---和泉正宗---
月曜日…学校へ行くために玄関を出ると、先輩と恵が待っていた。
「二人共、今日から?」
頷く二人の妖精…
「じゃぁ、行こうか」
川の字に並んで通学…新鮮である。その時、俺の背後に、歯ぎしりをしている二人の妖精がいたことを知らなかった。
教室では、俺の隣に恵…新鮮である。
「ねぇ、なんで、彼女がいるのよ~!」
休み時間、智恵に訊かれた。
「前の学校で問題があって…で、転校を余儀なくって感じらしい。虐めかな…」
「虐められる要素が無い気がしますけど!」
何かに腹を立てている智恵。何にだ?
「ムネ君、どうしたの?」
恵が近寄って来た。それと共に、俺から離れる智恵…どうしたんだ?
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平日はやることが多い。神楽坂さんへ渡す原稿作り…俺の後ろでは没原稿を熟読している先輩。サルベージできそうな作品を探してくれている。
「う~ん、個人的には好きだけど、確かにヒットするかは微妙だな」
先輩からの有り難いお言葉…分かっているのだが、う~む…
「ジャンル替えかな。かわいい姉妹的な方向へ」
「それは困る!私の作品の方向性も、変わってしまうではないか」
俺の作品が出版枠を得る機会は少ない。その出ない期間に、自分が読む為の物語を書き溜める先輩。俺の作品の方向性が変わると、彼女の作品はそれに引っ張られるらしい…
「どうするかな…」
「妖精とエルフの冒険活劇はどうかな?」
先輩の何気ないヒント…そうだな。それだと、紗霧とエミリーの冒険活劇を妄想すれば…その方向で企画書を書いてみる。神楽坂さんに見せる為では無く、先輩に見せる為だ。彼女の読みたい作品を書けば、きっと…俺のコアなファンの一人だし。
「う~ん…ありだと思うが…三人目のキャラに、嫌な予感がするのだが…」
三人目のキャラは、賢者様♪タイトルは『無邪気な三人』とか…
「ダメかな?」
「ダメってことは無い。君の発想は好きだ。でも…あの二人と同格って言うのは…」
「だから、賢者様です。少し格は上な感じです」
「少しか…」
「花ちゃん…背伸びはダメだよ」
いきなりの本名呼びで、真っ赤になる先輩。
「卑怯だぞ、マサムネ君…本名で呼ぶのは…」
耳まで真っ赤にして、俯いている先輩。
「かわいい妹枠ではダメですか?」
「ダメでは無い。ダメでは…いつか…きっと…」
「先のことはわかりません。今を見てはダメですか?」
先輩は何も言わずに抱きついて来た。
「しばらく、こうしていて欲しい…」
先輩を優しく抱き締める俺。
---八神コウ---
何かが変わった青葉…表情に拘りを持ち始めていた。
「コウさん、敵にやられたら、こんな表情はどうですか?」
一瞬ゾクッとする表情…思わず二度見をしてしまう。
「狙い通りですね♪」
う~ん…一皮剥けないとダメなのは、私の方なのか…
「この表情いいなぁ。何度でもやられたくなるな」
って、はじめ…いや、確かに、何度も見たい表情ではある。問題は…
「なぁ、青葉…顔と身体がアンバランスなんだが…」
顔はエロゲー、身体はほのぼの系…ダメと思う。
「そうなんですよね。このギャップをどう埋めるか…」
自分のスペースで悩み始める青葉。
「コウさん、大学生枠…見つけましたよ」
大和さんがそう言いながら、やってきた。
「どんな子?」
「ラノベに興味があって、出版社にバイトに来ているの」
う~ん…後は見た目だな。
「見た目は?」
「そうねぇ、コウちゃんに近いかな?」
ライバルになると厄介だな…しかし…
「週末に持って行けるか?」
「やってみるわ♪」
---和泉正宗---
「兄さん…お話があります…」
神妙な面持ちで紗霧が、部屋に入って来た。PCをスリープモードにして、紗霧と向き合う。
「どうしたんだ?」
俺の前に正座をする紗霧。何が始まるのだ?
「あのですね…」
恥ずかしそうに、顔を背けた。何かやらかしたのか?
