---和泉紗霧---
兄さんは、牧場の方々と挨拶をして、千尋さん達料理人チームを、チーズやハムなどの製造見学へと向かわせた。絞りたての牛乳…美味しい。こんなに美味しいんだ、牛乳って…
「紗霧、山羊とか兎がいるんだよ」
奥の飼育小屋へ私達、中学生組を案内してくれた兄さん。以前、朝霧作品の取材で来たらしく、牧場の方々と知り合いらしい。
「兄さん、大丈夫?」
「うん…ちょっと眠いかな…レストハウスで休んでくるな」
「後で行くから」
兄さんはレストハウスへと消えた。
「ミニ牧場もいいわね」
って、エルフちゃん。
「あぁ、その案はダメよ。既にマサムネ君と結論が出ているから」
って、みゃーさんとなゆさんも飼育小屋に来ていた。
「どうしてですか?」
「兎に関しては、脱走の危険が有るから。穴を掘る習性があるから、コンクリートで地面を囲う必要があるのと、ここみたいに広くないとストレスが溜まるからね」
あぁ…納得する私達。そうだよね。ストレスは良くないものね。
「チーズ作りの為に、山羊か牛を飼育って考えたんだけど…臭いが近所迷惑になるかもって…」
兄さん…考えてくれているんだ。色々と…
「都会じゃ難しいよね。生き物を飼うって…」
見学組が戻って来て、レストハウスで朝ご飯。むっ!あの女が兄さんに寄り添っていた。しまった、ノーガードだった…
パンとサラダと牛乳…美味しい。
「おいしいだろ?牛乳が美味しいからバターも美味しくて、パンも美味しいんだよ」
って、兄さん。私達に、これを食べさせたかったようだ。スーパーで買うバターと違う気がする。
「簡単なバターを作り方を習ったから、帰ったら作ってみますね」
って、千尋さん。嬉しそうだ。楽しい時間…兄さんのスマホが鳴る迄は…
「えっ?空き巣?タイヘイさんの家ですか?」
駅前交番からの連絡だった。
「犯人はうまるさんの友達と、タイヘイさんの同僚?」
「「え!」」
うまるさん、タイヘイさん、叶さんが声をあげた。
「被害は?…玄関脇の小窓のガラスと…畳とベッド…はい、ちょっと待ってください。タイヘイさん」
兄さんからタイヘイさんへとスマホが手渡された。
「アレックス兄妹と海老名ちゃんかぁ…えぇ、そうです。うまるのストーカー相手です…え?うまるのベッドで寝ていた?うまるの洋服を物色?犯罪じゃないですか?!厳罰を望みます。はい…わかりました。僕だけ、戻ります」
通話を終えたタイヘイさん…
「うまるをストーカーしていた友達達が、窓を割って侵入して、やりたい放題したらしい。で、僕は帰宅するよ。警察と善後策を相談するから。うまると叶は、このまま旅行を続けてくれ」
「お兄ちゃん…」
「タイヘイ…」
うまるさんと叶さんの頭を撫でて、皆に一礼して、この場を去って行くタイヘイさん。
「なんで…ひどい…」
叶さんに縋り付き泣いてしまったうまるさん。宥める叶さん。
「うまるさん、住居棟に引っ越してくればいい。セキュリティはタイヘイさんと叶さんが保障しているし、安全だよ」
兄さんが、うまるさんの傍に行き、目線の高さを合わせて、提案をした。
「いいの?関係者じゃないけど…」
「うん♪将来は関係者になるかもしれないし」
「ありがとう…安心して住めるね」
---橘アレックス---
お母様に怒鳴られた…妹の分まで…あの二人が暴走したんだろうに…なぜ、僕が…あぁ、駐車禁止の切符を切られた。あそこはダメらしい。
タイヘイ先輩は被害届けを出したそうだ。今、部屋の被害を見に行ったらしい。僕の面会に来てくれないのか…叶さんはどうしたんだ?婚前旅行なんだろ?僕が原因で別れたのかな?叶さんは僕が責任を取らないとなぁ…
「おい!どこで婚前旅行って聞いたんだ?」
取り調べの刑事に訊かれた。
「同僚にです。二人で婚前旅行だから、妹さんが一人で留守番だと」
「一人だから、襲いに行ったのか?」
「襲う訳ないでしょ?なんで、そうなるんですか?」
「八王子署に確認した。お前の妹達に、つけ回されて困っていたそうじゃないか」
あっ!忘れていた。先生は僕の妹のストーカー行為に嫌気が差して、引っ越し、転校したんだった…
「妹さんの友達に至っては、引っ越しの荷物に紛れて、引っ越し先へ行こうとしたそうじゃないか。おい!お前なぁ!正直に言えよ!婚前旅行って事実は無いぞ」
え?違うのか?偶然、同じ日に旅行ってことかぁ。
「妹さんと彼女を残して、タイヘイさんだけ、帰宅だよ。お前達のせいでな!」
先生と叶さんと三人で旅行なのか…
「三人だけなんてズルい…なんで、僕を誘ってくれないんだ…」
「だから、空き巣に入ったのか…」
---土間タイヘイ---
正宗君から、住居棟で暮らしませんかって提案された。あそこならセキュリティーはばっちりだ。僕と叶で設計したシステムだし。もう、この部屋では暮らせないしなぁ。
土足で入られたせいで、畳は全損に近い。うまるのベッドへ土足で寝たらしく。布団もダメだ。うまるの洋服を自分のスーツケースにしまったらしい。これも気持ち悪くて、ダメだろう。あの兄妹は何をしたいんだ?
