※この作品はR-18です。

冴えない彼氏の育てかた   作:もっち~!

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それぞれの後遺症

 

---和泉紗霧---

 

季節は巡り…春…外では桜の花びらが舞っている。兄さんは、どうしているのだろうか?京香さんとどこかで静養している兄さん。ネットで『勇者マサムネ』を投稿し、それに私がイラストをつけている。それが、現在の兄さんとの唯一の縁である。

 

はしゃぎすぎた。反省している。京香さんが言うには、みんなを消さない為に、自分が消えた…そんな感じでだそうだ。あの夏合宿の前、幸せ過ぎると感じ、私達が喪失するのでは無いかっていう恐怖と闘っていたそうだ。

 

そして、幻覚を見て、幻聴を聴いて…追い込まれていった兄さん。そして…

 

京香さんも反省しているそうだ。『作家として生計を立てられ無かったら、養子にする』と、追い込んでしまったと…両親を亡くし、妹の幸せを考えていた兄さんに、追い打ちをしてしまったと…

 

そして月日は兄さんがいないのに巡っていき、私は高校生になった。兄さんの通っていた高校へ通うようになった。エルフちゃん、ムラマサちゃんと共に毎日、学校へ通っている。

 

------

 

京香さんは仕事を辞めて、兄さんと共に暮らしている。兄さんの面倒を見ている。兄さんと…羨ましいと思った時期もあったが、心が壊れた兄さんとでは地獄であろう。

 

勇者マサムネは、呪いを受け、ケダモノに堕ちた。でも、とある少女の桜吹雪の術で正気に戻っていく。救われない話の先に描かれた最新の話である。やっと、トンネルを抜けたようだ。

 

高校を卒業すると、深雪さん、達也さんの兄妹は、館を離れた。ちっひー兄妹、うまるちゃん兄妹は残っている。お兄さん達が、縁で仕事をしているから。

 

うみこさん達は、ここを離れて行った。兄さんがいないから…

 

兄さんを喪失して、ここは壊れ始めている気がする。そんな変化が起きていた、大型連休の前。みゃーさんから、縁メンバーにとある発表がなされた。

 

「今年の夏合宿は、エルフ島ではなく、第2拠点で行います」

 

と…第2拠点ってなんだ?突然の発表にざわめく会議室。

 

「朝霧先生が再始動されました♪」

 

嬉しそうなみゃーさんの口から、待ちわびていた言葉が出た。兄さんが戻ってきたんだ。縁に。

 

「ゴールデンウィークに、第2拠点の現場を視察してきます」

 

兄さんが拠点を新たに作ったのか…それは、ここには戻らないってことだ。

 

「まだ完成していないから、視察メンバーは2.3名になります。宿泊出来無いから」

 

「行きたいです!」

 

真っ先に手を挙げる私。

 

「じゃ、後は伊月とちっひーにするわ。残りの人達は夏合宿を楽しみにね♪」

 

「私は?」

 

裸族が訊いた。

 

「なゆは風邪引くからダメよ。夏でも涼しい場所だから、完成しないと全裸で寝ると危険なのよ」

 

それって、高原…なのかな。大自然の中の家にいるのかな。都会好きには向かない場所なんだろうな。引きこもりの私、裸族のなゆちゃんなら、問題は少ないと思うけど。

 

 

 

---土間うまる---

 

いつに無く、お兄ちゃんの顔が険しい。何か問題でも発生したのだろうか?

 

「うまる…話があるんだが…」

 

お兄ちゃんの前に座った。

 

「なぁ、お前と関係を持ったと思うか?」

 

何を今更なことを言っているんだ?もう、お兄ちゃんとは…

 

「どうなんだ?」

 

「今更、何を言っているの?」

 

「お前、不思議に思わないのか?」

 

不思議?何がだろうか?

 

「うまるが僕と寝る時って、こまる状態なんだぞ…」

 

だから?こまるも私も私だけど…何かがひっかかる。何だっけ?

 

「はぁ~。いいか、こまる状態で出来ると思っているのか?」

 

出来る?

 

「子供?」

 

「違う!その前段階だ!」

 

何かに怒り始めたお兄ちゃん。濡れ衣だよ~。

 

「じゃ、質問を変える。小学校低学年の女子が交われるのか?」

 

あっ!

