---土間うまる---
終業式も終わり、家で出掛ける準備をしている。紗霧ちゃんの家のクリスマス会へお泊まりで行く為である。今日は内うまるに成らないようにしないと…私には何故か変身能力が有る。非現実的であるが、見た目が高校生である外うまる、デフォルメキャラのようになってしまう内うまるだ。家でグータラ三昧をしすぎたせいで、神様が罰を与えたのかもしれない。お兄ちゃんは私の変身姿で、私のグータラ具合を見極めている。う~ん…普段は、自分で言うのが恥ずかしいけど、容姿端麗かつ品行方正と言われているのだが、変身すると、夜更かし、偏食の不摂生かつグータラなデフォルメモードになってしまう。自力で、外モードに戻れるのだが、内モードには自力ではなれない。不思議な力で変身させられてしまうのだ。
紗霧ちゃんは、私のこの能力を、目を輝かして「スゴい」って言ってくれた。それはそれで嬉しいのだけど…紗霧ちゃんのお兄ちゃんには見せたくない姿である。荷物を整えて、駅へと向かう。期待と不安で一杯だ。
紗霧ちゃんに出逢ったのは、ネットにあるゲームユーザーの為のSNSだ。掲示板での書き込みをみて、メッセージのヤリトリをして、テレビ電話のように顔をつきあわせて会話して、似たような境遇なので、意気投合したというか。私もそうだけど、紗霧ちゃんもお兄ちゃんしかいないようだし。
そうこう考えていると、目的の駅に到着。意外に近いんだな。移動時間は2時間弱だけど…日帰りはきついかな…これは。
送ってもらった地図を頼りに、徒歩を開始。すると…あの『たかさご書店』って、ここにあったんだ…マニア垂涎の書店。あのエロマンガ先生の直筆のイラストが飾られていると言う…ちょっと寄り道。店内に足を踏み入れた。レジの奥には、件のイラストが飾られていた。エロいイラストであるが、かわいらしさが際立っているので、女の子の間でも人気のあるイラストレーターである。店内を物色…コミケに行かないと買えない同人誌が多々置いてある。う~ん…スゴいなぁ。今度、お小遣いをもっと持って来て買おうかな。
おっ!『追憶の紅兎』…転生の銀狼の外伝が出ていたのか…う~ん…近くの本屋さんに無かったので知らなかったよ。そうだ!紗霧ちゃんが持っていたら、借りようかな♪そんなことを思いながら本屋さんを出て、紗霧ちゃんの家に向かう。
『和泉』という表札がある家を見つけた。隣にはデカイ洋館が…紗霧ちゃん曰く、以前は幽霊屋敷だったらしい。う~ん…そんな雰囲気があるなぁ。
気を取り直して、呼び鈴を押した。
ガチャッ!
ドアが開くと同時に、紗霧ちゃんが抱きついて来た。
「生うまるちゃんだぁ~♪」
思っていたより、健康的では無いようだ。内うまるモードの私と同じような生活なのかな?
