※この作品はR-18です。

冴えない彼氏の育てかた   作:もっち~!

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夏合宿その3 Part1*

---和泉正宗---

 

僕は悪い奴として、死ねたのだろうか…僕は新しい母さんに頼まれた。

 

「紗霧をよろしくね」

 

って…なのに、僕は紗霧の傍に居られなくなった。幻覚剤のせいにはしたくない。僕が僕の手で犯したことだ。僕は新しい母さんとの約束を守れなかった。だから、新しい母さんは父さんを連れて旅立ったのだろう。

 

 

僕は京香さんと約束を果たせなかった。和泉マサムネ名義で、作家として自立した生活基盤を作れなかった。ごめん、紗霧…京香さんの子供として、生きてくれ。

 

 

僕が母さんと買い物に行かなかったから、母さんだけ旅立ったのだろう。

 

 

そうだ。僕が悪いのだ。僕が居なければ、母さんは父さんを残して旅立たなかった。新しい母さんは父さんと共に旅立たなかった。紗霧は京香さんの子供として、不自由無く暮らせたはずだ。

 

 

僕の行き先は地獄だろう。孤独は慣れている。いや慣れないといけない。

 

 

今までの人生が走馬燈に映し出されていく。その度に、反省をし、皆に謝っていく。

 

 

 

---和泉京香---

 

病室のベッドで正宗が眠っている。譫言で私の名前を口にしている。

 

『京香さん…ごめんなさい』

 

何度も何度も…こっちが謝りたいのに…達也さんは、正宗が誰かに贖罪したいんだと言っていた。それが私らしい。今の正宗を見ていると、そう思える。正宗の願望は、悪人として死にたいだった。なんで、そんなことを考えているのよ。そんなことを考えるようにしてしまったのは、私なのかもしれないのに。

 

「ごめんね、正宗…」

 

正宗は自然呼吸で寝ている。栄養補給用の点滴以外、睡眠薬の投与で寝かされている。自殺の恐れがあるから。

 

「京香さん…兄さんは?」

 

夏合宿で、この地を訪れた紗霧。彼女だけ別行動で、病院に来た。

 

「寝ているわよ。今の正宗は寝るのが仕事なの」

 

「京香さん、食事は摂っていますか?顔色が悪いよ」

 

私を心配してくれる紗霧。

 

「大丈夫よ」

 

深雪さんが持って来てくれた差し入れを見せた。あんな目にあっても、正宗を想う彼女の気持ちは有り難い。

 

「どうすれば、兄さんは治るの?」

 

治らないとは言え無い。どうしましょう。

 

「生きたいって想える気持ちが芽生えれば…きっと」

 

私は正宗の為に生きたいと思っている。兄さんの忘れ形見で唯一の肉親だから。この子を一人には出来無い。私と一緒にいたいからって、学校まで付いて来ようとした正宗、遊びに行く私に付いて来ようとした正宗…兄さんの思い出は少ないけど、この子との思い出は沢山あるのだ。

 

中出しされた時、この子の子供を産みたいと、真剣に思った。禁じられた関係だけど、心底願った。でも叶わなかった。タブーを犯した為に、この子が罰を受けてしまったようで切ない。

 

「そうだ、これを渡しておくわ」

 

あの子が書き溜めた原稿。1日のうちで、あの子である時間は短い。その短い時間で書き上げた『勇者マサムネの冒険』の完結編を紗霧に手渡した。紗霧は最初から読まずに、結末辺りを読み始めた。

 

ようやく口説き落とした彼女との結婚式の前日、勇者マサムネは、彼女の幸せを願い、そして一人で魔王との最終決戦へ向かうところで、話は終わっている。

 

「こんなの勇者マサムネじゃないよ~」

 

そう、こんな哀しいテイストでは無かった。そして、紗霧は最初から読んでいないので、わからないだろうけど、彼女のモデルは紗霧だった。閉ざされた扉の向こうで暮らす女性。心が通じ合う者が現れないと、開かない呪いの扉で閉ざされていた。その扉を開けて、彼女にプロポーズするのであった。