 

「無理…」

 

って、ことは…まさか…

 

「そういうことだ。僕とうまるは肉体関係に至っていない。うまるは僕に甘える時はこまる状態だからな。彼に嵌められたんだよ」

 

周囲の者に幸せになって欲しいから…自分が消えても、大丈夫なように…そうだ、いつだって正宗君は…真剣に考えてくれていた。

 

「じゃ…」

 

「夏合宿まで、気持ちを整理しておけよ、うまる」

 

 

 

---羽島千尋---

 

「何を言っているの、義兄さん…」

 

「だから、ちっひーとは関係に至っていないんだよ」

 

今更、何を言っているんだ…義兄さんは…

 

「毎晩、一緒に寝ているのは確かだが…」

 

モニタに義兄さんと添い寝するボクの姿が流れた。

 

「仮定の話をタイヘイさんにしたら、部屋に記録用のカメラを設置してくれて、一ヶ月ほど記録したんだが、やっているシーンが無いんだよ」

 

毎週1回は交わっていたはずだ。なんで、無いんだ?

 

「深層心理への暗示…夢に作用するらしい。アイツは、願望を叶える夢を見せていたに過ぎない」

 

「なんで?」

 

「高校生であったお前への配慮だ。妊娠したら、高校を卒業できなくなるし、俺も作家なんかやっていられなくなるからな」

 

そうだ…忘れていた。いつだって、そうだった。ボクと義兄さんのことを、考えてくれていたんだ。どうして忘れていたんだろう…

 

「アイツは俺達に、出来るだけのことをしてくれたんだ。やった結果も考慮してな。天才のやることは理解出来無いと思っていたけど、アイツのことは理解している」

 

全身から力が抜けていく。そこまで読んで暗示を掛けたのか…将来のことまで…

 

「ちっひー、アイツに会ったら、想いをぶつけろよ!アイツが怯むくらいにな♪」

 

脱力感一杯のボクと違って、義兄さんは嬉しそうに見えた。

 

 

 

---司波深雪---

 

冷めた目で私を見ているお兄様。

 

「決めたんだ。彼に残りの人生を預けようと思う」

 

耳を疑う私。

 

「お前はお前の好きなように生きろ」

 

「お兄様…」

 

「そんな目で見るな。いい加減、夢から醒めろよ、深雪!」

 

今更、無理…だって、お兄様とは…

 

「いいか、お前の体験の相手は俺では無いんだ」

 

「そんなはずはないです、お兄様」

 

「俺には、陰毛の臭いを嗅ぐ趣味は無い…」

 

「そんな…だって、いつも…」

 

「それは、お前が嗅がせるからだ。それにだ、俺の好みはトランジスターグラマーだ。深雪のようなスレンダーな女性では無い」

 

お兄様のお言葉は、ショックだった。その上、身体を捧げた相手が違うなんて…

 

「では、誰と?」

 

「俺と深雪…いや、みんなに暗示を掛けたんだ、アイツは」

 

「アイツってどなたですか?」

 

「それすらも忘れたのか?わかった。会わせてやる。一緒に来い!」

 

お兄様に、車の助手席に乗せられた。車は20分ほどで停車した。森の中にある家…

 

「ここだ。降りろ」

 

車を降り、お兄様の後に続く。その家の呼び鈴を鳴らしたお兄様。

 

ガチャッ!

 

ドアが開き、見知った女性が出て来た。

 

「あれ?達也君、どうしたの?深雪さんも…」

 

「先生はいらっしゃいますか?」

 

「今、仕事中よ。少し待てる?」

 

「えぇ」

 

現れた女性は、国立高校時代の先輩の七草真由美さんだった。彼女と話すお兄様の顔は笑顔だった。そういえば、彼女はトランジスタグラマー系である。もしかして…

 

家の中に通され、リビングルームのような部屋のソファーに座った。

 

「達也君は珈琲でいいよね、深雪さんは紅茶だったわね」

 

キッチンらしき場所へ向かう真由美さん。

 

「彼女が先生の身の回りの世話をしているんだ」

 

お兄様は、ここに何度も来ているようだった。ここはどなたの家だろうか?先生って、どなただろうか?

 

出された紅茶を飲んでいると、奥の部屋から男性が現れた。右の頬に三本ラインの傷跡のある男性。どこかで会ったような…

 

「あぁ、達也さん、いらっしゃい。今日はどうしました?」

 

「妹の深雪を連れて来ました」

 

「え?妹さん?初めまして、朝霧沙樹です」

 

あのベストセラー作家の…

 

「は、初めまして…司波深雪です」

 

立ち上がり頭を下げた私。こんなに若いんだ…朝霧沙樹って…

 

「どうですか?お具合の方は」

 

「記憶が曖昧ですが、身体は元気ですよ」

 

「そうですか」

 

「今日は真由美さんを妹さんに紹介ですか?」

 

「先生、何を言っているんですか?」

 

真っ赤な顔の真由美さん。そういうことなんだ…お兄様とは…

 

「真由美さん、僕にも珈琲をお願いします」

 

「はい、お待ちくださいね」

 

真由美さんが奥へと下がった。

 

「先生、妹を描きませんか?」

 

