---和泉正宗---
土曜の朝、呼び鈴が鳴り、応対に出ると…セーラー服姿の先輩が立っていた。
「今日は、どうされたんですか?やけに早いですね?」
彼女の自宅からは、ここまで時間的に結構かかる。
「マサムネ君…いや、和泉マサムネ先生…隣に引っ越して来ました。てへっ♪」
顔を傾け、笑顔で言われた…妖精のような笑顔に、落ちかけた俺…
「と、と、隣?エミリーの家?」
「違います…正確には裏になるのかな?」
少しモジモジした姿に、引き寄せられる俺。
「兄さん!その女の戦略に嵌まっちゃダメ!」
階段の上から紗霧の声が聞こえ、現実に引き戻された。
「先輩は裏に引っ越して来たそうだよ」
「ふ~ん…」
エロマンガ先生モードだと先輩と仲が良いが、素の紗霧だとそうでも無い関係のようだ。
「で、ちょっと来てくれるかな?」
「兄さん、行っちゃダメ!」
後ろを振り返り、紗霧に声を掛けた。
「紗霧、一緒に行かないか?」
「「えっ!」」
二人の妖精が同時に声を上げた。
「行きたいけど…う~ん…」
紗霧は困った表情である。一方、先輩は俺の服の裾を握っている。どうしたら良いのか?
「あっ、時間だよ~。兄さん、行ってもいいけど、直ぐに帰ってきてね♪」
「あぁ、作業場に行かないとダメだから、直ぐに戻る」
俺の返事を聞き、自分の部屋に戻る紗霧。毎週見ている番組が、始まる時間のようだった。。
「さぁ、来て下さい、マサムネ君♪」
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玄関を出て、最初の角を左に曲がり、俺達の家を通り過ぎると、表札に『梅園』と書かれた家があった。
「ここですよ。近いでしょ?」
まぁ、家の真裏だし。
玄関を入ると、リビングがあり、奥には執筆部屋のような部屋があった。所狭しと、俺の本が置かれ、先輩直筆のノートが積み上がっている。
「ここから、マサムネ君の部屋を見ながら、作品を書きます」
自然と先輩との距離が縮まり、先輩が俺に抱きついて来た。
「ねぇ、抱いて…」
お願いをされたので、先輩をお姫様抱っこで、抱き抱えた。
「そうじゃなくて…」
先輩の唇に自分の唇を重ねた。先輩は自分の腕を俺の首に回し…
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全裸の先輩を描く俺…
「えっ?私ですか…なにやら恥ずかしい…」
全裸の妖精が何者かに、お姫様抱っこされる構図を描いている。あの時の先輩の表情に心が奪われたから。
「う~ん、先輩、こう言う抱き方だと、妖精の羽はどうなるんですかねぇ」
妖精の羽は何者かの腕と自重にサンドウィッチされている。潰れるのか?いや、それよりも痛く無いのだろうか?
「どうなるのかな?羽が無いのでわからない」
コウにでも訊くかな。フェアリー系のゲームキャラのデザイナーだし。
「そろそろ、戻ります。紗霧の見ている番組が終わる時間ですから」
「わかったよ、後輩…いや、マサムネ君…その絵はくれるか?」
「では、コピーしたモノを後で、お持ち下さい。コウと羽問題を検討したいので」
「うん。わかった♪」
先輩の家を後にした。
---加藤恵---
安芸君がしつこく、うるさい。別に2次元ヒロインに、なりたいわけではない。安芸君が私を、2次元ヒロインにプロデュースしたいだけなのだ。
「いいか、加藤。お前のことを一番理解しているのは、この俺だ!」
あぁ、言い切っちゃったよ…まるで理解していないのだが…
「ごめん、安芸君。約束があるから、行くよ」
安芸君は私の手首を掴んだ。
「行かせる訳に行かない。お前は俺の傍に居れば良いのだ」
う~ん…ムネ君が待っているのだけども…
「俺以外の男は認めん!」
だから…安芸君に認められなくてもかまわないって、何度も言っているんだけども…あっ!おまわりさんだ♪
「すみません、ストーカーが離れなくて、困っているんです」
「何?」
おまわりさんは、私の手首を現認して、安芸君を取り押さえた。
「加藤!何のつもりだぁぁぁぁ~!」
「安芸君、しっこい!私はあなたの女ではありません!」
急がないと、遅刻だよ~。私は駅へと走って行った。
---八神コウ---
う~む、考えたことも無かった。妖精がお姫様抱っこされた場合、羽はどうなるかだって…
「コウ、妖精はお姫様抱っこしちゃいけないのかな?」
マサムネ君から質問が押し寄せて来る。
「そうだな…いけない事は無いけど…妖精はお姫様で無いからな…」
ひねりもしない素の答えを返した、夢が無いと思われそうな私。
「そうか…そういう存在では無いのか…」
「いや、マサムネ君。大きさが違うから無理じゃないかな」
って、うみこ。なんで、割り込んで来るのだ?
