※この作品はR-18です。

冴えない彼氏の育てかた   作:もっち~!

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丑三つ時の出逢い*

 

---和泉紗霧---

 

待望のゴールデンウィークに突入前夜、旅行の準備をしている。寒さ対策をみゃーさん、エリさんが考えてくれていた。

 

「カーディガンはいるわよ」

 

タンスから、カーディガンを出す。

 

「ババシャツは?」

 

「持っていないよ~」

 

高校生である。そんな物は着ない。

 

「そうか…じゃ、ヒートテックとかの中に着るのは?」

 

タンスから出して、カバンに詰めた。

 

「バッテリーを多めに持って行きなさいよ」

 

って、デジカメ用のバッテリーを手渡してきたエルフちゃん。兄さんの住んでいる環境を知りたいらしく、デジカメで撮影してきてほしいと、デジカメとバッテリーを貸与してくれた。

 

「これ、持っていてくれ」

 

入学式の日に、エルフちゃんとムラマサちゃんと撮った写真を、ムラマサちゃんが手渡して来た。

 

「うん、見せてくるね」

 

少しでも記憶が戻るように、それぞれが、琴線に触れそうな物を手渡して来た。恵さんは、あの白いベレー帽である。年数を感じる黄ばみが有るけど…

 

「みんな、見せてくるよ♪」

 

--------

 

翌日、みゃーさん運転の車に私と伊月さん、ちっひーが乗り込んで、出発した。中央道を途中で降りて、山の林道へ入りこみ、いくつかのトンネルを抜けると、開けた場所に出た。

 

「あの橋の先よ」

 

橋を渡り、2分くらいで門のある森があった。表札には『和泉』と書かれている。ここなんだ。みゃーさんは手慣れた手つきで、門を開けて、坂を登っていくと、右へと折れた。

 

そこは平地で、L字状の建物があった。ここにいるのね…高鳴る鼓動。

 

みゃーさんが呼び鈴を鳴らすと、京香さんが出て来た。

 

「皆さん、いらっしゃい♪紗霧、入学式にいけないで、ごめんなさいね」

 

私を目にするや、駆け寄ってきて抱きついた京香さん。なんか、丸くなった気がする。兄さんが苦労を掛けたのかな?

 

「さぁさぁ、入ってください」

 

リビングルームに通された。暖炉が有る…薪が燃えている。5月だと言うのに、確かに涼しい気がする。

 

「先生は仕事中ですので、先にお部屋に案内しますね」

 

二階へ案内された。6畳位の客間にみゃーさんと共に入った。窓からの眺めは、森である。

 

「大自然の中の小さな家でしょ?」

 

確かに…心安まる空間だと思う。ここで兄さんは静養しているんだ。

 

「ここ、温泉があるのよ♪」

 

温泉…家にあるんだ…いいなぁ。

 

「ねぇ、拠点を見に行かない?」

 

拠点って、ここじゃないの?みゃーさんは、伊月さん、ちっひーを誘い、今昇ってきた坂道を昇り始めた。10分ほど昇ると、近代的な建物が建設中であった。ここなのか。縁の本社ビルより広い建物である。

 

「1階が仕事関係、2階、3階が住居部分になるの」

 

「土地はどのくらい有るんだ?」

 

伊月さんが訊いた。

 

「右手に見える山から、左手に見える畑のヘリまでよ。先生の支援者の人が、生前譲与してくれたの」

 

大地主さんに支援者がいたんだ。兄さん、すごい…

 

「山の恵みと畑で作物を栽培して、自然を満喫する場所よ。都会から離れられない人達は、本社に残って貰って、ここで大丈夫な人だけ、こっちに移って貰うの。で、飲食店の用地は林道沿いにあるの」

 

ちっひーは目を見開いて周囲を見ていた。

 

「スゴい…正宗君…スゴいよ…」

 

ちっひーの目から涙が零れていく。

 

「ここなら、動物が飼えるんだ…」

 

ちっひーの夢、酪農をしてチーズを生産すること…ここなら叶うと思う。そこまで、考えて、ここに住んだのか?

 

「そうだよ。記憶が飛ぶ前に、ここを貰って、図面を引いていたの。記憶が飛んだのは、ここから病院へ転院してから…」

 

悲しそうなみゃーさんの顔。

 

「総てを準備し終えて、彼は文字通り消えたの…」

 

無念そうな伊月さん。

 

「まだ、消えていないよ。兄さんはいるんでしょ?」

 

みゃーさんに縋る私。

 

「そうね…記憶が戻れば…いや、戻してあげないと…」

 

遠くの山並みを見て何かを考えているみゃーさん。

 

--------

 

久しぶりに兄さんと一緒に食事をする。意外なことに、達也さんと深雪さんが、ここにいた。縁を出て行ったの…なんで?

