---和泉正宗---
新たな問題が生じて、高遠さんへ相談した。暫くすると、適任者が来てくれた。
「正宗君、どうしたの?蘭達には、内緒でって」
蘭の母親である妃弁護士が、ようやく来てくれた。依頼内容を伝えると、
「で、養子縁組をすれば良いのかな?」
「本人は俺の妹が良いって、言うんですが、俺には両親がいませんから…」
初夏を感じる頃、あゆが目覚めた。医師が彼女に起きたことを説明した結果、あゆには身寄りがない事実を、知らされたのだった。そんなあゆと俺の目が合うや、俺の妹になりたいと言い出して…見た目は高校生であるが、中身は小学生である。お互いに、時間ロストの経験者…何かの縁を感じて…俺は決心した。
「結婚前に大きな娘が出来るのね。それは蘭達には言えないわね」
呆れながらも、笑顔で接してくれている妃弁護士。
「まぁ、らしいと言えば、正宗君らしいわね。困っている女性には、手を差し伸べるなんて…君が変わっていなくて、嬉しいわ」
俺が俺で無い時に、迷惑を掛けたのだろうな。何をしたのかは、訊いても、教えてはくれないけど。
「わかったわ。朝霧先生のご依頼は受けます。顧問料を毎年頂いていますしね」
「蘭には、どう言えばいいでしょうか?」
当面の問題を訊いてみた。
「うん?蘭よりも紗霧ちゃんにでしょ?蘭はわかってくれると思いますよ。だって、私の娘ですから」
まぁ、誰と結婚するとしても、大きな娘はネックだな。結婚しないって選択肢もあるけど。
「お兄ちゃんじゃなくて、お父さん?」
今までの会話を聞いていたあゆが戸惑っている。
「兄でいいよ。あくまでも、戸籍の問題だから」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
俺に抱きつくあゆ。身体は大人のあゆ。胸の感触が…ましてノーブラだし。う~ん…ブラを付けて貰いたい。
「後ですね。長い間眠っている間に、成長していて…女性としての嗜みを、あゆに教えてあげてくれませんか?」
一番困っている問題は、生理用品である。男の俺には、さっぱりわからない。
「いいですよ。あゆちゃん、しばらく一緒にいて、教えますからね」
「はい、お願いします…えぇ~っと、なんとお呼びすれば良いですか?」
「お母さんでもいいわよ」
「はい、お母さん♪」
妃弁護士的には、新しい娘が出来た感じで、嬉しいようだ。
---毛利蘭----
衝撃的な事実が母からもたらされた。正宗君に娘が出来たと言う。誰との子供?失踪中に知り合った女性と出来ちゃったのかな?
『蘭、聞いている?ねぇ』
通話口から聞こえる母の声は、嬉しそうである。何故…娘である私の想い人に、子供が出て来たって、私にとって由々しき事態なのに。
「聞いています。で、子供の母親はどんな女性なの?」
『聞いていないの?子供の母親はいないのよ。身寄りのない少女を、彼の戸籍に入れたのよ』
うん?子供の母親はいない?身寄りの無い少女?
「どういうこと?ねぇ、お母さん!」
事情をしっかりと聞く私。はぁ?子供は16歳…正宗君は未婚で、高校生の娘がいることになるの??まだ20代前半なのに…
『だから、違うって…彼女は6年間意識が戻らなかったのよ。だから、彼女的にはまだ小学生なの。理解した?』
え…16歳で小学生…有り得ない。それを受け入れてしまう正宗君もスゴいけど。まぁ、新一というか、コナン君がそうだったな。見た目は子供で、中身は私と同い年だった。それの逆かぁ。
『正宗君の娘ってことは、私の孫みたいな者だし』
とっても嬉しそうな母。それは、そういうこと?耳が一気に熱くなっていく。
『で、まだ、みんなには言わないでね。正宗君は紗霧ちゃんにどう説明しようか、悩んでいるから』
悩んでいる?マズいんじゃないのか?精神ストレスは…
「私だけ、正宗君の元へ行くわ」
『蘭!抜け駆けはダメよ。それに、私がいるから大丈夫よ。じゃ、ねぇ~♪』
とっても嬉しそうに報告して通話を切った母。ズルい…でも、聞いた以上は、誰かに相談しないとダメだな。心配だもの。
---司波深雪---
蘭さんから、情報が入った。それは、驚愕な事実であった。正宗君に娘が出来たって…はぁい?その情報は、私と一緒にいる美和子さんの耳にも届いた。
「女連れで逃げているの?」
「まさか、子供が出来て、紗霧ちゃんに言えないから、逃げているのかな?」
蘭さんに彼の居場所を訊いたのだが、不明らしい。ただ、彼女の母親である妃弁護士が絡んでいるそうだ。今後のことを相談しているのかな?でもこれは、彼を見つけるチャンスでもある。身重な女性と一緒であるならば、移動は容易ではないから、どこかに長逗留しているのか?
