※この作品はR-18です。

冴えない彼氏の育てかた   作:もっち~!

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表では兄妹、裏では…

---和泉正宗---

 

雲1つ無い青空、白い小さな雲が見えた。桜の花びらが舞う坂道…それは坂の上から飛んで来た白いベレー帽だった。地面に落ちきる前に、僕はそれをキャッチした。手にしたベレー帽は、仄かに暖かい。誰かが今まで被っていた物のようだった。坂の上、飛んで来た方を見ると、僕と同じくらいの歳の少女が、僕を見つめていた。このベレー帽は、彼女の物だと直感をし、彼女の元へ走り寄り、ベレー帽を彼女へ手渡した。

 

「ありがとう…」

 

僕を見つめる少女。かわいい…でも、どこか儚げである。それが僕の彼女に対する第一印象だった。

 

「私…加藤恵…あなたは?」

 

「僕は…和泉正宗…」

 

それが、彼女との出逢いであった…

 

「また、逢えるかな?」

 

僕の目を見て言う彼女。

 

「縁があれば、きっと逢えるよ」

 

それ以来、彼女とは逢っていない…

 

--------

 

ドンドンドン!

 

淡い初恋との出逢いを夢で見ていると、天井から聞こえる床をスタンピングする音で起こされた。あぁ、もうこんな時間か。洗顔をして、台所に向かう。朝飯を作らないと。

 

ドンドンドン!

 

床のスタンピング音。

 

「今、作るから、もう少し待ってくれ!」

 

2階にいる妹へ声を掛ける。

 

 

俺は和泉正宗。高校1年生だ。訳有って、引きこもりの妹と二人暮らしである。妹…和泉紗霧は、1年前のある出来事以来、僕とも顔を合わせていない。妹のコミュニケーション手段は、床のスタンピングである。

 

妹の好きなオムライスを作り上げ、妹の部屋の前まで持っていく。

 

コンコン!

 

ドアをノックして妹へ知らせる。

 

「紗霧、オムライス…置いていくぞ。あと、欲しい物があったらメモに書いておいてな」

 

昨夜の晩飯の食器をどかし、今朝の朝食を置いていく。階下へ降り、汚れた食器を洗い場で洗って、自分の食事…手間の掛からないトーストと珈琲を食す。これが毎朝の日課である。

 

 

 

---和泉紗霧---

 

兄さんが階段を降りていく音がした。ドアをこっそりあけ、朝食を部屋に持ち込む。兄さんの手料理は大好きだ。特にオムライスは好きである。朝から私の為に、手間の掛かる料理を作ってくれる兄さんが好きである。

 

兄さんと初めて逢った日…忘れない…あの時、一目で…でも、アレ以来、兄さんに会っていないけど…一年前、私の母さんと、兄さんの父さんが再婚して、新婚旅行の当日、私は初めてこの家に来た。兄さんと初めて会った。この兄さんとならと思っていたのに…その日、母さんと兄さんの父さんは事故に遭って…

 

オムライスを食べらながら、過去を振り返っていると、階下から有り得ない音がした。何か、大きな物が倒れた音だ…

 

『兄さん!』

 

咄嗟に浮かんだ兄さんの苦しむ姿。私は恐る恐る部屋を出て、恐る恐る階段を降りて、恐る恐るリビングに足を踏み入れた。そこには、兄さんが倒れていた。

 

「兄さん!」

 

駆け寄り、声を掛ける。でも反応が無い。額に手を当てる…熱は無い。手首に指を添える…脈はある。静かな寝息だけが聞こえて来た。顔色は悪い…これって、寝不足による過労かな…私のわがままな行動でかな?

 

『どうしよう…兄さんがいなくなったら、私一人になっちゃう…』

 

大好きな兄さんの手料理以外、食べたく無い。どうしよう…おろおろする私。誰かに助けてもらわないと、私一人では兄さんを寝床まで運べない…誰に?真っ先に頭に浮かんだ知り合いに、連絡を取った。

 

 

 

---澤村・スペンサー・英梨々---

 

ネットで知り合ったイラストレーターの知り合いから、連絡があった。

 

「エリさん…助けて!兄さんが倒れて…どうしていいかわからないよ~」

 

彼女の悲痛な声…私の妹枠の紗霧ちゃんは、パニック気味であった。

 

「倒れたって?救急車は?」

 

「ダメ!私一人になっちゃう…たぶん、寝不足だと思う。兄さんを寝床まで運びたいの…だから…助けて…」

 

…って、言われても…う~ん…でも…彼女一人では無理だよな。

 

