あの海女の小屋は満員お礼で、目当てのトン汁は昼間に完売したらしい。
「明日、リベンジだな」
「うんうん」
飲兵衛組が、そういう結論に達したので、近くの宿へ泊まることになった。だけど、紅葉シーズン前の秋だというのに、民宿は満員で、少し遠くにあるホテルにチェックインした。
温泉を満喫し、夕食…当然のように宴会を始める飲兵衛組。主に、伊月さん、みゃーさん、エリさん、詩羽先輩、コウ、うみこ、りん、そして、神楽坂さん…
飲まない組、飲めない組は、飲兵衛組から離れて宴会。巻き込まれると、大変だから。特にりんと神楽坂さんは、酔うほどに…
「ねぇ、ちょっといい?」
詩羽先輩に連れ出された俺。いつもの威厳有る先輩の姿では無く、どこかしおらしく感じる。連れ出された先は、バーラウンジだった。カウンターに並んで座る。
シェーカーを振る音が、BGMに感じる、なんか良い空間である。
「何か、飲む?」
「ジンジャーエールで」
「じゃ、私はモスコーミュールで」
バーテンダーが頷き、しばらくすると、俺と詩羽先輩の前に、飲み物が置かれた。乾杯をして、一口飲むと、
「ねぇ、訊いた?」
って、切り出してきた詩羽先輩。
「何をですか?」
「恵のことよ」
そういえば、最近会っていない気がする。今、里帰り中だっけ…記憶が少し曖昧だけど。
「いえ…何かありましたか?」
「結婚するらしいよ…出来ちゃった結婚…」
相手は、恵の高校の時の同級生だという。
「相手の男…安芸倫也って言うんだけど、アイツの両親が子宝に喜んでね、恵の両親を説得したそうだよ」
それは、恵の意志に関わらず、結婚決定になったってことらしい。
「幸せになれそうですか?」
「ならないだろうな。恵は、正宗君のことを、今でも…」
「俺では無理ですよ。浦島太郎に近いんですから」
自分の知らない間に、成人していた俺。まだ、高校生気分である。だけど…俺の知らない間に、みんなに沢山の迷惑を掛けたようだ。
「ねぇ、恵の代わりになれるかな?」
「はい?」
詩羽先輩の言葉の意味を理解し損ねた俺。
「いきなりは無理よね。接点が希薄だったし。私は五反野ベースが基本だったから」
俺は小淵沢ベース主体だった。入退院を繰り返す為に。
◇
珍しく、詩羽先輩が酔いつぶれた。カクテル1杯でだ。彼女を背負い、彼女の部屋へ行き、彼女をベッドに寝かし付けた。部屋を出ようとする俺の腕を掴んでいる詩羽先輩。
「お願い…今夜は一緒にいて…」
俺は彼女に引き寄せられて、彼女の上に載った。彼女の胸の谷間に鼻先を入れ、臭いを嗅ぐ。
「ねぇ、好きしていいわよ。私の失恋記念日だし」
え!詩羽先輩のような素敵な女性でも失恋をするのか…
「相手は、どんな方だったんですか?」
「そうねぇ…正宗君とは正反対かな。自己顕示欲と独占欲が強くて、去る者を追い詰めるタイプ。興味が無くなれば、見向きもしない。自己陶酔タイプで、離れようとすると、甘い言葉で引き寄せる策士よ」
う~ん…作品に出来そうな設定である。そんな勇者もありか?
「俺は去る者を追えない愚か者かな」
「そんな事無いよ。君がいなかったら、私は小説家を止めていた。エリもマンガ家を止めていたかもしれない。私達の自由に創作させてくれた。感謝ばかりよ。自信を持ちなさいね」
まだ、たまにボンヤリしてしまう。気づいたら、俺も詩羽先輩も全裸で抱き合っていた。
「いいよ。出しても」
って、言われても、そういう気分では無い。失恋で弱っている女性に出来ないかな。って、俺の身体は正直な反応をしている。詩羽先輩のテクニックを前にして、元気いっぱいになっている。それを詩羽先輩が肉体へと吸い込んでいく。
「実はねぇ、恵の相手…私とも付き合っていた。何度も離れようとしたのよ。だけど、その度に甘い言葉で惑わして…その挙げ句がこれ。恵と一緒になっても今まで通りだって。バカにしているわよね」
俺の上に載っている詩羽先輩の腰が力強く、ゆっくりと蠢いてきた。
「今まで通り、彼の会いたい時に呼び出されて…もう、うんざり。だから、私も小淵沢へ移転する。いいでしょ?」
頷く俺。ベースをどっちにするかは、それぞれに任せている。否定はしない。拒否もしない。それぞれの意志決定に任せている。
「恵…可哀想に。結婚してもアイツに振り回されるんだろうな」
何かの映画みたいに、結婚式に乱入して花嫁と逃げる…そんな気力が湧かない俺。恵への想いはその程度だったのか。
◇
翌朝…朝帰りで自分の部屋に戻った。詩羽先輩に聞いた話をノートに書き残しておく。欲塗れの勇者…俺の作品に今までいなかったタイプだ。これをネタにして、プロットを書き上げていく。
うたた寝をしてしまったようだ。気が付くと、紗霧、花ちゃん、エルフがいて、俺の書き上げたプロットを回し読みしていた。
「起きたのか。こんな所まで来て、仕事か?」
って、花ちゃん。
「アイデアが舞い降りたから、一気にプロットを書き上げようと…寝ちゃったようだな」
「兄さん、ほぼ書き上がっているよ。後、エンディングをどうするかだね」
って紗霧。エンディングか…どうするかな?詩羽先輩の気持ちを代弁するなら、ハーレムにいる女性陣の反撃に遭い…それだとつまらないか。まぁ、売れないラノベ作家らしい結末かな。