※この作品はR-18です。

冴えない彼氏の育てかた   作:もっち~!

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口は災いの元

小説家に盆暮れは無い。新年も…元旦以外は、平日と同じである。執筆部屋で唸る僕。う~む…今年、1発目は通したい。4日には神楽坂さんに、手渡す予定である。設定を手直ししながら、書き進める。

 

「マサムネ君…今、いいかな?」

 

ドアの向こうから千尋君の声がした。

 

「いいよ。入っておいで」

 

「ごめんなさい…執筆中に…」

 

千尋君の顔は苦悩しているようだった。

 

「どうしたの?義兄さんのこと?」

 

頷く千尋君。

 

「マサムネ君…一緒に接見に行ってくれないかな…」

 

泣きそうな顔の千尋君。そんな彼女を優しく抱き締める。

 

「わかった。一緒に行くよ。だから…泣かないで…ねぇ」

 

「うん、ありがとう…」

 

僕の頬に、自分の頬を重ねてきた。

 

 

翌日、僕と千尋君、みゃー、なゆの4名で、羽島伊月の接見に行った。僕達の訪問に驚く、伊月。接見は、担当刑事さん立ち会いの下で行われた。

 

「ちっひー…すまない…俺のせいで、弟を演じさせてしまって…」

 

千尋君に謝る伊月。千尋君の顔は強張っている。みゃーとなゆは伊月を睨み付けている。

 

「留置場で、現実を見つめ直した。俺の抱いていた夢は、ちっひーに求めていた訳では無い。妄想に近いんだよ」

 

いや、妄想だろ?現実的では無い。千尋君は僕の腕に、強く抱きついて来た。実の義兄が恐いのだろうか?

 

「壊れたちっひーはちっひーで無いから…俺は、お前を壊そうなんて思っていない。お前には幸せになって欲しいんだよ」

 

千尋君は義兄を見据えていた。僕の腕に抱きつく力は緩む気配は無いけど。

 

「ボクがどんな気持ちだったか、考えたことは無いんですか?ボクの目の前で、妹愛を語る義兄さんは、恐かった。妹だとバレたら、胸に吸い付き、ボクのパンツを口に入れるんじゃないかと…ものスゴく恐かった…」

 

千尋君の声は震えていた。

 

「悪かった…妄想だよ。妄想…今思えば、アレは総て妄想なんだ。実際にやろうとは思ってもいなかった…それよりもソイツは何者だ?ちっひーの何だ?」

 

謝罪、反省よりも俺が気になるようだ。さっきから、俺を睨んでいるし。

 

「ボクの大事な人…ボクの心の拠り所だよ」

 

「お前、職業は何だ?」

 

「彼はボクと同じ高校1年生だよ」

 

俺が答える前に千尋君が答えた。

 

「ソイツと同棲しているのか?」

 

「していない…彼の隣の家に下宿しているんだよ」

 

「ソイツと結婚するのか?」

 

「たぶん…しない…でも、一生傍にいたい」

 

「ソイツは遊びなのか?」

 

「彼を悪く言うのは止めてよ!ボクにとっては恩人だよ。ボクがボクでいられる切っ掛けを作ってくれたんだ。彼の傍にいられて、とっても幸せなんだ。だから、邪魔しないで欲しい」

 

「おい!てめぇ~、俺のちっひーと遊びなのか?」

 

「義兄さん!」

 

「ちっひーに訊いていない。ソイツに訊いているんだ!」

 

「遊びの意味がわかりません」

 

「はぁ?」

 

俺の答えは、彼にとって満足できる物ではなかったようだ。

 

「お前はバカなのか?おい、ちっひー、そんなバカを捨てて、帰って来いよ♪」

 

「彼はバカ出ないわ」

 

ここまで黙っていたみゃーが口を挟んできた。

 

「まさか…三人とも、ソイツに囲われているのか?」

 

「そー言う言い方は彼に失礼ですよ、先輩!」

 

なゆも言葉を発した。

 

「おい!高校生のくせに女を囲うってどういうことだ!このクソガキがぁ!」

 

立ち上がって俺に掴み掛かろうとしたが、椅子に縛られているので、立ち上がれなかった彼。

 

「すみません。囲うの意味がわかりません」

 

「伊月、彼はアンタのようにすれていないのよ!」

 

「俺のどこがすれているんだ?このビッチがぁ!」

 

「私はビッチじゃないわよ!何度言えば分かるのよ!!」

 

なんか不毛な会話な気がする。そんな俺の気持ちを察してか、千尋君が声を上げた。

 

「もう、これで最後にしましょう、義兄さん。義兄の要望通り、ボクの作ったお節料理を差し入れします。もう、ボクに関わらないでください。ボクの母さんに謝罪すらしない義兄さんを、ボクは決して許さない。彼を悪く言う義兄さんは絶対に許さない。終わりでいいですよ、刑事さん」

 

担当刑事さんは頷き、僕達は部屋の外へと出た。

 

帰り道…

 

「伊月…反省はしていないみたいよね」

 

「まぁ、あの妹愛は病気の一種だし…反省…したところを見た事がないし」

 

元々反省しない人なのかな?

