---白川京---
正式始動をしてから半年、暦は6月になっている。パブリッシャー各社から、ここの存在意義を認識もらえているようだ。所属作家のうち、締め切り破りの常習犯であったなゆと伊月が締め切りを守るようになり、山田エルフ先生も改善方向であった。
残る常習犯は2名。しかし、担当編集者は、二人を責めない。原因は明らかであり、どうにも、ならないものだから。一人は和泉マサムネ先生。守らない訳では無いのだ。没になっているというか…今年も『没原稿製造機』の二つ名は返上できないみたいだ。
で、もう一人は、彼の作品に影響を受けまくっている千寿ムラマサ先生。和泉先生の没原稿を読み漁り、それで満足してしまう傾向にあるのだ。はぁ~。
そんなこんなで、知名度も上がってきた『プロダクション縁』に、ビッグニュースが飛び込んで来た。国営放送局が取材をしたいと…しかし…
「ダメだと思うけど…」
マサムネ君が難色を示している。
「どうして?良い機会じゃない」
神楽坂さん達出向組は、賛成派である。宣伝効果に期待したいそうだ。
「だって、放映出来無いよ?ここには、顔出しNG者が多いから」
マサムネ君は浮かれること無く、冷静に問題点を指摘した。
「僕達学生組はNGだよ。学業に影響が出るからね。後、犯罪被害者もNGだし、まして…」
まして、前科付きはダメってことだよね。
「そうなるとさぁ、詩羽先輩しか残らないんだよ。放映しても問題無い人物ってさぁ」
ですね…私はストーカー被害者であり、伊月は責任能力無し判定であり、詩羽さんしか残らない。
「それで、どうにかなるならいいけど」
「顔と本名はNGにすれば?」
と、神楽坂さんが食い下がった。賛助企業サイドは国営放送の電波に乗りたいよね。
「大和さんとみゃーさんで決めてくれるといいなぁ。神楽坂さんは、無茶を平気でするからさぁ」
って、苦笑いしているマサムネ君。
「そうね。どうしましょうね。困った問題だわ」
と、大和さん。
「後、製作現場NG者も考慮してくださいね。なゆと蚕先生と紗霧、エミリー辺りは危険だし。俺もダメだよ。二人分の原稿が有るから」
確かに…全裸のなゆちゃん、パンツ被りの蚕先生、お眼鏡に掛かった女性にパンツを見せてって平気で言える紗霧ちゃん、そして、イメージダウン必至のエルフ先生、朝霧先生の分も書く正宗君。
「そうね…国営放送の電波に乗せられないわ。う~ん…」
一番の問題は、未成年者率が高いことかな。裏方スタッフのちっひー、うまるさん、恵さんは高校2年生だし…う~ん…
で、相談の結果。顔出しOKの神楽坂さんとコウさんが主な出演者になったそうだ。大和さんは局側に事情を話して、NG者の配慮を求めていくそうだ。
---羽島伊月---
縁の寮に住んでいる。俺とちっひーの恩人である和泉先生の厚意により実現した。家賃、食事、共用分負担を合算して月5万だと言う。部屋ごとの水道光熱費は自腹ではあるが、マンションの賃料を考えると、オトク感があった。何よりも、毎日ちっひーの料理が食えるメリットが大きかった。彼の厚意に縋った俺。
実際に住んでみると快適であった。週末以外禁酒のルールに難色を示していた俺であるが、理由を聞いて納得した。ちっひーもそうだけど、ここには未成年者が大半であり、気化したアルコールの摂取を防ぎたいのだそうだ。で、週末は担当編集の親玉の神楽坂あやめが酒瓶を抱えてくるので、その日は解禁になるそうだ。解禁って言っても、飲酒スペースは決められている。未成年の作家陣に迷惑を掛けない配慮であり、俺ですら文句は言わない。
冷え込んだ関係だった、ちっひー、みゃー、可児子との交流は、ぎこちなさが残るが再開した。ちっひーは食事時に元気そうな姿が見られる。内線を使えば、話しも出来る。みゃーは、精神的に逞しくなっていた。未だに春斗のことは許せないようだ。アイツからの謝罪が、未だに無いそうだから。
可児子は俺のことを『先輩』呼びしてくれるが、俺にまっしぐらでは無くなっていた。
「和泉先生にまっしぐらか?」
「う~ん…かな。でも、まっしぐらでは無いかな。夜這いとか、迫ってもイヤな顔しないし、いい仲間って感じだよ」
締め切り近くで、書く気が無い時に、彼を呼び出して、スキンシップをしてもらいながら書いているらしい。それはそれで問題があると思うのだが。
「なんていうかな?先輩みたいにエロ心を持って接していない分だけ、安心でリラックス出来るというか。うん、自然体が一番だよね」
「将来的にはどうなんだ?」
「え?マサムネ君と?う~ん、どうかな。旦那枠とか彼氏枠に入れちゃうと、彼の魅力が無くなって、冴え無い男になるのがイヤかな」
