---加藤恵---
何でもこんなことに…安芸君に盛られて…抱かれて…妊娠、そして、責任を取るという名の結婚へ…ムネ君に会いたい。でも、私は自力で動けない。四肢に麻痺がまだ残っていた。
「恵、新居へいよいよ引っ越しだな。彼は、お前を一生、面倒みてくれるそうだぞ」
って、嬉しそうな父。障害のある娘の介護から介抱される喜びが顔に現れている。そもそも、この障害は安芸君のせいなのに…親同士の話し合いで、示談が成立したらしい。
式は身内だけでひっそりと行われた。車椅子に載る花嫁…それが私だった。
こんなはずじゃなかった。ムネ君の傍で彼の仕事をアシストしていたかった。彼は、今、大丈夫な状態だろうか?心配である。
そして、新居への引っ越し…寝台車で移送される私。どこへ連れて行かれるのだろうか?新居ってどこ?この車には安芸君は乗っていない。どうして?
運び込まれたのは、病室のような部屋。ベッドが1つあるだけの部屋。窓すら無い。ここはどこよ?口元にマスクを付けられると、意識が遠くへと旅立って行った。
---安芸倫也---
詩羽先輩の消息が掴めない。どこへ行ったんだ?恵との結婚式に招待したのだが、返事すら戻って来ない。誰かに、洗脳されたのか?また、あの探偵を雇い、消息を探して貰い始めた。
「倫也、新居に帰らないでいいの?」
母親が訊いてきた。
「新居?何のことだ?俺の家はここだけど…」
ラノベ小説とフィギュアに囲まれた部屋。最高である。
「恵さんとの新居よ」
「あぁ、恵は体調が優れないから、入院させた。その入院費が掛かるから、新居のアパートは引き払ったよ」
高額医療の申請はしてあるので、アパートの家賃よりも安くあがっている。
「訊いていないわよ。どこの病院?恵さんの両親が新居に行きたいって」
「そういえば、コーディネーターから、病院名を訊いていなかったなぁ。後で訊いておくよ」
ネットで、出来ちゃった子だけ欲しい場合のコーディネーターを見つけ、そこに依頼してある。次は詩羽先輩との子供だな。夢は更に広がっていく。
---加藤恵---
たまに意識が覚醒する。だけど、誰も見舞いに来た形跡は無い。点滴パックは交換されているので、病院のスタッフは来ているようだけど…ここはどこの病院だろうか?
見る夢はムネ君との想い出ばかりが、リプレイしている。あの頃に戻りたい。どうして、こんな目に…安芸君の元を強引に去ったから?そんな理不尽な…
ベッドから起き上がれない。起き上がろうとすると、白衣を着た人達が来て、マスクで口と鼻を覆い、私の意識を狩っていく。
そう言えば、なんで全裸でベッドに置かれているのだ?入院着は無いのかな?ここでの経験をムネ君の話したい。きっと、ネタの助けになりそうである。問題は、どうやって、ムネ君に会うかだ。時間はタップリあるのだが、行動の制限がきつい。こうして、考えることしか出来ないなんて…
---安芸倫也---
ようやく、出産コーディネーターと連絡が取れた。恵の所在を訊くと、遠い場所にいると言う。あれ?国内じゃないのか?
「遠い場所って?」
「人件費の安い海外ですよ。あぁ、産まれた子供は日本国籍にして、お渡ししますから、安心してください」
って…あれ?国内有名病院と提携って謳っていただろ?
「国内じゃないのか?」
「大丈夫です。母体の管理は、万全です」
「見舞いに行きたいのだが」
「それは無理ですよ。企業秘密です」
何?
「退院予定は?」
「後半年ほどでお子様は、お渡し出来るのでは?」
子供は?では恵は?
「母体は?」
「契約の通りです。調教の後に、売り払いますよ。死体が無ければ、事件にはなりませんからね」
はぁ?訊いていないぞ…俺は選択ミスをしたことに気づいた。そこは犯罪サイトのようだった。
『子宝が欲しいが、障害のある女性の介護はイヤ』と、依頼内容に書いた俺。つまりは、そういうことのようだ。
どうするよ…俺…再度連絡をすると、『この電話番号は、現在使われておりません』とアナウンスが繰り返された。
頭の中がマッしろになった俺は、俺の両親に事の詳細を伝えた。
「お前…何てことをしたんだ?恵さんを一生面倒見るんじゃないのか?」
「俺は詩羽先輩の方が良かったんだよ。それを、お前らが子宝が欲しいからって…俺の意志を尊重しないからだ」
勝手に恵との結婚話を進めた両親。俺の意志を確認せずに…なんて身勝手なんだ、俺の両親は…翌日、こっそりと恵との離婚届けを提出した俺。これで、自由な身だ♪