---和泉紗霧---
土曜の午前中、いつもの番組を見終えた頃、ドアがノックされ、深雪さんがバスローブ姿で、部屋に来た。突然の展開で固まる私。
「勝負下着を着てきました。恥ずかしいから、紗霧ちゃんにだけ、お見せしますね」
頬を赤らめている深雪。私のなにげ無い頼みを覚えていてくれたようだ。バスローブを恥ずかしそうに脱ぐ深雪さん。その下着姿に目が点になって、固まる私。美しい…エロい恰好なのだが、美しいのだ。これをイラストにして良いのだろうか?
シースルーのおパンツ…バックはTバックである。ハーフカップのシースルーのブラ。彼女の美しいボディをジャマしていない下着達。
「どうかな?」
感想を訊かれるが、言葉に表せない感動を受け付けている。
「どうしてシースルーなんですか?」
「普段は着ませんよ。勝負下着だから…意中の相手に、自分の美しい姿を見せたいじゃないですか?」
深雪さんなりの乙女心を感じる。
「全裸だと、自分のイメージした体型に維持できないから…下着はイメージ体型を固定する補助具みたいな物なんですよ」
目から鱗の深雪さんのお言葉。確かに、かわいい系のおパンツでは、体型の維持は無理である。
「ベッドの中だと下着は必要無いですよね?だから、ベッドへ入るまでの見せられる短い時間で、自分の身体をアピールする道具って感じなんですよ」
イラストに描けない、いや描く自信が無い。この感動をイラストに再現出来無いかもしれない。デジカメで数枚撮影した私。負けた感が半端無い。
深雪さんがバスローブを着衣した。女性である私に見せるだけでも、恥ずかしいらしい。ある意味、全裸よりも恥ずかしいかもしれない。でも、意中の相手には勇気を出してなのだろうか。
「兄さんは、その姿を見たのですか?」
「えぇ、デッサンをしてくれました」
額に入った兄さんのデッサンを見せてくれた。鳥肌の立つデッサン…兄さんには再現出来るようだ。もっと、腕を磨かないと…
「私のイメージは、朝霧作品で使いたいそうです。和泉作品には合わないって言われました」
うん。合わないと思う。大人の女性って感じである。兄さんよりも1つ下なのに…兄さんの女性を見る能力は磨かれているようだ。一目で見抜いたのだろう。今までにいないモデルだと。体型だけならうまるちゃんも匹敵するが、下着の使いこなしは無理だし。うまるちゃんもちっひー系の下着センスだしなぁ。
---本場切絵---
みゃーさんの言葉に耳を疑った。
「え?なんですか?聞き間違えたようなんですけど…」
「切絵ちゃんの作品…デビューが決まったのよ。単独では無理だけど、朝霧作品の付録って感じになります」
朝霧作品の付録…ただそれだけで、光栄なんですけど…
「正宗君が、切絵ちゃんの絵本に沿った短編を書いたのよ。それでね、一緒に配布にするって♪」
師匠…なんてことを…
「で、印税は1冊売れることに10円になるわ」
印税…夢の夢と思っていたのに…いいのかな?貰ってしまって。
「但し、源泉税と家賃分を引いて、赤字の場合は、手には入らないと思ってね。ただ、実績は残るけど」
家賃、食費、水道光熱費、何よりも、師匠達への月謝も、引いてくださってかまわないです。
サンプルをみゃーさんから、手渡された。そこには『きりんりん作』と描かれていた。題字は朝霧先生である。宝物にしよう。
「これからは、単独で出せる大作も考えてくださいね。きりんりん先生♪」
なんて、耳に良い響きなんだ…
---羽島伊月---
社屋の会議室でむさい男と会議中である。担当編集のケンケンこと、土岐 健次郎だ。
「どうなんだ?ここでの生活は?」
ここの会議室は廊下側はガラス張りである。防音仕様であるが、外からセクハラ現場が丸見えになる仕様らしい。まぁ、監視カメラもあるので、ここでセクハラするバカはいないだろう。
「ちっひーの食事を毎日食べられる幸せに浸っている」
それだけで、幸せである。これ以上は望まない。ちっひーの幸せが第一であるから。ここで、俺が何かをやらかすと、ちっひーに迷惑を掛けてしまう。更には、俺をここに招いてくれた彼にも、迷惑を掛けてしまうからな。
