小説家に盆暮れは無い。新年も…元旦以外は、平日と同じである。執筆部屋で唸る僕。う~む…今年、1発目は通したい。4日には神楽坂さんに、手渡す予定である。設定を手直ししながら、書き進める。
「マサムネ君…今、いいかな?」
ドアの向こうから千尋君の声がした。
「いいよ。入っておいで」
「ごめんなさい…執筆中に…」
千尋君の顔は苦悩しているようだった。
「どうしたの?義兄さんのこと?」
頷く千尋君。
「マサムネ君…一緒に接見に行ってくれないかな…」
泣きそうな顔の千尋君。そんな彼女を優しく抱き締める。
「わかった。一緒に行くよ。だから…泣かないで…ねぇ」
「うん、ありがとう…」
僕の頬に、自分の頬を重ねてきた。
翌日、僕と千尋君、みゃー、なゆの4名で、羽島伊月の接見に行った。僕達の訪問に驚く、伊月。接見は、担当刑事さん立ち会いの下で行われた。
「ちっひー…すまない…俺のせいで、弟を演じさせてしまって…」
千尋君に謝る伊月。千尋君の顔は強張っている。みゃーとなゆは伊月を睨み付けている。
「留置場で、現実を見つめ直した。俺の抱いていた夢は、ちっひーに求めていた訳では無い。妄想に近いんだよ」
いや、妄想だろ?現実的では無い。千尋君は僕の腕に、強く抱きついて来た。実の義兄が恐いのだろうか?
「壊れたちっひーはちっひーで無いから…俺は、お前を壊そうなんて思っていない。お前には幸せになって欲しいんだよ」
千尋君は義兄を見据えていた。僕の腕に抱きつく力は緩む気配は無いけど。
「ボクがどんな気持ちだったか、考えたことは無いんですか?ボクの目の前で、妹愛を語る義兄さんは、恐かった。妹だとバレたら、胸に吸い付き、ボクのパンツを口に入れるんじゃないかと…ものスゴく恐かった…」
千尋君の声は震えていた。
「悪かった…妄想だよ。妄想…今思えば、アレは総て妄想なんだ。実際にやろうとは思ってもいなかった…それよりもソイツは何者だ?ちっひーの何だ?」
謝罪、反省よりも俺が気になるようだ。さっきから、俺を睨んでいるし。
「ボクの大事な人…ボクの心の拠り所だよ」
「お前、職業は何だ?」
「彼はボクと同じ高校1年生だよ」
俺が答える前に千尋君が答えた。
「ソイツと同棲しているのか?」
「していない…彼の隣の家に下宿しているんだよ」
「ソイツと結婚するのか?」
「たぶん…しない…でも、一生傍にいたい」
「ソイツは遊びなのか?」
「彼を悪く言うのは止めてよ!ボクにとっては恩人だよ。ボクがボクでいられる切っ掛けを作ってくれたんだ。彼の傍にいられて、とっても幸せなんだ。だから、邪魔しないで欲しい」
「おい!てめぇ~、俺のちっひーと遊びなのか?」
「義兄さん!」
「ちっひーに訊いていない。ソイツに訊いているんだ!」
「遊びの意味がわかりません」
「はぁ?」
俺の答えは、彼にとって満足できる物ではなかったようだ。
「お前はバカなのか?おい、ちっひー、そんなバカを捨てて、帰って来いよ♪」
「彼はバカ出ないわ」
ここまで黙っていたみゃーが口を挟んできた。
「まさか…三人とも、ソイツに囲われているのか?」
「そー言う言い方は彼に失礼ですよ、先輩!」
なゆも言葉を発した。
「おい!高校生のくせに女を囲うってどういうことだ!このクソガキがぁ!」
立ち上がって俺に掴み掛かろうとしたが、椅子に縛られているので、立ち上がれなかった彼。
「すみません。囲うの意味がわかりません」
「伊月、彼はアンタのようにすれていないのよ!」
「俺のどこがすれているんだ?このビッチがぁ!」
「私はビッチじゃないわよ!何度言えば分かるのよ!!」
なんか不毛な会話な気がする。そんな俺の気持ちを察してか、千尋君が声を上げた。
「もう、これで最後にしましょう、義兄さん。義兄の要望通り、ボクの作ったお節料理を差し入れします。もう、ボクに関わらないでください。ボクの母さんに謝罪すらしない義兄さんを、ボクは決して許さない。彼を悪く言う義兄さんは絶対に許さない。終わりでいいですよ、刑事さん」
担当刑事さんは頷き、僕達は部屋の外へと出た。
帰り道…
「伊月…反省はしていないみたいよね」
「まぁ、あの妹愛は病気の一種だし…反省…したところを見た事がないし」
元々反省しない人なのかな?
