備兵から。その次に城務めの者達から情報を集める。

 暗殺が目的ではないので物騒な事は無し。それと潜める空間の確保を命令しておく。

 王女の部屋の情報を持つメイドの部屋に向かい、同じように命令するのだが予定進行が狂うと色々と察知されるおそれがある。これは『女の勘』が働く為の弊害だ。

 いくら魔法が万能でも違(・)和(・)感(・)までは隠蔽できない。特に王族となればいつ命に関わる事態が来てもおかしくない。それゆえに一般人よりも感覚が鋭い場合がある。

 その対処方法は地道に調査と観察が必要になる。一日で全てが完了するほど都合よく事は進まないし、進んでしまうと楽しみが減る。

 引き際を見誤らなければ努力はきっと報われる、と信じる事にする。

 朝方まで出来る限りの処置を施した後は放置して結果を待つだけ。

 城から出た後で追跡者に囲まれては大騒ぎの元だ。細心の注意を払いつつ宿に戻る。

 必要な素材が完璧に揃っているわけではないので一流の捜索系プレイヤーであれば痕跡を辿る事は難しくない。けれども、それほどの兵(つわもの)は自分と同じ世界から来たプレイヤーでも居ないかぎりナコトの下に来るのは困難だ。

 例えば『モモン』とか。

 城の依頼が出されれば某(なにがし)かのアプローチがある。その時は多少の抵抗に留める。別に財宝を盗んだり、王様を殺害したわけではない。単なる不法侵入だ。

 朝方、近くの村から物資を運んできた者達で検問所が大賑わいを見せる。その混乱を耐えつつ外に出た後は大都市『エ・レエブル』に向かう。

 一応、追跡者が居ないかの確認をして身を隠す。

 見晴らしのいい道中を想定し、帰りの馬車にこっそりと相乗りさせてもらう。

 一見無駄に思える行動も油断しないためのものだ。

 誰が監視しているか分からないし、急に捕縛されたくないので。

 後ろめたい生き方をしている自覚があるからこその弊害だが、自業自得として受け止める。

 そうして追跡者の影に怯えつつ数日掛かりで目的地に到着する。

 ここまで誰にも引き止められなかったので単なる被害妄想という点も無くは無い。

 実際、モモンは追跡者ではなかった。これからそうなるかは分からないけれど。少なくとも彼はナコトの存在は会うまで知らなかったのは確かだ。

 少し罪悪感を覚えているのはナコトとしても不思議な気分だったが、やはり追われる立場は好きにはなれない。ただ、ゲーム的な制約が無い分自由度は未だに高い。

 場合によれば国外に逃走する事も視野に入れている。

 そんな事を少しばかり考えつつエ・レエブルにて宿を取り、行動を開始する。

 元より彼らに積極的にアプローチしなかった自分自身が悪いわけで、見つかればそれで良しとする。その時、逃走を選ばれたら捕まえるだけだ。

 早速、この都市の冒険者組合に赴く。

 建物自体は王都以外は大差が無く、違いがあるとすれば人数の差くらいだ。

 王都に近い方が気持ち的に少なく、離れているところはモンスターの発生率が高いなどの理由で冒険者の人数が多い。それだけ危険度が高いとも居える。

 特に森や山間部に近いところは餌を求めて出てくるらしい。

 珍しい薬草の採取。特別なモンスターの討伐依頼などが良く張り出されている。

 危険度の高い依頼は金級以上の案件となっている。

 このエ・レエブルもモンスターの発生件数は少なくはないが多くの依頼は要人警護だ。モンスター関連は二番目以降となっている。

 そんな依頼内容を無視してナコトはまず受付に赴きアルシェ達が来ていないか尋ねる。

 王都で聞いた限り、彼らは偽名ではなくナコトに名乗った名前のままで登録していた。四人共に同名の別人というのは考えにくい。

 受付が資料を調べている間、ざっと室内を見回したところ彼らの姿は確認できなかった。ついでにモモンの姿も。

 

「はい。確かにチーム『フルト』はこちらに登録されております」

「ありがとうございます」

 

 無理に呼びつける必要は無いと判断し、自分で探す事にする。

 ここで彼らを呼びつける場合は警戒されてしまうおそれがあるからだ。もしナコトの存在を知って逃げられたら手間なので。

 ここまで来ていて逃げるものなのかは疑問だが。想定の一つには入れている。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 登録が確認出来た以上二十四時間待機して見張る選択は取らない。というか面倒臭いし、粘着質なのは女性だけでいい。

