---和泉正宗----
翌週、山田エルフ先生を全裸にし、紗霧とエリさんが、食い入るように魅入っていた。合同イラスト作成会らしい。山田エルフ先生は縛ってある。本を見ながら、縛り方を勉強しながらではあるが。
「マサムネ…助けて…」
エルフ大先生が俺に助けを求める。
「責任を取ってくれ。結び方の勉強も兼ねているんだ」
この大会は、朝霧沙樹の新作『囚われエルフ』の為の取材でもある。前作『洋館のエルフ』が編集部で好評だったので、エルフシリーズの2作目を受注できたのだった。う~ん、和泉マサムネ名義は、いつになったら、そういう身分になれるのだろうか?
「マサムネ…何でもするから…」
「じゃ、縛られてくれ。新作の為に必要なんだ♪」
俺の言葉で諦め顔のエルフ大先生。あの後、僕の正体を知り、出版部数自慢をしなくなった。密かにエルフ大先生は朝霧沙樹のファンだったらしく、新作のサイン本目当てで来たところを、紗霧とエリさんに捕獲されたのだった。
「ふ~ん、大変なんだね。色々体験しないと書けないのか~」
と、恵さん。
「なるべく、体験したことをベースで書きたいから」
恵さんは、今回新たな友人を連れて来てくれた。彼女の学校の先輩の霞ヶ丘詩羽、ペンネーム霞詩子というラノベ作家である。代表作である『恋するメトロノーム』は累計50万部を超えるヒットメーカーだ。
「しかし、あの山田エルフ大先生が、こんな幼い子だとは…」
詩羽さんが驚いている。彼女も朝霧沙樹のファンだそうで、所蔵本を持って来て、サインを強請られた。
「恵の彼氏が、朝霧沙樹っていうのも驚いたけど…」
「いや…まだ彼氏には…」
まだ?期待していいのかな?
「まだなのか?ほぉ~、それは、つけいる隙があるんだな?」
びくっ!
狩るような目付きで俺をみる詩羽さん。
「先輩には安芸君がいるでしょ?」
「あぁ…」
そうか、彼氏持ちなんだ…しかし、狩る様な目付きは収まらない詩羽さん。あぁ、縛りたい…そんな悶悶さが湧き出て来た頃、玄関の呼び鈴が鳴った。もう、予定しているメンバーは揃っているが…玄関に向かうと、涙目の神野めぐみが立っていた。
「おにいさん…怪しい者では無いです…警察は呼ばないでください」
あぁ、あの後、警察で絞られたらしい。親、学校を巻き込んだ騒ぎにもなったそうだ。
「紗霧ちゃんに会わせてください…」
「会ってどうするんだ?」
「友達になりたいんです。紗霧ちゃんと友達になると、学校の生徒全員と友達になるんです♪」
なんか、つまらない理由で、友達になりたいらいし。う~ん、あぁ、モデルは多い方がいいかな。
「ちょっと、待っていろ!」
玄関のドアを閉め、様子を見る。すると、ドアを開けて不法侵入してきた。ふふふ♪
「めぐみん、不法侵入だ。警察に突き出せば、前科2犯確定かな?」
えっ?って表情で顔から血の気が失せていくめぐみん。警察での取り調べが、記憶で甦ったのかもしれない。
「言うことを聞けば、警察には突き出さないが…どうする?」
「わ、わ、わかり…ました」
全裸に飢えたイラストレーターの前に、新たな獲物を連れて行った。群がるイラストレーター陣。
「え?どういうことですか、お兄さん!」
「紗霧と友達になりたいんだろ?そういうことだ。紗霧の専属の全裸モデルになってやってくれよ。紗霧の友人のめぐみん♪」
俺は自分の部屋に入った。作品を書かないと。執筆に集中していると、突如、背中に柔らかい感触を感じた。うん?紗霧にしては大きい…エルフでも無いし…誰だ?
