---和泉紗霧---
待望の夏休みである。うまるちゃん、深雪さん、ちっひーのおかげで、私もエルフちゃんも補習無しになった♪
みんな!ありがとう~♪
そして、恒例の夏合宿である。皆で、小淵沢ベースへ移動する。
久しぶりの兄さん…元気になったって聞いている。
「紗霧、はしゃぎすぎだぞ!」
って、ムラマサちゃん。車の中で、原稿を書いている。兄さんの新作を読み耽った結果、自分の原稿書きが間に合わなくなったようだ。だけど、あっちへ着くまでに書き上げる気満々らしい。
私とエルフちゃんは新作に挑むつもりだ。通学期間中は、補習という敵と日夜戦わないといけないので、長期休みの時に、一気に作り上げる予定である。
「牧場はどうですか?」
エルフちゃんがちっひーに訊いた。
「まだまだかな。牧草は生えたけど、冬場の分まで生産出来ないんだよ。もっと耕作地を広げないとねぇ」
って。
「今回は絵のモデルさんも呼んでいるそうですよ」
って、深雪さん。兄さんが、旅先で知り合った学生さんだそうだ。歳はムラマサちゃんと同じらしい。
「この子ですよね」
うまるちゃんが、画集の該当ページを開いた。胸が大きい…ムラマサちゃんよりも大きい。だけど形は悪くない。これが兄さんの好みか。う~ん…
「紗霧、悩んでも、胸は大きくならないぞ!」
って、ムラマサちゃん。そうだけど…
「見た目じゃなくて、中身が問題なんじゃないかな~」
って、深雪さん。そうですね。このモデルの子とはやっていないって、美和子さんが言っていたし。
「でも、体内なんか、鍛えられないですよね?」
エルフちゃんが口に出しちゃダメなことを言う。産まれ持った物である。それを弄ることは、兄さんは許さないと思う。
『紗霧は紗霧だから良いんだよ』
って、兄さんの有り難い言葉が、脳裏に浮かんだ。改造した私は、私で無くなる。そんなことを言いたいのだろう。
---七瀬美雪---
朝霧先生のモデルとして、夏休み期間、避暑地での合宿に招待された。一ちゃんの横流し騒動で迷惑を掛けてしまったので、二つ返事で、参加するとお伝えした。
車で美和子さんが迎えに来てくれた。着替えを詰めたカバンなどを車に載せて、合宿所へと車が走り出した。
「小淵沢ベースっていうのが、合宿所の名前なんですか?」
「合宿所では無いわよ。私達のお城かな」
お城?
「見た目はお城では無いわよ。でも、夢を叶える為のお城みたいな場所なの」
「美和子さんの夢って?」
「私は単純よ。大切な人の傍で暮らすこと」
朝霧先生のことかな。
「朝霧先生もそこに住まわれているのですか?」
「大先生は、大先生の家よ。麓に母屋があるの。そこに住んでいるわ」
麓?お城は山の上かな?
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小淵沢の都市部を抜け、山の方へ…
「街中から遠いんですね」
「うん?もう隣家の敷地だけど…」
車窓からは山しか見えない。
「この山から、私達の敷地よ」
え?なんかスケールがデカく無いですか?