「アイツの魅力って何だ?」
「自然体かな…私達を風景の一部として認識しているって感じ。だからエロ心なんか湧かないんじゃ無いかな。で、彼氏とか旦那になると、相手を意識しちゃうから…そういうマサムネ君は見たく無いんだよ」
可児子は可児子なりに、アイツを認識しているようだ。
「いい例は、紗霧ちゃん、恵さん、コウさんだよ。彼的には好きなんだと思う。だから、モデルにしない。モデルにしないって、意識している証拠だと思うんだよ。って、私もモデルにされないなぁ♪」
可児子なりの推理かぁ…そうなると、ちっひーを好きでは無いのか。
「後、ちっひーは別枠だと思う。男性恐怖症と思われている気がするんだよね~。だから、すべての枠から対象外になっているんだよ。将来的に一緒にいたいってこと以外はね」
あぁぁぁ~、俺のせいか…
---和泉正宗---
久しぶりに編集部に赴き、朝霧沙樹としての今後のスケジュールを決めてきた。基本、好きなペースで書いて良いことにはなっている。朝霧の方は単発作品、短編作品が多い為、編集者が組み合わせて、丁度良いページ数にして発行してくれているのだ。なので、エルフシリーズ、妖精シリーズなどのシリーズ物が例外になる。
街中を歩き、風景を見ながら、良い構図が無いかを考えながら彷徨う。幻想・怪奇・ファンタジー系な作風なので、なにげ無い日常にある不可思議さを探してしまう。一種の職業病かな。
うん?一人の女性を見て固まった。有り得ない顔立ちで、有り得ない身体付き…人間は左右対称な生き物では無い。鼻の真ん中とおへその真ん中に鏡を置いて見るとわかる。右半分をベースにした対称的な顔と、左半分をベースにした対称的な顔では、別人になるものである。しかし、俺の捉えた女性は、シンメトリーな顔と身体をお持ちのように見えた。こんな人いるんだ…興味を持った俺は、その女性に声を掛けた。
「すみません!絵のモデルになってください」
一瞬きょとんとした女性。でも、
「私なんかで良いのですか?」
「はい!お願いします」
彼女の連れの女性達は、俺を怪訝な目で見ている。
「深雪、新手のナンパかもしれないわよ」
「でも…彼の目…真剣よ」
「だまされちゃダメよ。あなた、名前は?何者なの?」
って、訊かれても、身分を証明する物は無い。手にしたスケッチブックを彼女達に見せた。
「深雪…彼…朝霧沙樹先生だよ…」
彼女の連れの女性が、震える声で俺の正体に気づいた。あぁ、書いた絵に落款を押しているからか。
「え?あの?この人がそうなんだ…光栄です。是非、モデルにしてください♪」
彼女の住所を聞き、来週の週末に、彼女の家でモデルになってもらえることになった。
---司波深雪---
いつも通りに生活していたのだけど…
「深雪、何か良いことでも有ったのか?」
お兄様に訊かれた。
「え?いえ、そんなことは無いですよ」
「そうか?それにしては、お前にしては珍しく、ウキウキしているように見えるけど」
ウキウキ?う~ん…何か遭ったかな?あ!思い出した。私は自分の部屋に行き、お気に入りの本を持ち出して来た。
「この本の作者先生にお会いしました」
朝霧沙樹先生の妖精シリーズを、お兄様に差し出した。
「あぁ、この本は、深雪のお気に入りだな」
「そうですの。で、ですね…週末に朝霧先生が、ここにお見えになるんです」
彼のことを思い浮かべると、耳が熱くなってきた。どこまでも澄んで見える真っ直ぐな瞳…引き込まれて行く感じがした。こんな体験は初めてだった。
「うん?何にしに来るんだ?俺に紹介か?」
「えぇ、お兄様にご紹介します。でも、目的はですね…私を絵のモデルにしてくれるそうなんです♪」
モデルさんのようなポーズをしてみせた。
「深雪が絵のモデル?う~ん…それだけならいいが…」
「それだけ?」
「朝霧沙樹と偽った、新手のナンパかもしれないぞ。深雪は疑うことをあまりしないから」
私を心配してくれているお兄様。
「雫とほのかにも言われました。朝霧先生にお会いした時に、一緒にいたんですよ。でも、彼のスケッチブックを見た雫が、本物の朝霧先生だって見抜いたんですよ」
雫もファンだった。朝霧先生ファンであれば、見れば分かる先生の落款。
「雫が認定したのか。ならば、間違いは少ないか」
私は1枚の紙をお兄様に手渡した。あの日、私達3名それぞれの絵を描いてくれたのだった。
「う~む、力強いペン捌きだな。実物と瓜二つだし。うん?どういうことだ?う~ん…」
しかし、お兄様は何かを見つけ、唸っている。何を見つけたんだろうか?