 そう言うと酷いようだが実際に非人間みたいなものだ。ナコトも自覚している。

 次にする事は街の見物。それと酒場の確認だ。

 この組合内にも飲み食いできるスペースはあるけれど、他にも情報を得る場所はいくつかある。

 外に出たナコトは一般人に紛れて街中を散策する。そのついでに脇道に入り、追跡者の有無と対象の捜索に必要な魔法を選定する。

 出来るだけ周りに迷惑が掛からない範囲で。

 次の問題はアルシェを見付けた場合、どうするかだ。

 叱りつけるか、それとも感動の再会を喜ぶべきか。

 無理に仲間を募集したわけではなく、何となくの出会いでしかない。

 きっかけがなんであれ出会いを大切にするべきとも思える。ただそれだけであれば何のことはない。

 

 自分は寂しさに飢えている。

 

 それを認めたくないと思うのはライトノベルの中に出てくる『冴えない主人公』くらいだ。だが、ナコトは違う。

 自分の非を分かった上で煩悩に任せて行動している。

 歯止めなど必要ない。ただあるがままに行動する。

 我がままな性格で結構。良かろう、悪かろうなど知った事ではない。

 人生を楽しむ事において制限を設けるのは不味いと判断した案件だけでいい。

 

「……悔いのある人生よりはマシなレベルではないか」

 

 元より自分達が住んでいた世界は最悪だ。ならば折角の異世界を楽しまなくては勿体ない。

 単なる善人プレイ。破滅に連なる魔王プレイ。

 それら以外の未知のプレイ。

 自分ならば何を選んで楽しむのか、と。

 分からない先を想像する事も一つの楽しみ方だとナコトは思う。そうして何気なく街を散策しているうちに待望の出会いを果たす事になった。

 

「……安全志向の仕事は地味な割りに身体が硬くなっちまうな」

「文句を言っても始まりませんよ」

 

 聞き覚えのある声が少し前方から聞こえてきた。

 冒険者風の服装ではなく身なりが少し良い現地の人間といったところ。

 そんな人物達が四人固まって歩いていた。

 

「それにしても王国に来てからモンスターの討伐依頼が思ってたほど無いとは」

「……無いというより我々の等級が低いだけですよ」

「拠点を変えたら最初からだもん。仕方ないわよ」

 

 男女二名ずつのチーム。一人は人間種ではあるが先が尖った耳が特徴の半森妖精(ハーフエルフ)。

 身体つきが華奢なので男性の服装を着せれば性別が判別し難くなる。

 色白で見目麗しい森妖精(エルフ)に連なる種族は男女共に美しいと評判である。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 ナコトは前からやってくるチームに声をかけずに黙って一般人を装いながら眺めた。

 四人の中で一番小柄な少女『アルシェ・イーブ・リイル・フルト』は三人の話しを黙って聞いていた。

 見た感じでは気苦労に耐えかねて精神が磨耗している、ようには見えない。

 ほんのりとだが微笑んでいるように見えたから。

 ならば黙って彼らを行かせるのか、と聞かれればナコトとしては止める理由は無いとは言わない。だから止める選択を選ぶ。

 幸せそうな彼らをこのまま見逃す理由が無いからだ。

 しかし、とナコトは困惑する。どう声をかけたものか。

 石でもぶつけてこちらに気付かせる案が浮かんだが即効で破棄。

 彼らにも事情があるだろうし、ナコト側は寂しくなったから探そうと思い立っただけ。無理して手に入れるほどの人材ではなかったと最初の頃は思っていた。だから探そうとしなかったわけだし、と。

 相手側がナコトだと気付けば良し。そうでなくとも無理して強引な手に出ないようにする事もありかなと。

 そんな事を考えているとチームはどんどん近付き、そして、離れていく。

 目立つ格好をしているわけではないので一般人の中に居るナコトに気づけるものはそうそう居ない。モモンのような漆黒の全身鎧(フルプレート)をまとっていないので。

 だからといってそのままお別れする気も無い。

 その辺りの葛藤にナコトは本当に時間をかけた。引き止めるべきか、そのまま彼らを自由にすべきかを。

 助手は欲しい。けれども拠点は人里から離れている。

 生活する上では色々と不都合が満載だ。尚且つ所蔵されている献体の様子を見て驚かれる。

 あれらを平気で扱えるとは到底思えないが、その辺りは指導しながら慣れてもらわなければならない。それと各人の増強だ。

 とはいえ、無償の善意は自分の中には無い。払った金額くらいは返してもらわなければ。

 もちろん、初期の頃の様な鬼畜三昧は流石に取らないが、増強はきちんとやる予定だ。それはそれで興味があるので。

 ならば彼らを誘導し、久方ぶり再開と洒落込もうではないか。

 通りを歩く通行人に魔法による協力で誘い込む。疑心暗鬼の誘発。それだけで彼らが反応すれば中々の経験者だと認める。

 

