---白川京---
入り口のドアでは無いドアから入って来た青年…この家の関係者だろうか?山田エルフ先生の弟さんかな?
「パイプ役?」
「出版社とのパイプ役です。まぁ、神楽坂さんと私がいれば、問題は無いけど、二人共来られない日も有るでしょうから。私が来られる日に、仕事を覚えてもらおうと思いまして」
あの謎の青年に説明をしている大和さん。
「あぁ、そうですね。必要ですよね。すべてリンさんにまかせるのは、悪いし」
「私は問題無いわよ。どうせ、コウちゃんは、毎週通うはずだからね」
「リン…」
うっ、誰が誰だか、わからない…
「あぁ、みんなを紹介しないと…早く名前を覚えてもらわないと。連絡に不備がありますと、マズいですね」
大和さんが気づいてくれた。助かった…のか?
「コウさんと詩子さんはいいよね?」
頷く私。
「彼がプロジェクトリーダーで、『冴えない彼氏』のモデルの和泉マサムネ先生です」
この人、作家なんだ…え?冴えない彼氏?誰の?
「キッチンにいるのが、加藤恵さん。タイムキーパーとか雑用をしてもらっているの」
「よろしくお願いします。ムネ君の暫定彼女です♪」
暫定彼女?なんだ、それは…無表情に近い少女。う~ん…謎が多すぎる。
「奥から顔を出しているのが、柏木エリ先生。で、こちらはイーグルジャンプ社のりんさん。彼女はスケジュール管理とか、事務的なことをしてくれています。あぁ、あと、そこで頭を抱えて絵を描いているのはイーグルジャンプ社のイラストレーターである青葉さん。あと、窓際で珈琲を飲んでいるのが、イーグルジャンプ社のプログラマのうみこさんです」
「で、紗霧ちゃん達は?」
コウさんが和泉先生に声を掛けた。
「紗霧は部屋から出られない…エミリーは仕事が終わったら、紗霧の相手をしてくれるって。先輩は、神楽坂さんが襲来中…」
神楽坂さんって、業界でも有名な敏腕編集者さんだ。
「いやいや、おまたせ♪」
背後から大声が聞こえた。年配の女性?誰?
「あぁ、神楽坂さん…言われた物を書き上げました」
和泉先生が、原稿の束を神楽坂さん、あの年配の女性に手渡した。
「おぉ、すまないな。和泉先生の出版が無いと、千寿先生は書いてくれなくてなぁ」
「毎月5本は提出していますよ!」
毎月5本?そんなハイペースな作家さん?売れっ子?名前に印象が無いけど…
「和泉先生…マジ、ギネスに登録したい気分ですよ。年間60作もの没原稿を製造する作家としてね♪」
え…没原稿…月産5作も…苦笑いしている和泉先生。
「今回のは、こちらで筋を決めたから、出版しますけど…こういう物を自力で書き上げてくださいね!」
「はぁ~、努力いたします」
神楽坂さんの手にした原稿の表紙には『追憶の紅兎』とある。そうだ…『転生の銀狼』の作家さんだ…和泉マサムネって…
「で、妖精シリーズは順調なんだろ?」
「いや、挿絵が良い物が描けなくて…スランプです」
妖精シリーズ?和泉マサムネ先生って、そんな物書いていたかな?妖精シリーズで浮かぶのは朝霧沙樹先生だけども…
「え?これだけ女性がいて、モデルがいないんですか?」
大和さんが声を上げた。
「イメージと違うんですよ…どう言えばいいかな…う~ん…そうだ、ウスバカゲロウのような美しさとしなやかさと儚さを併せ持つと言う…紗霧と恵の中間辺り…」
「確かにいないなぁ…そんなタイプは…紗霧ちゃんとエルフ先生以外は、健康体だものな」
って、コウさん。ここで、皆の視線を受けていることに気づいた私。えっ?わたし?和泉先生はスケッチブックに何やら書き込み始めた。何をしているんだ?