「ねぇねぇ、入って♪」
「おじゃまします」
玄関に入るが、他に人のいる気配が無い。
「兄さんは、パーティーの準備でいないの。だから、遠慮しないで上がって、上がって♪」
準備でいない?ここで、パーティーでは無いのか…じゃ、どこで?紗霧ちゃんに手を引かれて、彼女の部屋と思う部屋に連れて行かれた。
こじんまりした部屋。でも、いいなぁ、一人部屋かぁ。部屋の中を見回すと、えっ!なんで…エロマンガ先生のイラストと思われる物が、机の上に置かれている。本棚には、『追憶の紅兎』が…その表紙と同じイラストが、机の上に…
まさか、エロマンガ先生と知り合いなのかな?いいなぁ。
「あぁ、そうそう。これ…嵩張るけど、うまるちゃんにプレゼントだよ」
先程、目にしたイラストを額に入れてくれて、本棚からあの本を1冊取り出して、二つを私に手渡してきた。貰えるの?!いいの?!受け取った私。
「ありがとう…でも、なんで?手に入ったの?」
本を何げに捲ると、和泉マサムネ先生とエロマンガ先生のサインが入っているし…
「兄さんと私の合作…うまるちゃんに♪」
合作?はて?紗霧ちゃんと紗霧ちゃんのお兄ちゃんとの…あれ?そう言えば、紗霧ちゃんって、和泉紗霧だよね…事実に辿りついた私、当然のように固まる。
「喜んでくれて、嬉しいです」
私に抱きつく紗霧ちゃん…いきなり、スカートを捲られた。
「わぁ~、かわいいパンツだぁ~♪」
彼女が…エロマンガ先生…なのか…紗霧ちゃんは、動揺している私を尻目にペンタブレットを手にして、描き始めた…私のパンツを…
「紗霧、どうだ?」
ショッキングな事実で意識が飛んでいた私は、紗霧ちゃんのお兄ちゃんの声で、現実に戻って来た。どうしてそうなったのか記憶に無いのだが、物凄い恥ずかしいポーズだった…
「はぁ…紗霧…お前なぁ…あれほど言ったに…初対面の人に、失礼なことをするなと、俺…言ったよな」
紗霧ちゃんの顔からは、血の気が引いていた。
「いや…かわいいパンツだったから…ごめんなさい…うまるちゃん」
「妹が大変失礼なことをしまして、すみませんでした」
紗霧ちゃんと紗霧ちゃんのお兄ちゃんが、私に土下座をしている。恥ずかしいポーズの私に…それはそれで、余計に恥ずかしい。だけど、身体が痺れて動けない。ポーズの解除が出来無い…どうしよう…
「大丈夫ですか?」
私の身体を支えて、ベッドサイドに座らせてくれた紗霧ちゃんのお兄ちゃん。
「紗霧、これ以上…言わないでもわかるよな?」
「はい。失礼のないように…心掛けます…だから、スルーはしないで…兄さん…」
涙目の紗霧ちゃん…かわいい…
「もうすぐ、パーティーの準備が出来ます。もう少し待ってください」
「はい…」
紗霧ちゃんを一睨みして部屋を出て行かれた。
「マズい…スルーの刑だ…パーティーなのに…」
紗霧ちゃんの目から大粒の涙が零れていく。スルーの刑…私なら嬉しいかな。お兄ちゃんはいてくれるだけで嬉しい。小言はスルーしたい方だし。でも、紗霧ちゃんは違うようだ。お兄ちゃんと会話をしたいらしい。それほど、キツい刑が言い渡されたようだ。
「紗霧ちゃん…大丈夫?」
「うん…大丈夫…兄さんとの約束を破った私が悪いんだから…」
身体が動くようになるまで、しばらくかかった。恥ずかし体勢は、筋肉に負担が掛かりすぎたようで痺れてしまったようだった。身体が動くようになった頃、紗霧ちゃんも落ち着いてきた。なので、パーティーが始まるまで、普通の体勢で、色々とおしゃべりをした。
驚くべき事実が次々と知らされた。私の予想通り、紗霧ちゃんがエロマンガ先生で、紗霧ちゃんのお兄ちゃんが和泉マサムネ先生だった。だけど、さらに驚くことが…朝霧沙樹先生が紗霧ちゃんのお兄ちゃんだった。あぁ、確かに『さぎり』って、入っているわね。ペンネームに…
「兄さんに言って、妖精シリーズの最終巻のサイン本を頼んでみるね」
私のお兄ちゃんが、朝霧先生のファンと言ったら、紗霧ちゃんが笑顔で、そう言ってくれた。
---和泉正宗---
「え?紗霧ちゃんが、またやらかしていたの?」
気になったので、紗霧の部屋を覗いたら…まさかあんなことに…凹んでいる理由を恵に訊かれて、答えた後の反応が、冒頭のやつだ。
「初対面の…紗霧の正体を知らない人には、無理と無茶はダメって言ったんだけど…パンツの誘惑が勝ってしまったようだ。はぁ~」
