---白川京---
久しぶりに、なゆちゃんが缶詰になっているホテルへと、足を伸ばした。
「どうしたんですかぁ~、みゃーさん…最近見ないから、心配してましたよ~」
って、全裸で私を出迎えてくれたなゆちゃん。可児那由多という売れっ子作家であるのが、全裸でないと執筆出来無いという技の持ち主である。
「男でも出来ましたか?」
「出来ていません。バイトが忙しくてね」
バイトは、あのカオスな館でのお仕事である。
「バイト?出版社だったよね?どこかの作家付きかな?」
「まぁ…」
「え!バイトなのに作家付きなの?」
驚いた表情をするなゆちゃん。
「バイトなのにねぇ…」
苦笑いする私。
「誰に付いているの?」
「和泉マサムネ先生…」
一番仕事量の多い作家名を上げた。月産5作もの没原稿の他、全うな仕事を月に1作半こなすスーパー作家だと思うのだ。
「累計20万部だっけ?へぇ~、そんなに売れていないのに、みゃーさんをねぇ♪いい男なの?」
「全然。イケメン系でも無いし、醤油顔でも無い。恋愛対象にはどうかなって感じよ」
恋愛対象に…未だに女体として認識されていない。これは言えない情報だな。
「採算取れるのかな?出版社は?」
取れていると思う…職業は売れ無いラノベ作家ではあるが、裏稼業でベストセラー作家だし…これは口外出来無い秘密事項である。
「どうだろうね?バイトの私にはわからないわ」
何かを疑うような視線でみるなゆちゃん。
「ラノベ作家になる夢はどうしたの?」
以前は、そういう夢はあったけど…あのカオスの館勤めになって変わった。作家よりも今の仕事が楽しいのだ。今の仕事、作家間、出版会社間の連絡及び調整である。醍醐味は、発売前の新作が読めること…一緒に書いている気になれることかな。後者の比率は大きいし。
「あきらめたわ。売れ無い典型が目の前にいるんですもの」
彼は売れ無い訳では無い。現に裏稼業の方は売れまくっている。相棒の存在が大きい気がする。相棒の作品を使いたいが為の作品作り…売れ無い原因の一端だと思う。
「ふ~ん…それにしては、生き生きしているのが、不思議…」
疑っているのは、そこなのか…確かに生き生きしているかも知れない。あの仕事になってから、毎日が楽しいのだ。
「そうかな…で、伊月は最近、どう?」
千尋君の義理の兄で、なゆちゃんの想い人で、私の元クラスメイトのことを訊いた。
「どうって…変わり無く、妹愛に燃えているわよ。これから行く?」
行くといらんことを話してしまいそうだ。
「止めておくわ」
「そうなんだ…ねぇ、朝霧沙樹先生に会えるかな?」
え!一瞬固まった私。ソレをなゆちゃんは見逃さなかった。
「知っているんだね♪ねぇ、会いたいんだけど、セッティングしてくれないかな」
甘えるように言うなゆちゃん。
「会ってどうするの?忙しい作家さんなんだけど」
「ほぉ~、そう来たか。みゃーさんって、朝霧沙樹先生付きなのね♪」
「違うけど…」
まぁ、同一人物ではあるが…
「ねぇ、会いたいよ~♪」
「これから行く?」
「うん♪」
エサに喰い付いた魚…
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なゆちゃんを手土産に、カオスな館に出勤…早速、霞先生、柏木先生が喰い付いた。
「中々、エロいですね」
「エロさが醸し出されているわね」
たじろぐなゆちゃん。
「え?あの…どなたですか…」
「おぉ~♪」
ペンタブレットを持ち、なゆちゃんを色々な角度から見るエロマンガ先生。今日は、千尋君がお泊まりに来るので、エロマンガ先生を預かったのだ。その為の手土産…カオスな館の住民達の毒気を帯び始めた私。
「えっ?ねぇ、みゃーさん…朝霧先生は?」
「明日の朝、来ますよ♪」
「新人のモデルさんですか?」
エロマンガ先生に、触発された青葉さんも、ペンタブレット持ち、エロマンガ先生同様に色々なアングルからモデルさんを見ている。
「あれ?なゆちゃん…どうしたの?オドオドして。いつものなゆちゃんは、どこに?」
なゆちゃんの毒気よりも、濃い毒気を持つ住民達。
「みゃーさん、どういうこと?この人達、恐いよ~」
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翌朝、なゆちゃんはグッタリしていた。エロマンガ先生は、和泉先生からのお叱りにより、初対面の者に無茶はしないようだ。初対面な者には…翌朝、デッサンスタジオに、なゆちゃんを連れ込んだ、無邪気な鬼畜達。睡眠充分な朝は元気である。
「ねえ、おパンツを見せてください♪」
エロマンガ先生の直球に、固まるなゆちゃん。
「みゃーさん…この子達は何者?」
怯えた声で訊いてきたなゆちゃん。
「ペンタブレット持ちはエロマンガ先生で、もう一人は山田エルフ大先生です」
「みゃーさん…そんな名前の人は知りません…」
真っ赤な顔を横に向けて言う紗霧ちゃん。ペンネーム呼びは大嫌いなようだ。
「おはよう、マサムネ君」
「おはようございます。で、客人は?」
和泉先生の声で固まるエロマンガ先生。
「紗霧ちゃんが…」
ガチャ!