「う~ん…そうね。そんな感じになるかしら」
って、リンさん。何を描いているのかな?覗いてみると…私の裸体…見て描き上げたような、精細さ…どの辺がと言われると困るくらいだ。
「おぉ、耳が真っ赤だな。そうなると、大体こんな感じなんだな」
って、コウさん。つい、頷く私。
「脱がせないでも、ここまで描けるのは才能ですね、和泉先生。いや、朝霧先生♪」
はい?耳を疑うことを、自然に大和さんが言われた。和泉先生って、朝霧先生なのか?作風が違う…和泉先生って、異能バトル学園物だったはずだ。それに対して、朝霧先生はファンタジーたまにホラーって感じなのだが…
「身体のラインが見えれば、大体バランスでパーツの位置がわかるから…う~ん、やはり、イメージが違う…元気すぎる…」
「死にそうなのがいいのか?」
って、うみこさん。
「それも違う…魔物を前にして戦う妖精の戦士なんだけど、全身全霊を使っても勝て無かった…もう打つ手が無いんだけど、彼女が逃げる時間を稼げて良かったって思うシーンなんだ。だから、元気が残っているようなイメージでは無い気がする」
和泉先生が描きたいシーンを説明してくれた。
「ちょっと、本屋さんで、資料を探してくるよ」
って、和泉先生は出て行った。
---羽島千尋---
妹に対して、狂気に近い妹愛を持っている義理の兄…母さんと再婚した義理の父は、ボクを護る為、義理の兄に弟として、紹介した。それ以来、ボクは義理の兄の前では弟である。
義理の兄は作家である。全作品、妹をメインヒロインに置くという妹大好き作家である。そんな義理の兄の影響で、ラノベに興味を持ってしまった。兄に気づきかれないように、家で読み老けている。兄の前ではガンプラオタと思われているけど。
とある作品にはまった。売れ無いラノベ作家なのか、その作者の本が置いてある書店がなかなか無い。無いと欲しくなるのは、人間として自然な行為なのかもしれない。ネットで調べると、『たかさご書店』にはストックされているという情報を得た。
土曜の午前中…『たかさご書店』に足を踏み入れた。レジの奥には、エロマンガ先生の直筆サインとイラストが、額に入れられて飾られていた。それだけで、マニア向けの本屋さんだと、和泉マサムネ先生ファンにはわかる。エロマンガ先生は和泉先生の専属のイラストレーターだから、顔出しNG、年齢不明、性別不明の謎の人物であるが、その先生の直筆の物があることから、この本屋は特別な意味が有るのだとわかる。
書店内を物色すると、『縁プロジェクト』という棚が有った。そこに探していた物が、総て置かれていた。手に入れていない和泉先生の本を大人買いだ♪あっ!コミケでしか買えないと思っていた柏木エリ先生の同人誌も有るんだ…スゴい♪
本をたっぷりと抱えて、レジに行くと…
「俺の絵のモデルになってくれませんか?」
って、知らない男性に声を掛けられた。レジにいる女性は苦笑いしているし。
「えっ?ボクですか?」
「おぉ!俺の本をこんなに…全部にサインを入れます。だから、モデルになってください」
ボクに頭を下げる男性。サイン?何を言っているんだろうか?不審がるボクに、
「彼、和泉マサムネ先生だよ」
って、レジの女性が耳打ちしてきた。頭の中が真っ白になるボク。
「お礼に…そうだ♪今日描き上げたばかりの原稿のコピーをサイン入りで差し上げます。だから、モデルになってください!」
描き上げたばかりの…原稿…
「何の原稿ですか…」
「来月出版予定の銀狼の外伝です。タイトルは『追憶の紅兎』です」
「ムネ君…マジ!ねぇねぇ、それもここには多めに早めに入荷してくれない?」
レジの女性が詰め寄っていた。あっ…本物の和泉マサムネ先生なのか…ここで、正気に戻るボク。それはおいしい謝礼で有るけど…モデルか…そもそも、ボクの性別をどう思っているのだろうか?
「どんなモデルですか?」
「妖精シリーズの完結編のラスト近くのイラストです」
うん?妖精シリーズ?それって、朝霧先生では?ラノベではなく、ハードブックのベストセラー作家である。どういうことだ?
「そっちの…え?完結させちゃうの?」
そっちの…言い回しが気になる。まさか…同一人物なのか?作風がまるで違うのに…
「智恵、情報がダダ漏れなんだけど…」
はっとして口を手で塞ぐ、レジの女性。え?じゃ…マジですか?
