---和泉紗霧---
春休み…兄さんの元で暮らす日々…あと2回夏休みを超えて卒業すれば、兄さんとここで暮らせる。そういう約束である。
「紗霧…」
えっ…兄さんの手の平が、私の胸を掴んだ。
「大きくなったなぁ…」
う~ん…胸で成長具合を見るのはちょっと…隣には顔を強張らせてエルフちゃんがいた。エルフちゃんは、この1年、ブラサイズに変動がなかったのだ。
「マサムネ…」
少し涙声のエルフちゃん。
「エミリーはエミリーでいいんじゃないのか?背伸びするなよ」
エルフちゃんの頭を撫でる兄さん。う~ん…胸を掴まれるより、そっちの方がいいなぁ…
「あのなぁ…マサムネくん…」
真っ赤な顔で俯き気味のムラマサちゃん。
「あぁ、花ちゃん、卒業後1年間…紗霧とエミリーを頼みます」
「はい♪」
更に茹だったような顔のムラマサちゃん。どんだけ、兄さんが好きなんだ?たぶん、この3人の中で一番兄さんが好きなのは、ムラマサちゃんかもしれない。くやしいけど…私にはあんなに素直に、兄さんへ気持ちを伝えられない。う~ん、反省点だな。私ももっと素直に表現しないとダメだ。
「で、なんで、深雪さんと蘭さんがいなくて、うまるちゃんとその女なの?」
その女とは恵って言う兄さんの初恋の君である。
「あぁ、深雪さんは、お食事の準備ですよ。私と恵さんは…ほら…あれだから」
って、うまるちゃん。才色兼備なうまるちゃんであったが、料理の腕前は語ることの出来ないレベルであった。あの女は、うまるちゃんより、ちょっと知識がある程度である。
「蘭さんは、元の鞘に戻ったんだよ~」
元カレの元へ帰ったのか…蘭さんは…
「あぁ、蘭は元カレと籍を入れたそうだよ」
って、兄さん。その声からは感情が感じられない。
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兄さんが疲れたようなので、うまるちゃんとあの女に兄さんを託して、リビングルームへと向かった。そこでは、みゃーさんと伊月先生が難しい顔をして、座っていた。修羅場か?
「あっ、紗霧ちゃん…」
私達に気づいたみゃーさん。テーブルの上には企画書が置かれている。タイトルは『冴えない彼氏の育てかた』とある。詩羽先輩の書かれているタイトルである。なんで、ここに?
「いいところに来てくれた。大先生の企画書なんだけど…」
って、伊月先生が、テーブルの上にあった企画書を見せてくれた。ちなみに、大先生とは朝霧沙樹である。
「ふむふむ、冴えない男と良い女性をカップリングさせる物語なのか…詩羽先輩とは違う切り口ですね」
って、エルフちゃん。
「そうなんだよ。だけど、そのモデルがさぁ…」
モデル?キャラ設定表を見せてもらった。第一章が工藤新一、毛利蘭で第二章が伊月先生とみゃーさん…はぁい?
「これが第一章の原稿よ」
ってことは…蘭さんが元カレの元へ帰ったのが、原因なのか…で、見たことしか書けない大先生は…
「そういうことだ。俺とみゃーをカップリングさせる計画で、頭がいっぱいらしい」
とっても危険な香りである。
「伊月は元カレでも何でも無いんだけどね…」
いや、大先生のことだ。みゃーさんから、何かを感じ取ったのだろう。
「で、第一章は書籍化するんですか?」
エルフちゃんが訊いた。
「既に校正作業に廻っているそうよ。5月出版を目指しているらしいわよ」
これが出れば、もう蘭さんは、ここへは戻れないだろう。大先生は、兄さんから蘭さんを取り上げるつもりなんだろうか?
探偵オタが大事な人の存在を思い出し、取り戻そうとするクライムサスペンス調である。朝霧沙樹ぽく無い展開だ。そこにはファンタジー色は無いし。
挿絵も見開きの1箇所だけ…男女が交わっているシーンだけだ。だけど…この挿絵は危険である。引き込まれるような画角…美しい男女の塊である。私もエルフちゃんもムラサメちゃんも、その挿絵に魅入ってしまった。
「魔性の挿絵だよね。それ…抱き合う男女、それぞれが黄金比で描かれていて、顔は見えないけど、顔が想像出来てしまう…危険な絵だわ」
蘭さんの元カレの顔は知らないけど、男性の顔が浮かびあがってくる。なんだ、この絵は…
「なんか、恥ずかしい絵を見ている気分になりますよね」
って、ムラマサちゃん。男性が下、女性が上の構図で、女性の背中、お尻、うなじ、ももなど、背面しか見えていないんだけど、胸や下腹部がどうなっているのか、妄想出来てしまう。なんでだ?