「あの橋を渡った先よ」
橋を渡ると門があった。表札には『和泉』と掲げられている。美和子さんが何かのスイッチを押すと門が開いた。なだらかな山道が開けた。
「あそこに見えるのが、母屋よ。まず、ベースに行って、荷物を降ろそうね」
少し昇ったところに、日本家屋があった。ここに朝霧先生が住んでいるのか…山道を登っていくと、突き当たりにマンションのような建物があった。
「ここがそう。小淵沢ベースにようこそ♪」
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建物の内部は、1階の正面にデカい暖炉があり、奥には食堂と厨房で、2階から上が、各人の部屋だそうだ。
「4階の部屋になるわ」
部屋の鍵を貰い、部屋に案内していもらう。窓から見える見晴らしは最高である。部屋には机と本棚、後、ベッドとクローゼットが備え付けられていた。
「まぁ、何もない場所だから。スマホは使えるからね」
確かに電波強度は強いようだ。
「美和子さんの部屋はどこですか?」
「2階だよ。来る?」
「はい♪」
美和子さんの部屋。私の部屋とあまり変わらない。
「変わらないでしょ?あぁ、ここでの唯一の娯楽は読書だからね。地下に図書室があるから。今、案内するわ」
地下の図書室…スゴい…朝霧沙樹先生の全集がある。画集も総て揃っている。柏木エリ先生の同人誌も総てあるし。
「美雪さんは縁プロジェクトって知っている?」
「たしか、複数の作家さんの集まりですよね」
「そう。ここはその支社なんだよ。本社は五反野にあるんだけどね」
そうなんだ…そう言えば、朝霧先生の本にブランドロゴが入っていたっけ。
「だから、縁プロジェクトの作家全員の全作品が、ここに収納されているのよ」
そうか…これが夢のお城の正体なんだ。
---和泉紗霧---
漸く小淵沢ベースに着いた。車での長旅は堪えるなぁ…運転をしてくれた深雪さん、うまるちゃんは母屋へ、ちっひーは牧場へ向かった。
フロントで、部屋の鍵を貰う。フロントと言っても、今日は誰もいなかった。何時もはみゃーさんがいるけど、何か問題でも起きたのか?
共同の仕事場に向かうと、みゃーさんがいた。伊月さんがぺこぺこしている。納期落としか?
「あぁ、紗霧ちゃん、おかえりなさい♪」
「ただいま…って、伊月先生、どうしたんですか?」
「いや…完成したと思ったら、もう一か月分足り無かったんだよ~」
納期を落としましたね。
「伊月、2ヶ月分って言ったよね?新婚旅行は、いつになったら行けるのかな?」
納期がマイナス1ヶ月になるまで書き上げたら、新婚旅行へ行くらしい。
「この夏合宿期間に、頑張る!」
「秋は新婚旅行へ行かないわよ。松茸のシーズンなのよ♪」
食欲の秋だよね。
「あぁ、ここにいたのか…」
って、美和子さんと知らない女性。
「みゃーさん、紹介しておく。彼女がモデルお七瀬美雪さんです」
「七瀬です、よろしくお願いします」
「こちらこそ♪私は、ここの管理をしています。羽島京って言います。で、これが亭主の羽島伊月です」
「羽島伊月先生って…妹物の大家の?」
「まぁ…そんな時期もあったかな」
照れくさそうな伊月先生。
「後、彼女がエロマンガ先生だよ」
「そんな名前の人は知りませんが、よろしくお願いします」
と、挨拶した。
「え…こんなかわいい子なんだ…オジサンかと思っていました。ごめんなさい」
良く言われるんだな。オジサンと思われている私。なんでだ!
「後で紹介するけど、山田エルフ先生と、千寿ムラマサ先生も到着しているわ」
って、みゃーさん。窓からは、牧場で小動物と戯れるエルフちゃんとムラマサちゃんが見えた。
---司波深雪---
母屋に戻ると、正宗君が仕事をしていた。高遠さんが来てからは、彼に留守番と言う名のガードを頼むことが多くなった。
「彼を護ることが、私の役目です。遠慮無く言ってくださいね」
って、言われている。まぁ、エリカもいるし、京香さんもいるから、安心ではある。それに、高遠さんが来て下さってから、悪魔のようなアイツはなりを潜めていた。
「正宗君、ただいま♪」
「おかえり、深雪、うまるさん。家庭教師だけで無く、長距離運転させてごめんね」
「いいんです。これが私達の仕事です。正宗君は、書くことに集中してくださいね」
「うん♪」
うまるさんと私で、校正作業を始めた。だいぶ溜まっているなぁ。エリカには校正作業は無理だから。
「深雪…ちょっといい?」
「はい♪」
正宗君とお風呂場へ…全裸になり、二人で湯船に浸かった。だけど、直ぐに私の胸に身体を預けるように眠ってしまった正宗君。のぼせる前に、エリカにヘルプを出さないと危険かな?