デッサンルームに入って来た和泉先生。ここ、デッサンルームは、主に朝霧先生の為の施設である。光と影を作り出せるように、移動式のライトが数個設置されているのだ。
「その子が、可児先生?」
「そうです」
私が返事をすると、備え付けの棚から、スケッチブックと鉛筆を取りだし、描き始めた。
「なゆちゃん、朝霧先生よ♪」
戸惑うなゆちゃん。まぁ、エロマンガ先生と朝霧先生の揃い踏みは、異様かもしれない。作風が違うしなぁ。
「みゃーさん…ありがとう。次のシリーズのアイデアが浮かんだよ」
担当作家さんの為になったようで嬉しいです。でも、彼のデッサンを見て固まる私…
「どうして、私なんですか?」
女体認識されていないはずでは?
「気弱な小悪魔と、強気な天使って感じかな」
私は天使なのか…いや、この天使の絵はおかしい。なぜ、全裸なんだ?顔は私で間違いは無い。身体も…いつ見たんだ?
「見たでしょ?」
「理由は?」
理由は言えない…陰毛の刈り込み具合なんて…
「言えないなら、言いがかりだよ♪」
天使と悪魔が絡んでいる絵を描き始めた。そうか…エロマンガ先生のイラスト…あれを参考にして…
「で、可児先生…なゆちゃんって呼べばいいのかな?」
「はい…愛称でかまいません…」
「御用件は?」
ヘロヘロに弱っているなゆちゃんに、手を掛ける素振りの無い和泉先生。好みでは無いようだ…
「いえ…みゃーさんとの関係を訊きたくて…」
はぁ?何を訊きたいって?
「関係?はて?なんだろうな…友達ってことでは無いし…う~ん…あぁ!そう…そうだな。友達の知り合いかな?」
友達?それは千尋君かな?
「あれ?なゆさん、どうしたんですか?」
千尋君の声…
「ちっひーこそどうして…」
「ボク…正宗君の…」
朝霧先生の背中に抱きつく千尋君。朝まで一緒だったのか。顔は未だに紅潮している。
「え?そんな関係…バラなの…」
ショックを受けた顔になったなゆちゃん。たぶん、二人の関係、いや千尋君の性別を誤解しているだと思う。この館では、千尋君は素に戻っているのだった。
「バラ?ねぇ、バラってなんですか?詩羽さぁ~ん」
「百合の逆だよ。ソイツ、性別を誤解しているんじゃないのか」
霞先生が答えてくれた。
「あぁ、そうですね。ボクの性別を誤認識しているんだと思います」
と千尋君。会話が混沌としてきた。
「え?朝霧先生って、和泉先生?千尋君って、女の子?えぇぇぇぇぇ~!」
混沌としだした会話から、正解だけを読み取ったなゆちゃん。さすがだ。
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皆で朝食。千尋君からなゆちゃんに、真実が語られ、何故そうしていたかも語られた。
「なるほど…確かに、犯罪に発展しますよね。先輩に妹がいたって判明したら…」
で、縁プロジェクト入りを打診した大和さん。混乱しながらも了承した、なゆちゃん。そんな彼女には、縁の仲間になったことで、朝霧先生の秘密が語られた。
「色々納得できました。みゃーさん、大出世じゃないですか。縁プロジェクトのプロジェクトマネージャーだなんて」
いや、そんな立派な肩書きでは無い。でも誰も否定してくれない。そう思っていいのだろうか?
