※この作品はR-18です。

冴えない彼氏の育てかた   作:もっち~!

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扉の向こう側

---和泉紗霧---

 

後悔と懺悔をしまくった夏合宿が終わり、卒業式まで、時はあっと言う間に過ぎていった。夏合宿以来、兄さんと会っていない。子育てが忙しいらしい。子育てという新たな仕事を得た兄さんは、その後闇に染まることは無くなったそうだ。

 

私は兄さんに、何か恩恵を与えられるだろうか?

 

引っ越しの準備をしながら、そんなことを考えてしまう。私とエルフちゃんの卒業を以て、この地から全員が小淵沢へ居を移すことになっている。

 

「紗霧、準備は進んでいる?」

 

エルフちゃんが、部屋に入って来た。

 

「うん…」

 

「また、泣いていたの?過去のことを悔やんでも、無駄よ。前を見なさいよ」

 

そうなんだけど…あの日に戻りたい。母さんと新しい父さんがいなくなった、あの日に…

 

あの日以来、兄として、家族として、私に接してくれた兄さん。扉の向こうにある世界に閉じこもっていた私に、毎日気を使っていてくれた。毎日、私のわがままを、嫌な顔せずに叶えてくれた。なのに…私は…

 

「紗霧、心を切り替えろ!」

 

ムラマサちゃんの言いたいこともわかる。でもねぇ、でも…あの日に戻れるなら、あゆのように素直に、兄さんに甘える日々を送り直したい。

 

◇

 

そして、卒業式の日…

 

コンコン!

 

ドアがノックされた。誰だ?エルフちゃんかな?ドアを少し開けて、様子を見ようとすると、

 

ガチャ!

 

ドアが全開開かれ、

 

「お母さん、卒業おめでとうございます」

 

って、あゆが私に猛タックルをして、押し倒した。お母さん?はい?

 

「あゆ、紗霧が驚いているぞ」

 

「うん?あぁ、ごめんなさい」

 

満面の笑顔のあゆ。何が起きたんだ?あゆが起こしてくれ、兄さんが1枚に紙キレを見せてくれた。婚姻届のコピーである。

 

「今日の0時に、小淵沢の役場に提出してきた」

 

…はぁ?

 

「ど、ど、ど、どういうこと?」

 

あゆが笑顔で1枚の紙キレを見せてくれた。戸籍謄本の写しである。あっ!私…

 

「ホラ、卒業式だろ?早く準備をしろよ、紗霧」

 

兄さんとあゆが部屋を出て行った。制服に着替えないと…着替え終わり、階下へ下りていくと、食卓にはあゆが座っており、二人分のオムライスが置いてあった。

 

食卓に座ると

 

「いただけま~す」

 

と、あゆが声を上げて、食べ始めた。

 

「う~ん、お父さんのオムライスサイコー♪」

 

って…私も一口…あの日を想い出す味だ。初めて食べた兄さんのオムライスの味だ。

 

◇

 

卒業式…父兄席に兄さんとあゆ、ムラマサちゃんがいる。緊張するなぁ。

 

「あゆが目立つなぁ~」

 

って、エルフちゃん。ムラマサちゃんの方が妹に見えるし。

 

卒業証書を受け取り、無事に式を乗り切った。

 

「兄さん、卒業したよ」

 

「あぁ、よく頑張ったな、紗霧」

 

私の頭を撫でてくれる兄さん。

 

「エミリー、花ちゃん、ありがとうな」

 

「何を今更」

 

「そうだぞ、マサムネ君。もっと頼ってくれていいんだよ」

 

って、エルフちゃん、ムラマサちゃん。顔が火照っているんだけど…

 

「じゃ、行こうか…」

 

どこへ、行くの?兄さんの後を付いていく私達。車に載り、目隠しをされ…何かサプライズをやらかすのか?

 

◇

 

あれ…いつの間にか、眠ってしまったようだ。ここはどこだ?まだ、目隠しされているようだけど。手足の拘束はされていないようだ。目隠しを外し、周囲を見回すと、花嫁姿の女性が沢山…ふと、自分の姿を見ると、ウエディングドレスを着ていた。これって、夢かな?悪夢かな?頬を抓ると痛いんだけど…

 

「紗霧!」

 

ムラマサちゃんは和装である。

 

「マサムネ君がなぁ、結婚式をするって…で、みんなと…」

 

みんなと?周囲をもう一度見回すと、蘭さん、深雪さん、美和子さん、詩羽先輩もいる。皆花嫁衣装で身を包んでいた。

 

「マサムネ君のケジメだと言うんだ。紗霧は特別であるけど、今までお世話になった人で、希望があれば、なるべく叶えるって…」

 

それは、皆が兄さんとの結婚を望んでいたってことである。それを一度に叶えるって、どうなんだ?もっと冴え渡る方法はあるだろうに。

 

戸惑う私を余所に、式が始まった。一斉に花嫁が会場へ入っていく。参列者より多い花嫁…でも、みな笑顔である。

 

「では、花嫁代表で、和泉紗霧さん、前へ」

 

私だ、兄さんの前に進み出て、誓いの儀式、指輪の交換…そして、愛の口付け…

 

◇

 

ドンドン!

 

うん?あぁ、寝ていたようだ。ドアをノックする音が聞こえる。

 

ドンドン!

 

「紗霧!起きているか?」

 

ここは?あれ?今までのことは夢かな?一夫多妻な結婚式って、悪夢だった気がするなぁ。

 

ドンドン!

 

「今日も起きて来ないのか…ここに食事を置いて行くぞ!」

 

ドアの外に食器を置く音。ダメ!…私はここにいる。やり直せるなら、今度は素直に接したいんだから。ドアを開けて、叫んだ。

 

「兄さぁぁぁぁぁ~ん!」

 

部屋を飛び出した私に、抱きつく兄さん?うん?私よりも胸が大きくて、気持ち良くて、デカいんですが…

 

「おはよう、お母さん♪」

 

あゆが抱きついていた。

 

「じゃ、あゆ、紗霧を頼むよ。俺はちっひーと牧場へ行くから」

 

「あい。お父さん、いってら~!」

 

あぁ、また寝坊してしまった…新居に兄さんと私とあゆで住んでいた。新居と言っても、母屋の隣にある離れを改築したいてである。新婚生活…うぅん、今までと変わらない生活を送っている。

 

今後もずっ~と、こんな生活なのかな?部屋に飾られた一夫多妻な結婚式の写真を見ながら、呟いた私。

 

 

 

 

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