「……気配が変わったな」

「同業者か?」

 

 アルシェは魔法を発動する。周りの気配を探るものであることは分かるが、ナコトは離れた位置にいるので聞き取れない。というより聞き取る気が無かった。

 細かい部分までは承知しない事にしている。

 

「……私達、誘導されているみたい。でも、敵意は感じない」

「つまり俺達に用がある御仁か……」

 

 声に出しているが彼らは合図でやりとりしないのか、と少しだけ残念に思う。

 そこまでの手練ではないと分かったが、だからといって失望はしない。

 一流や二流だから嫌だ、という事は無い。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 人気のない処に誘い込もうと思ったがアルシェ達は自らの意思で細い路地の奥に進んだ。

 ある程度の見当をつけているのかもしれないが、ナコト自身は精神的な疲れのせいか、それほど追い込みたいとは思わなかった。

 金を返せ、とも言いたい気分ではない。ただ、無事でいてくれてよかった。意外だと思われるが惨殺が趣味の人間ではない。

 

「ここらでいいんじゃないか」

「……覚悟が出来ているようでこちらとしてもありがたい」

 

 声だけ彼らに届けるナコト。

 迂闊に行動に出て叫ばれるのは嫌だったから。最後まで気を抜かない事、と自分に言い聞かせる。

 

「……モーデの旦那……でいいんですかね?」

「お金は返せない。貯めてはいる」

 

 ヘッケランの言葉の後でアルシェが言った。

 彼らは返済金を稼いでいたのか、とナコトは物陰で首を傾げた。

 それはそれで殊勝な心掛けだ。しかし、黙って居なくなるのは頂けない。

 

「小さくない額ですが……。こちらも色々とあって積極的に君達を探さなかった。まずは……、君達は私の施設に来ること。増強の実験台になること。後は……色々と考えて行きましょう、でいいかな?」

「今すぐっていうのは……」

「私だけなら構わない。ヘッケラン達は……私の都合に付き合っているだけ」

 

 アルシェが仲間を庇う様に言った。それに対し、ナコトは全員の方が比較できて都合がいい。出来れば四人共に持ち帰りたい。

 強引な手は悪い結果を生むし、無理に全員を連れて帰る必要も無い。

 素早く脳内で整理し、アルシェの要望を呑むことにした。そうしないと事態が長引いてばかりで先に進まない。

 ナコトは路地裏から姿を現し、ヘッケラン達を見据える。

 懐から貨幣の入った革袋を取り出し、それをヘッケランに投げ渡す。

 

「それで日用品を買って下さい。装備品は今のまま。急用が無いなら彼女だけでも連れて行きます。それから……、隔離する気は無いので。実験がうまくいけば帝国にある学院への通学も認めますよ」

「そうかい」

「機嫌が悪く見えたら、それは失敗続きだったからと思って下さい。協力者が居ないと何ごとも上手くいかなくてね。……あと、犯罪組織じゃないけれど、それっぽく見えたら申し訳ない」

 

 ナコトは意識下で魔法を解呪する。するとアルシェがすぐに気づいた。

 彼女は魔法の行使を感覚的に知覚できるようだ。それはそれで侮れないものがある。

 しかし、ナコトにはそれがどの程度の才能なのかは分からなかった。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 ヘッケラン達が今までどこで何をしていたのか、それには興味はないがナコトへの対処方法を模索していたのだとすれば様子が変わる。

 最低限度の対策は敷かせてもらう。それと問題はアルシェだ。

 二人の妹と離れて暮らすことに抵抗があるならば一緒に連れて行ってもいい。しかし、施設の場所が遠いので家族と引き離す事はナコトでも抵抗を覚える。

 現在いる大都市のような行き来できる拠点は必要不可欠だ。

 

「実験と言っても増強とは違うものです。想像と違っててがっかりした感じです。君用の用意だけは出来てます。今より多くの魔法が得られるか、それは私も楽しみですが……」

 

 協力してくれるのであれば正直に言う。けれども逃げられてしまうのは面白くない。

 方法論は伝えないが、今の言葉でアルシェはどう反応するのか、ナコトは観察を試みる。

 向上心があるものはどんな犠牲も厭わないものだ。そこは過度に酷くならないようにいる予定だが。

 