「金銭的にも満足だよ。家賃、食費、共用費込みで5万だし。まぁ、マネージメント料も引かれるが、今までの生活を考えたら、安い出費で済んでいる」
酒の量も減ったし。平日は休肝日で、週末は宴会…差し入れの酒は良い酒ばかりだし、つまみも、しょぼい乾物だけってことは無いし、満足ライフである。
「まぁ、お前が締め切りを大幅に破らない分、こっちとしても助かっているがな。あと、可児先生にしてもだ」
「可児子は、締め切りに五月蠅い男に、惚れた弱みがあるんだろうよ」
「朝霧先生か?付き合っているのか?」
「付き合うことは無い。朝霧先生の彼女は別格だし」
訳有りの女…いや、訳の無い女性は少ないか、ここには。その中でも別格である。人工授精で借り腹を経由せずに試験管育ちって…俺よりも実際的に狂気な行動をするヤツがいるって、少し安心したりもしたが、シンメトリーの身体は、俺でさえ恐怖を感じる。アイツは、普通に付き合っているが、俺には無理な気がする。
「別格なのか…まぁ、作家として、朝霧先生は別格だしな」
有りそうで無い事象を描く作家で有り、ジャンル的にはファンタジー、怪奇、非日常である。有りそうと思えてしまうリアルティ。エロい物は淡々と、猟奇的な物はエロく、感覚が特殊な作家である。但し、デビュー作だけは現実らしいのだが、それすらも有りそうで無い話に感じてしまう。
あのベストセラー作家を、没原稿作成マシンと同一人物だと、誰が気づくのだろうか?
「朝霧先生って、どんな人物なんだ?」
俺の作品の打ち合わせに来たはずなのに、雑談だらけなケンケン。
「どんな?そうだな、猟奇的な目付きの人物だな」
朝霧モードになったアイツは、何かが降臨したのではないかと思うくらい、顔付きが変わる。俺達の見ている映像とは、違う物が見えているのではないかと思うくらい、デッサン画には何かを感じる。時には寒気さえも感じるし。
「猟奇的か…危ないんだな。ソイツは」
「いや、危なく無い。何をすべきかがわかっているから」
コンコン!
ドアがノックされ、ちっひーが珈琲を持って来てくれた。
「あぁ、ちっひー、悪いなぁ」
「これがボクの仕事ですよ、義兄さん♪」
俺とケンケンの前に珈琲を置き立ち去っていく。
「わだかまりは解けたのか?」
「少しずつだよ。ちっひーには良い彼が付いているからな」
ちっひーの淹れてくれた珈琲を口に運んだ。
---和泉紗霧---
部屋に、なゆちゃん、蚕ちゃん、エルフちゃんがやってきた。なゆちゃんは部屋に入るなり、裸族になってまったりしている。
「で、どうだったのよ?」
エルフちゃんに訊かれた。
「完敗だよ…神々しくて、イラストが描けなかったもん」
みんなに深雪さんの件を、報告した。
「黄金比にやられたの?」
裸族に訊かれた。
「それ以前だよ~。大人の色香って物を体験出来たというか…」
タブレットに撮影した画像を表示させた。実物より劣化した印象はぬぐえない。
「なんですかぁ~?この下着は…」
下着フェチの蚕ちゃんが驚きの声をあげた。
「上下共にシースルーだよ。後はTバックだったし」
3人共、目が点になって、生唾を飲み込んで魅入っていた。
「実物はもっとスゴいよ。言葉に表せないんだけど」
初めて、イラスト化出来無かった。完敗である。絵師はモデルに、魅入ってはダメなんだと実感した。
「こんなにエロさを感じる下着があったんですね…」
下着フェチの蚕ちゃんすら見た事が無い、レア下着だったらしい。
「下着に関する思うところも聞いたんだけど…」
聞いた話を皆に聞かせた。
「隠す為の布では無く、美しく見せる道具なのか…」
裸族がショックを受けていた。
「全裸はベッドの中だけで、如何に美しく見せるかが勝負みたいだよ。だから、勝負下着なのかもね」
「でも、これって、私や蚕や紗霧じゃ無理よね」
えぇ、無理です。貧弱さを強調しかねない。皆で裸族をロックオンした。
「え!私?無理だよ。全裸じゃないとまったり出来無いもん」
誰か、他の誰かで検証しないと…深雪さんだけが特別なのか。誰でも、あぁ見えるのかを。今後の作品に関わる重大事案である。誰で試すかな?