「あの…学校に通おうかなって…」
うん?やっと、その気に…でも…
「どういう心境の変化なんだ?」
「う~ん…」
モジモジしだした紗霧…この仕草は好きである。
「別に兄さん達の登校風景が、羨ましいってことでは無いんですが…」
あぁ、今朝の事か…
「何か…ズルいって思えて…だから…通おうかなって…ムラマサの後輩になるのは、アレだけど…年齢はどうにもならないし…」
「明日から通えるか?」
「いきなり…無理かな?でも…先延ばしもイヤかな…」
「制服はどうだ?成長期だし…サイズは小さくなってないか?」
「うん…大丈夫…たまに着て、描いているから…」
「じゃぁ、明日からだな♪」
「でね、兄さん…」
耳と頬が真っ赤になっていく紗霧。
「勇気を持って…決断したの…あのね…ご褒美…」
紗霧の額にキスを…
「に…いさん…」
「今はこれだけだ。高校に入ったら、グレードを上げる。約束するから、残りの中学生活を通い抜いてごらん、紗霧」
小さく頷いた紗霧は、部屋から出て行った。
翌朝、4人で学校へ向かう。俺の後方で、歯ぎしりをするエルフが一人いたことを、俺は知らなかった…
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午後の授業は休んで、紗霧の学校へと向かった。登校初日に問題が起きたようだ。職員室に向かうと、紗霧が蒼い顔で震えていた。
「紗霧、どうしたんだ?」
駆け寄り、紗霧を抱き締めた。紗霧は俺に抱きつき、嗚咽を漏らしている。
「入学以来の登校拒否だったからね、クラスメイトに好奇な目で見られて…学級委員長が過剰に庇いすぎて、余計に注目されて…登校拒否が長かったから、沢山の視線に恐怖を抱いたようだ」
紗霧の担任教師から説明が為された。めぐみんかぁ…原因は…
「すみません。妹が迷惑をお掛けして」
担任教師に頭を下げた。
「いやいや…こちらの指導不足もある。心的に要因での登校拒否は、ありがちだからね。どうフォローするかは、学校サイドで考えるよ。彼女を連れ帰ってもらえるかな?」
「はい」
「紗霧君、少しずつでいいから、学校へは毎日、通いなさいね」
紗霧に優しい言葉を掛けてくれる担任教師。俺は、紗霧を連れて帰宅した。
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家に帰ると、あの問題児が、クラスメイトを引き連れて、家に押し掛けてきた。
「「和泉さぁ~ん!」」
クラスメート全員だろうか?結構な大合唱だ。
「おい、うるさい!」
玄関の外に出て、この件のリーダーに、文句を言った。
「何を言っているのですか、お兄さん!私達は紗霧さんの味方ですよ!」
担任の話では、お前が追い出したように聞こえたが…
「せぇの~♪」
「「紗霧さぁ~ん!」」
「おい、近所迷惑だろうが!」
「お兄さんでは、埒が明きません。紗霧さんをここに連れて来てください」
こんな暴徒達の前に妹を、差し出す訳にはいかない。そこに、サイレンを切り、赤色灯を点滅させた車がやってきた。
「あぁ、ご苦労様です。コイツらです。家の前で大声で叫んでいた中学生は♪」
制服を見た瞬間、めぐみんの顔から血の気が…
「また、お前か!懲りないのか?中学1年でストーカーって、問題有るだろ?」
めぐみん以外の生徒は、蜘蛛の子を蹴散らす勢いで逃げ去っていった。当のめぐみんは、2度目の補導となった。
家の中に戻り、紗霧の部屋のドアをノックした。
「紗霧、大丈夫か?」
ドアが少し開いた。
「うっ…大丈夫じゃないよ~!兄さん…傍にいて!」
紗霧が飛び出して来て、俺に抱きついた。恐かったのだろうか。目から大粒の涙が零れていく。
「大丈夫だよ。俺が紗霧を護る…って、言っても、中学校の中まで護れないけど…ごめんな…紗霧」
「うんうん…兄さん…通うって決めたのは私。授業を放りだして、私を迎えに来てくれた。それだけ、充分だよ…今は…」
夕食の準備の時間まで、廊下で紗霧と抱き合った。
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土曜日の朝…呼び鈴が鳴り、応対に出ると…紗霧と同じ制服姿のめぐみんが立っていた。