「朝霧沙樹と申します。絵のモデルをしてくれませんか」
深々と頭を下げた朝霧先生…こんなに若い人だったんだ…兄さんよりも若く見える。
「ボク…」
「君みたいな女の子を探していたんだよ」
女の子…ボクを正しく認識してくれた彼…
「えっ?この子って女の子?」
レジの女性はボクを男の子と思っていたようだ。
「智恵、どう見ても女の子だよ。ラインや仕草が女性的だし。君、女の子だよね?」
ボクに確認してきた朝霧先生。頷くボク。
「ほらね。智恵、女性を見る目が無いなぁ」
「女性を女性と思わないお前に言われたくないよ!」
レジ横で、なにやら話し合っている二人。振り返る朝霧先生の手には紙袋が有り、
「じゃ、行こうか」
その紙袋を手渡された。中にはボクが買おうとしていた本が、全部入っていた。
「代金は払っておいたよ。それもモデル代のうちだよ」
モデル代を手にしてしまったボク…受けてしまったのと同じだ…興味も有り彼についていくことにした。
---------
彼のアトリエらしき場所に連れて行かれると、知り合いがいた。
「千尋君…どうして?」
みゃーさんが驚いている。
「みゃーさんこそ…」
「あれ?白川さんの知り合い?それは偶然だ」
「彼をどうするの?」
「彼女をモデルにする。イメージ通りなんだよ」
「彼女?千尋君は男の子だよ!」
みゃーさんは、ボクを男の子だと思い込んでいる。兄の関係者だから…ボクとみゃーさんの会話中に、彼はスケッチブックに鉛筆を走らせていた。
「こんなイメージだよ」
描き上げたイラストを皆に見せた。朧気で儚い妖精がそこにいた。手には剣、鎧を着込んで、鋭い眼光を放ってはいるが、どことなく儚さを纏っていた。
「なるほど…」
「りんさん、コウさんで、彼女に水着を着せて貰えるかな?全裸は失礼だし」
二人の女性に更衣室のような場所に案内され、未使用の水着を見せてもらい、試着してみた。用意されていたのは、ビキニタイプとスクール水着タイプであったけど、胸に自信の無いボクは、スクール水着タイプを選択した。
水着を着て、皆の前に出ると、みゃーさんが固まっていた。ボクを男の子と思っていたから…
「どうして?」
「兄さんから身を守る為に、弟なんです」
みゃーさんの問いに答えると、
「なるほど…賢明な行為だわ」
って、頷いていた。そして、撮影スタジオのような部屋へ案内され…
--------
水着にされた意味はわかった…あぁ、そういうことか…彼は身体を描きたいのでは無かった。表情が欲しかったようだ。いや、身体も描いていたと思う。でも、メインは表情だった。触れて良いか確認され、OKを出した場所以外触れないようにして、ボクの表情を…ボクの知らなかった表情を引き出してくれた。
「恍惚な表情…岩に力無くもたれ掛かっているのか。鎧も所々粉砕していて、なんともエロいなぁ…」
って、誰かか唸っている。
「もう1枚はグロだな…首を引きちぎったのか?首の皮が垂れているし…」
斬首では無く、首をねじ切られ、台の上で晒される妖精の生首…死相は感じられず、あの恍惚な表情で、どこか遠くを見つめている…しかし、目には輝きは無い…
「千尋君だっけ。ありがとう。これで来月出せそうだよ」
紙の束を持って来て、1番上の紙にサインと落款を押してくれた。
「はい、これ、約束のモデル代だよ♪」
約束通り、出版前のコピー原稿をいただいた。
「実際には校正が入るから、少し修正されると思うけどね」
彼の笑顔…ムネにきゅんと来る物が有る。これって…初こ…
「また来ても良いですか?」
「うん、またモデルを頼むかもしれないから。あぁ、今日はゆっくりしていってね♪」
彼のリラックスした声を聞くと、なにやら嬉しくなった♪
------
「千尋君、料理が得意なんだ」
表情から感情を読み取るのが難しい恵さんに声を掛けられた。
「はい♪」
「ねぇ、毎週土日に料理番として、バイトしないかな?」
「料理番?」
「今はムネ君とエルフちゃんがしているんだけど、二人共作家活動しながらだから…ねぇ、ムネ君どうかな?」
「千尋君がオーケーならオーケーだよ。助かるし。料理出来る者が多い方が、穴埋めもしやすいし」
って、正宗君。どうやら、ボクと正宗君は同い年で、恵さんは1つ上らしいことがわかった。って、いうか、ここの作家陣は皆若い。話を聞いたら、山田エルフ先生と千寿ムラマサ先生、エロマンガ先生は中学生だという。柏木エリ先生、霞詩子先生、正宗君は高校生だし。なゆさんの世代ってすごい作家さんが多いんだと思った。
今日は締め切り日らしく、作家陣は忙しく動いている。ボクとみゃーさんは、大和さんと恵さんから、ここの説明を受けた。
このアトリエの有る洋館は、山田エルフ先生の家で、隣に正宗君の家、その裏に千寿ムラマサの家が有り、渡り廊下で繋がっているらしい。ここに螺旋階段で上がると、宿泊施設が有るそうだ。土日は宿泊する者がほとんどとか。シャワールームもあるそうだ。
後、エロマンガ先生は正宗君の義理の妹で、ムラマサ先生、エルフ先生は妹枠であるそうだ。そうか…私と同じ立場の妹さんなんだ。
で、このグループでの危険人物はエロマンガ先生とエルフ先生の無邪気は鬼畜コンビで、3人にはなるなと言われた。まぁ、作風から考えて、全裸フェチかもしれない。
問題は正宗君の精神的な何かだと言う。女性の全裸程度ではムラムラしないと言う。なので、襲われる危険性は無いという。それはそれで、なんだかだよね?