叶が会社の顧問弁護士先生に依頼してくれたので、損害賠償請求などをお願いした。
「未成年だけど、再犯なので、きつい処罰にします。これは酷いなぁ…」
弁護士先生と部屋を見て廻り、損害請求する為の資料を作っていく。
「悪質ですね。タイヘイさんが婚前旅行だと思い、うまるさん一人のところを襲う計画だったそうですよ」
と、正宗君の知り合いの警官が教えてくれた。正宗君の妹は虐めにあった。家にまで来ての嫌がらせ。正宗君に対してピンクトラップまでされたそうだった。恵さん、千尋さん、京さんはストーカー被害者だし。正宗君の回りは被害者が多い。そんな関係なのか、正宗君は地元の警官や刑事さんに顔が広いらしい。自慢出来ることでは無いって、以前苦笑いしていたけどね。
「今後は、正宗君の住居棟へ入居しようと思います」
「それが良いと思います。あそこは重点巡回コースですから。でも、今回のような早朝テロは予想外でしたけど」
いや、僕たって、予想外だ。明日か明後日の夜には合流したいなぁ。旅の雰囲気をもう少し味わいたいから。
---羽島千尋----
お昼は、海女さんの経営しているお寿司屋さんだった。
「バラバラに頼むと収拾が付かないから、事前に注文しちゃいました。地魚の握りと、金目のお味噌汁です。さびぬき希望者はいますか?」
固まる中学生組…さびぬきイコールおこちゃまってイメージであるから。
「ここのワザビは天城の天然物だから、おいしいよ。あぁ、爆弾巻も頼めますよ」
爆弾巻…ワサビの巻物だ。勇気のいる食べ物ではある。目の前に、中心が緑色の巻物が置かれた。これがそうか…正宗君は、醤油を少し付けて、口の中へ…
「おいしい♪」
その言葉を聞き、ボクとうまるさん、恵さんが、手を出した。
「うっ…おいしいけど…これは…」
ワサビの甘さはもう1ついけそうと思わせるが、鼻へ抜ける香り…良い香りだと思うけど…その後に爆弾が炸裂していく。涙が止まらない…むせないけど…刺激がすごい…
そして、味噌汁とにぎりが運ばれて来た。うん?正宗君だけ、味噌汁の具が違う。
「これ?しったかって言う巻き貝だよ」
正宗君の味噌汁を凝視していたボクに、彼が教えてくれた。しったかを1つボクにくれた。小さな巻き貝だけど、味は濃厚であり、歯ごたえもしっかりある。
「俺はこれが好きなんだよ。変わり者だから♪」
---橘アレックス---
お昼…そう言えば、朝も喰っていない。
「お昼って、カツ丼ですよね?」
刑事に訊いた。
「自腹だぞ!」
「え?警察で出してくれるんでしょ?」
「はぁ?税金でお前にカツ丼を食わせるほど、この国の財政は明るくないぞ」
あれって、税金だったのか…
「で、何が出るんですか?腹減っちゃって」
「弁護士先生と話しをさせてやる。今後のことも含めて相談してもらえ」
って、刑事さん達は、昼休み時間に突入したらしい。え?僕の食事は?