溜息を吐く。どうすれば、いいんだろうか。紗霧のあの行動は止めさせないと、犯罪に繋がりそうで恐い。
「で、どんな子だったんだ?」
コウに訊かれた。
「どんなって…そうだな、コウの高校生バージョンかな?」
「私の高校生バージョン?う~んっと、普通の子か」
「亜麻色のロングヘアで、割と細めだったよ」
「細め…ここにいないタイプか…紗霧ちゃんレーダーに掛かった理由は」
そうか、それで、やらかしたのか。ここにいるタイプなら、知り合いにすれば良い訳だし。う~ん…かといって、色々な女性をここに集めることは無理だし…どうするかな。
「飾り付けは終わったよ」
エリさんと恵が椅子に座ると、千尋君が紅茶を二人へ渡しに行った。神楽坂さんと葉月さんは、既に飲み始めている。みゃーも飲めるらしく、二人に捕まり飲み仲間にされているし。
後は、七面鳥のローストか。エミリーの家のキッチンへと向かった。
「あぁ、マサムネ。もう少しで焼き上がるわよ♪」
エミリーが抱きついて来た。優しく抱き締めてあげる。
「ありがとう、エミリー」
「うん♪パーティーが、楽しく終わるといいわよね」
紗霧が暴走しなければ、大丈夫かな?酔っ払いも心配だけど。
---土間うまる---
こじんまりとしたパーティーを想像していたのだが…沢山の人がいる。紗霧ちゃんのお兄ちゃん以外、全員女性だし…もてるのかな…
私のお兄ちゃんみたいな感じで、格好いいとか爽やかそうってイメージでは無いのだが、気になる。お兄ちゃんと同じ感じだからかな?
クラッカーが幾つか鳴り響き、パーティーがスタートした。
「兄さん…新居には煙突は?」
新居?紗霧ちゃん達は引っ越すのかな?
「無いよ。いや、有るに有るけど…ピザ釜だからな…サンタさんは来ないよ」
煙突が無いとサンタさんは、来ないと思っているの?まだまだ、紗霧ちゃんは子供なんだな。あんなことをするなんて、想像が出来ないな。
「散々でしたね。ボクもやられましたよ」
羽島千尋さんもやられたようだ。
「あれは、病気だな。職業病になるのかな?」
フェアリーストーリーズのメインキャラデザの八神コウさんだ。って、有名作家さん達のパーティーだった。ゲーム、アニメ、ラノベを愛する私には、雲の上の神々である方達が揃っていた。何、この豪華な参加メンバーは…
ショックだったこと…アニメ化作品の原作者、千寿ムラマサ先生が、中学生の女の子だったこと…それも和服の似合う…ここは別世界なのか?異世界なのか?
「はい♪ケーキですよ~」
おいしそうなデコレーションケーキが出て来た。全部手作りだそうだ。おでんの鍋もあるし、大好物のコーラがある。夢のような世界だ。
はっとした瞬間、意識が夢から現実に引き戻された。どこかの部屋にいる。また紗霧ちゃんかな?パンツをチェックした…あれ?何か違和感がある。パンツでは無く…
「うまるちゃん、どうすれば、元に戻るのかな?」
紗霧ちゃんのお兄ちゃんのマサムネ君が目の前にいた。どうすれば元に…おぉぉぉぉ~!内うまるモードになっていた。
「紗霧から聞いていたけど、実際に見て驚いたよ。みんなが気づく前に、ここに連れて来たんだけど」
救出してくれたんだ…紗霧ちゃんのお兄ちゃんのマサムネ君は、私と同い年だった。名前で呼んで良いって言われている。
「戻り方…『うまる~ん』」
あれ?いつもなら、これで戻れるんだけど…どうしよう…
「その姿だと、みんなが混乱するから、悪いけど、ここにいてくれるかな?食べ物と飲み物は持って来てあげるから」
私を残して部屋を出ようとするマサムネ君。出て行かないで欲しい…彼の背中に抱きつく。え?お兄ちゃんにも滅多にしないのに…自分の取った行動に驚く。しかし、背丈が無いので、彼の足に抱きつく恰好ではある。うっ!目の前にはお尻…
「お願いです。口づけをしてください。そうすれば、呪いが解けます」
何かの小説の影響と思われるセリフが、つい口から出てしまった。この姿だと、シチュエーションに影響を受けやすいようだ。こうなった原因はコーラの飲み過ぎかな…
マサムネ君は私の言葉を間に受けて、私を抱き上げて…唇を重ねた。その瞬間、奇跡が起きた。偶然な気もしないでも無いけど…私の身体は外うまる体型に戻っていく。
「うん、その姿なら、パーティーに戻れるな。さぁ、行こう♪」
マサムネ君が私の手を握り…二人でパーティーへ復帰した。
---和泉紗霧---
兄さんとうまるちゃんが二人で戻って来た。どこで、何をしていたんだ?