お兄様が朝霧先生にリクエストした。私の絵?なんで?先生は頷いて、スケッチブックを手にして、描き始めた。

 

「こんな感じかな?」

 

早い…でも、紙の上には私がいた。

 

「う~ん、どうして…」

 

「何か、気づかれたのですか?」

 

何かを悩む朝霧先生に、お兄様が訊かれた。

 

「いや、シンメトリーなんだよ…どうして…」

 

シンメトリー…遠い記憶の奥底で何かが反応しだした。そうだ、以前にもそう言われたことがあった。えぇっと…家でデッサンをしてくれ…誰にデッサンをしてもらったんだっけ?お兄様に紹介した覚えがあるんだけど…

 

『シンメトリー』という言葉が記憶を解放する鍵だったのか、記憶が奥底から湧き出していく。彼を見る目が潤んでいく。なんで、忘れていたんだろうか。こんなにも大切な人を…

 

「どうされましたか?似ていませんか?」

 

彼は、私のことを覚えていないようだ。私は思い出したのに…

 

「どこかで、お会いしていませんか?」

 

私の方から訊いた。

 

「すみません。薬の副作用で、記憶が無いんですよ。朝霧沙樹って名前も本名かどうか怪しいんです」

 

恐縮したように言う彼。あの薬のせいで、記憶障害を起こしたのかな。

 

「深雪、思い出したようだね」

 

お兄様の声に頷く私。彼に触れたい。私の総てを受け入れてくれた彼。もっと傍にいきたい。

 

「先生、妹をここに置いてもらえませんか?真由美さんだけでは大変ですので」

 

「構わないけど…大事な妹さんを手放していいのかい?」

 

「手放す訳では無いですよ。だって、俺は毎日、ここに出勤しますから」

 

お兄様は、彼の元で仕事をしていたのか。

 

「そうだ、明日、業者さんが来るんだ。京香さんと対応してくれるかな」

 

「わかりました」

 

彼を見つめるお兄様の目は、どこか哀しそうだった。

 

 

 

---和泉紗霧---

 

エリさんと蚕ちゃんの新作を持って、エリカさんのところへと向かっている。剣での戦闘シーンを描くために、ムラマサちゃんと、エリカさんの家である千葉道場へ通っているのだ。

 

「おぉ~♪いつも、サンキュー。新作のサイン本を」

 

喜んでいるエリカさん。千葉道場に通っていると言っても、私達が鍛錬する訳ではない。戦い方、剣の持ち方、剣士の気持ちなどを知る為である。

 

「今日はどんなシーンをすれば良いのかな?」

 

見たい、描きたいシーンを門下生と共に実演してくれるエリカさん。兄さんが残してくれた縁の遺産の1つである。

 

「そうそう、今年の夏合宿は山らしいのですけど、どうします?」

 

夏合宿にエリカさんを誘った。

 

「うん?行くに決まっているだろ?海かぁ~、水着勝負は出来無いのか~」

 

美智留さんと意気投合したというか、水着姿を張り合っていた。

 

------

 

家に帰り、食堂へ向かうと、叶さんが凹んでいた。

 

「私のことを覚えていないんだもの…」

 

タイヘイさんに、何かを報告していた。

 

「そうなのか…薬のせいなのか、壊れた反動なのか…」

 

兄さんの記憶らしい。現在、記憶喪失状態だそうだ。叶さんは第二拠点のセキュリティーなどを担当したそうだで、定期的に通うことになったらしいのだが…

 

「つらいよ。元気な姿なのに…記憶だけが無いんだもの…」

 

和泉正宗がペンネームで、朝霧沙樹を本名だと思っているそうだ。

 

「記憶に障害があるって、正宗君も理解しているけど、直す手立ては、特に無いんだって」

 

記憶を戻す為、京香さんが兄さんの過去作を読ませているそうだ。

 

「でも、兄さん、『勇者マサムネ』を連載しているけど」

 

会話に割り込んだ私。

 

「多重人格らしい。夜中に、和泉マサムネになる時があるんだそうよ。正宗君自身は記憶に無いけど」

 

そんな状況で、私との縁を切らないようにしている兄さん。一人で闘っているようだ。私も何かしないと…

 

「で、あっちは工事は順調なのか?」

 

「うん、ネット回線のインフラが整えば、イーグルジャンプ組は、出向するそうよ」

 

うみこさん達、ズルい。私に何も言ってくれていないし。先週も会ったのになぁ~

 

「問題は、こっちの飲食店よね。京香さんと話したんだけど、こっちは家賃収入目的だけにして、向こうで飲食店も有りかなって」

 

「向こうでかぁ…知る人は知る店になりそうだな。都会よりも楽しそうだけどな」

 

タイヘイさんは乗る気満々である。一体、どんな場所にあるんだ?

 

 

 

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