---和泉正宗---
エリさんと恵さんが帰って行った後…紗霧は、部屋での引きこもりを止めた。俺と一緒にリビングで夕食を食べている。
「兄さん…考えたんだけど…消灯を0時にしようよ」
紗霧からの提案。俺の睡眠時間を考えてのことのようだ。
「今夜から…私…兄さんと添い寝する…だから…0時には一緒に寝ようよ」
って…え…嬉しいけど…紗霧と添い寝…
「でも…俺のこと…嫌いなんだろ?」
俺と顔を合わせて生活していないって、そういうことだよな?
「兄さんの事…大好きだよ…じゃなきゃ、こんなこと言わない!」
怒ったような目で睨む紗霧。そうか…そうなのか…じゃ、なんで?まぁ、いいっか。紗霧が言いたくなるまで待つとするか。
「わかった。0時に消灯にしよう…紗霧に心配を掛けたくないから」
「うん♪」
俺と紗霧…和泉マサムネはエロマンガ先生との新しい関係が、スタートをした。今まで自分の担当するパートしか専念していなかったが、夕食後、没原稿に目を通して、見直しポイントのアドバイスをくれる紗霧。俺は、彼女の満足できる作品に作り替えていく。
「兄さん、0時だよ…」
恥ずかしそうに声を掛けてきた紗霧…二人でパジャマ姿で1つの寝床に入る。お互いの身体を優しく包み込みながら、就寝…そして…目覚ましの音で目覚める…
「兄さん、おはよう♪」
「おはよう、紗霧」
彼女の額に軽く口づけをした。嫌がる素振りを見せない妹。俺は寝床を出て、シャワーを浴びて、朝食の支度を始める。紗霧は、俺の次にシャワーを浴びて、食卓で待っている。
そして、登校時間。玄関先で見送ってくれる妹。新鮮だぁ~♪
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「ムネ君…妹さんと添い寝?それは、犯罪だよ~」
俺の学校での唯一の友人で、家の近所のたかさご書店の看板娘の智恵に言われた。
「犯罪って、言い過ぎだよ。妹と寝ただけだし」
「だって、妹さんって、中学生でしょ?」
「そうだけど…」
「それはマズいって…」
「じゃ、智恵が添い寝してくれるか?」
「……」
俺の言葉に顔を真っ赤にして、顔を伏せている智恵。
「だろ…誰かが一緒で無いと、0時に寝るのは難しいよ」
彼女は俺が和泉マサムネであることを知っている。徹夜に近い状態で作品作りをしていることも知っている。
「こまった問題だよね…一緒は無理だよ。うちのお父さん、外泊は認め無いし」
うん?外泊を認めれば、添い寝オーケーなのか?
「で、どうなの?作品作りは順調?」
「没原稿の山…」
学校の帰りに智恵の店に立ち寄る。売れ筋の本に、俺の本は…
「ムネ君の本は、こんな一等地に置けないよ!」
店内を入ってすぐの平積みの棚を指差す智恵。だよな…山田エルフ先生のサイン本が、大量に置かれている。朝霧沙樹の本は、入荷待ちと書かれている。う~ん…
「和泉マサムネ先生も朝霧沙樹先生のように、入荷待ち状態になれば、ここに置いてあげるわよ♪」
知り合いでもひいきをして、一等地に置いてくれることはしない智恵。ラノベ大好き少女であり、作者では無く、作品をこよなく愛する少女であるのだ。で、俺が朝霧沙樹であることは知らない。なので、比較対象に出せたのだと思う。
「累計20万部程度の俺が、累計200万部に勝てる訳が無いなぁ」
山田エルフ先生は累計200万部の売れっ子作家である。それに対して、和泉マサムネ名義の本は累計20万部程度であった。無理だぁ~!朝霧沙樹名義の方は、2作連続ミリオンなので勝てる気はするが、あっちはハードカバーだし…。
智恵オススメのラノベを数冊買って、家に帰るとリビングで、蒼い顔で紗霧が震えていた。
「兄さん、隣の幽霊屋敷から、ピアノの音がするの…見て来てくれる?」
隣には、古めかしい洋館がそびえ立っているのだが、近所でも有名は幽霊屋敷であった。広大な敷地に立つ洋館は、この辺りにして価格が高くて、長い間買い手が付かない状態が続いたのだった。誰か、引っ越してきたのかな?