手がかりを得た美和子さんの動きは速かった。妃弁護士のスケジュールを調べて、北海道にいるとわかった。滞在期間は2週間から1ヶ月と、長い。今後の相談をしているのか?まさか、相手は妃弁護士なのか?その場合、子供は蘭さんになるが…う~ん…
そして、私達も北海道へと向かった。
---和泉正宗---
深雪と美和子が、俺の事を嗅ぎ廻っていた。蘭母さんが蘭に話し、そこから情報を得たのだろう。そうなると、紗霧も知っているのか。マズいなぁ…俺の口から、まず説明と思ったのだけど…
「蘭が情報を漏らしたの?あの子、何をしているの…」
蘭母さんが、怒りを纏った。
「じゃ、私が彼女達を撒くわ。あゆちゃんは、もう大丈夫よ」
大人の女性としての所作を、あゆが覚えたようだ。蘭母さんの案を受け入れて、俺はあゆと北海道を脱出した。紗霧に会わないとダメだな。あぁ~、どう説明しよう。
---和泉正宗---
東京駅で千尋さんと合流した。
「高遠さんから聞きました」
高遠さんが言うには、まだ紗霧に会わない方が良いと言う。そこで、その後の移動の手配を、高遠さんが手配してくれ、千尋さんに託したそうだ。
「羽島千尋です。よろしくね、あゆちゃん」
「月宮…じゃなくて、和泉あゆです。よろしくお願いします」
あゆがぺこりと頭を下げた。
3人での逃避行…行き着いた先は、エミリーの別荘だった。
「ここなら、夏合宿までバレないと思います」
って、千尋さん。
「おぉ~!来た来た」
って、別荘から詩羽先輩と、英里さんが出て来た。
「月…じゃなくて、和泉あゆです。よろしくお願いします」
と、二人の姉枠へ挨拶するあゆ。
「ここで、勉強を教えるわよ」
詩羽先輩は、自身が使っていたという、小学校から高校までの教科書、ノート、参考書を持って来てくれていた。
「お願いします」
あゆの表情は嬉しそうで良かった。実際問題、この先、あゆは学校へ通えないと思うし。見た目が高校生で小学校は無理だし、見た目が大人で中学校も無理な気がしたから、詩羽先輩達の心遣いに感謝である。
「あぁ、この件は、ネタに使わしてもらうわよ」
って、詩羽先輩と英里さん。20歳で高校生の娘を持つ父親となった、冴えない彼氏との騒動記を書かれるそうだ。そのくらいなら、喜んでモデルになるかな。
---和泉紗霧---
蘭さんのお母さんが、深雪さん、美和子さんと共に、うちに見えた。私とエルフちゃん、ムラマサちゃんを前にして、お話があるそうだ。なんだろうか?ドキドキである。
「特に、紗霧ちゃんへの報告です」
私に…兄さんのことだよな。なんだろうか。
「正宗君の所在は掴めています。ただ、ちょっと問題があり、隔離した場所にいます」
問題?また、何かやらかしたのかな?