 

「ごめんね、マサムネ君…嫌な思いをさせてしまって…」

 

千尋君が抱きついて来た。抱きついて来た彼女の身体は震えていた。

 

「よくがんばったね、千尋君」

 

彼女の背中をさすってあげた。

 

「うん♪」

 

顔をあげた彼女の顔は涙目であったけど、笑顔であった。

 

--------

 

家に帰り、創作活動を再開…しばらくすると、久しぶりの天井からのスタンピング音。あぁ、飯の時間だぁ。紗霧が腹を空かしたようだ。

 

「ゴメン、紗霧!今作るから、もう少し待っていて」

 

冷蔵庫をチェックする。う~ん…何をつくろうかな。甘塩の鮭を焼き、骨と皮を外して、身を解す。鰹節とコンブで出汁を取り、鮭の骨と皮を入れて、更に出汁にもう一味加えていく。

 

「マサムネ君、今日は何?」

 

先輩がやって来た。

 

「鮭茶漬けにしようかと」

 

「私もいいかな?」

 

「勿論です。サラダを作って貰えますか?」

 

「わかったよ」

 

先輩が野菜篭を物色して、数種類の野菜を手にして、サラダボールに盛っていく。俺はドレッシングを作り、紗霧を呼び、三人で夕食…

 

「兄さん、書けたの?」

 

「もう少しかな。今夜は徹夜かもな…」

 

新年一作目から締め切りを落とす訳にはいかない。先輩が執筆部屋に入り、書き上げた物を読み始めた。

 

「う~ん、イマイチだな」

 

って、先輩からのダメ出し。ダメなのか…

 

「うん?この短編は?」

 

短編?書いたっけ?記憶を呼び出していく。あぁ、あれか…小さいうまるさんをヒントに書いた落書きのような小説。一寸法師のような女の子が、王子様のキスで、呪いが解ける話である。

 

「これ、いいじゃないか。短編なのがネックではあるが…」

 

そう、短編なのがネックである。落書きのような小説だしなぁ。

 

「これに肉付けをしてみたら、どうかな?」

 

先輩のアドバイス。なるほど…新たに書くよりも、効率は良いかもね。先輩のアドバイスで、『一寸姫』を書いていく。

 

「兄さん…親指姫っぽいんだけど…」

 

って、紗霧からの指摘。そんな童話有ったような…ネットであらすじをチェック…マズい、被っているぞ。どうするかな…

 

「うん?親指姫をモチーフにしたと明記すれば、良いのでは?」

 

それでいいのかな?不安いっぱいであるが、締め切りの時間が迫っている。先輩の意見に乗ってみる俺。

 

翌日、神楽坂さんに無事納品…

 

「うん?親指姫をモチーフ?和泉先生、童話なんか読むんですか?」

 

「読まない…妹に指摘されて、先輩の意見を反映して…」

 

正直に告白した俺。

 

「では、新年一作目は没にします。ただ、発想は良いので、現代風にアレンジしてみて下さい」

 

って、及第点のようだ。

 

「で、千寿先生は?」

 

きょとんとしている先輩。

 

「私?何だっけ?」

 

「書いていないんですか?」

 

「マサムネ君と過ごす、初めての正月だぞ。書ける訳ないだろう!」

 

頭を抱えた神楽坂さん。

 

「和泉先生、プロダクション縁を機能させてください」

 

先輩は締め切りを覚えていないようだった。神楽坂さん曰く、最近よくあることらしい。

 

「だって、そうだろう?私の読みたい小説は、この部屋にあるんだからな♪」

 

読みたい時に、俺の新作が無いと、自分で読む為に書いていた先輩…先輩にとって、この部屋は天国のようらしい。

 

「それでも書いてください…ねぇ、千寿先生…」

 

神楽坂さんが担当している作家の中でも、稼ぎ頭の先輩。俺も、あんな風に神楽坂さんを困らせたいなぁ…

 

「で、あっちは順調なんですか?」

 

あっち?あぁ、朝霧作品かな。

 

「まだ、途中だよ。エピソードを後、2つくらい入れないと尺が足り無いんだ」

 

「そうですか…今年こそ、1作で20万部くらい目指してくださいよね」

 

