今回は作者の暴走により色々起こっていますが、誰かひとりにでも突き刺さってくれたら幸いです。
前置きはこのぐらいにして、図書館で出会った二人の後編をどうぞ。
前編はこちら→https://syosetu.org/novel/133075/3.html
「お兄ちゃ〜ん、ご飯できたよ〜」
夕飯の完成を小町が告げる。
「今行きますよっと」
適度に返事を返しながら読んでいた本を机に置いてダイニングへと向かう。
テーブルには既に色鮮やかな料理が並べられて各々のプレートまで用意されている。
サラダとフランスパン、野菜の煮込みのような物が並ぶ。
「この後、お肉とパスタも用意するわ」
「ほ~......で、ちなみにこのトマトの量は嫌がらせか何かか......」
「あら?好き嫌いすると大きくなれないわよ?」
「お前は俺の母ちゃんか......」
「あまり色々言っていると本当にトマトを差し上げることになるけれどお子様谷君はそれでいいのかしら?」
時折浮かべる勝気な半笑いでこちらを見てくる。
うん。こう言う表情すると本当に氷の女王様だよね。
「何か言ったかしら?随分と不遜な顔をしているようだけれど」ヤダこの子怖い。
「あなた、人の心中を盗み見るなんてとんだ変態ね。死にたいのかしら」
「お兄ちゃんそれっ......待って......お腹痛い......」
小町にも随分と好評なようで腹を抱えて俯きながら震えている。意外と自分の持ちネタにできるかもしれない。
視線を動かすと冷却系魔法を発するが如く冷え切った目がこちらを突き刺している。
マヒャドかニブルヘイムあたりか...間違いなく死にかけること間違いなしだ。
「比企谷君......」無言の圧力がひたひたと押し寄せてくる。あまりの圧に笑いを堪えていた小町がピタリととまり死んだように固まっている。
「比企谷君......?」
繰り返される呼びかけに体全体が鈍く固まる。
「ひゃっ、ひゃいっ......」
あぁ、姉妹ってやっぱり似ているんだなとか全く関係ないことを考えながら逃避を試みる。
はちまんはニゲルをせんたくした。
ただし、類まれなる美貌にうっすらと笑みを浮かべ、眉一つ動いてない目が正確にこちらを射抜いたおかげで逃走は失敗。
はちまんはこおりついた。
「なにか、言った、かしら?」
一音毎に区切りをつけた綺麗なソプラノボイスの言葉には、途方もない重みと圧力が感じられた。
「い、いや......なにも......」
「......そう」その一音とともに空気が弛緩し食卓に明るさが戻る。
お地蔵さまもビックリなほど身動き一つしなかった小町が我が意を得たりとばかりに活動を再開。立ち直り早いなおい。さっきまで氷の彫像なみにピクリともしてなかったはずなんだが......これがコミュ力の差なのか。そうなのか。
「ん~!美味しいです。とってもおいしいですよ雪乃さん!」
「それは、よかったわ。もうすぐお肉も焼けるから楽しみにしていて頂戴」
「ふぁ~い。ん~おいひぃ~」
「小町ちゃんや、食べながら喋るとかはしたないですよ」
「お兄ちゃんも食べれば分かるから!さ、さ、どうぞどうぞ」
「なんでお前が勧めてんだよ......」
旨い。単純に旨い。それだけしか食べた瞬間に感じなかった。小町が作るレパートリーには無いせいか、目新しさとともに家庭的な味とはまた違った味わいを感じる。
「お味はいかがかしら、サラダはレタスやルッコラ、ラディッシュとかにバルサミコソースをかけたものよ」
「サラダって大抵味気ないから多めにドレッシングかけるんだが、これはこれでうまいな。それにこの野菜の煮込みっぽいのがめっちゃ旨い」
「そっちはカポナータと言ってイタリアの伝統料理よ。本当はトマトが多いのだけれど今回は控えめにして、味も感触も殆ど誤魔化してあるわ」