 

正宗は紗霧に…一緒に暮らす為に、私という魔王の出した課題に、戦いを挑んだのだろう。自分自身を投影した作品に思えてしかたない、

 

ごめんね…正宗…課題なんか出さなければ良かった。

 

 

 

---白川京---

 

小淵沢ベースで夏合宿が開かれた。正宗君は不在ではあるが、それは昨年もそうだし。

 

「今回も作家組は1ヶ月で1作書き上げてください。共作、合作もありです。後、ここに移住するかの結論も最終日までに考えて置いてください。あぁ、高校卒業した人だけよ」

 

現状のメンバー分の部屋は用意されている。土地はまだ有るので、足り無い場合は増設も出来るとは思う。

 

「質問です。夏でここまで涼しいとなると冬は?」

 

エリさんだ。

 

「鍋が美味しいです♪」

 

その位の寒さだ。

 

「インフラはどうなんですか?」

 

なゆだ。

 

「電気、通信回線は確保しています。ガスはプロパンですが、風呂を沸かす用途での使用になります。暖房は電気と薪になります」

 

「薪?各部屋にあるの?」

 

詩羽さんだ。

 

「無いですよ。火事は恐いですからね。この1階ロビーにある、あの暖炉の排熱でのセントラルヒーティングです。暖を増設したい人は、電気での暖房、コタツとかセラミックヒーターを用意してください。尚、各部屋の容量は15Aですから」

 

エアコンは無理である。電気ケトルとか、電子機器の充電とかに回せなくなる恐れがあるから。

 

「温泉は?」

 

ムラマサ先生だ。

 

「ここには無いです。正宗君の家のお風呂に通ってください」

 

確実に湯冷めはするけど…

 

「けっこうハードな生活なのね」

 

って、エルフ先生。

 

「その代わり自然の恵みは堪能できます。スキー場は近いし、目の前の川で釣りが出来ます。秋にはまつたけ狩りもできたり」

 

「クマ対策は?」

 

恵だ。

 

「狩猟免許持ちがいますので、その方達と山へは行ってください。ここまで侵入されないように対策はしてありますが、まぁ、そんな感じです」

 

都会で交通事故に遭うより、遭遇率は低いらしい。

 

「あと、病を患っている正宗君の為、羽島兄妹は正宗君の家に入居になります。隣人である司波兄妹は通いになります」

 

正宗君の病状はみんなに知らせてある。このベースに呼び込むには、現状難しい。

 

「じゃ、とりあえず解散です。毎朝、ミーティングはしますから、寝坊しないでくださいね」

 

前日の正宗君の様子を知らせる為のものである。

 

 

 

---司波深雪---

 

真由美さんと私で住む場所を交換した。お兄様の婚約者である真由美さんには、四葉家のしきたりを覚えて欲しいから。私は正宗君の傍にいたいからだ。

 

万が一の為のエマージェンシーボタンを、ネックレスに埋め込んだ。外されたり、操作した場合、お兄様が救援に来てくれる。まぁ、伊月さん兄妹が一緒に住むので、多少はリスクも減ると思う。京香さんもいるし。

 

「私もここに住もうかな」

 

って、エリカ。紗霧ちゃんが夏合宿に誘ったそうだ。剣士のイラストに不具合があるそうで、そのモデルだそうだ。

 

「しかし、達也君が真由美さんと婚約って、驚いたよ」

 

お兄様を狙っていたエリカ。ショックかなと思ったけど、意外にサバサバしている。

 

「そうか、あぁいうボディが好みだったのか。私や深雪じゃタイプ違うもんな~」

 

違う。寧ろ、正宗君の好みかもしれない。

 

 

 

---和泉正宗---

 

僕しかいない闇の世界にいる。今までに書いた物語が流れている。結局、アニメ化された作品は無い。その程度の作家であった。もっと書きたい気がする。もっと物語が見たいきがする。もっと…目の前に小さな輝く点が見えた。徐々に大きくなっていき、僕の前身を光で包み込んでいく。

 

「正宗」

 

「兄さん」

 

「正宗君」

 

誰かに呼ばれている。誰の声だっけ?思い出せない。

 

「脳波は安定してきています。だいぶ回復はしていると思います」

 

安定?回復?何の話だろうか?