「う~ん、そうだな…みゃ~さんか、叶さんかな。胸の形が良くないと、バランスが良く無いもの。巨乳系とか柔らかい乳はダメだな」
って、裸専門家の裸族が候補を絞ってくれた。どっちが説得しやすいかな?
「みゃーさんは保守的だから、着ないだろうな」
って、叶さんになるな。洗脳もしやすいかな。下着は専門家の蚕ちゃんが手配してくれるようだ。
---千葉エリカ---
達也君とデート気分で、引っ越しをした深雪に会いに行った。八王子からずいぶんと遠い場所に引っ越したようだ。都心を横断して、足立区へと向かっているらしい。
五反野という駅で下車して、ここから徒歩だと言う。
「エリカはラノベは読むのか?」
耳を疑った。硬派の達也君からラノベという言葉が出るとは、予想外だったから。
「え?あぁ、読むよ」
「好きな作家とかはいるのか?」
「好きな作家なぁ…そうだな、霞詩子とか、千寿ムラマサかな。でも、なんで、急にそんな話題を振ったんだ?」
私の問い掛けをスルーした。何か訊いてはいけないことでも訊いたかな?暫く歩くと、川沿いの道に出て、『和泉』という表札を掲げている一戸建てのインターフォンのボタンを押した。
ガチャ!
門扉の施錠が解錠したようだ。玄関のドアの呼び鈴を押した。
カチャ!
ドアが開き、深雪が笑顔で迎えてくれた。
「あら?エリカも来たの?」
私を見るなり、怪訝そうな顔になった深雪。私は招かざる客なのか?
「一緒に来たいって頼まれてね。マズかったかな?」
「う~ん…どうかな?まぁ、大丈夫かな」
何が大丈夫なんだ?不安が過ぎるのだけど。
家の中に入った。和泉という人の家に、同居しているらしい。深雪の部屋は2階だそうで、彼女の部屋に案内された。しかし、そこは仏間だった。
「ここしか部屋の空きが無くて」
部屋にはベッドが1つと机があるシンプルな部屋だった。
「どうだ?生活は慣れたのか?」
「えぇ、慣れてきました」
「彼に挨拶をしたいんだけど…」
「今すぐは無理です。仕事中ですから。でも、今日、お兄様がいらっしゃることは伝えていますから、もう少しお待ちください」
コンコン!
ドアがノックされて、深雪がドアを開けると、中性的な顔立ちの子が、お盆に飲み物とお茶請けを持ってきてくれていた。
「千尋さん、ありがとうございます」
「いえ。あぁ、正宗君は後1時間くらいで終わるらしいです。終わったら、1階へ降りて来てくださいって」
「わかりました」
千尋と呼ばれた者は。私達に一礼して、去って行った。
「なぁなぁ、今のは彼?彼女?」
中性的で性別が分からなかったので、訊いてみた。
「女性ですよ。クラスメイト羽島千尋さんです」
クラスメイト?なんで、一緒に住んでいるんだ?