紗霧に買って来たラノベを渡して、隣の家を見てくることにした。門柱には『山田』と表札がある。買い手が付いたようだ。ピアノの音色に引き寄せられるように、敷地内に入っていく。1階の我が家に近い部屋の窓が開いており、そこから、ピアノの音色が聞こえて来ている。窓から、室内を覗き込むと、気持ち良さそうに、全裸の金髪のエルフがピアノを弾いていた。妖精かな?座敷童かな?まぁ、いいっか。俺はその場を後にした。
家に戻り紗霧に報告。
「お隣さん、引っ越してきたようだよ。気にしないでも大丈夫。門柱に表札があったし」
座敷童の件は伏せておく。紗霧を怖がらせたくないから。しかし、全裸の座敷童とは珍しい。洋館に住む座敷童はあんな感じなのかな?
「兄さん、本当に?」
「うん、大丈夫だよ」
安心したような表情の紗霧。さて、夕食まで、少し仕事をするかな。
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久しぶり…1週間ぶりの休日。今日は編集部に打ち合わせに行く日だ。いつも通り、紗霧と起床して、朝食を食べて、出掛けるまで仕事をそれぞれの部屋でこなす。先日の洋館でのエルフとの遭遇…閃きの神が舞い降りて来て、朝霧の新作『洋館のエルフ』を書き始めていた。
良いペースで執筆をしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。応対に出ると、中学生の制服を着た少女が立っていた。
「和泉紗霧さん、いらっしゃいますか?」
休日にこの姿は胡散臭い。
「どちら様?」
「紗霧さんの学校の友人で、神野めぐみと申します」
紗霧は引きこもりで、学校に行ったことが無い。こいつ、嘘吐きだな。
「ちょっと、待ってくれる?」
家に入り、警察に連絡し、事情を話した。それから、警官が来るまで、適当に少女の話に付き合う。
「お兄さん、私とつきあいませんか?」
そっち系なのか?
「何か特典はあるのかな?」
「私のスィートボディーを堪能できますよ♪」
どんな身体なんだ?ハチミツプレイ専門なのか?そうこうしていると、警官が到着して、警官達に彼女の特典の話をすると、怪しいコスプレ少女を連行してくれた。これで、一件落着だな。そして、午後、編集部へと向かった。
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編集部の入り口では揉めていていた。俺の担当の神楽坂あやめさんと…あれは、隣にいたエルフでは無いか?座敷童が編集者と何を揉めているのだ?
「この累計220万部のラノベ界の女王の言うことが聞けないの?」
ポーズを取って、自慢げなことを言う座敷童。
「神楽坂さん、こんにちは!どうしたんですか?」
「あぁ、いい処に来てくれたわ。和泉マサムネ先生。このバカ娘が、エロマンガ先生を自分の専属イラストレーターにしろって、五月蠅いのよ!」
あぁこの子って、座敷童で無くて、実在する人物なんだ…
「こいつ、全裸で気持ち良さそうにピアノを弾く、頭がイカレたヤツです。相手にしない方が良いですよ」
「ちょっと!何で…何で…それを知っているの…」
目を見開いて、俺を見る少女。
「全裸の山田さん、俺の家、隣なんですよ!全裸でピアノ弾くな!弾くなら窓を閉めろ!見たくも無い物を見せるなよ!近所迷惑だろ?!」
少女の顔から、みるみる血の気が失せていった。
「神楽坂さん、打ち合わせをしましょう」
「そうね。いやぁ~いつになく、和泉先生の口撃がクリティカルなのは感心ね♪」
奥にある打ち合わせ室に二人で向かった。打ち合わせの結果、没原稿のうち、数作は、今後に期待だそうだ。紗霧のおかげだな。打ち合わせが終わり、出口に向かうと、先程の少女が待っていた。
「待ちなさい!アンタがエロマンガ先生の相棒の和泉マサムネ?」
「そうだけど…」
