意識が覚醒していく。部屋が明るい。空気も澄んでいる。誰かが、私の手を握り絞めている。横を見ると椅子に座って、私を見つめているムネ君がいた。
「もう大丈夫だよ」
って…私の悪夢は終わったのか?
「ここは?」
「小淵沢の病院…高遠さんが、恵を見つけて来てくれたんだ」
高遠さんって、ムネ君の従者になった方だ。裏の世界に精通したアシスタントだと、以前、紹介されたことがある。
「子供は?」
「いないよ」
「いないって?」
「想像妊娠じゃないの?」
そんなオチなのか…確かに、お腹は膨らんでいない。あれ?
「でも…残念なお知らせがある。恵はもう子供を産めないらしいよ」
ムネ君の表情が曇っていく。ダメ…闇に染まったら…
「ムネ君…君の傍にいられれば、出産なんか些細な問題だよ。だから、気に病まないでいいから…」
つまりは、流産したのだろう。助け出される過程のアクシデントか?
「恵が見付かって、恵を診断した結果、事件性があると判断されてね、恵の元夫が指名手配されたんだ」
元夫?離婚したのか?安芸君…で、ジャマになって、あんな場所に…
「彼が離婚届けを提出したようだよ」
淡々と話しているムネ君。感情を押し殺しているのか?それとも無感情なのか?
「ねぇ、ムネ君は大丈夫なの?」
「僕?大丈夫だよ…たぶん…」
たぶん?まさか、ムネ君も何かやらかしたのか?
「記憶が曖昧な時があるんだ。だから、自信は無いんだよ」
再発したのか?私のせいで…
「でも、大丈夫みたいだよ。達也さんも深雪も優しいから」
何かあると、あの二人は険しい顔をされるからな。なら、大丈夫か?
◇
翌日、詩羽さんとエリリンが、お見舞いに来てくれた。入院ってこういう物だよな。
「倫也が行方をくらましたそうだよ。まったく、アイツは…」
私と離婚をして、詩羽さんとの復縁をしようとしていたようだ。
「倫理君は倫理君の世界感で生きているからねぇ。あれは、死んでも治らないだろう」
って、詩羽さん。そうかもしれない。自分は正義で、ムネ君は悪だと決めつけていた。私のムネ君を想う心は、洗脳の賜り物と決めつけていた。そして、安芸君と結婚することは、私を解放する為に必要だとも。
なのに、離婚?有り得ないだろ?私の意志を無視した結婚の先に、どんな救いがあると言うのだろうか?
「聞いたわ。もうダメだってね」
エリリンと詩羽さんの表情が歪む。もう出来ないってことだね。
「いいの。ムネ君の傍で、サポート出来れば。それが私の望みであり、願いだから」
「正宗君には、伝えたのか?」
「伝えたけど…少し心配だよ。詩羽さん、エリリン、ムネ君の心のケアをお願い…」
まだ四肢の麻痺が改善されない私には、ムネ君のケアが出来ない。もどかしいなぁ。