---白川京---
伊月から連絡が来た。時計の針は3時を回っている。
「どうしたの?」
「悪いが、大人組を3人ほど寄こしてくれ。戻って来ないんだよ、達也君とちっひーがさぁ~」
行方不明になった深雪さんとエリカさんを探しに行ったきり、2人が、いや4人が戻らないらしい。伊月は正宗君を監視していて動けないらしい。
私とコウさん、うみこさんで、正宗君の家に向かった。伊月の話では、醸造蔵に正宗君がいて確保したらしいので、醸造蔵に向かった。蔵の中はぬか漬けの臭いで満ちあふれていた。
「香りだけで、ご飯が食べられそうだ」
って、うみこさん。護身用のエアガンを手にしている。
「うん?物音がする。2階層目かな?」
うみこさんの索敵結果を元に2階層目に向かった。そこで見たのは、ぬか床の中で百合プレイをしているちっひーと深雪さん。どうして、こうなったの?二人ともぬか塗れである。
「おい!しっかりしろよ!」
コウさんが、二人に喝を入れた。
「あれ?」
「えっ!」
正気に戻った二人。
「何をしているのよ、ぬか床で…」
二人に訊いた。旨そうな香りに負けて、ちっひーが深雪さんを味見をして、深雪さんは正宗君と勘違いして、こうなったらしい。
「で、達也君達は?」
「ここにはいないみたいです。隣の燻蒸庫が怪しいんですが…」
と、ちっひー。隣?二人をコウさんに任せて、うみこさんと共に向かう。念には念を入れて、ガスマスクを装着して中に入っていった。
ここでも、展開されていた。きっと旨そうな香りが充満していたのだろう。達也君とエリカさんが二人で抱き合って蠢いていた。うみこさんがプレイに熱中している二人に気づかれないように、意識を刈り取り、二人を引き離した。
そして、エリカさんだけを風呂場に連れて行った。達也君は、醸造蔵に置き去りにして…
真由美さんに連絡をして、達也君は彼女に任せることにした。
---和泉正宗---
朝、目覚めると伊月さんがベッドサイドで寝ていた。どうしたんだ?僕は何かをやらかしたのであろうか?伊月さんを起こさないように、PCに向かい、日課をまず熟す。熟し終わると、みゃーさんへメールして、リビングへと向かう。
そこには疲れた表情のみゃーさん、コウ、うみこ、深雪、エリカさん、千尋君がいた。
「どうしたの?」
一瞬、ビクっとしたみんな。
「僕、何かやらかしたの?伊月さんが、つきっきりみたいだけど」
「正宗君は何もやらかしていないのよ」
って、深雪が僕に近づき抱き締めた。あれ?ぬか漬け臭がする。
「ねぇ、みんなでぬか漬けを食べたの?」
『ぬか』って言葉に反応するみんな。『ぬか』がどうしたんだ?
「ぬか床の研究をしていただけです。朝ご飯の支度を手伝ってくれますか?」
深雪にキッチンに連れ込まれ、みんなの分の食事を調理し始めた。
---白川京---
ベースに戻り、メールをチェックすると、今日も来ていた。内容に目を通していく。案の定、二人にした仕打ちが記載されていた。
「ここは、神楽坂さんに責任を取ってもらおうかな」
「なぜ、私が?」
「『混合する性』が終わらないと、犠牲者が無くならないからですよ」
自分なりに出した対策を、担当編集に伝えた。
「それで無くなるって保障は無いだろ?」
無い…
「それより、以前のように、誰かが添い寝した方が、良いのでは無いかな?」
それはある…いや、大事なことを忘れていた気がする。もしかして、目覚めて、違う環境下で一人でいて、パニくって、違う人格にスイッチしているのでは?だから、目覚めて、誰かがいる時は、正常な正宗君でいられるとしたら…私は私に閃いた事をみんなに話した。
「それは、盲点でした。そうですよね。兄さんは二年前のあの日から一昨日にタイムリープした感じですから」
って、紗霧ちゃん。
「試す価値はあるな。って、誰が添い寝する?」
みんなの視線は当然のように深雪さんに集まった。
「私ですか…う~ん…がんばってみます…」
不安そうな深雪さん。狂気的な仕打ちを一番体験しているものな。ここは、
「イヤなら、私が寝るけど、いい?」
私は立候補した。
---和泉紗霧---
兄さんと面会する日である。兄さんの住んでいる家を訪れた私、エルフちゃん、ムラマサちゃん。兄さんのいるリビングに通された。