「ねぇ、気持ちいい?」
恵さんの声…
「気持ちいいよ♪」
「そう、良かった」
彼女の腕が僕の肩を抱きしめた。
「やっと、逢えた…」
「うん…」
「あの話…私とのことだよね?」
あの話とは、俺の…朝霧沙樹のデビュー作『桜の舞う坂』のことだと思う。
「そうだよ。恵さんが読めば、僕を探してくれるかなって…」
「でも、探さないでも逢えた…嬉しいよ、ムネ君♪」
背中に彼女の柔らかな胸が、更に当たる。
「もっと、売れる作家になったら…」
「今でも充分だよ。私的には…でも、妹さんのことも有るから…うん、待っているよ♪」
「うん?何?二人だけで良い雰囲気になっているんだ?」
詩羽さんの声。
「昔話をしていただけですよ、先輩」
感情が読み取れないような話し方の恵さん。
「今度、共作とか、どうかな?」
詩羽さんに新たな道を提示された。共作かぁ…詩羽さんの新作シリーズは、学園ハーレムコメディー物だったかな。学園異能バトル物がヒットしていた俺の作風には合うかな。
「いいですね。ラノベの方はスランプなんで…」
「約束だぞ!時間が合えば、恵と共に、打ち合わせに来るからな♪」
何故か、目付きが狩人みたいな詩羽さん。
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イベントが終わり、皆帰って行った。いや…モデル二人はまだ、家にいるか。
「マサムネ…ねぇ、見捨てないで…裸をみんなに見られたけど…」
俺に縋るエルフ大先生。
「お兄様…私も見捨てないでください…」
俺に縋るめぐみん。紗霧は満足な表情だ。色々な角度で、観察できて満足そうだ。今もタブレットを手にして、手直しをしている。
「ねぇ、兄さん。巨乳な人をモデルさんにしたい♪う~ん、詩羽さんとか…詩羽さん…詩羽さん…」
それは、ハードルが高い。難しいリクエストだ。俺の周りで巨乳だと、智恵かな?そっちの方がハードルが低いかな?詩羽さんは、危険だ。俺の方が狩られそうだし。
「兄さん、彼女はいるの?」
「いないよ。紗霧だけ居ればいいよ」
「うん♪でも…一応、妹枠だから…」
「関係無い。初めて見た時から一目惚れだ」
「私も…でも、恵さんは?」
心配そうに俺を見ている紗霧。
「うん♪紗霧と恵さん…二人しか考えていない。紗霧と離れることは考えていないよ。恵さんが紗霧を受け入れ無いのであれば、俺は紗霧と二人でもいい…」
「マサムネ、二人しかって、贅沢だろ?」
エルフ大先生が俺の顔を見て言う。
「贅沢だよな。まぁ、先の事はわからない。紗霧も嫁に出るかもしれないし、恵さんも違う相手を見初めるかもしれない。俺は二人が幸せになるなら、離れてもいいかなって思う」
「マサムネ…私はアンタを見捨てないよ!」
「隣の山田さん…ごめん、好みの体型では無い…」
「えぇ~!アンタの妹と変わらないわよ~!」
「うん?ごめん、妹の全裸は見たことが無い。だから、比較出来無い」
「それって…初めて見た女性の裸って…」
「隣の山田さんが初めてだよ。想像していた女性の裸体と違っていて、新作のネタになった。ありがとう、山田さん♪」
「…」
「お兄様、めぐみんがいます。だから、孤独になんかさせません」
山田さんが絶句している間に、めぐみんが割り込んできた。
「めぐみん、俺は違う学校だけど、いいのか?」
「かまいません。恋は壁を乗り越えるんです」
「う~ん…めぐみん、あと3年経ったら、考える…」
「そ、そ、そんな…」
紗霧と同い年くらいだと、紗霧が一番だし♪
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久しぶりの編集部、神楽坂さんに、別室に案内された。そこには和服姿の少女が待っていた。
「次の出版枠を掛けて『ラノベ天下一武闘会』っていうイベントをします。ジャンルは問いませんが、80ページという制限を掛けます」
次の出版枠?