「わかった、今から行く!住所を教えて」

 

住所を聞き出すと、着替えて家を飛び出す。この住所なら、1時間もあれば…駅まで走る。途中、知り合いを見つけて、拉致。一人では心細いから…

 

 

 

---紗霧---

 

兄さんをベッドまで運べない。エリさんに手伝って貰おう。食事を終えて、兄さんは部屋に戻ろうとして、倒れたのか、部屋の扉が開いていた。恐る恐る、兄さんの部屋に侵入してみた。本棚と、机…机の上にはPCが置いてあった。

 

徹夜でどうしようもないサイトでも見ていたのかな?兄さんの見ているサイトが気になり、PCのスイッチを入れた。そこに映し出されたのは…

 

 

生原稿だった…私の相棒とも言える和泉マサムネ先生の生原稿が映し出された。兄さんが、和泉先生なの?同姓同名だから、もしかしてって思っていたけど…

 

部屋の中には、没原稿の山が沢山あった。こんなに仕事していたんだ…私の面倒を見ながら…なのに、気づかなかった。私が和泉先生に贈った、イラストの生原稿が、額に入れられて飾られている。ごめん…知らなかった…

 

私は引きこもりながら、イラストレーターとして仕事をして、小遣いを稼いでいた。孤独だった私に、光を与えてくれた和泉マサムネ先生の専属イラストレーターとして、仕事をしていた。その大好きで、尊敬している先生が…兄さんだった…偶然にも程があるだろう。同じ屋根の下で仕事を…共同作業をしていたなんて…思いも寄らなかった。

 

兄さんの正体を知って呆然としている私の目に、部屋の隅に置かれた原稿の束が目に入った。何かに引き寄せられるように、その原稿に目を通す。

 

和泉先生と作風が違う…どうして?ペンネームは『朝霧沙樹』となっている。あさぎりさき…あっ!そのペンネームには、私の名前『さぎり』が入っている。どうして…名前を入れることで共同作業している気になっていたのかな?意識の無い兄さんに、理由を訊けない。もどかしい…

 

だけど…兄さん…没原稿が多いからって…違うペンネームで、違う作風で稼ごうとしていたの??思い当たる節は有る。

 

兄さんの父さんの妹である叔母と兄さんの会話。盗み聞きするつもりは無かったが、気になり聞いていた。叔母は兄さんの稼ぎで生活出来無い場合、私達を養子、養女として引き取ると言う。その場合、私の引きこもり生活は改善させると言っていた。それに対して兄さんは、

 

「必ず稼ぎます。だから少し猶予を下さい。妹には…紗霧には好きなようにさせたいんです」

 

と、叔母に言い切ったのだ。

 

私の為に…兄さんはバイト漬けになると思っていたのだけど、休みの日は家に籠もりっきり…夏休みも冬休みも…あの言葉は自己陶酔な言葉なんだって、兄さんを軽蔑していた。だけど違っていた。あれって、缶詰状態で必死に稼げる話を作っていたんだ…私の為に…自己嫌悪になる私。兄さんを信じていなかったことへ…だから、兄さんは必死に売れる本を模索していたのだろうか。ペンネームを変えてまで…

 

スマホの呼び出し音が鳴った。エリさんだ。玄関に向かい、エリさんを家の中へ…え?知らない女の人が一緒…なんで?

 

「あぁ、この子は加藤恵って言うんだ。私一人では心細いから、登校途中の彼女を拉致してきた♪」

 

って…まぁ、とりあえず、兄さんの元へ向かう。そして、三人で兄さんをベッドまで運んだ。

 

「エリさん、ありがとう♪」

 

「いいって。憧れのエロマンガ先生の役に立てて嬉しいよ♪」

 

「そんな名前の人は知らない…」

 

「名乗れないペンネームってどうなのよ♪」

 

そうだけど…まぁ、思い入れのある名前だから…

 

「和泉正宗…えっ?ムネ君…」

 

兄さんの学校の制服を見ていた、エリさんの友人が呟いた。えっ!エリさんの連れてきた子、兄さんを知っているのかな?

 

「うん?恵、紗霧ちゃんのお兄さんを知っているの?」

 

「うん…昔、会ったことがあるんだよ」

 

昔?私が兄さんの妹になる前?ずるい…

 

「やっと会えたね、ムネ君♪」

 

私の兄さんに微笑む子…私の兄さんなのよ~!なんか、悔しい。私の知らない兄さんを知っている子に、ジェラシーが沸々と…

 

「えっ!紗霧ちゃんのお兄さんって、朝霧沙樹なんだ…すげぇ~」

 

私の読みかけの原稿を目にしたエリさんが驚いている。凄いって…有名なのかな?