「大先生の絵…不思議な力があるよね。で、第2章で私と伊月だよ…マズいって…」
当事者が目にしたら、その気にさせてしまいそうだよね。
「見なきゃいいだろ?」
と、ムラマサちゃん。
「仕事上、作家陣の書いた物は総て、目を通すことになっているのよ」
って、みゃーさん。
「俺はめぐみんと婚約中だしな…マズいと思うんだよ」
って、伊月先生。そうだった。めぐみんとまだ交際が続いていたよな。どうなるんだ、この話は?
---毛利蘭---
新一と暮らしている。以前のように、出たら出っ放しで無くなった新一。遠出の探偵趣味以外は、毎日帰ってきている。
私の中で出したことで、責任感が芽生えたようだ。恋愛に責任感って、間違っているけど、まぁ、毎日愛してくれるから良しにしている。
「蘭…これって、どういうこと?」
お母さんが、新一が留守の時に訪ねてきた。手には私の戸籍抄本の写しがあった。それに目を通すと、私は新一の妻になっていた。あの日の翌日にだ。
「あの探偵男の挙動がおかしいから、もしやって調べて見たら、案の定よ!」
新一の抱いている責任って、私を妻にしたことへの責任?
「蘭…もう、戸籍がこうなっている以上、どうにもならないけど、彼のことは一切忘れないさいね」
って…彼とは…私が壊してしまった彼のことだ。ずっと傍にいるって約束したのに…
「なんで、こうなったのかな?」
「彼の事は、私が顧問弁護士となっているから、心配しないでいい。だから、忘れなさい」
たまに思い出す…彼の無邪気な笑顔…豹変した冷酷な顔…
「無理…
「無理でもよ。そういう約束でしょ?彼の元を去った時点で、彼のことは忘れるって。もう、彼の心を壊さないで欲しい。今はどうにか穏やかな毎日を送っているのよ」
新一がコナン君や服部君を使って、彼にちょっかいを出していた。そのことで、彼の心は…彼の周囲の者の判断で、私を新一の元に返すことにしたそうだ。彼の心を刺激しないように…
彼の心は壊れていた。色々な重圧に耐えていた彼の心は、ちょっとしたことで壊れたそうだ。そんな彼の直し始めた心を、私達のせいで再び闇へ堕としてしまった。その責任で私は彼の元で、彼に尽くそうと思ったのに…新一が…
彼に隠れて、新一へ連絡を取ろうとしていた。それを彼の周囲の者に見付かり…私は、新一の元へと戻された。彼が、新一と連絡している私の姿を見ないように…
「結婚式を挙げなさいね。ケジメを付ける意味で」
お母さんは、お父さんと、新一の両親と相談すると、帰って行った。なんで、私の了承を得ずに籍を入れたのよ、新一…
---工藤新一---
結婚資金を貯める為に、学生を辞めて、探偵稼業を本業にした俺。蘭と盛大な式を挙げたい。
「ほぉ~、蘭君と身を固める決心をしたのかね」
目暮警部に訊かれた。
「えぇ、悪い虫が寄り付かないようにするには、それしか無いでしょ♪」
「いいぁ~結婚かぁ~」
高木刑事が呟いた。
「高木刑事も佐藤刑事と結婚するんでしょ?」
高木刑事に近寄り、彼の耳元で囁いた。
「それがねぇ、連絡が出来ないんだよ。異動令が出て、連絡の取れない場所にいるようでさぁ」
って…確か、あの公安調査室にいたはずだ。
「連れ戻そうか?」
「出来るのかい?」
「居場所はだいたい分かるから」
「え?そうのか?さすが名探偵だな。頼む、美和子さんと逢いたいんだよ」
って、佐藤刑事の捜索の依頼の仕事を受けた。
---白川京----
春休みが終わる頃、大先生の企画書に変化があった。私と伊月の件は第3章になり、第2章には高木刑事、佐藤刑事になっていた。職場では隠れて交際していた二人であったが、佐藤刑事に異動令が出て、職場が別々となった。連絡も思う様に取れず、逢うこともかなわなくなった高木刑事が、名探偵に佐藤刑事の捜索を依頼し、結婚へ向かうストーリーのようだ。そう言えば、最近、美和子さんを見かけていない。まさか…母屋へと向かった。
大先生に気づかれないように、母屋で聞き込みすると、美和子さんは、ここ1週間くらい姿を見ないそうだ。お仕置きされているってことも無いようだ。返却したのか?経過観察をする為に…あの大先生なら、やりかねない。
「みゃー、何をしているんだ?」
マズい…大先生に見付かった。
「いえ、点検ですよ。やらかしていないかのね」
「やらかしていないよ」
大先生に抱きつかれた。マズい…
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いつ、意識を刈り取られたのか、定かでは無い。だけど、現状を考えると、意識を刈り取られたのだろう。