 

「寝る時は脳波計を付けてあげてください。装着方法は達也君がわかりますから」

 

脳波計?はて?

 

「目覚めたようです」

 

目覚めた?誰が?

 

「このまま。ストレッチャーに乗せましょう」

 

上に持ち上げられて降ろされた。僕はどこかに運ばれていく。死体安置所かな…

 

車に乗せられたようだ。霊柩車かな?

 

「着いたわ!」

 

「正宗君♪」

 

多数の者達の誰かを呼ぶ声。僕の名前だっけ?そうか、葬儀場に着いたのだな。それにしては、声が弾んでいる気がする。そうか!僕は悪人として死ねたのだな。だから、みんなが喜んでいるのだろう♪

 

って、棺ではなくベッドに運ばれた僕。頭に何かを装着された。腕に針が差し込まれ、尿道にはチューブがねじ込まれていく。痛い!あれ?死んでいないのか?どうして?

 

周囲を見回そうとするが、瞼が重い。う~ん、見られない。ここはどこだ?

 

数時間おきに誰かの気配を感じる。誰だ?まさか、何かの実験材料にされたのか?植物人間はいやだなぁ~。

 

数時間後、隣に柔らかい物が触れている。なんだろうか?何かの実験なのか?

 

「正宗君…ごめんね…」

 

女性の啜り泣く声。誰だ?僕の関係者か?思い出せない。う~ん…

 

「もう背負わなくていいんだよ。お兄様は真由美さんと婚約しました。だから、私の王子様になって…ねぇ、正宗君!」

 

僕に縋り付く女性。お兄様?真由美さん?いやいや、君は誰だ?

 

「そうだ♪ちょっと間抜けなポースだけど…」

 

間抜けなポーズ?どんなポーズだ…うん?微かに懐かしい香りがしてきた。何の香りだっけかな?香りの源泉に手を伸ばす。

 

「えっ!」

 

女性の驚いた声。指先にはメッシュ状の物が触れた。これって、何だっけ?う~ん…針が刺さっている為、片手しか動かない。触れた物を掴んでみた。ふわふわして気持ちが良い。あれ?中指が沈み込んでいく。

 

「ちょっと…そこはダメだよ…あっ、いい…もっとゆっくり…」

 

中指の動きに合わさって、何やら色っぽい女性の声が聞こえる。

 

「ダメっ!君はチューブが入っているんだから…」

 

女性の荒い息遣いが聞こえ始めた。

 

「もうダメ…はぁ…はぁ…」

 

指先に触れる物は無くなった。その代わり、唇に柔らかい物が重なってきた。この感触って、どこかで…僕の口の中に誰かの舌らしき物が入って来た。ソレを舐めて見る。この味って…

 

「みゅ…きー…」

 

重なった唇が上下に動く。頷いているのか?みゅーきーって誰だ?はて?記憶をフル検索していく。そうだ、深雪なら知っている…その時、感触、香り、味がフィードバックしていく。

 

「深雪…」

 

「うん♪おかえりなさい、あなた♪」

 

あなた?深雪と結婚したっけ?知恵熱が出る位に記憶をフル検索するが、そんな記憶が無い。また、記憶が飛んだのか?また?僕は記憶を飛ばしていたのか?なんで?記憶が遡って再生されて行く。

 

そうだ!めぐみんの持ち込んだスーツケースに薬物があって…それで僕の理性は吹き飛び、妄想が暴走したんだ…総てを思い出した僕の瞼は開いた。記憶を取り戻した僕に、神様が許可をくれたかの如く。

 

視力が回復せず、うっすらとした深雪のディテール。

 

「深雪…」

 

手を深雪に向けた伸ばすと、深雪の手の平が優しく抱きつき、深雪の頬に誘導してくれた。柔らかくて、滑らかで、吸い付くような深雪の肌。もっと触りたい。もっと傍にいたい。死んでいる場合では無い!