「うまるさんが熱気にやられたみたいで…風に当たって来ました」
と、中座した理由を口にした。確かに熱気はスゴい。おでん鍋のせいか。後、気化したアルコールのせいか酔いが…兄さんも同様に思ったのか、窓を開けていった。
「どうしたんだ?寒いぞ!」
神楽坂さんが噛みついたけど
「みなさん、未成年が多いんですよ。アルコールが気化したみたいで…空気の入れ替えをしますよ」
と、毅然と言い放つと、神楽坂さんは納得したようで、兄さんと共に窓を開けていった。窓を開け終わると、兄さんが近づき、私の耳元で囁いた。
「再度、うまるさんが変身したら、どこかに隠して、俺に知らせろ」
兄さんとうまるちゃんが、いなかっった理由がわかった。うまるちゃんが予期せぬ変身をした為、兄さんが場の混乱を避ける為に、隔離していたようだ。私はうまるちゃんに近づき、
「また、変身しそうになったら、言ってください。私と兄さんで、どうにかしますから」
と伝えた。
「ありがとう…」
とても素敵な笑顔…兄さんと何か遭ったのかもしれない。でも、うまるちゃんなら…あの女に取られるよりマシかな。いや、一緒に住めば誰であろうと問題は無いか。
「優しくて、いいお兄ちゃんだね」
「うん♪自慢の私の兄さんだよ」
私とうまるちゃんで兄さんを見つめた。
---和泉正宗---
酔っ払いが寝込む前に、2階へと運んでいく。神楽坂さん、葉月さん、みゃ~、意外だったのは大和さんかな。いや、りんさんが一番意外だな。性格が豹変して、コウに絡みまくっていた。青葉さんははじめさんに絡んでいるし。酒は毒薬かな。性格を一変させるようだ。
「マサムネ君、先程はありがとうございました」
うまるさんが、お礼を言いに近づいて来た。
「大丈夫?うまるさんは、うちで寝て下さい。基本、俺と紗霧しかいませんから」
と、不測な事態に対応できる旨を伝えた。
「はい♪また、遊びに来ても良いですか?今度は、私のお兄ちゃんも連れて来ます」
「機会があればね。待っています。う~ん、後片付けは明日だな。これは…」
先輩と千尋君に、後片付けは明日にすると伝えた。
「そうだな。場の雰囲気にやられた感が強いよ」
って、先輩。
「でも、楽しかったです。また、やりましょうよ、パーティー♪」
千尋君は楽しかったようだ。
「うん、しよう。次は元旦に新年会かな」
「兄さん、年越しそば♪」
「年越しそばパーティーか。そうなると、そば粉を明日注文しないと…先輩、そば打ちできますか?」
「和食はまかせてくれ、後輩♪」
花ちゃんも嬉しそうだ。良かった♪あれ?エミリーは?奥の部屋に行くと寝ていた。2階へ置いてくるかな。