「凄い旨いってことだけは分かった......」
「それはなによりね......まだ色々あるからお腹を開けておいて頂戴ね」
雪ノ下の料理を最初に食べたのは嫁度対決の時のパエリアだったか。前回はスペイン料理で今回はイタリア料理。不思議な繋がりを少しばかり感じながら食事が進んでいった。
「いやぁ~超美味しかったですよ!」
「だな、何か久しぶりに腹一杯食べた気がする」
「そう言われると作ったかいもあったわ。それに比企谷君が素直に感想を話すなんて珍しいものも見れたし、明日は雨かしら」
「いや、どんだけ俺ひねくれてると思ってんだよ。しかも天気帰れるとか俺の感想凄いなおい」
「あら、あなたのひねくれは群を抜いているし、日頃の行いをどうとれば素直だなんて言葉が出てくるのか私には皆目見当もつかないわね」
やたらと様になってる上に毎度恒例になりつつある、頭いたポーズをして首を振っている。なんで美人さんはこんなに絵になるんだろうね。
「家でゴロゴロしたい、静かに本を読む、己の睡眠欲に逆らわない。俺ってば超素直でしょ」
「それはもはや怠惰とか堕落と呼ぶのよ。そんなことも理解できないのかしら国語学年3位谷君?」
「うっせ......」
「小町さん?そう言えば、先ほどから静かだけれど......どうかしたの?」
「いやぁ~、あははは......こうやってわいわいご飯食べるのも久しぶりだな、と思いまして......」
ほんの少し楽し気で、寂しげな表情を浮かべた小町に不思議な真剣さを感じた。
「それは......申し訳ない事を聞いてしまったわ......」
「いえいえ、全然平気ですよ。雪乃さんこそ気にしないでください」
「聞かなかったことにするわ......」
食卓を囲む空気は雨が降る前のどんよりと湿った空気みたいに、重くじっとりとしてしまった。何か話題を探そう。そう思ってもコミュ障にそんなスキルは備わって無いせいで微妙な空気がやる気のない勉強並みにダラダラと続く。
「うちはこの通り両親共働きで、いつも家に居なかったんです」
その一声が空気を震わせ、静かな空気を打ち破る。
「えぇ......」
「ずっと、ひとりだったんです」
「......」
「でも、帰ったらお兄ちゃんが居たんです」
「仲いいのね」
「けど、ひとりで決めてたんです」
「......」
「ずっとひとりなんです」
「小町には重いからって......」
「雪乃さん。小町はお兄ちゃんとどんな繋がりでしょう」
「兄妹、よね」
「そうです。だから背負いたいんです」
「............」
「せめて自分の分は......」
「そう、そうよね...」
一人で暮らしている雪ノ下にしてみれば思い当たる節もあるんだろう。けれど人が人に寄りかからなくなったら、寄りかかれなかったら、人を辞めてしまう。どんなに頑張っても何処かにひずみが生じてしまう。もしかしたら運よく方法を見つけられて自分を背負えるかもしれないが、そんなに世の中は都合よくできていない。
自分が楽することで、小町が、妹が安らげないのなら、そんなモノは受け入れられない。幼い小町も頑張ったのだ。辛くても前を向いていたんだ。寂しくても耐えていたんだ。その小町を楽にできる方法を捨てて、自分が普通を続けるのは、やっぱり痛いんだ。
「それにですね雪乃さん......」
そう言って言葉を綴り、紡いでく小町の表情は俯いてるせいで分からない。でも、ただ一つ分かることがあった。
きっと小町は小町なんだと......
「生き物って居るだけでも面倒くさいし気に入らないこと多いしやっぱり大変なんですよね。
だって、カマクラは勝手に変なところでトイレしたり、こっちが邪魔な時にすり寄ってきたりするし、お父さんは面倒くさいし、お母さんもあんまり家には居ないし、お兄ちゃんなんて超々面倒くさいし...