「お兄さん…ひどいです…」
警察で絞られ、学校で絞られ、家で絞られたそうだ。
「お前が悪いんだろ?やっと、紗霧が学校へ行く気になったのに…」
怒りをめぐみんに、ぶち込む。
「私は…よかれと…」
「良く無い!その結果…家から出られなくなったんだぞ」
あの日以来、エミリーの家にすら、遊びに行けなくなっていた。
「しかしですね!」
「はい、そこまでだ!」
自転車に乗った警官がやって来た。あの日以来、巡回コースに入れてくれたらしい。
「また、お前か…」
警官の制服を見て逃げるめぐみん、追う警官。これで、しばらくは寄りつかないだろうな。家の中に入り、紗霧の部屋の前まで行くと、紗霧がぽつりと立っていた。
「ありがとう…兄さん…」
俺と見つめ合う紗霧。
「じゃ、時間だから♪」
毎週見ているお気に入りの番組をチェックする為に、部屋の中へと戻って行った妹。普段と変わらぬスケジュールで過ごしている彼女に一安心♪
---白川京---
芳文堂の大和さんに連れられて、洋館へと足を踏み入れた。
「今日から週末は、ここで仕事を頼みたいの」
笑顔で大和さんが言われた。ここって、何の洋館なんだ?勝手口のような扉を入ると、ドアがあり、ノックをしてドアを開けてもらって、入っていく。まず目に入ったのは大きなテーブル、その奥には螺旋階段、両脇には本棚があり、奥に間口の広い窓があり、庭が一望できるようだ。
「この子よ。大学生の白川京さん♪」
「白川です、よろしくお願いします」
挨拶をしたが、みな作業に没頭して、振り向きもしない。
「あぁ、今日は締め切り日か…」
大和さんが呟いた。
「ここって、誰の作業場ですか?」
「洋館自体は山田エルフ先生の家です」
山田エルフ先生…累計200万部くらいの中堅のラノベ作家だ。
「山田先生は違うパブリッシャーですよね?」
「えぇ。ここは"縁"プロジェクトの作業場よ。今日から"縁"付き担当として、各パブリッシャーとのパイプ役をまかせます。がんばってね♪」
なにやら、大役過ぎる。バイトの身分でするには、責任が重大すぎる気がする。
「あぁ、いいじゃないか。スタイルも申し分ないし♪」
誰?知らない女性に声を掛けられた。
「彼女はイーグルジャンプ社の八神コウさんよ」
八神コウって言ったら、フェアリーストリーズのメインキャラデザを担当したイラストレーターでは無いか…
「そんなに、目をキラキラさせないでいいよ。私なんか、ここでは下っ端だし」
謙遜するような素振りの八神さん。
「あれ?今日はまだ来てないの?」
「紗霧ちゃんが…ちょっとね。まぁ、マサムネ君はもうすぐ来るよ。まぁ、本でも読んでいてくれ」
本棚の前に立つ…"縁"プロジェクトに参加しているクリエーター達の作品が並んでいた。まず、手に取ったのは朝霧沙樹先生の画集。ふと、表紙に目が止まった。このモデルって、八神さんでは…ここで働くとモデルにされてしまうのか?そういえば、さっき、私のスタイルがどうのこうのと…
「大和さん…モデルなんか出来ませんよ」
不安を言葉にして伝えた。
「誰でも最初はそういうのよ。大丈夫、私にも出来たし♪」
本棚からクリアファイルを取りだし、とあるページを開いて私の前に置いた。つい魅入ってしまうイラスト…恍惚とも言え無くもない妖精の横顔…って、これ…大和さん…
「うん?あぁ、それは胸以外は私よ。私の胸だと、妖精的には大きすぎるって、協議の結果なったみたいなの」
クリアファイルに収められているのは、未発表のイラストのようだ。朝霧先生、エロマンガ先生、柏木先生、そして、八神さんのも有る。
「ここでは、ライバルであり、仲間でも有るの」
きれいな女性に話しかけられた。
「あっ、初めまして、白川京です」
「初めまして。霞詩子です」
『恋するメトロノーム』の作者だわ…
「ファンです♪」
「ありがとうね♪」
こんなきれいな人が書かれていたんだ。
「大和さん、今日は早いですね」
「パイプ役を連れて来たからね」
入り口のドアでは無いドアから入って来た青年…これが、和泉マサムネ先生との初遭遇だった。