 

「もっと、深雪の香りを嗅ぎたいぃぃぃぃ~!」

 

僕は僕の要望を口に出して叫んだ…

 

 

 

---司波深雪---

 

はぁ?なんてことを叫ぶの…恥ずかしくて、耳が熱いよ~。まったく…突然のことでキャラの崩壊をしてしまった私。彼の鼻先に跨がった。

 

「そうだよ。この香りだよ…深雪!」

 

う~ん、感動な再会のはずが、間抜けな絵面になった気がする。

 

「どうしたんだよ~!へぇ~、深雪ちゃん、大胆だなぁ~♪」

 

伊月さんの声。

 

「えぇぇぇぇ~!どうしたんですか、深雪さん」

 

千尋さんが驚いている。香りを嗅ぎたいという彼の鼻先に跨がっている私。

 

「そうだよ、これが深雪の香りだよね♪」

 

で、喜んでいる彼。ド変態コンビに成り下がった気分であるけど…彼は戻って来てくれた。私の元に。私達の元へ。

 

----------

 

翌日…京香さん、お兄様、伊月さん、千尋さん、みゃーさんの前で、事の顛末を話した私と彼、正宗君。

 

「正宗…深雪さんの陰毛の香りで、正気に戻ったの?!」

 

京香さんが驚きの声を上げた。唸っているお兄様。恥ずかしいよ~、穴があったら入りたいよ~。

 

「まさか、正宗の好物がソレだったとは…想像も付かないかったぞ」

 

伊月さんですら驚きの声を上げた。

 

「もっと、深雪の香りを嗅ぎたいって思ったら、死んでいる場合じゃないって」

 

正宗君の言葉は、もっと恥ずかしく感じる。私の香りを嗅ぐために、自殺願望を捨てたと取れる発言。さすがのお兄様も苦笑いされている。

 

「まさか、正宗君もド変態だったなんて…」

 

千尋さんの声が震えている。ド変態好きって自覚したのだろうか?

 

「千尋君、それは違うよ。ド変態は伊月さんの専売特許だから。僕は単なるフェチ程度だよ」

 

いや、充分にド変態だと思います。

 

「陰毛の臭いフェチって何?」

 

みゃーさんが固まっている。京香さんは言葉すら出ない。それだけ衝撃的なドロップアウト発言だと思います。

 

「みゃーさん、臭いでなくて、香りだよ。臭(にお)いだと臭(くさ)いみたいじゃない」

 

正宗君、普通は、そこは臭いんだよ…顔が上げられず、俯いている私。耳が熱いし…

 

「で、どこまで記憶が戻ったんだ?」

 

お兄様が訊いた。

 

「めぐみんにスーツケース爆弾を食らったところまで。あれで僕は暴走したんだよね?」

 

脳波計に目を落としているお兄様。

 

「この脳波なら、もう大丈夫だろう。まさか、深雪の陰毛がキーたったとは…」

 

苦笑いしているお兄様。何度も『陰毛』って言わないでくださいよ~。恥ずかしくてしかたが無い。

 

「で、小説は書けそうか?」

 

「何を言っているんですか?僕は、没原稿製造機と言われたクズ作家ですよ。失った時間の分、量産していきますからね♪」

 

こうして、和泉マサムネ先生と朝霧沙樹先生は、ド変態というレッテルを貼られて帰って来た。

 

 

あぁ~恥ずかしいよ~

 

 

 




深雪のキャラが崩壊しましたが、救われない話から脱出しました(^^;
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