伊月と濃厚なプレイをしていた。どうして、こうなったんだ?何をしたんだ?私は、伊月のアレを舐めて、大きくして、自分の中に取り込んだ。そして、自らアレを行ったり来たりする。
「みゃー…」
「伊月…」
伊月が上体を起こし、私のうなじに手を掛け、唇を重ねて来た。私は彼の口の中に、舌を送り込み、彼の舌と密会を行っていく。
---和泉紗霧---
五反野に帰る前日…短い春休みが終わりを告げそうである。次は、夏休みに来る。久しぶりにきりんりん先生、なゆ先生、おパンツ先生と交流も深め、春の訪れを告げる野草の味に舌鼓を打つなど、五反野ベースでは味わえない経験を一杯した。
「夏休みには、牧草地に仔牛とか子ヤギ、子羊を放牧できると思うよ」
って、ちっひーが嬉しそうだ。ようやく、牧草地に牧草が生い茂るようになったそうだ。牧草地から、食事を提供するドライブインのような建物の建設風景も見えている。ここでは、色々なことがゆっくりと時間を掛けて進行しているようだ。
「こっちの生活は慣れた?」
「うん♪兄さんと昔のように接することも出来るし。問題はガンプラの新作を買いに行けないことかな」
ちっひーはガンプラ作りが趣味らしい。彼女の部屋には、作り上げたガンプラが一杯飾られていた。
「まぁ、ささいなことだけどね。ネットで購入できるし」
牧草地で、土の状態などを点検して、小淵沢ベースに戻った。
「あれ?みやーさんがいない。母屋かな?」
この時間帯は、ベースにいて、各人の上がり具合をチェックしているそうだ。ちっひーは購入品リストに、購入したい物を書き込んでいく。
農作業がまだあるちっひーと別れて、母屋へと向かった。距離があるので、原付バイクで往復している。自転車では昇りが結構きついのであった。母屋とベースをミニ鉄道で結ぶ計画もあるらしいが、道の整備がまだ終わっていないので、先のことになるらしい。
母屋に辿り着くと、台所では京香さんと深雪さんが食事の準備をしていた。ムラマサちゃん、エルフちゃんも手伝っていた。私は兄さんの部屋へと向かう。
部屋の前で、ドアの横にある呼び鈴を押した。
「はい♪」
うまるちゃんが顔を覗かせた。
「今、兄さんは大丈夫?」
「大先生だけど…どうする?」
「会っていく。明日は帰る日だし」
「どうぞ♪」
明るい口調のうまるちゃんだったけど、表情は冴えない。何か問題があったようだ。部屋の中では、大先生がPCを前にして、怒濤の打ち込みをしていた。早い…なんて打鍵速度だ?兄さんより早い気がする。唸りながら打鍵している兄さんと違い、脳裏に浮かんだ情景をすかさず打鍵しているようである。
改ページする度に、プリンターから原稿が打ち出され、あの女が校正作業をしている。執筆作業中は私語厳禁であり、私語や息抜きをする場合は、大先生の休憩時以外は、隣の小部屋で行う習わしである。小部屋に向かう私とうまるちゃん。
「これ…どう思う?」
今日、打鍵した分を見せてくれた。内容を見て固まる私…伊月先生とみゃーさんの濃厚なシーンが描かれていた。その場で見てきたような、細かい表現…大先生はやらかしたのか?
「みゃーさんが、ベースにいなかったんだよ」
「そうなの?伊月先生も部屋にいないんだ。どこにいるんだろ?」
どこかの部屋に二人がいるのだろう。そこで、今も続いている愛の行為。カメラで撮影されているはずだ。
「救い出す訳にも行かないし…どうしよう」
大先生モードの兄さんは危険である。頭脳派である達也さんを上回る計画性に加え、行動力も半端無い。あの優しい兄さんと同一人物とは思えない凶暴性も持ち合わせていた。
「醸造蔵とかは?」
「深雪さんにチェックしてもらったけど、問題無いって…」
「わかった。私がチェックしてくる」
小部屋から出て、母屋の外へと出た。そうなると、離れにいる可能性がある。離れは、母屋から5分ほどの場所にある、ゲストをお泊めする為の建物である。玄関を入ると、囲炉裏のある部屋があり、ここで食事をするそうだ。その先に階段があり、1階と2階にゲストの為の部屋があり、1階の突き当たりには、掛け流しの温泉があるつくりである。
離れへバイクで移動して、中に入った。囲炉裏には火は無い。温泉をチャックすると、使った形跡がある。ここで正解のようだ。問題はどの部屋にいるかだ。部屋を見回ろうとした瞬間、ポッケに入れていたスマホが震えた。メールの着信。うまるちゃんだ。
『逃げて…大先生が…』
ここに来るのか?マズい…玄関に行き。バイクに載ろうとすると、大先生が、母屋の玄関から出て来た。マズい。見付かる。バイクを隠し、離れの裏に逃げる。