---和泉正宗---
翌週、八王子へ向かった。彼女、司波深雪さんの家に行く為に。うまるさん達が住んでいたのが八王子だったので、彼女の家の行き方を書きだしてくれた。これで迷子にはならないと思う。画材をディバックに詰め込み、ショルダーバッグにスケッチブックを数冊と、新作のサイン本を持って来た。
五反野から八王子…うまるさんに訊いたら、片道2時間半は見た方が良いと言われた。なので、朝早くに家を出た。紗霧達の朝食と昼食の準備はしてきたので、夕食までには帰らないと、紗霧が心配である。空腹に耐えられなくなれば、千尋君や先輩の料理でも食べるとは思うけど…
うまるさんの書き出してくれたメモを見ながら、バスに乗り、深雪さんの家を目指す。そして、バスを降りて、メモの通りに歩き、表札を見ながら進んでいき、ようやく辿り着いた。近代的な建築の一戸建てのようだ。インターフォンのボタンを押すと、深雪さんが応対に出て来てくれた。
「正宗君、お待ちしていました」
笑顔で僕を迎え入れてくれた。室内には表情から感情が読みにくい男性がいた。彼氏かな?
「深雪さんの彼氏ですか?」
訊いてみた。
「違います。誤解しないでくださいね。私には彼氏はいませんから。私のお兄様で、達也といいます」
と、俺にお兄様を紹介してくれた。
「お兄様、彼が朝霧沙樹先生です」
「あ、本名は和泉正宗といいます。高校2年生です。妹さんに絵のモデルを頼みました。すみません」
俺を睨む目が恐い…頭を下げて謝って帰ろうと思った。それほど恐い。
「深雪の兄の司波達也だ。妹のことを頼むぞ」
お兄様が手を差し出してきたので、握手を交わらせた。口元がうっすらと笑っているようだ。目付きは変化無しで、恐いままだけど。
「お兄様、目付きに怖がっていますよ!」
「悪いな。俺は目が悪くて、こんな目付きなんだよ。妹に手を出したら、殺すってことは無い。安心していいぞ」
言葉も恐い。目力、言霊持ちなのだろうか?俺の中の本能が恐いと言っている。
「そんなに緊張しないでください。お兄様は見た目はこうですけど、優しいですから」
深雪さんがお兄様を庇い、俺の肩をマッサージして揉みほぐしてくれた。気持ちいい…
「そうだ。深雪さんに、コレを」
持って来た新作のサイン本を手渡した。
「今日のギャラってことじゃないけど…」
「先日も言いましたけど、ギャラは要りません。先生のモデルになれるだけで良いのです。これって、新作ですよね?天使と悪魔シリーズの完結編…売り切れで、まだ手に入れていなかったんです。ありがとうございます。わぁ~♪サイン入りだ」
お兄様に自慢げに見せている深雪さん。
「良かったな。深雪」
「うん♪」
確かに、深雪さんを見る目も、俺を見る目も変わりなく恐い。あれが、デフォルトなのか。ネタ帳にメモりたいけど、雰囲気的にメモすることは危険が一杯な気がする。
「先生、私の部屋でお願いします。コチラです」
深雪さんの案内で、深雪さんのお部屋に向かった。
干物妹のキャラで、妄想出来たのは叶だけ…orz
なので、兄妹物作品をクロスオーバー作品に追加しました。
原作を読み進めると、義理の兄妹になるので、そういう関係を視野に入れて、展開させていきます。