 

「驚きましたよ。先生の支援者が俺の叔母様とは…」

 

土地を譲渡してくれたのは達也さんの叔母様だった。この敷地の隣に達也さんの継ぐ家があるそうだ。

 

「僕も驚きました。達也さん兄妹が、隣人とは」

 

兄さんは、深雪さんが眼中に無いようだ。寂しそうな表情の深雪さんが、兄さんを見つめている。

 

「京香さんに知り合いがいたとは」

 

京香さんが苦笑いをしている。知り合いとは私達のことだったから。本当に記憶が無いようだった。私のことだけでなく、京香さんのことも記憶に無いそうだ。

 

京香さんは悔やんでいた。良かれと入院させたのだが、それによって、兄さんは記憶を無くしてしまったから。

 

「先生、私は天涯孤独では無いのが、わかりましたか?」

 

「はい♪」

 

京香さんは兄さんに話を合わせた。兄さんにとって、実の叔母なのだが…

 

「あぁ、こんな時間だ。皆さん、すみません。仕事の時間なので、失礼します」

 

兄さんは立ち上がって、私達に頭を下げて、奥の部屋へと戻っていった。

 

「こんな感じよ、紗霧…」

 

兄さんがいなくなると、涙を流し始めた京香さん。

 

「深雪さんも、ちっひーも、私も分からないなんて…」

 

ものスゴくショックだ。あんなに大切にしてくれていたのに…今の兄さんの眼中には無い。

 

「どうすれば、戻ってくれるのかしら」

 

深雪さんは俯いた拳を力一杯握り絞めていた。

 

「ボク…ここで働く。いいよね、義兄さん」

 

「俺も一緒だよ、ちっひー」

 

「俺達は隣家なんで、一緒には住みませんけど、ここへは毎日顔を出します」

 

「私もここにいたい」

 

自分の心に正直になる私は叫んだ。

 

「紗霧はダメです。高校を卒業してからにしてね」

 

って、京香さん。

 

「でも…」

 

「兄さんの墓前で、あなた達二人を、無事に高校卒業させるって言ったの。でも、正宗はもう無理…せめて、紗霧だけでも卒業して。ねぇ、お願いだから」

 

京香さんが私に頭を下げた。でも…兄さんだったら、どうするか。

 

「わかりました。でも、長期休業の度に来ます。いいですよね?」

 

「うん♪」

 

京香さんが妙にかわいい…兄さんの前ではかわいい女性になろうとしているのか?少し、ライバル心が芽生えた私。

 

「で、明日はどうします?俺は、先生と山の見回りに行きますけど」

 

って、達也さん。

 

「お供して良いなら、一緒に行きます」

 

「わかりました。山を案内します。深雪も頼むぞ」

 

「はい、お兄様」

 

 

 

---司波深雪---

 

真由美さんと食器をなどを洗い、真由美さんの後に、お風呂に入った。まさか、紗霧ちゃんまで眼中に無いとは…どうすれば、いいのだろうか…

 

ガラッ!

 

全裸の彼が入って来た。

 

「あっ!ごめん、考え事をしていたから、間違えた」

 

彼は女湯から出ようとした。私は咄嗟に彼の背中に抱きついた。

 

「一緒に入りませんか?お身体を洗いますから」

 

久しぶりに感じる、彼の鼓動。背中越しではあるが、私の胸に感じる…忘れていた感触が徐々に身体に甦ってきた。

 

「でも…嫁入り前の女性と一緒はマズいよ。まして、達也さんの妹さんでは」

 

「私ではダメですか?私は魅力が無いですか?」

 

「そんなことは無いよ。綺麗な肌です。まるで透き通る肌の人魚のようだ」

 

あの作品だ。あの『セントールの恋』のモデルは私だ。

 

「ケダモノになりそうだから、やめます」

 

何を思ったのか、私は彼の唇に唇を重ねた。狼狽える彼。徐々に私の方へ身体を向けてきた。恐る恐るではあるが、私の身体に触れてきた。そう…彼の指の感触…身体が彼を求め始めた。腕で彼の背中を抱き締めた。乳房を彼の胸板に押し付けていく。下腹部に、固い物がムクムクしている感触がある。

 

彼はどうして良いか分からずに、私にされたいようにされている。私の準備は出来ている。彼の肉体に触れて、準備が出来たかを確認して、彼を私の中に招き入れた。

 

「まずいよ」

 

自分の唇で彼の口を塞ぐ。彼の感触を身体の中で確かめる。そして、自ら腰を使う。放心状態の彼の代わりに…

 

ほぼ同時に果てた。溜まっていたのか、彼の放出量は今までで最高である。刺さった状態で、漏れているし…

 

「どうでしたか?」

 

「最高な気分です。でも…僕で良いのですか?読書くらいしか出来無い男ですよ」

 

「アナタでないとダメなんです。私は、アナタに恩を返したい。失った記憶の一部なんですから」

 

「以前に会っていたのですか…すみません、覚えていなくて」

 

恐縮している彼。そんな彼の身体を洗い、彼と暖まり、寝床を共にした。お願い…戻って来て…

 

丑三つ時…彼が声を上げた。

 

「なんで、深雪が…」

 

思い出したのか?彼の表情は恐怖で歪んでいる。

 

「ダメだよ。俺に近づくな!俺はケダモノだ…深雪を壊してしまう!!」

 

頭を抱えて、部屋の隅で蹲る彼。それで、記憶を封印したのか?彼は彼自身に暗示を掛けて、記憶を閉ざしたのか?