「……それとも性奴隷がいいかい? 正直に言えば君に興味が無い、とは言わないが……。一人に拘る気は無いから、そこはまあ気が向いた時というか……。私も男だからねー……。なんともいえないのだけれど」

「……で、出来れば魔法の実験でお願いします」

「うん。素直でよろしい。そちらの方々も増強に付き合ってもらえると助かるけど……。乱交とかそういうのは別に……見たいとは……」

 

 チームで生活している者達のあられもない姿を眺めるのは背徳的ではあるが、今のナコトにはあまり興味を抱かせるものではない。

 今はただ逃げないでくれ、と強く願うばかりだ。

 苦笑と言うか苦悩からにじみ出る苦労の顔を読み取ったのか、ヘッケラン達も苦笑しながら要求に応じる姿勢を見せた。

 改めてナコトは自身の顔を鏡で見る。そこには老化でもしたのか、酷くやつれている人間が居た。

 それだけで危機感が全身を駆け巡る。

 調子に乗って生活したツケが来ていたようだ。しかし、この手の解決方法が無いわけではない。

 万能の魔法は奇跡を起こすものだ。そして、その知識はナコトも持ち合わせている。

 アルシェが居なくとも実験自体は可能だが、彼らとの再会を自分はどこかで信じていたのかもしれない。だからこそ突っ込んだ実験を今までしてこなかった。それは自分らしくない事だ、と。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 日用品はヘッケラン達に任せるとしてアルシェの妹達はどうすべきか。

 定期的に会いに帰るの場合の事を考えなくてはならない。

 秘匿性を持たせるとは言え随分と遠くに作ってしまった、と。しかし、近場では警備の観点から困る。

 『秘密基地』は誰にも知られてはいけない。特に自分の関知しない人間達には。

 男連中が居なくなり、半森妖精(ハーフエルフ)とアルシェの二人がナコトと対峙する。

 落ち着いて話せる飲食店を待ち合わせに選んだがナコトはどうにも機嫌が良くならない。

 それは彼女達を無事に施設に送り届けられるかどうかが分からなかった為だ。

 強引な手は思いつくのだが。

 

「長期の生活用品はこちらも充分に用意できるけれど……。冒険者たる君達はどうも助手に向かない。この手の人材はどうやって調達すればいい? ずっと一人でやってきたからさすがの私も疲れたよ」

「聞いているだけで行きたくないような怪しいところのようね」

「実際、怪しいところだ。移動が大変だけれど、それ以外では色々と実験するには適した環境じゃないかな。私が思いつくのは程度が知れるけど。魔法については興味のある人とやった方が楽しそうだ」

 

 気持ち悪い実験はさすがにナコトも続けたいとは思わない。しかし、いずれ必要になってくるのであればやらないわけにはいかない。

 そこには頼れる仲間か助手が必要になる筈だと予想している。

 しかし、それに付き合う者はきっと自分にとって厄介な存在になりそうだ。自分でもそう思うほどなのだから。

 アルシェ達が今まで何をしていたかについては聞く気は無かった。興味も無い。

 会えて、こうして会話ができるだけで充分満足した。

 それ以外に何か気がかりがあるとすれば、それはアルシェ側の問題だ。

 

「魔法の実験と言うのは……、具体的には……」

「それは施設に行ってから。私もどうなるかは……。君が来た時に始めようと思って保留にしてきた」

「……うう」

「そういえば……。口封じ関係は……、面倒くさい。いちいち殺してしまうと更にまた面倒だ」

 

 本当に疲れからか、ナコトは自分でもらしくない言葉を言った。

 この世界に来て数年の月日が自分を変えたのか、それとも広くて面白みのない施設にこもりすぎたせいか。

 適度に外界に出ないと精神的に強いと自負していた自分もおかしくなるらしい、と。

 

「何にしても増強さえうまくいけば魔法もおそらく難しくないでしょう」

「……貴方自身は強くなろうと思わないの?」

「強さに興味は無いけれど……。適度に自衛が出来る程度には……。……正直に言えば他人が強さを得たらどうなるのか、興味があるんだと思う。自分が強くなっても実感が湧かない。かといってすぐ殺してばかりでは面白くもなんともない」

 

 実際にはどうしたいのか、分からなくなってきたのかもしれない。

 だが、それでも魔法は必要だという思いは残っている。

 この世界を安住の地にしようだなどと思っていない。命は有限だ。だから、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 アルシェは可愛い娘だと思う。隣にいる半森妖精(ハーフエルフ)のイミーナも。