 

「有名なの?」

 

「有名だよ。ラノベでは無いけど、ベストセラー作家だよ…そうなると、まだ高校生なのか…はぁ?和泉マサムネと同一作家なのか…おいおい、作風がまるで違うだろう…って、和泉先生って、エロマンガ先生の相棒じゃないか。紗霧ちゃん、相棒がお兄さんって知らなかったの?」

 

「うん…さっき、知ったばかりで、当惑している。どう接すればいいかな…ねぇ、エリさん」

 

エリさんは、柏木エリという有名な同人イラストレーターである。彼女とは、とあるイラストサイトで知り合ったのだ。イラストのこと、プライベートなことを相談する、私にとってはお姉さん的な存在である。なので、私の兄さんに対する想いも知っており…

 

「そうだよな、難しいよね…散々ネットでディスりまくっていたし♪」

 

そうだったよ…相棒の和泉マサムネ先生を、ネットでディスりまくっていた。まずい…マズいよ~!

 

------

 

 

「ムネ君、おほよう♪」

 

あぁ~、兄さんの目覚めに立ち会えなかった…あの女が声を掛けていた。

 

「あれ?君は?」

 

うん?兄さんは知らないみたい。そうか、彼女の勘違いだな♪

 

「あぁ、成長して顔が変わったかな…白いベレー帽…だよ」

 

「えっ?まさか…め、め、恵さん…どうして?」

 

あっ!勘違いでなくて…本当に知り合いなの…

 

ガーン!

 

あの二人…良い感じになっているし…遅れを取った感が満載だよ。

 

「あれ?俺…どうしたんだ?」

 

「寝不足で倒れたみたいだよ。ムネ君の妹さんの知人が私の友人でね。ここに連れ込まれたんだよ」

 

混乱気味の兄さん…

 

「兄さん…一人で抱え込まないで…兄さんがいなくなったら…私…一人になっちゃう」

 

兄さんに抱きつく。あの女に抱きつかれる前に…

 

「妹枠はズルいなぁ…」

 

私は聞き逃さなかった…あの女の呟きを。それはライバル宣言ですか?

 

 

 

---正宗----

 

意識がしっかりしてきて、状況が見えてきた。朝ご飯を食べて、登校前に原稿を書こうと部屋に戻る途中で、意識が飛んだようだ。おかげで、僕の仕事が妹とその友人達にバレてしまったようだ。

 

「昔から話を作ることが好きだったんだ。で、ネットという物を知って、自分の書いた物を、他の人に読んで貰える機会を得て…ファン1号の人から、イラストを貰ってね。とても嬉しかった。俺の書いた物にイラストを描いてくれたことにね。いつか、その人と一緒に作品を描けるといいなって…それがエロマンガ先生との出逢い。だから、相棒と共に描く作品は大切にしたい。だけど、それだけだと、生活費は稼げないから…妹の名前を入れたペンネームにして、違う作風で書いてみたんだよ。それが売れて…で、二足のわらじ状態になって。そのせいで、寝不足で…面目無いです。皆さんに、ご迷惑を掛けてしまって」

 

一応、妹とその友人の方々に、何故こうなってしまったかの理由を話し、頭を下げた。

 

「サインください♪」

 

紗霧の友人エリさんにサインを求められた。両方のペンネームのサインを書いて差し上げた。恵さんにも…そして、紗霧にも…

 

「紗霧ちゃん、良かったねぇ~♪」

 

エリさんの言葉で、顔を真っ赤にして俯く紗霧。どうした?迷惑を掛けたから、怒っているのか?

 

「に…いさん…」

 

紗霧から手渡された物…それは…えぇ?なんでこれを、紗霧が持っているんだ?それは、俺が相棒のエロマンガ先生に宛てたお礼状…へぇ?…う~ん…ってことは…えぇぇぇぇぇぇ~!

 

「紗霧が…相棒…エロマンガ先生なのか?」

 

「そ、そ、そんな名前の人…しらない…」

 

顔をうすピンク色にして、横を向く紗霧。はぁぁぁぁぁ~?

 

「まぁ、そんな感じだよ、お兄さん♪で、コレを機会に、私と恵もお兄さんのお友達ってことで♪」

 

エリさんからの申し出…恵さんと…やっと、逢えた…

 

「ムネ君との再会…縁があるってことだよね?」

 

あの時と同じ笑顔を浮かべる恵さん。

 

 

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