「それでですね、お兄様。8月なんですが、一緒に合宿に行きませんか?」
合宿?何のだ?
「関係者では無いのに、ジャマじゃないのか?」
「いえ…彼が…お誘いをしてみたらって、言ってくれたのですよ」
頬を赤らめた深雪。彼?彼って言ったよな。
「彼って?」
「私を救い出してくださった方です。恩人みたいな人ですよ」
「俺も彼に感謝している。俺達の知らない家族内での問題を、あぶり出してくれたのだからね」
普通、家族内の問題を他人があぶり出したら、大きなお世話だろうに。どういうことだ?
「ここの方達は、問題を共有してくれています。だから、周囲の目を気にしないでいます」
今まで、気にしていたのか?何をだ?疑念が渦巻いていく。
「あっ、終わったみたいです。下へ行きましょうか」
何か合図でも有ったのか?私にはわからなかったけど…深雪について、下へ降りていくと、どこにでもいる程度の男がソファーでまったりしていた。
「正宗君、妹がお世話になって、申し訳ない」
達也がその男に頭を下げた。はぁ?アイツが深雪の彼氏なのか?
「いえ、こっちらこそ、お世話になっております。お兄様」
達也君をお兄様呼びだとぉぉぉぉぉ~!
「うん?彼女は?」
「あぁ、俺のクラスメイトで、深雪の友人だった、千葉エリカです」
「赤毛なんだ…ねぇねぇ、アンダーヘアも赤毛なんですか?」
はぁぁぁぁ~?何を訊いた?今、コイツは…誰も指摘しない。なんだ?
「正宗君、アンダーヘアは黒でしたよ」
笑顔の深雪が、私の秘めた部分を話している。どういうことだ?
「へぇ~、上は赤でも下は黒なんだ」
深雪の彼氏は、ノートになにやら書き込みをしている。私の毛の色か?
「お前!不謹慎な質問だろ?」
「なんで?疑問を疑問のままにしておく方が問題でしょ?」
もっともだが…
「デリケートな部分を人前で訊くな!」
「毛の色がデリケートな問題なの?」
「正宗君、人によっては、そういう問題です。そういうのは、私に訊いて下さいね♪」
アイツに、笑顔で語りかけている深雪。どうしたんだよ?達也君は静観しているし。なんだ、この家は?
「ねぇねぇ、深雪。エリカさんってエムかな?」
はぁ?有り得に質問を平気でしているアイツ。
「どうかな?そういうプレイしたことが無いから、わからないわ」
って、深雪がマジで答えているし。達也君は…あぁぁぁ、苦笑いしているし。
「ねぇ、エリカさんって、エムかな?」
私に近寄って、私の耳元で囁く彼。今更、小声で訊いても遅いわ!掴み掛かろうとしたのだが、蛇に睨まれたカエル状態で、身体が竦んで動けない。コイツは、何者なんだ?
「あぁ、なるほどね。わかりました」
私は何も答えていないのに、アイツは納得して、元いた席に戻って行った。
「うん?今のは何をしたんだ?」
達也君がアイツに訊いた。
「女性は身体と心が別物になる瞬間があるらしいのです。ですから、エリカさんの身体に訊いてみました」
はぁ?何を言っているんだ?身体に訊いたって?その時、自分に起きた異変に気づいた。少し濡れている…
「さすが正宗君だ。あれだけの動作でわかるとはな」
感心している達也君。耳が熱くなってきた。顔は自然と俯いていく。
「あぁ、そうか。そういう展開も有りか」
アイツは、ノートに何かを書き込んでいく。
「お兄様、スゴいでしょ?ちょっとしたことで、展開が浮かぶのですよ」
「あぁ、スゴいな。だから、短期間で、あれだけの物を」
短期間で?何がだよ~?私だけが、この場の空気に取り込まれていないようだった。