「あぁ、そっか…妖精は小さい存在だから、抱き締められないってことか…」
「昆虫のウスバカゲロウみたいな者って、考えれば良いと思う」
頷くマサムネ君。
「ありがとう、うみこ。すっきりしたよ」
「いやいや、お役に立てて、良かった」
嬉しそうなうみこ…一歩出遅れた感がする。
「で、うみこ。これって、プログラムできるかな?」
何かの資料を、うみこに手渡すマサムネ君。
「う~ん…はじめさん、どうかな?これ?」
はじめを呼んだうみこ。そっと近寄り、資料を盗み見た。あのエロマンガ先生のイラストを紙芝居風にした本を、ビジュアル化したいようだ。それもモーションピクチャーで…
「出来無いことは無いけど…難しいかな。誰でモーションキャプチャーするかだな。それに…」
あぁ、費用が嵩むな。ここにはキャプチャーマシンが無いから…
「りんさん、これって、イーグルジャンプ社で作れませんか?」
りんに資料を手渡すマサムネ君。
「う~ん…難しいかな…ゲームでは無いよね?」
「電子紙芝居というか…モーションピクチャーを表示して、その部分の文字も表示する感じです。声やBGMはつけません」
「そうね…まぁ、企画会議には出してみます。難しいかな…う~ん…」
って、私は蚊帳の外か?りんと目が合った。
「ふふふ、イラストレーターはエロマンガ先生よ♪コウちゃんの出番は無いわねぇ~、残念♪」
そうなるのかぁ…ここには、柏木エリ先生もいるし…ライバルとして強敵ではある。
「なぁ、あれはそろそろか?」
詩羽さんが訊いている。
「アレ?なんだっけ…」
私と目が合ったマサムネ君。年甲斐も無く、耳が熱くなっていく。
「あぁ、画集ですね。そろそろの筈です。来週、出版社に訊いてみます」
ゲラ刷りは見たが、何点かを入れ替えたらしい。気になる。私がモデルの絵が出ているのかどうか…
---加藤恵----
警察署にいる…被害届けを出す為だ。あぁ、今週は行けそうも無いなぁ…
安芸君は、相変わらず、独自解釈を刑事さんに披露しているそうだ。
「学校は彼と同じクラスなのか?」
「はい…」
「転校も考えた方が良いなぁ」
転校か…ムネ君と同じ学校…良いかもしれない。住む場所だな、問題は。
「彼はどうなります?」
「片思いって感じなんで、対応は難しいなぁ。未成年だし、非行歴も無いし、学校での素行も悪くないし…まぁ、君が嫌がっていると認識出来無いのは問題だよな」
お咎めは無いらしい。接近禁止令も同じ学校に通っている限り、出さないかもしれないと言う。まぁ、しつこい以外に問題は無いしなぁ…どうするかな…
---遠山りん---
金曜日…会議をしているとスマホに着信があった。相手を見るとマサムネ君だった。
「すみません。ちょっと、中座します」
会議室から出て、着信を受けた。
「何か、あったのか?」
「今、大丈夫ですか?」
まだ、学校の時間のはずだが、街並の喧騒がBGMで流れている。
「大丈夫だけど、どこにいるの?」
「アポ無しで来ちゃいました…」
「どこに?」
「イーグルジャンプ社の入り口にいます」
「何かあったの?」
「先週、帰り際にコウが…寂しげだったんで…印刷所から1冊貰って来ました」
印刷所から…あぁ、アレか…コウちゃんの為に…学校を休んで…
「今、行くから、待っていて!」
エレベータに走って行く。
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そして、マサムネ君と共に、グラフィックチームのブースへと向かう。偶然、コウちゃんの視線が、私達を捉えたようで、耳が茹で上がっていくコウちゃん。
「な、な、な、なんで…マサムネ君…」
動揺が激しいコウちゃん。
「あれ?マサムネ君、学校は?」
はじめさんが訊いた。二人以外はマサムネ君とは面識が無いので、唖然としている。
「午後の授業は休んじゃいました。コウに、早く手渡したくて」