 多くの女性たちに囲まれてきたが、今更囲おうとは思っていない。森妖精(エルフ)はまだ居るから。

 今回は女性の他に男性も付いてくる。戦士(ファイター)と神官(プリースト)だ。

 正確な職業(クラス)までは把握していないが、そちらはそちらで興味がある。

 この世界独自の能力というものに。

 最初に依頼したのがヘッケラン達だ。だからこだわっているように思われるのかもしれない。

 予定が順調であれば彼らは助手として使っていたかもしれない。これがたまたまズレてしまった。

 

「……とにかく、何事も挑戦だ」

 

 伴侶については既に済んでいるし、今更な気もする。

 個人的には恋愛は面倒くさいと思っているから幸せな家庭を持つ気は無い。

 限りある命を燃やし尽くす気も無い。己の本能に従うまでだ。

 その後、取り留めのない会話を交わしつつヘッケラン達が来るまで待った。ナコト自身、今以上に話題が触れない為、アルシェ達には気まずい空気を感じさせたかもしれない。

 

「お待たせー」

 

 大きな背負い袋を背負ったヘッケランとロバーデイクが現れる。

 メンバーが揃い、別件が無い事を確認する。

 

「雇い主さんの機嫌はどうだい?」

「見た目には悪そうだけど、お小言は無かったわよ」

「逃げようが無理に探し出す気でいたけど……。こちらも無駄な時間を使ったせいで色々とやる気が失せてね。しかし、そちらの娘さんの問題はもういいのかい?」

「え、ええ。手切れ金は突き付けた」

「往復するには距離が離れた施設に行くわけだが……。一緒に連れてきてもいいんだよ。向こうはそれなりに暮らしやすくしてあるから。飲食、風呂場は完備している。それとも預けたままで大丈夫なのか? そこら辺は詳しくないけれど」

 

 ナコトは充分に手厚い待遇を提示する。これは下心があるとはいえ、協力者には支援は惜しまない。その方が物事がうまく運びやすいからだ。

 この言葉にアルシェ達は驚いていた。

 寧ろ罰金を要求されるかと思っていたようだ。それはそれで間違っていないけれど、目的の前には些事に過ぎない。

 

「あまり長期間は困る。……それについては……すぐには答えは出せない」

「通えないなら連れて行った方がいいんじゃないか。自分の側の方が気も休まるだろうし」

 

 ヘッケランの言葉にアルシェは両手の拳に力を籠めつつ精一杯考えた。

 既に問題は一つ解決した。次は目の前に座る男の事だ。

 二人の姉妹を連れていく場合と連れて行かない場合、どちらが安全なのか。

 考えるまでも無く連れて行った方がいいに決まっている。預け先で何かが起こっては対処できなくなるから。

 

「待っててあげるよ。後悔しない方を選ぶといい。こちらとしても十年くらい引きこもるつもりは無い。どのくらいの期間かと言えば……、そんなに長くはならないかなって感じだ」

 

 短期間か長期間はナコトには分からない。

 やってみて駄目そうなら諦める。上手くいこうがアルシェ達だけに最後までやらせるわけではない。別の冒険者も試したいから。

 報酬は増強そのものだ。情報に関しては騒ぎにならない程度を見込んでいる。完全に隠蔽しようとすると不安を感じるので。適度な公開を予定している。

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 言葉として簡単に言ってしまったが、小さな子供達を付けて行っても楽しい施設は無い。その辺りについて改めて考えなければならない。

 近場に学校も娯楽施設も無いので。

 少なくとも少し離れた場所に酒場のある小都市があった筈だ。そもそも秘密基地のような場所の近くに集落があると色々と不味いのだが、多少の労力は必要経費として受け止められるか検討しようと思った。

 四人一辺だとまた探すことになりそうなので二手に分かれてもらう。

 ロバーデイクとアルシェは妹達を連れてきてもらい、ヘッケランとイミーナは先行して施設に向かう。

 馬車での移動経路は既に確保している。その後は徒歩だが、追跡者の影は今まで感じたことが無いが、狙われるのは好きではない。だからこそ、大っぴらに立ち回らないように心掛けた。

 可能性があるとすれば犯罪組織くらいか。

 

 

*1:
詳細は『ギルガメッシュ』を参照。

*2:
詳細は『ギルガメッシュ』を参照。

*3:
詳細は『ギルガメッシュ』を参照。

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