「ごめんね、マサムネ君…嫌な思いをさせてしまって…」
千尋君が抱きついて来た。抱きついて来た彼女の身体は震えていた。
「よくがんばったね、千尋君」
彼女の背中をさすってあげた。
「うん♪」
顔をあげた彼女の顔は涙目であったけど、笑顔であった。
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家に帰り、創作活動を再開…しばらくすると、久しぶりの天井からのスタンピング音。あぁ、飯の時間だぁ。紗霧が腹を空かしたようだ。
「ゴメン、紗霧!今作るから、もう少し待っていて」
冷蔵庫をチェックする。う~ん…何をつくろうかな。甘塩の鮭を焼き、骨と皮を外して、身を解す。鰹節とコンブで出汁を取り、鮭の骨と皮を入れて、更に出汁にもう一味加えていく。
「マサムネ君、今日は何?」
先輩がやって来た。
「鮭茶漬けにしようかと」
「私もいいかな?」
「勿論です。サラダを作って貰えますか?」
「わかったよ」
先輩が野菜篭を物色して、数種類の野菜を手にして、サラダボールに盛っていく。俺はドレッシングを作り、紗霧を呼び、三人で夕食…
「兄さん、書けたの?」
「もう少しかな。今夜は徹夜かもな…」
新年一作目から締め切りを落とす訳にはいかない。先輩が執筆部屋に入り、書き上げた物を読み始めた。
「う~ん、イマイチだな」
って、先輩からのダメ出し。ダメなのか…
「うん?この短編は?」
短編?書いたっけ?記憶を呼び出していく。あぁ、あれか…小さいうまるさんをヒントに書いた落書きのような小説。一寸法師のような女の子が、王子様のキスで、呪いが解ける話である。
「これ、いいじゃないか。短編なのがネックではあるが…」
そう、短編なのがネックである。落書きのような小説だしなぁ。
「これに肉付けをしてみたら、どうかな?」
先輩のアドバイス。なるほど…新たに書くよりも、効率は良いかもね。先輩のアドバイスで、『一寸姫』を書いていく。
「兄さん…親指姫っぽいんだけど…」
って、紗霧からの指摘。そんな童話有ったような…ネットであらすじをチェック…マズい、被っているぞ。どうするかな…
「うん?親指姫をモチーフにしたと明記すれば、良いのでは?」
それでいいのかな?不安いっぱいであるが、締め切りの時間が迫っている。先輩の意見に乗ってみる俺。
翌日、神楽坂さんに無事納品…
「うん?親指姫をモチーフ?和泉先生、童話なんか読むんですか?」
「読まない…妹に指摘されて、先輩の意見を反映して…」
正直に告白した俺。
「では、新年一作目は没にします。ただ、発想は良いので、現代風にアレンジしてみて下さい」
って、及第点のようだ。
「で、千寿先生は?」
きょとんとしている先輩。
「私?何だっけ?」
「書いていないんですか?」
「マサムネ君と過ごす、初めての正月だぞ。書ける訳ないだろう!」
頭を抱えた神楽坂さん。
「和泉先生、プロダクション縁を機能させてください」
先輩は締め切りを覚えていないようだった。神楽坂さん曰く、最近よくあることらしい。
「だって、そうだろう?私の読みたい小説は、この部屋にあるんだからな♪」
読みたい時に、俺の新作が無いと、自分で読む為に書いていた先輩…先輩にとって、この部屋は天国のようらしい。
「それでも書いてください…ねぇ、千寿先生…」
神楽坂さんが担当している作家の中でも、稼ぎ頭の先輩。俺も、あんな風に神楽坂さんを困らせたいなぁ…
「で、あっちは順調なんですか?」
あっち?あぁ、朝霧作品かな。
「まだ、途中だよ。エピソードを後、2つくらい入れないと尺が足り無いんだ」
「そうですか…今年こそ、1作で20万部くらい目指してくださいよね」
いや、言われないでも、いつも目指して書いています。紗霧は、ストーリーに合うイラストを考えているようで、原稿に印をつけている。挿絵を入れる場所の予定箇所である。
