---七草真由美---
国立魔法大学付属第一高校の生徒会長をしている私の耳に信じられないニュースが届いた。毎年、系列校が集まって『九校戦』という競技大会が開かれているのだが、新人戦期待の星と期待していた生徒が、突然転校したという。
今年は選手層が厚く、完全優勝を目論んでいた生徒会として、生徒会の長として寝耳に水な事態だった。放課後、彼女の兄である司波達也君を呼び出し、事情を訊いた。
「妹は大切な縁を見つけたようです」
意味がよく解らない。
「どういう事かしら?」
「家族で結論は出ている事です。生徒会が介入する問題ではありません」
と、素っ気ない返事。
「彼女は九校戦の選手に選ばれているの。自覚は無いのかしら?」
「そんな些細な事よりも大切な事があるんですよ」
些細?名誉と栄光以上のものが有るというのか?
「ですから、これはここまでにしてください。度を超した越権行為が有った場合、俺も転校しますから。では」
生徒会室から去って行く達也君。何が起きたのだろうか?兄妹で参加することを楽しみにしていたはずなのに…
「摩利、転居先を調べておいて。週末に直接説得しに行くから」
風紀委員長の渡辺摩利に命じた。
「越権行為になるわよ、真由美…」
「一高に名誉をもたらす為に必要なことなの。いいわね」
摩利は何か釈然としない表情を浮かべて、調べに行ってくれた。
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週末、摩利と彼女の転居先へ向かった。五反野という場所にいるらしい。
「五反野って、何があるの?」
摩利に訊くと、彼女は情報端末で調べてくれた。
「ラノベの聖地と言われている本屋さんがあるみたい」
「ラノベって?」
更に調べる摩利。
「ライトノベルのことで、手軽に読める小説って言えばいいかな。本屋さんで、アニメ絵の表紙の薄めの本が有るでしょ?あれのことよ」
オタクの聖地みたいな物かな?まさか、彼女はオタクになってしまったのかな?何が遭ったんだ?ますます困惑する私。
そのオタクの聖地、秋葉原で乗り換えて、五反野に着いた。煌びやかさは無い。寧ろ、八王子の方が都会に思える街並である。
「あのたかさご書店が聖地のようです」
摩利が指差した先に本屋。割りと大きめの本屋さんのようだ。ラノベと言う物に興味が無いので、早速、摩利の調べた住所を手がかりに、彼女の住処へと向かった。
しばらく進むと、川沿いの道に出た。この辺りのようだけど…
「あったわよ。ここだわ」
摩利の視線の先には、『和泉』という表札を出している一戸建ての家があった。ここにいることになっている。親戚かな?それとも…
門に手を掛けると、開いてしまった。そして、何の気なしに、ドアノブに手を掛けると、玄関のドアが開いた。なんて、不用心な家なんだろうか?玄関に入ると、目の前には階段、左手にはドアが見えた。
ガチャ!
うん?音のする方を見ると玄関のドアの鍵がロックされた音だった。
「不法侵入だな。インターフォンも使わずに玄関に入るって、盗人だよな」
左手のドアから男性が出て来た。
「警察に突き出すか?」
彼の視線は摩利に向けられている。
「警察?何を言っているんだ?」
「君達が不法に侵入する様子は、記録されているよ。この辺は不審者が多いから、高性能な監視カメラを数台設置してあるんだ♪」
記録?
「で、用件は何かな?用件次第で突き出すかな」
「司波深雪さんと話をしに来ました」
「会わせないよ。だって、変じゃないか。どこで、ここの住所を手に入れたんだ?誰にも教えていないのにさぁ。知っているのは、彼女の家族と、区役所の住民課、あとは転校手続きをした学校の学生課だけのはずだ。どこから手に入れたんだ?いや、どこから盗んだんだい?」
「人聞きの悪い言い方はやめてくれる?盗んだのでは無くて、調べたのよ」
「ふ~ん、個人情報を勝手に調べたんだ…そうなると、学校サイドには個人情報保護法違反の疑いが出てくる。管理がなっていないよね?」
こんなヤツと話している時間が無駄だ。
「摩利、家捜しをするわよ」
摩利と二人で、家の中に踏み入った。
「おい!そこまでだ。不法侵入の現行犯だな」
家の奥から警官姿の者が三名出て来て、私達を拘束しようとした。手際が良すぎる。偽警官だと直感で思い、抵抗していく。
「公務執行妨害も付くぞ!応援を呼べ!」
ガシャン!