「えっ!まさか…この前、俺の得た出版枠ですか?」
「そうです。負けた人は、出版は1年後になります。鬼気迫って緊迫するでしょ?」
1年の間、出版できないのか…それは痛い…痛すぎる…
「で、和泉マサムネ先生と、そこにいらっしゃいます千寿ムラマサ先生は、デフォルト参加です」
えっ?千寿ムラマサって…累計部数は1450万部だったよな…勝て無いって…過去数回、俺の出版枠を横からかすめ取ったヤツだし…無理だ…
「分かりました。出版社を移籍します。お世話になりました」
神楽坂さんに頭を下げて退出しようとすると、
「ちょっと待ちなさい。移籍って、宛てがあるの?」
宛て?エルフの処か、詩羽さんの処だな。
「二つばかり、誘いが来ていますし…」
「えっ?有り得ない。たかだか、累計20万部程度で、移籍話だと?有り得ない」
ムラマサ先輩が、睨むように、俺に吠えた。
「出版部数ではそうですが、人の縁って、そういう数字とは関係無いんですよ、ムラマサ先輩!」
「貴様…負け逃げするのか!」
「生活がかかっていますから…勝て無いケンカはしません。時間の無駄ですし」
「作家としての誇りは無いのか?」
「作家としての誇り?俺は数少ないファンの人が、読んでくれれば良いんです。誇りって言える程の物は持ち合わせていません」
俺には誇りなんかは無い。相棒と作る作品が手にする枠が欲しいだけだ。俺のファン1号の彼女の為にも…
「どんな形であれ、負ければ断筆する覚悟でいろ!」
ムラマサ先輩は高飛車だな。
「お断りします。あなたにアレコレ言われる筋合いは無いです」
「しかしだ…」
「これ以上は、時間の無駄ですね。お世話になりました」
僕は退出した。でも、神楽坂さんにより、別室に連れ込まれた。
「移籍って、冗談だよね?」
「マジですよ。出版枠をそんなイベントで失うなら、移籍しか無いでしょ?だって、考えてみて下さい、累計20万部程度の作家が累計1500万部近い作家に勝てる訳無いでしょ?」
「裏技使っていいから…お願い…」
裏技…もう1つのペンネーム…いや、あれはラノベでは無い…
「あっちのを1作…持ち込んで…この企画は、我が社での売れっ子で有るムラマサ先生の持ち込み企画なの…だから、拒否出来無いんだよ。和泉先生…私だって、あなたの1ファンだよ。消えて欲しくない。だから、裏技で…」
俺に必死に懇願する神楽坂さん。こんな彼女の姿は初めて見る。
「それやると盗作作家のレッテルが張られそうです」
和泉マサムネと朝霧沙樹が、同一人物と知っているのは、数えるくらいしかいない。智恵ですら知らないし。
「他に方法があれば良いけど…」
新作をぶち込むか?ほぼ完成している『囚われエルフ』…う~ん…
「わかりました。参加するだけします。ダメだったら、移籍します」
「少し足掻いてみて…お願い…」
最後は土下座までしてきた神楽坂さん。俺の価値って、高いのか、低いのか、わからなくなる。
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「何、その横暴な企画…」
家に帰って、紗霧と隣の山田さんに報告した。
「兄さん…ぎゃふんと言わせようよ!その作家先生に!」
制限は80ページ。それだと共作は無理そうだ。どうする…やるだけやるか…
「やってみよう。現状の俺を出し切ってみるよ」
と、言って見たものの…う~ん…
テーマを決めずに、浮かんだことを書き連ねていく。それを紗霧とエルフ先生がチェックをして、使えそうな部分を見極めていく。
「兄さん…これは…ちょっと…」