いや、言われないでも、いつも目指して書いています。紗霧は、ストーリーに合うイラストを考えているようで、原稿に印をつけている。挿絵を入れる場所の予定箇所である。

 

 

 

---土間うまる---

 

新学期が始まった。今回の休みは色々有ったなぁ。一番の変化は、あの日以来、内うまるになっていないことだ。ならないように努力をしている。コーラのガブ呑みを自己規制して、スナック菓子も控えている。お兄ちゃんに少しずつ、料理も習っている。彼の役に立ちたい…そんな気持ちで、自己規制をしている。

 

「うまるさん、今度の週末、出掛けませんこと?」

 

シルフィンさんに誘われた。でも、週末は…

 

「ごめんなさい。週末はダメなんです」

 

「まさか、塾通いですか?」

 

きりえちゃんに訊かれた。

 

「違います。彼に会いに行くんです♪」

 

あっ…口が滑った。私の発言で、シルフィンさん、きりえちゃん、海老名ちゃんの表情が固まった。

 

「彼?彼って…どなたですの?」

 

シルフィンさんに訊かれた。あっちゃ~、余計な事を言ってしまったような。

 

「う~んっと…みんなの知らない人です」

 

「どこで知り合ったんですか?」

 

って、きりえちゃん。

 

「ネット友達のお兄ちゃん…」

 

耳が熱い…真っ赤なんだろうな。マズいなぁ…

 

「うまるさんの彼氏…会いたいですわ♪」

 

って、シルフィンさん。会わせられない。彼に迷惑を掛けられない。

 

「ごめんなさい。無理です」

 

「何故ですの?何故、無理なんですの?」

 

食い下がるシルフィンさん。

 

「まだ、告白していないから…だから…」

 

顔も真っ赤だろうな。

 

「では、まだ彼では無いんですね♪では、私達と出掛けましょうよ!」

 

「だから、無理です…」

 

週末にしか会えないんだから、邪魔して欲しく無いなぁ…

 

「何故ですの?私達に紹介出来る人にしてくださいね、うまるさん♪」

 

シルフィンさんの語気は強い。

 

「無理です。ごめんなさい…」

 

私は逃げるように家に帰った。マズい…マズすぎる…どうしよう…

 

翌日も、翌々日も、シルフィンさんの説得が続いた。私が誰を好きになろうと、私の勝手だと思うのだが、シルフィンさんにはわからないようだった。う~ん…

 

金曜日…家に帰ると、速効で着替えて、お泊まり用品の詰まったバックを手にして家を出た。お兄ちゃんには前もって言ってある。快く了解してくれたお兄ちゃん♪

 

「どこに行かれるんですか?」

 

海老名ちゃんが行く手を阻んだ。

 

「ごめんなさい」

 

フェイントを掛けて、海老名ちゃんの横をすり抜け、駅へと向かった。

 

 

 

---土間タイヘイ---

 

帰宅すると、家の前に海老名ちゃんがいた。僕の顔を見るなり、泣き顔になり、

 

「うまるさんはどこに行かれたのですか?」

 

って、訊いてきた。あぁ、今日は金曜か…彼の家だな。

 

「友達の家だよ」

 

「どこの誰ですか?私も行きたいです…」

 

彼の事は、うまるのプライベートに関わることである。迂闊に僕の口からは言えない。

 

「行きたいって、君の友達では無いはずだが」

 

「うまるさんの友達は、私の友達であって欲しいです」

 

う~ん…言いたいことはわかるのだが、こればっかりは言えない。

 

「うまるにはうまるの交友関係があるんだ。海老名ちゃんには海老名ちゃんの交友関係があるだろ?」

 

「う~ん…それはそうですが…どこに行ったのですか?」

 

食い下がる海老名ちゃん。こんなに強情な子では無かったはずだが…

 

「どうして、そんなに訊きたがるの?」

 

「うまるさんの彼と友達になりたいんです」

 

彼?うまるのヤツ、口を滑らしたのか。

 

「彼と友達になってどうするんだ?」

 

「うまるさんを返してもらうんです。週末に私と遊んで貰う為に…」

 

言いたいことは分かる。友達の少ない彼女にとって、うまるは貴重な友達ではあるが、普段、週末に一緒に過ごしていないだろうに。誰かの入れ知恵か?純粋な子だから、入れ知恵に染まりやすいのかな。

 

「いいかい。好きな人と会うことを邪魔するのは良く無いよ」

 

「私の好きなうまるさんと会うのを邪魔する、その人は悪い人なんですね」

 

どう説明すれば、分かってくれるのかな?困ったなぁ…

 

 

 

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