「問題って?マサムネ君は、何をやらかしたんですか?」
ムラマサちゃんは、兄さんがやらかしたことを前提で訊いた。
「正宗君に、子供が出来ました」
はぁ?!子供?誰の子供?逃避行の原因って、それ?頭の中がマッ白になっていく。
「ねぇ、紗霧!大丈夫?」
エルフちゃんの声…一瞬、意識が飛んだのか、エルフちゃんが抱きつき、ムラマサちゃんが介抱してくれていた。
「で、子供の母親は、どこの女性ですか?」
気丈にムラマサちゃんが応対してくれている。
「いない。子供の母親はいないわ。身寄りのない少女を養女にしたのよ。彼女の望みは、正宗君の妹だったけど、正宗君にはもうご両親がいないから、彼の戸籍に引き取った形なのよ。だから、実質は、正宗君の妹枠であるからね、紗霧ちゃん」
私に妹が出来たのか…嬉しいやら、複雑である。
「問題は、そこじゃ無いの」
苦笑いしている、蘭さんのお母さん。そこじゃ無い?これって、大問題であるのだけど…
「問題なのは、彼女の年齢なの…戸籍上の年齢は16歳なのよ…ははは」
は?16歳の妹?いや、兄さん的には16歳の娘?ラノベよりも斜め上では無いのか?
「戸籍上はって?」
ムラマサちゃんが訊いてくれた。混乱している私には、質問すべき箇所すらわからないから、助かる。
「事故にあって、植物状態だったの。正宗君が、彼女を毎日見舞い、言葉を掛け続けたけた結果、6年振りに意識を取り戻して…だから、彼女の実際の年齢は、まだ小学生ってこと」
戸籍上は16歳で、実際は小学生…それでも、20代前半の兄の娘としては、年齢がでかすぎないか?
「う~ん…そうなると、今後、マサムネ君と結婚すると、もれなく大きな娘も付いてくるってことですか?」
顔色の優れないムラマサちゃんの問いに頷く、蘭さんのお母さん。私にとっても、由々しき問題…ほぼ、同年齢の娘がいるって、脅威である。どう接すれば良いのだろうか。兄さんとの接し方もわからないのに…
---和泉正宗---
詩羽先輩の新作『冴えない彼氏シリーズ 彼の娘が大きすぎる件』は大反響らしい。
「有り得ないって感想が多いわ。事実ってラノベよりも奇よね」
って、嬉しそうに、次話を書いている詩羽先輩。ほぼ、リアルタイムで、コミック化している英里さんも楽しそうだ。
「モデルが目の前にいると、ペンが進むなぁ♪」
あゆは、千尋さんの作ったたい焼きを美味しそうに食べている。
「これが、正宗君が見た、あゆちゃんの生き霊なの?」
スケッチブックに描いた、美味しそうにたい焼きをパクつくあゆを見ている千尋さん。
「こっちの少女は?」
アイスを大人食いしている少女を指指す、詩羽先輩。
「難病で、夏を迎えられないって、宣言されて、アイスを心行くまで食べていたそうですよ。その後、足長おじさんの寄付で、手術を受けて、夏を迎えられるそうです」
あゆの寄付のついてに、その少女の寄付もしてくれた高遠さん。寄付控除になるから、税金対策だって言うので、おまかせした俺。
---羽島京---
う~ん…あの大先生は、色々やらかしていた。取材の電話が多い。北海道で、二人の少女へ多大な寄付をしたらしい。名前を明かさないでくれって頼んだらしいのだが、名前が漏れて、いい話になっているし。
あと、あの『幻の女』のモデルになったっていう少女が、入社した。大先生のデッサンと見比べて、本人確認出来たのだが、かなり優秀な人材であった。
「もっと良い企業に入れそうだけど、いいの?」
って、確認したのだけど、
「えぇ、彼のおかげで、私は今ここに生きていますから」
って、嬉しそうに語る彼女。失恋の末に北の海へ向かい、お決まりのコースに嵌まるところを、大先生と出会い、生きて行こうと思ったそうだ。あの大先生は、本当に予想外な行動が多すぎる。
あの北の大地で、大先生の寄付により、助かった少女の姉も入社をした。
「妹が助かったのは、朝霧先生のおかげです。ですから、先生のお役に立ちたいんです」
って、締め切り破り作家が多い、過酷な職場に飛び込んでくれた。新人が2名も増え、恵さんの職場復帰も近いし、事務方の戦力は増えてきている。作家陣は、ムラマサ先生が専業作家になったくらいの変化だが、大先生の動きが今後、どうなるかだな。
こうして、今年も夏合宿の季節へと向かって行く。