スルーしてエレベーターに乗り込むと、一緒に載って来た少女。
「私はかの有名な山田エルフよ。下僕よ!エロマンガ先生を、私に差し出しなさい!」
山田…やっぱり、隣の山田さんだ。彼女をスルーをして、家路を急ぐ。晩飯は何を作ろうかな…パスタもいいかな…
「待ちなさい!…ねぇ、待ってよ~!」
強気だった声が弱々しい声になっていく山田さん。俺は興味が無いのでスルーする。新作に登場させようかな?見た目強気で、内面は泣き虫のエルフ…買い物を終えて、家に着くと、家の前で山田さんが待っていた。
「待ってって、言ったのに~!」
ベソをかいている山田さん。
「俺は、お前に用が無い。なので、待つ理由がわからない」
玄関を入ると、紗霧が出迎えてくれたのだが、
「その子は誰?」
紗霧が隣の山田さんを指差した。
「お隣さん。ピアノの音の正体だよ。でさぁ、つきまとわれて、困っているんだよ」
「ふ~ん…ねぇ、絵のモデルになってくれない?」
紗霧が、隣の山田さんの何かをロックオンした。戸惑う、山田さん。紗霧の動きは素早かった。獲物の腕を引いて、部屋に連れ込む。山田さんに悲鳴を上げる暇すら与えない。さてと、夕食を作るかな♪三人前作ればいいのかな。
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リビングでは、全裸で泣いている隣の山田さんがいた。紗霧のモデルをしたとかで、全身をくまなくスケッチされたらしい。
「うっ…うっ…エロマンガ先生に会えたけど…こんな目に遭うなんて…うっ…うっ…」
紗霧は見たことが有る物しか、描けないらしい。なので、全裸モデルを探していた。そこに、エロマンガ先生を手にしようとする隣の山田さんが迷い込み、紗霧の餌食にされたようだ。そうか…エルフって捕食の対象になるのか…ネタ帳に書き込みをする俺。
「兄さん、エルフちゃんのパンティ、かわいいんだよ♪あとねぇ、エルフちゃんのあそこは、きれいな薄ピンク色だったよ」
戦利品で有る隣の山田さんの使用済みパンティを、自慢げに見せる妹。山田さんをスケッチしたイラストを見せてくれた。う~ん…細部まで描き込んでいる。これはこれで、出版出来無いレベルだな。
「ブラはイマイチだったなぁ…ちょっと残念…」
残念という言葉に反応して大粒の涙を溢す山田さん。
「で、隣の山田さん、どうするの?エロマンガ先生を専属にするの?」
首を激しく横に振る山田さん。
「描く度にこれはちょっと…アンタ、よく相棒にしていられるわね!」
「俺の妹だから」
「…」
僕の言葉に固まる山田さん。
「妹を否定することはしない。妹のしたいようにさせる。犯罪行為で無い限りはね」
「アンタの妹は、私の身体を玩具にしたのよ!」
怒り心頭な山田さん。
「はぁ?お前、不法侵入だよな?許可無く、家に入った。それって犯罪だよね。で、犯罪者に躾をした。それだけだ。妹を犯罪者呼ばわりするなら、俺にも考えはある。二度と日の目を拝めなくしてやろうか?」
俺のセリフに恐怖を感じたのか、蒼い顔になった隣の山田さんを、物置に監禁した。防音なので、泣き叫んでも聞こえない。まぁ、躾を兼ねて1時間ほど貯蔵しておくか。妹と二人で夕食を済ませる。汚れた食器を洗い終わり、物置から躾対象者を取りだした。
「反省したか?」
頷く山田さん。
「飯食うか?」
頷く山田さん。飯を目の前に置く。残さず食べきる山田さん。
「ね…責任…とってください…」
消えそうな声で、山田さんが呟いた。
「責任?何の?200万部超えの山田エルフ先生、意味がわかりませんが」
「裸…見た…でしょ…その責任…」
「あぁ、なるほど…見たくも無い裸を見せた責任を取ってくれるんですか、山田エルフ先生。では、今後も妹の専属モデルを頼みますよ♪」
「えっ!」
固まる山田さん。
「エルフちゃん、お願いします♪」
妹、紗霧の嬉しそうな顔。まぁ、一件落着だな。