本を読んでいる兄さん。私達をチラ見して、すぐに本に視線を戻した。その行為に、固まる私達。記憶に無いのかなぁ…
「兄さん…」
「紗霧、立ってないで、座れよ」
今、名前で呼んでくれた…嬉しくて涙が込み上げてくる。三人で兄さんの前に座った。
「で、今日はどうした?」
「兄さんの顔を見に…」
「僕はパンダか?」
苦笑いする兄さん。しかし、視線は本に向けたままである。
「体調はどうなんですか…」
「良いと思うけど…」
「ちょっと!マサムネ!なんで、私達を見ないのよ~!」
エルフちゃんがキレた。
「眩しいから…みんな、見違えるくらい成長したね」
私も、エルフちゃんも、ムラマサちゃんも耳が真っ赤になっていく。嬉しいやら、恥ずかしいやらで。
「あのな、マサムネ君。私は…高校2年になったのだよ。その…もう…出来るぞ!」
真っ赤な顔で恥ずかしいことをいうムラマサちゃん。
「ノーパンノーブラだと風邪引くよ、先輩♪」
「いや、ここは寒いのでな、付けているよ」
更に真っ赤な顔で俯くムラマサちゃん。
「兄さん、あのね。剣の持ち方とか、銃の持ち方とか、勉強したんだよ。だからね…」
「紗霧は僕の妹であればいい」
「そうじゃなくて、共同製作をしたいのよ」
「うん?子作りか?」
「いや、違うって…ラノベ主人公みたいなことは言わないでよ、兄さん!」
ドン!
テーブルを叩いてしまった。
「すまない。怒らしてしまって…」
怒ったんじゃない。私が私に我慢出来無かっただけ。記憶が飛んでいる兄さんにイラ立っただけなんだよ。
「で、あれはどうだった?」
アレ?ってなんだっけ?
「うん?京香さんは見せていないのかな?ねぇ、京香さん、見せていないの?」
あっ!まさか…『勇者マサムネの冒険 完結編』か?
「見せたのですが、最初から読んでいないから…」
「そう…最初から読んでくれなかったんだ…」
寂しそうな哀しそうな表情の兄さん。あれって、そんなに重大な作品だったの?
「ねぇ、マサムネ。どんな筋なの?」
エルフちゃんが訊いた。
「結婚相手を放りだし、他の者の元へ行く話だよ」
違う…そんな筋じゃない…でも、最初から読んでいない私は、そんなことは言え無い。
「浮気相手の元へなのか、マサムネ君!」
ムラマサちゃんが、前のめりになって訊いた。
「浮気っていうか、本気の相手だよ」
「二股なのか?!」
「そう…最後に2択をするんだよ。結婚相手と結婚式をあげるか、もう一人の元へ行き、成し遂げるか」
違う…そうじゃないでしょ?なんで、悪く言うのよ、自分の分身のことを…まさか、今も悪人として死にたいの?兄さん…
「どうした、紗霧。そんな目で睨むなよ」
だって…
「僕がいない方が、お前は逞しくなれるんだよ」
なれないよ~言葉に出せない。兄さんが私に何かを伝えようとして書いた作品を、頭から読んでいない。それは物凄い負い目である。
「あの作品は続編は書かないの?」
京香さんが訊いた。
「だって、完結編だよ。続編は出ないよ」
「結末はどうなるか、書かれていないわよ」
「それは、読み手が考える問題だから。どう捉えるかは、読み手次第だよ」
読み手次第で変わる結末…何かを仕込んだんだ、あの作品に兄さんは…それなのに…
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ベースに戻り、あの作品を頭から読み始めた。エルフちゃん、ムラマサちゃん、みゃーさんが順に読んでいく。埋め込まれたメッセージを探す。
これって…そうなのか…読み手によって変わる結末…
私以外は、好きな者には生きて欲しいから、彼が一人で魔王と最終決戦へ向かうのかと唸っていた。でも、私は、一緒に戦う為に、彼女は付いて行くと思った。式の前日も一緒にいるはずだ。私だったら、装備をして出て行く彼が何をしようとするか、わかるはずだ。だから…
私は、ベースを抜け出して、兄さんの元へ…
「どうしたんだ、紗霧?」
「はぁ…はぁ…兄さん…はぁ…はぁ…付いて行くよ。魔王の元へ一緒にね♪」
「そうか…」
「だから…高校を卒業したら…一緒になってください」
私と兄さん以外の人達が固まった気がした。でも、兄さんと私だけは、違う世界にいる気分である。