刑事さんと入れ替わりで、鬼の形相のお母様と、橘家の顧問弁護士が入室してきた。
---土間タイヘイ---
玄関脇の小窓を直し、施錠をして、部屋の外へ出る。合い鍵を担当刑事さんへと渡し、弁護士先生に後の事をお任せして、うまるのいる宿へ行くことにした。
「正宗君、心配を掛けて、すまない。これから、合流するよ」
正宗君が皆に僕が今夜合流出来ることを伝えてくれた。
「転居に関しては、そちらへ行ってから、君に相談する。うまるは寂しがり屋だから、もうしばらく頼むよ♪」
通話を切り、駅へと向かった。
---羽島千尋---
予定通り15時には一碧湖に着いた。
「明日はクリスさんのタイミングで出発します。今日はお疲れ様でした」
クリスさんにお礼を言う正宗君。照れ笑いしているクリスさん。
「明日、晴れだったら、早朝に湖のデッサンに行きます」
朝靄の掛かる湖の絵が欲しいらしい。宿はコテージ風の戸建てであり、3棟を借りたそうだ。食事とお風呂はレストハウスで、コテージは基本寝るだけ…いや、作品を作る場所になるか。
「酒飲み組と、あとはおまかせで、部屋割りをお願いします」
と、正宗君。ボク、うまるさん、恵さん、ムラマサちゃん、エルフちゃん、紗霧ちゃん、きりんりんちゃん、なゆさんが正宗君のいるコテージへ向かった。みゃーさんも向かおうとしたが、酒飲み組に捕まったようだ。クリスさんは酒飲み組にいるらしい。
「勇気あるなぁ…モデルにされる危険が大なのに…」
って、詩羽さん。確かに…ボクはあの日だから、大丈夫なはずだ。と、中学生組も…たぶん、うまるさんか恵さんだろうな…
「なゆ、自分の部屋で書いてなぁ。全裸でウロウロしないでくれるかな?」
「うん?気になる?うふ♪」
「いや、風邪引くとマズいぞ。朝は寒いから注意しろよ」
「そうだね。風邪引くと、明日の温泉が…危険だね」
食事までの間、それぞれが創作活動に入った。ボクは正宗君、恵さん、うまるさんと、周辺の散策へ…
湖畔近くへ着くと、正宗君はデッサンを始めた。
「あそこ、人が多いけど?」
うまるさんが訊いてきた。
「あぁ、貸ボート小屋とか、お土産物屋とか、食べ物屋があるんだよ」
正宗君が答えた。
「そうなんだ…ちょっと、行ってみようかな」
「明日行くけど…お腹減ったのかな?」
「うん♪」
うまるさんと恵さんが、貸ボート小屋の方へ歩き出した。
「千尋君はいいのか?」
「一緒にいていいですか…モデルは出来ませんけど…」
「いいよ」
正宗君の隣に腰を下ろして…柔らかな風が眠気を誘う…気が付くと、正宗君の腿を枕に寝ていた。気にする素振りを見せずに、絵を描いている正宗君。
---土間うまる---
こまるにならないように、注意深く食べる。コーラ…飲みたいけど…危険だよね。ポテチもそそるけど、危険が一杯だよね。
「ねぇ、ムネ君のことをどう思っているの?」
恵さんに訊かれた。
「どうって…う~ん…小さいお兄ちゃんかな」
耳が熱い。
「ふ~ん…そうには見えないけど♪」
本心を見抜かれているような気がする。手強い人だし。紗霧ちゃんが一番のライバルにあげていたし。正宗君の初恋の相手だしなぁ。
「恵さんはどうなんですか?」
「う~ん…恥ずかしい姿を一杯見られたしなぁ~。ムネ君の前では、素の自分でいられるかな」
相当恥ずかしい姿を見られたらしい。
「ムネ君は、恋愛に関してニュートラルだから…前にも後ろにも進まない。でも、一緒にいるだけでも良いって思えるのよね~」
そうだと思います。
「なゆさんの全裸攻撃に怯まないし…それはそれで問題は有るんだけど…」
普通は怯むよね。って、こまる状態の私にも怯まなかったし。私は彼にはどう見えているのだろうか?
「でも、私達のことを私達以上に考えてくれている。和泉マサムネ先生の時は、ツッコミ所満載だし」
あの没原稿の山はスゴい。普通は心折れているよね。
「一番、問題が有るのがムネ君だと思う。う~、問題って言うか、欠陥だらけって言えば良いのかな?彼氏にしたら欠陥だらけの冴えない男だけど…身近にいてくれるだけで、心強いんだよ。私にとってはそんな存在かな?」
わかる気がする。見た物しか書けない妄想力が低い作家さん。だけど、裏では空想力が豊かな作家さんだし。どっちが正宗君の本当の顔かって愚問に思える。両方とも揃って正宗君なんだと思う。
「問題は次のモデル…私か、うまるさんだよ。それがすごい憂鬱だよ~」
確かに…千尋君は女の子の日である。無茶は出来無い。そして、千尋君の話では、女性同士の絡みのある作品らしい。なので、私か恵さんでは無く、私と恵さんが正解な気がする。問題はどこで、凶行に及ぶのだろうか。今日か、明日か、明後日か…う~ん、憂鬱だね、この問題は…
恵とうまるの絡み…どうするかな…orz