 

「ねぇ、戻って来て下さい」

 

「ダメだ!頼むから、記憶をこじ開けるな!なっ、深雪!」

 

そこまで言うと彼から、静かな寝息が聞こえて来た。二重人格…紗霧ちゃんが言っていた。たまに、夜中に和泉マサムネになる時間があると…それが今だったのか。彼を抱き抱え、布団へ戻し、自分の寝室に戻った。朝目覚めて、私がいると、彼が混乱するだろうから。

 

------

 

翌日、彼のいない場所で、お兄様に見た現象を伝えた。

 

「そうか、彼は自分自身に暗示を掛けていたのか…幻覚剤で、みんなを壊しそうになったから」

 

「どうすれば良いですか?」

 

「徐々に暗示を解くしかないな。一気にだと、混乱をして、最悪なケースになるかもしれない」

 

徐々に…

 

「彼の現れる時間帯に、一緒にいることが大事だ。深雪、出来るか?」

 

「やってみます」

 

彼を取り戻すために、彼と対峙をする決心をした。このことは、お兄様から京香さん、真由美さん達に伝えられた。

 

 

 

---和泉紗霧---

 

収穫はあった。深雪さんが、兄さんの闇を看破したそうだ。私達だけで無く、自分にも暗示を掛けていた兄さん。戻って来る日は近いのかな。ちっひー達は、拠点が完成したら、引っ越しをするそうだ。客間を占有すると、ますいってことで。

 

「どうだった?」

 

家に帰るとエルフちゃんが、真っ先に来て、訊いた。

 

「ダメ、写真に反応しない。目の前にいる私すら、興味が無いんだもの」

 

「紗霧ちゃんにもか」

 

ムラマサちゃんが、驚いた顔で固まった。

 

「うん…ちっひーにも、深雪さんにも…そもそも京香さんのことすら、記憶に無いんだもの」

 

「私のベレー帽は?」

 

「デビュー作で書いたベレー帽にソックリだって…良く見つけたねぇって…」

 

想い出の品作戦は惨敗だった。でも、深雪さんの丑三つ時作戦なら…この作戦を皆に伝えた。

 

「深雪だけ、おいしい想いでは無いか」

 

って、詩羽さん。そうなんだよ~って、原因の一端の私が、やっちゃいけないことだし。

 

「でも、うまくいけば、みんなの正宗君が復活だよね♪」

 

って、エリさん。みんなの?私の兄さんですけど…あぁ、独占欲は捨てないと、それが原因だし。

 

「で、一番近い街まで、どのくらい?」

 

恵さんに訊かれた。

 

「車で1時間はみないと…山の中だもの」

 

都会の街並好きには無理な場所である。

 

「免許は必要だね」

 

って、恵さんはサバサバしている。コイツが一番手強い。

 

「で、高校卒業しないと、永住権が得られないみたいだよ~」

 

と、私にとっての一大事を報告した。

 

「私も転居したいです」

 

と、絵本作家のきりんりんこと切絵ちゃんが声を上げた。まぁ、作風的にはそうなるよね。

 

「私は、マサムネ君が戻ってきてから、転居したい」

 

って、ムラマサちゃん。まだ高校二年生なんですけど…

 

「私は紗霧ちゃんと休日の度に、遊びに行く派だな」

 

って、エルフちゃん。私と一緒に?まぁ、高校1年生組だものね…

 

「私は向こうが仕事のメインになるから、転居するけど、タイヘイ、ヒカリを頼めるかな?」

 

って、叶さん。

 

「わかった。いいよ。妹が二人になるのか♪」

 

って、タイヘイさん。うまるちゃんは複雑な表情ではあるけど。

 

「あぁ、転居組は狩猟免許を取って欲しいそうだ」

 

って、伊月さん。害獣対策で畑をやるにはあった方が良いそうだ。

 

「転居はしないけど、合った方が良いな。クマ鍋とかシシ鍋とか♪」

 

タイヘイさんは嬉しそうである。あっ!詩羽さんもだ…

 

「銃が撃てるんですね」

 

うみこさんが不敵に笑っている。いつの間に来たんだ?

 

「おい、リアルサバゲなんかするなよ!」

 

って、コウさん。だな、それは危険である。

 

「うん?伊月は免許取れないでしょ?」

 

みゃーさんから指摘が…あっ!

 

「あぁ、そうだな。責任能力無しだからか。免許要らずのエアガンにするか」

 

うみこさんが何かのカタログを伊月さんに手渡した。

 

「おっ!これは…殺傷力のあるエアガンのリストじゃないか。手回しがいいな♪」

 

いや、それは違法物だと思うのだけど…

 

 

兄さんの残してくれた予定に、皆が期待と夢を膨らませていた。

 

 

 

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