でも、お兄ちゃんは大好きなんです。
お兄ちゃんだから大好きなんです。
お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなかったら捨ててるレベルです」
そう言ってうっすらと笑みを浮かべた小町の表情は少しだけ悩んでいるようで、穏やかに見えた。
「......雪乃さん」
「えぇ......」
「お兄ちゃんを、おねがいします......」
「えぇ、えぇ......承りました......」
食卓を挟んで綺麗なお辞儀をする美少女二人。なんとも背筋が痒くなる光景ではある。
「ま、雪乃さんなら小町も安心ですけどねぇ~」
「それは嬉しいのだけど、理由をお聞きしても?」
あぁ、来ちゃったよヤマピカリャー。こうなったら小町はもう止められん。
「だって、お兄ちゃんと話してる時の雪乃さんってばとってもニコニコだし、よく夫婦漫才してるし?なんならお兄ちゃんの事養えそうだし、今すぐにでも結婚できそうだし?」
「......っけ、結婚だなんて小町さんは言うけれどそもそもこの男にそんな甲斐性があるとも思えないのだけれど。それにそもそも私は夫婦漫才だなんてしてた覚えはないしそんなものをするとは思えないけれど、もし万が一にでもそう言う夫婦仲に比企谷君となれたらとか一度くらいはあったかもしれないけれどそれはもはや彼ではなくなってしまうから悩みどころではあるわね。なによりそう言った将来に密接するようなことはしっかり時間をかけて育んでいくものだと私は思うのだけれど」
「ありゃりゃ、これは随分とお兄ちゃんも愛されてますなぁ~」
「おい、折角大人しくステルスヒッキーしてたのに話振ってくるのやめてね?小町ちゃん」
「お兄ちゃんがちゃん付けするとキモイのが分かったから辞めとく」
「お、おう」
なにがなにやら分からないまま夕飯が終わったものの、雪ノ下は終始真っ赤だし、小町はニヤニヤしてるし、飯の味が薄くなってなんとも座りが悪かったということをここに記そう。
夕暮れ時はとっくに過ぎ去り、一段と明るく見える月と薄雲の織り成すコントラストに不思議な感傷を覚えながらゆっくりと歩を進める。
何度か話しかけられてはいるがイマイチ反応できない。何とも心ここにあらずといった気分なのに不思議と嫌な気分はしない。
「......君。......がや君。比企谷君」
「ん?」
「......やっと見てくれた」
「比企谷君、私はあなたを帰したくないの」
「......は?」
ぴたりと足を止める。今何と言ったんだろう。
帰したくないと...
一体何を意図したのか。
わかる
でも、
わからない
分かりやすくて判りにくい
「私と一緒に一夜を共にしてくれる?」
「お、おまっ......そんなこと言ったら不味いだろ」
「あら?ここまで言っても分かろうとしないのかしら」
あぁ...遂にこの時が来るのか。
きっとこの先、山も谷もあるだろう。
でも、
それでも、
「なら、はっきり言ってあげる......私はあなたのことを、比企谷八幡のことを、異性として好き。言うなれば愛しているわ......」
無言。
ひたすらの無言。
ビルの隙間から丸々と輝く月が不思議なほど眩しい。
一陣の寒風が二人の間を駆け抜けていく。
「返事を......いただけるかしら」
「あ、あぁ~......その......これからよろしくお願いします......」
「そ、そう......じゃあ、行きましょうか......」
「お、おい......どういうつもりだよ」
「私の部屋で男女が一夜を共にする意味が分からないとでも?国語三位の比企谷君」
「......本気か?」
「勿論......だって、私を比企谷にして貰わないと困るもの」
彼と彼女の行方は、誰も知らない。
まずは読んでいただきありがとうございます。
今回は色々な作品を意識したり、作者(私)が若干暴走気味で書いたりと起こったせいで、他の作品達とはテイストの異なるものになったと自覚してます(笑)
新しい作品を待っていたよと居る方がいらっしゃいましたら、是非ともコメントや感想、評価等々を頂けるととっても嬉しいです。
今後は今まで以上に投稿間隔が開くと思いますが、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。