「もう、既に一緒だけど、妹だから…それを、お前は望んだんだよ」
妹の立場なんか望んだことは無い。
「私は兄さんを兄さんと思ったことは無い。正宗を…伴侶にしたいの!」
恥ずかしさをかなぐり捨て、本心をぶつけていく。
「でも、僕は扉の向こうのお前とは、心を通じ合わせることは出来無かった」
そこなのか…問題は…
「そんな…」
「でも、扉の向こうに、封印されていたのは、僕だったのかもしれない」
あっ!そういうメッセージだったの…奥が深いって。
「どの道、扉越しに心は通じ合っていないのが難点だよ」
「ネットでは通じあっていたよ。デビュー前から支え合ってきたよ」
「ふっ…それは紗霧だけだ。僕はデビュー前、あれが紗霧とは知らなかった。僕より歳上の大学生だって言ったのは紗霧だぞ!」
嘘を吐いていた。兄さんより、お姉さんの振りをしていた。それが許せないのかな…
「責任はとるわ!」
「じゃ、責任をとって、僕の妹になってください」
兄さんに頭を下げられた。妹になってって…そんな…その場で力無くしゃがみ込んだ。込み上げていた涙が一気に流れ出した。
「なんで、妹じゃないとダメなの?」
泣きながら訊いた。
「妹なら一緒にずっと居られる。妹とは離婚は無いからね。紗霧がイヤになっても一緒に居られるんだよ♪」
うん?なんか、誤解していたのかな?あぁいうことをしなければ、妹の方がオトクなのかな?兄さんは純粋に私と別れたく無い為に、妹にしておきたいようだ。
「妹なら無茶が言える。妹なら儀式を経なくても家族だし、妹なら…抱き締めてあげられる」
私は周囲の目を気にせずに、兄さんに抱きついた。兄さんの温もりを感じていく。
---和泉京香---
紗霧は正宗に抱かれ、寝てしまった。正宗が、自分のベッドに紗霧を寝かし付けて、リビングに戻ってきて、また読書を始めた。
あんな熱い紗霧は見た事がない。正宗の言いたい事も分かった。私は正宗の姉として産まれれば良かった。敵対することなく…違う、そうじゃない。読み手によって変わる結末…私にとっては、正宗は私の元に来ると読める。そうだ、魔王と戦うとは書かれていない。最終決戦が何なのかもだ。
この子…伊月さんは、正宗を天才と呼んでいる。あの物語には、分かる人にだけ分かるメッセージを埋め込んだとしたら…そうだ。正宗の願いは私と紗霧と住むことだった。だから、紗霧が後から私の元に来て欲しいってことなのか?
どう取るかは読み手の問題って…卑怯だけど、相手を思う心が無いと、読み取れないなんて…この子はケダモノでは無い、バケモノなのかもしれない。
この家で三人で住む…そんな日を待とうって思え始めた。
---司波深雪---
エサとして、みゃーさんを置いた。そして、私は正宗君と添い寝をして、朝を迎えた。隣に正宗君がいて、私のアレを嗅いでいる。みゃーさんは襲われる事無く、朝を迎えた。
「そういうことなのか」
お兄様が、みゃーさんの導き出した対処方法に頷いた。
「でも、恥ずかしいです。毎朝、嗅がれるんですよ」
お兄様は苦笑いをされている。
「う~ん、達也君と出来たのはいいが、この臭い取れないのかな?」
お兄様とエリカからは旨そうな醤油の香りが漂っている。
「身体に浸む込んでいる居るから、直ぐには消えないよ」
って、私と千尋さんからは、美味しそうなぬか漬けの臭いがするし。
「彼は敵にしたくないな」
苦笑いしているお兄様。さすがのお兄様も、彼の先読み力には勝て無かったようだ。エリカの体内に仕込まれた薬液により、身体の自由を奪われ、媚薬によりケダモノになったエリカに喰われたそうだ。
「あの…深雪さん…たまにはいいですか?」
って、千尋さんは百合に目覚めたようだな。私は違うんだけど。まったくもって恐い敵である。キバを剥いた彼は…
「このぬか漬け、美味しいですね」
一夜漬けのきゅうりを頬張るエリカ。
「隠し味はなんですか?」
なにげ無く訊いたエリカ。
「深雪さんと千尋さんのエキスですよ♪」
笑顔で答えた京香さん。あれを使ったの?
「もったいないから、使いました。だって二人共、正宗の好物ですもの♪」
さすがは正宗君の叔母様です…さすがのお兄様も、唖然としているし。