---土間うまる---
新学期が始まった。今回の休みは色々有ったなぁ。一番の変化は、あの日以来、内うまるになっていないことだ。ならないように努力をしている。コーラのガブ呑みを自己規制して、スナック菓子も控えている。お兄ちゃんに少しずつ、料理も習っている。彼の役に立ちたい…そんな気持ちで、自己規制をしている。
「うまるさん、今度の週末、出掛けませんこと?」
シルフィンさんに誘われた。でも、週末は…
「ごめんなさい。週末はダメなんです」
「まさか、塾通いですか?」
きりえちゃんに訊かれた。
「違います。彼に会いに行くんです♪」
あっ…口が滑った。私の発言で、シルフィンさん、きりえちゃん、海老名ちゃんの表情が固まった。
「彼?彼って…どなたですの?」
シルフィンさんに訊かれた。あっちゃ~、余計な事を言ってしまったような。
「う~んっと…みんなの知らない人です」
「どこで知り合ったんですか?」
って、きりえちゃん。
「ネット友達のお兄ちゃん…」
耳が熱い…真っ赤なんだろうな。マズいなぁ…
「うまるさんの彼氏…会いたいですわ♪」
って、シルフィンさん。会わせられない。彼に迷惑を掛けられない。
「ごめんなさい。無理です」
「何故ですの?何故、無理なんですの?」
食い下がるシルフィンさん。
「まだ、告白していないから…だから…」
顔も真っ赤だろうな。
「では、まだ彼では無いんですね♪では、私達と出掛けましょうよ!」
「だから、無理です…」
週末にしか会えないんだから、邪魔して欲しく無いなぁ…
「何故ですの?私達に紹介出来る人にしてくださいね、うまるさん♪」
シルフィンさんの語気は強い。
「無理です。ごめんなさい…」
私は逃げるように家に帰った。マズい…マズすぎる…どうしよう…
翌日も、翌々日も、シルフィンさんの説得が続いた。私が誰を好きになろうと、私の勝手だと思うのだが、シルフィンさんにはわからないようだった。う~ん…
金曜日…家に帰ると、速効で着替えて、お泊まり用品の詰まったバックを手にして家を出た。お兄ちゃんには前もって言ってある。快く了解してくれたお兄ちゃん♪
「どこに行かれるんですか?」
海老名ちゃんが行く手を阻んだ。
「ごめんなさい」
フェイントを掛けて、海老名ちゃんの横をすり抜け、駅へと向かった。
---土間タイヘイ---
帰宅すると、家の前に海老名ちゃんがいた。僕の顔を見るなり、泣き顔になり、
「うまるさんはどこに行かれたのですか?」
って、訊いてきた。あぁ、今日は金曜か…彼の家だな。
「友達の家だよ」
「どこの誰ですか?私も行きたいです…」
彼の事は、うまるのプライベートに関わることである。迂闊に僕の口からは言えない。
「行きたいって、君の友達では無いはずだが」
「うまるさんの友達は、私の友達であって欲しいです」
う~ん…言いたいことはわかるのだが、こればっかりは言えない。
「うまるにはうまるの交友関係があるんだ。海老名ちゃんには海老名ちゃんの交友関係があるだろ?」
「う~ん…それはそうですが…どこに行ったのですか?」
食い下がる海老名ちゃん。こんなに強情な子では無かったはずだが…
「どうして、そんなに訊きたがるの?」
「うまるさんの彼と友達になりたいんです」
彼?うまるのヤツ、口を滑らしたのか。
「彼と友達になってどうするんだ?」
「うまるさんを返してもらうんです。週末に私と遊んで貰う為に…」
言いたいことは分かる。友達の少ない彼女にとって、うまるは貴重な友達ではあるが、普段、週末に一緒に過ごしていないだろうに。誰かの入れ知恵か?純粋な子だから、入れ知恵に染まりやすいのかな。
「いいかい。好きな人と会うことを邪魔するのは良く無いよ」
「私の好きなうまるさんと会うのを邪魔する、その人は悪い人なんですね」
どう説明すれば、分かってくれるのかな?困ったなぁ…