「服すら脱げと言われていない私の立場は?」
みゃーさんが質問をした。
「女体と思っていないのかな。まぁ、完全に安全圏内ですよ」
って、大和さん。苦笑いするにゃーさん。
「よし、終わったよ」
霞先生から声が上がった。
「こっちも表紙のデザインが出来たわ」
って、柏木先生だ。三名の女性がツイスターゲームをしているイラストと、三人の女の子がツイスターゲームをしているイラスト…
「巻数が進むと、服が徐々に減ったり♪」
楽しそうに説明してくれる柏木先生。
「これで、縁プロジェクトのメイン書籍が出せるわね」
って、あれはりんさんだったかな?
「夕食は何?」
「あぁ、煮込みハンバーグだよ」
って、正宗君。賑やかで楽しそうな空間である。
「じゃ、俺は、家でオムライスを、作らないといけないから」
って、正宗君が部屋を出て行く。何故か後を付いていくボク。
「千尋君…どうしたの?」
「え?いや…正宗君の家…気になったから…ダメかな…」
「ダメじゃ無いよ」
ボクの肩に腕を回してきた。一瞬ビクっとしたけど、何か心地が良い。兄さんは、こんなことをしれくれなかったもんな。ボクを弟と思っていたから…妹とバレたら、今ここにいないかもしれない。難しい問題である。
「ここが俺の家、この先がムラマサ先輩の家だよ」
正宗君の家のドア、勝手口だった。
「エルフの家は洋風だから土足だけど、うちと先輩の家は和風だから、土足厳禁だよ」
と、靴を脱いで上がる。
キッチンの横にはソファーのあるダイニングが開けていた。2階は妹さんの部屋だそうだ。正宗君の部屋はここ…って、1階の奥の部屋の戸を開けた。ベッドが1つ有り、畳には原稿の山がいっぱいあった。
兄さんの部屋のような、フィギュアやゲーム、ビデオの類いはまったく無く、机の上にはPCがあるだけ…執筆部屋と呼びのに相応しい感じがする。
「面白味が無いでしょ?」
壁にはエロマンガ先生直筆のイラストが、額に入れられて飾られていた。
「兄さん…その娘は誰?」
背後から女の子の声…振り向くと、見た目が幼い女の子が立っていた。この子がエロマンガ先生なのか?イメージとはだいぶ違っているんだけど…
「あぁ、モデル兼食事番のバイトをしてくれる千尋君だよ」
ボクの紹介をしてくれた正宗君。
「え…もしかして、兄さんがスカウトしたの?」
頷く正宗君。
「兄さんの好み?」
「好み?紗霧が一番だけど…」
「兄さんのバカ…人前で恥ずかしいよ~」
真っ赤になって俯く妹さん。正宗君も妹好きなのか?ボクの兄さんとは違うタイプに見えるけど。
「でも、千尋君も好きだよ。どこと無く紗霧と恵に似ているから」
「はぁ?マサムネは女なら誰でもいいんでしょ?」
金髪の少女が口を出してきた。彼女が山田エルフ先生かな?無邪気な鬼畜コンビの登場で、少し身構えてしまったボク。
「ふ~ん…確かに…兄さん、見る目あるわ…お尻の形がきれいだし♪」
無邪気な鬼畜に、お尻をロックオンされた気がした。