---金田一一----
美雪が合宿へ行ったという。久しぶりに帰って来たと言うのに…どこへ行ったか、定かでは無いそうだ。なのでメールを送った。
『どこにいるんだ?』
『バイトだよ♪』
『何のバイトだ?』
『朝霧先生のモデル♪』
また、ヌードモデルなのか…
『あぁ、そうそう…婚約、おめでとう♪』
って…紅葉のことがバレている。どこからだ?自分の家に帰ると、その紅葉がいた。
「おかえりなさい、あなた♪」
って…
---七瀬美雪---
まったく一ちゃんと来たら…旅先で一目惚れしての婚約だと、一ちゃんのお母さんに自慢された。訊けば、相手は、関西ではトップクラスのお金持ちのご令嬢だと言う。どうせ、私は庶民の娘ですよ!まったく、もぉ~!
「どうしたの?彼氏?」
美和子さんに訊かれた。
「違いますよ。婚約したって自慢をするヤツです」
「そう…今夜は何かな?あぁ、紹介するは、彼女はモデルの七瀬美雪さん。で、ここの厨房と牧場を担当している羽島千尋さん」
「羽島千尋です。よろしくお願いします」
「こちらこそ。って、羽島先生の妹さん?」
「そうです。兄には会いましたか?」
「えぇ」
「みゃ~に、絞られている場面だったよ」
「そうですか。納期を落としたからね。で、今夜は鍋にしますか?シシ鍋とクマ鍋だと、どっちが良いですか?」
って、言われても…
「両方、食べた事が無いです」
「では、クセのないシシ鍋にします♪」
「ムラマサ先生、エルフ先生、手伝って下さい」
「わかった」
「了解♪」
え?千寿ムラマサって、オジサンでなかったんだ…こんな可愛い女性だったとは…
「あっ!ムラマサちゃんもオッサンだと思っていたんでしょ?」
って、エロマンガ先生に突っ込まれた。
「その通りです…エルフ先生はイメージ通りだったけど…」
「あぁ、そうだ。地下3階に温泉が出来たから」
って、美和子さん。地下3階?そんな深くに…
「待望の温泉ですか。これで母屋へ行かないでもいいんですね」
訊けば、今までは母屋にしか無かったそうだ。だけど、地下へ施設を増設していたら、地下3階で温泉が出たそうだ。
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夕食…食堂に囲炉裏があり、そこでみんなで鍋を突っつく。
「おいしいです」
初めてのシシ鍋…美味しかった。
「肉の熟成庫があって、熟成させているんです」
千尋さんことちっひーが説明をしてくれている。ここでは、本名呼びを嫌う人が、多いらしい。一人だけペンネーム呼び嫌いもいたけど。
「このハムも美味しい」
「それはシカのハムです」
って、野生の動物を狩っているらしい。クマ、シカ、イノシシは定番だとか。
「猿なんかも狩るんですけど、それは犬達のエサです。犬達に猿はエサだって覚えてもらうんです」
牧場の小動物や、畑を荒らされるのを防止する為に、犬を放し飼いにしているらしい。後、ここの住民はほぼ全員狩猟免許を持っているそうだ。
「無いと不便だからね。普段から狩らないと、クマとかが出やすくなるんだよ」
って、京さんこと、みゃーさん。
「まぁ、気にいったら、ここで一緒に暮らすのも手だよ」
って、みゃーさん。都会には無い物が沢山ありそうだけど、都会になれている私では、都会から離れることが出来るかが心配である。
「まぁ、都会から離れられないメンバーもいるけど」
柏木エリ先生、霞詩子先生がそうらしい。
「まだ、紹介しきれていないけど、今、ここにいないのは、缶詰状態の作家さんだよ」
可児那由多先生、きりんりん先生、三国山 蚕先生がまだ、部屋から出て来ないらしい。
「まぁ、締め切り落としても、のうのうと飯を食っている伊月先生のような、強心臓持ちもいますけどね」
って、みゃーさん。固まっている伊月先生。なんか、楽しそうだ。
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食後は、図書室で読書である。私の目の前で画集を開いて、唸っているムラマサ先生、エルフ先生。開いているページは、私のヌード画では無いですか。本物と見比べているようだ。恥ずかしいなぁ。
「なるほど…」
「何がなるほどなんですか?」
「私達は絵のモデルにされたことが無いんだよ。違いを見ていたんだけど、この絵のような表情をしたことが無いかなって」
私も無いんだけど…表情は先生の妄想だけど…でも、確かにそういう表情をするかも知れない。モデルの仕事…なんかドキドキしてきたなぁ…