「コウって…まさか、コウさんの彼氏?」
ざわめくグラフィックチームのブース。男っ気がまるで無しのコウちゃん。それは驚くよな。当の本人のコウちゃんは茹でダコのように、顔も耳も紅潮しているし。
「あれ?マサムネ君…どうしたんだ?」
騒ぎが気になり、うみこさんもやって来た。うっすらと頬を赤く染めて…
「マサムネ君、ここだとゆっくり出来無いだろうか、会議室に行こう。上司に君を紹介したいの。君のファンだからね」
「ファン?あぁ、そうなんだ。う~ん、コウの分しか持って来なかったよ」
残念がるマサムネ君。君のそういうところ、私も好きだよ。弟枠としてね♪
会議室に、私、マサムネ君、コウちゃん、うみこさん、はじめさんが入室した。
「どうしたんだ?」
上司の葉月さんが声を掛けてきた。
「葉月さんが大ファンの朝霧沙樹先生が、表敬訪問してくれましたよ♪」
私の言葉に固まる葉月さん、大和さん。大和さんは、出資会社である芳文堂のプロデューサーであり、芳文堂とイーグルジャンプ社のパイプ役である。
「え?朝霧先生って、女性で無いの…」
少女好きの葉月さんは、想像とは違う朝霧先生にショックを受けたようだ。
「で、なんで来たんだ…」
真っ赤な顔のコウちゃん…動揺を抑えているが、顔色までは制御出来ていない。
「コレ、コウに一番先に渡したかったから♪」
彼は紙袋から、画集を取りだして、コウちゃんへ手渡した。表紙を見て更に真っ赤になっていくコウちゃん。表紙はコウちゃんがモデルの『手の平に新たなる命を受け取る妖精』だった。
「これって、コウさん…」
大和さんが驚きの声を上げた。
「あぁ、サインも入れてあるよ」
表紙を捲ると、朝霧先生のサインが入っていた。
「あ、あ、ありがとう…マサムネ君♪」
コウちゃんが、マサムネ君を抱き締めた。
「なあ、私のは入っていないよな?」
うみこさんが確認をした。
「入っているよ」
該当ページを開いたマサムネ君。そこには、両手を手錠で拘束され、天井からフックで吊り下げられている女性コマンダーのイラスト。服のボタンはすべて引きちぎられていて、服のボタン穴から乳首がこんにちわしている構図である。その顔は恍惚な表情のうみこさんだった。小麦色の彼女の顔は、目で見て分かる位に、赤く染まっていく。
「これは…恥ずかしい…うぅぅぅぅ~」
「はじめさんのも有ります」
はじめさんのは、斬首された生首が板の上で晒されている構図であり、表情には死相が見えるようだ。
「これって、あの時の…」
型どりされていた時のだね。
「皆さん…モデルをしたんですか?」
大和さんに訊かれた。
「モデルって感じではなくて…顔の表情だけをスケッチしていたようだけど」
動揺して言葉が出ない三名の代わりに、私が返事をしておいた。
「いいなぁ…私も描いて欲しいな…」
大和さんは、自ら地獄へ踏み込みたいらしい。
「そうなの?じゃ、明日、きてください。みんな喜ぶと思う。お姉さんみたいな女性がモデルだなんて…」
「みんな?」
「他に2名、イラストレーターがいるんだよ。いや、コウちゃんもいるから3名か」
「そうか!これが『縁』プロジェクトの第一弾なのね」
葉月さんが息を吹き返した。そして、画集を1ページずつ丹念に見ていく。
「素晴らしい…ブラボー♪」
気に入ったらしい葉月さん。その気に入ったページは…えっ?私…いつの間に…耳が熱くなっていく、そんな構図…両手で陰部を隠し、腕で乳首を隠しているが、バストラインは明確であり、指の隙間からは、陰毛が…いや、汚れと言われればそうだけど…そんなギリギリセーフな描写ではある。これを出版した会社は勇気有るなぁ…
「これらのは、今後の作品の挿絵に使うのかね?」
葉月さんがマサムネ君に訊いた。
「そういうストーリーになればですが…今の所は予定に無いです」
「彼はイラストレーターなの?」
大和さんに訊かれ、
「違いますよ。彼は小説家なんですよ」
と、答えた私。