何かが壊れる音がした。
「器物破損もつけてくださいね♪」
あのふざけた男が、ふざけたことを言った。ふざけた男に詰め寄り、エリ首を掴んで捉えた。
「暴行もつきますよ」
「偽警官を仕込むとは、お前は何者だ?」
無言…首を絞め上げていく。
「もう、やめてください!」
深雪さんの声…締めていた力を緩めた。床に蹲る男。彼に駆け寄る深雪さん。
「大丈夫ですか?私なんかの為に」
「僕はここの主だ。仲間を護るのは当然だろ?」
深雪さんの頭を撫でている男。
「司波さん、どういう事?なんで、転校なんかしたのよ?!」
私を睨み付ける深雪さん。
「プライベートに踏み込む権限は無いはずです。なんで、こんな酷いマネをするんですか?お兄様から聞きました。私には、名誉も栄光も要りません。今は彼の傍にいたいんです」
この冴えないオタク男の為に、転校?有り得ない。
「おい!手をゆっくりと上げろ!」
背後から男性の声、振り向くと、手には拳銃を構えている。
「警察だ」
警察手帳を見せ、身分を証明しようとする。どうせ、コイツらもニセモノなんだろう。
「司波さん、ここじゃ、三文芝居の役者さんばかりなので、学校でゆっくり話をしましょうね」
深雪さんの腕を掴もうとすると、私と深雪さんの間に、オタク男が入り込んだ。
「嫌がっているだろ?なぁ、あんたこそ、何者だよ?俺の家に土足で上がって、大立ち回りして、何様なんだよ!」
彼を睨んだ瞬間、手首に冷たい金属の感触…手首をみると、手錠が嵌められていた。
「正宗君、大丈夫か?今回の輩は立ちが悪そうだな」
スーツ姿の男性が、オタク男に話し掛けた。
「住居不法侵入、器物破損、個人情報保護法違反、たぶん情報を盗む為に不法侵入もしているでしょうし、不法アクセスの疑いもあります。で、箱長さん達に抵抗だから、公務執行妨害も付きますよね?あぁ、俺に対しての暴行、傷害をつけてください」
「わかったよ。おい、お前達、署でゆっくり、話を聞こうか」
え?本物の刑事…連行される私と摩利。外にはパトカーが数台集結していた。いつ、通報したんだ?
「この家は訳有りで、家の前の監視カメラの映像を署でモニタリングしているんだ。お前達の行いは総て記録に有る。家の中の分もあるぞ。彼から転送されてきているからな」
警察署とホットラインで繋がっているのか…なんだ、この家は?彼は、何者なんだ?
---和泉正宗---
めぐみん対策で設置した監視カメラシステムが役立った。顔データを登録していない者が、家人の応対無しで家に入ると、警察署に自動通報してくれるのだ。まだ、実験中で誤報もあるけど、駅前交番のリーダーの箱長さん達が、見回りに来てくれるようになっていた。
リビングと玄関を隔てているドアが壊されたのは痛い。器物破損ってことで、鑑識の方々が壊れ具合をチェックしていた。まぁ、鑑識作業なんか、そうそう見られる物では無いので、参考資料にしたいと申し出て、ビデオ撮影の許可をもらった。
「正宗君、怪我の具合はどうかな?」
箱長さんに訊かれた。
「一瞬、意識を持って行かれました。痕は残っていますか?」
首を箱長さんに見せた。
「う~ん、指の痕があるな。鑑識さん、証拠写真をお願いします」
鑑識の方に、首の写真を撮られる僕。
「引き戸は修理したら、請求書をとっておいてな。器物破損の証拠になる」
「はい」
リビングから警察の皆さんの仕事振りを観察する作家陣。
「兄さん、大丈夫だった?」
紗霧が声を掛けてくれた。少し顔色が蒼い。恐かったようだ。
「大丈夫だよ、深雪がいるから♪」
深雪は護身術として柔術をマスターしているそうだ。
「そんなにアテにしないでくださいね」
顔を赤らめた深雪。
---七草真由美---
取り調べ室で、取り調べを受けていた。あのオタク男の言っていた罪状が、私に降りかかっていた。しかし、上からの圧力に弱い組織である。取り調べ官の顔は、苦虫を噛んだような顔であった。
「軽犯罪程度では、検察に送れないのか…お前なぁ、公安と警察庁のコネが有るからって、やっていいことと、悪いことを考えろよ!」
平刑事では無く、少しエライ刑事さんに取り調べ官が変わった。
「君の供述は読んだよ。転校が許せないから、連れ戻しに行ったって…間違い無いな?」
「えぇ、そうです。彼女のような優秀な生徒は、あんなオタク男に騙されて、転校するのが許せませんでした。ですから、彼女の目を覚ます意味でも、連れ戻そうと思っています」
私の父は公安に顔が利く。摩利の彼氏のお兄様は、警察庁の警部だ。これ以上のコネって無いだろうな。
「わかりました。軽犯罪の範疇を超えた罪状を見つけました♪誘拐未遂、監禁未遂です」
え?