で、なゆちゃんが朝霧先生に会いたかった理由…以前、ネットでの文字だけの対談が行われ、なゆちゃんの登校拒否について経験に、共感していたのが気になっていたそうだ。
「うん、まだ入学してから1日しか登校してないんだよ」
って、紗霧ちゃん。もう10月末なんですけど…
「あぁ、妹さんが…それで、私に共感を…納得しました。共感ついでに、朝霧先生を口説いていいですか?」
口説くって言葉に反応した女性が数名…
「なゆちゃんって、彼氏入るんでしょ?千尋君の義理の兄さんだっけ?」
「彼氏で無いんですよ。私、告って振られたんですよ。ねぇ、傷心な私を癒やしてくださいよ~」
「なゆちゃん、マサムネ君と付き合うって、紗霧ちゃんの餌食になるってことだが、大丈夫なの?」
「ひぃ~!それは…餌食は止めて下さい…たまに、パンツなら見せますから…」
全裸で執筆すんだから。パンツくらい問題無いと思うのだが…
「で、役割はどうするんだ?」
霞先生がプロジェクトの話に触れた。
「サイドストーリー担当で良いんじゃないかな?なゆちゃん、各キャラクターの設定を頭に入れて置いて」
「了解です♪」
なゆちゃんは楽しそうだった。こんな風に、みんなで何かを作りたかったのかもしれない。私がそうだったように…
---羽島伊月---
同期デビューした不破春斗と二人で、家呑み…
「最近、千尋君達来ないのか?」
ちっひーが来ないとつまみがしょぼい。
「可児子も来ないし、京も来ないなぁ…」
「お前、何かやらかしたんじゃないのか?」
妹関連以外、やらかしたことは無い。あまりにも激しい妹愛の為、ちっひーは来づらくなったのか?可児子と京は原因がわからない。う~ん…
「心当たりは無いなぁ」
「本当か?」
「あぁ…」
春斗がネットサーフィンを始めた。しばらくすると声を上げた。
「おい、これって…」
春斗が俺に見えるように、モニタを俺の方へと向けた。そこには、可児子似の悪魔と、京似の天使が絡むという、イラストが表示されていた。
「それって、何?」
「朝霧沙樹の新作の挿絵の1枚が公開されたそうだ。妖精シリーズが終了して、今度は天使と悪魔シリーズらしい」
似ている…う~ん、偶然か?それとも、二人共朝霧沙樹の愛人に?
「まぁ、俺には関係は無いなぁ。妹枠で無いし」
「そうなのか?俺は気になるが…」
春斗は京狙いだっけ?
数日後、春斗からメールが届いた。添付ファイルを見て固まる俺…ちっひー似の妖精が…何者かにやられたイラストと…生首を台の上に載せられているグロいイラストだった。
「おい、これはなんだ?」
スマホで春斗に訊いてみた。
『朝霧の妖精シリーズ完結編の終盤のイラストだ…3人共朝霧の処にいるんじゃないか?』
いるから何だ?いや、ちっひーだけは返して欲しい。俺の食事レベルが下がっていくから…
春斗との通話を終え、自宅へ連絡をしてみた。久しぶりに…で、ちっひーと話をしたいと用件を言うと…友達とシェアハウスしていて、家にいないと言う。どういうことだ?
更に、犯罪だけはするなよって、忠告をされた。なんでだ?俺は犯罪者では無いぞ!
言いし得ぬ何を感じ、居ても立ってもいられず、今度は可児子の缶詰ホテルへと足を向けた。しかし…可児子は引き払っていた。出版社に問い合わせをしても、居場所は言えないって、門前払いだし。朝霧…俺から総てを奪うのか?しかし、妹愛だけは渡さんぞぉぉぉぉぉ~!
---羽島千尋---
自宅から、義兄さんが探していると連絡があった。両親共に、ボクの安全を第一に考えてくれており、山田エルフ先生の洋館への下宿も認めてくれた。今は、正宗君、恵さんと共に高校へ通っている。
出版社からの連絡で、なゆさんも義兄さんに捜索されているようだった。彼女の出版社も、山田エルフ先生の家での缶詰を認めてくれたようで、なゆさんもボク達と暮らしているのだった。
一方、みゃーさんは…義兄さんが探している様子も無いことから、すっかりと義兄さんから離れることを決意したようだ。
ここでの生活は楽しい。来る者は拒まない正宗君を、なゆさんが気に入ってしまったのは、誤算だけど…でも、進んでどうこうしないので、誰も彼のことを浮気者とは言わない。そもそも、夜這いが行われるのは、正宗君が熟睡中であり、不可抗力の要素が大きいし。まぁ、なゆさんは確信犯というレッテルは貼られている。
作家活動に関しては、皆プロで有り、書くときは書くようだ。そんな作家達をボク、恵さん、京さんで支える。それなりに皆、今しか出来ないリア充を満喫していると思う。