顔を紅潮させて俯く紗霧。どうした?問題発生か?R18要素は入れていないはずだが…原稿を読んでみる。うっ…これは…
「これはダメだよ。人物特定できちゃうし…」
苦笑いしているエルフ先生。浮かんだ事…紗霧の事、恵さんの事…う~ん、俺の恋愛遍歴だった。
「兄さん…このままだと、恥ずかしい…ダメだよ…プライベートの侵害だよ~」
紗霧が恥ずかしそうに抗議してきた。ダメだな。これじゃ…
「隣の山田さんの全裸プレイに変えるか?」
「マサムネ…ダメだよ…恥ずかしいって…もう、全裸でピアノ弾いていないよ~」
エルフ先生が泣きそうな声で拒否。う~ん、どうするよ…
「恵さんの話は?『桜舞う坂』の続編…」
あぁ、再び逢えた偶然…まぁ、題材として悪くは無いが…
「朝霧沙樹との連作ってことにすれば、盗作疑惑は起きないかも。で、最後のページにスペシャルサンクス朝霧沙樹先生と入れれば、どうかな?」
紗霧の提案。それは有りかな…新たに書き下ろしていく。和泉マサムネ調の『桜舞う坂の奇跡』を…
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イベントの結果…僅差で負けた…でも、読者からのクレームで勝敗は逆転した。ムラマサ先生は、80ページで収まらなかったのだ。でも、負けは負け…移籍の手続きをしないとダメだな。
放心状態だった俺は、玄関の呼び鈴に誘われるように、玄関に向かった。そこにはムラマサ先輩が立っていた。
「ちょっと、いいかな?」
彼女と外へ出る。近所にある川辺のベンチに、隣り合わせで腰掛けた。
「移籍をしないでくれ。頼む!」
ムラマサ先生が、俺なんかに頭を下げた。
「でも、負けは負けです」
「私は君が好きだ。君の作品も大好きだ。だから…」
このタイミングで、告白って…有り得ない。
「どうして、あんなイベントを?」
「昔のような作風で、がむしゃらに書いて欲しかったから。君の作品は荒削りだけど、キャラ達は生き生きしていた。行間で舞っていた。『転生の銀狼』が終了してからの君の作品は、キャラが死んでいる気がした。だから、初心に還って欲しかったんだよ」
いや、いつでも初心である。キャラが死んでいるように見えるのは、シリーズ化出来ていないからだ…とも言えず…大先輩先生のご意見を聞いておこう。
「まさか、君が朝霧沙樹先生と知り合いだったとは…あの名作の続編を、連作で出すなんて、予測出来無かったよ」
まぁ、裏技だな。神楽坂さんの許可出ていたし。
「出逢えた奇跡かぁ…私もその奇跡に出逢えて嬉しいよ♪」
意味がよく分からない。取り敢えず、頷いておくか。
「これからも、よろしくな、後輩♪」
そう言うとムラマサ先輩は帰って行かれた。
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「兄さん!ムラマサ先生から兄さんに、告白ってどういうことよ!」
あの告白シーンを、隣の山田さんと共に見ていた紗霧。お前、引きこもりって自覚が無いのか?外出出来るじゃん…
「よくわからない。なんで、俺に告白なんだ?まだ、2回しか会っていないし…身近にいる紗霧から、まだ告白されていないのに…なんでかな?」
顔を紅潮させて困ったような顔をする妹。
「マサムネ、私はしたわよ!」
隣の山田さんはスルーしておく。あと、3年ほど熟成だな。コイツの年齢は、紗霧を変わらなかった。なので、めぐみんと同じ扱いにする。
「兄さん!恵さん以外の告白は認め無い!うん?違うなぁ…そうだ!私と恵さん以外の告白は認め無いからね!」
妹は俺に告白する気があるようだった…そもそも、恵さんは有るのかな?う~ん…