「無理ヤリ連れ戻すというのは、誘拐ですよ。で、彼の元へ帰らせないようにするのは、監禁になります」
あれ?自分で自分の首を絞めたようだ…
「些細なことって、軽犯罪の数々をチャラにって、良くないですよ。検察に送りますからね。楽しみにしていてください」
キレ者の刑事さんだった。こうして、私と摩利は牢屋へ…
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「バカモン!お前って娘は…俺の名前を出せば、罪が消えると思ったのか?アホか!」
父が面会に来てくれたのだが…激怒していた。
「担当している警部さんに話を聞いた。鍵が掛かっていないから、家に入った?家主と口論になり、首を絞めた?開いた口が塞がらないって、この事だ!」
「でも…あのオタク男が、彼女を騙しているのは明らかです」
「ほぉ~、お前、証拠は有るんだよな。そこまで言うからには」
証拠?
「あの優秀な彼女が、あのオタク男の元に走ったのが証拠です」
「なぁ、なんで、彼がオタク男って認識なんだ?」
「見れば、わかるでしょ?父さんの目は節穴ですか?」
頭を抱えている父。
「お前の男の見る目の無さ…ダメなレベルだな。彼は…おっと、正体は言えないんだ。だけど、お前の思っている男では無い」
父は、あの男の正体を知っているようだ。
「アイツは何者なの?」
「俺の口からは言えない。彼は彼なりに一生懸命生きているんだ。お前みたいなバカ娘が介入していい話では無い」
あの男のことを買っているような父。
「残念だよ。娘が犯罪者になるなんて…」
「父さん、助けてよ~」
「お前のやらかした罪で一番デカイのは、個人情報保護法違反だ。情報を管理する責任のある学校にまで、迷惑を掛けたんだからな。校長に依頼して、情報を手に入れただと?そんなことがまかり通るから、ストーカー被害が減らないんだぞ!」
ストーカー?
「私はストーカーじゃないわよ」
「似たような者だ。少し、留置場で頭を冷やせ!相手には俺から詫びをいれておく」
父はそう言うと、寂しそうに部屋から出て行った。
---和泉正宗---
部屋で新作の構想を練っている時、来客が訪れた。うちで暴れた女性の父親らしい。リビングに招き入れて、話を聞くことにした。
「娘達が、無茶をしてすまなかった」
リビングに入るなり、俺に土下座をした七草真由美の父親の弘一。
「頭を上げて下さい。そんなことで、許しませんから」
「なるほど、肝は据わっているようだな」
顔を上げて、ニヤリとした弘一さん。うん?この人…
「もしかして、目が…片目が…」
「わかるのか?」
驚いたような顔をした弘一さん。
「骨の形が少し…左右でバランスが違うと言うか」
「なるほど、部位で描く絵師らしいことを言うな」
俺のことを調べてきているようだ。それも、裏稼業の方を…
「君のことは、聞いているよ。犯罪被害者の女性達を囲っているんだろ?」
囲うって、イメージが悪そうだ。
「弱みに漬け込まず、彼女達のしたいことのアシストを、しているそうじゃないか」
「アシストってことは無いです。買いかぶり過ぎですよ。俺は非力な売れ無いラノベ作家兼学生ですから」
「妹さんのしたいことをアシストなんだろ?」
本業の方も調べられているのか。
「兄妹で二人三脚で作品作りか」
マズい、紗霧の事もバレている。
「おいおい、そんな顔で見なくてもいいんだよ。俺はお前の敵にはならない。お前の弱みに漬け込まない。だから、睨まないでいいんだぞ」
とは、言うが…紗霧だけでも護りたい。
「隣にいるのが、司波深雪さんかな?」
深雪がビクっとした。今までは千尋君に、この家のメイドを頼んでいたのが、今は深雪さんに頼んで有る。掃除、洗濯と紗霧の話相手っていうのが、主な仕事である。紗霧の食事は俺の担当だから。
「そうです…」
「う~ん…真夜よりも深夜に似ているな」
真夜って言うのは深雪の叔母で、深夜って深雪の母親である。
「母を知っているのですか?」
深雪が弘一さんに訊いた。
「あぁ、幼なじみだ。で、真夜の婚約者だったんだ。だけど、真夜が子供を産めない身体になって、婚約は破棄になり…あの事故が無ければ、君のような娘がいたかもしれいない」
もしかして、卵子の提供者って、深夜さんなんじゃ…
「そうだったんですか…」
「まぁ、それは余談だ。で、正宗君でいいかな?それとも朝霧先生と呼んだ方が良いのか?」
弘一さんが、ここに来た本題に斬り込もうとしていた。
戦闘力が皆無の正宗君…クロス先は戦闘学校物だしなぁ…鉛筆は魔法より強いのだろうか?