---和泉正宗---
合作の方向性とタイトルの決まった翌日、プロジェクトは動き出した。まず、登場人物決め…皆で決め…いや、俺は除かれたけど…。大体のキャラが決まったところで、提示された。で、紗霧がそれぞれをイラストにしていき、ソレを見ながら詩羽さんが出だしを書き始めた。
俺は俺で、ムラマサ先輩と神楽坂さんとで3者面談していた。俺の没原稿をムラマサ先輩が完読したのだが、その内の数作で続編を読みたいと言い出したのだった。出版されない没原稿…俺的には続編を書くモチベーションが無いというか…
そんな俺を見かねたムラマサ先輩は、神楽坂さんに交渉をしだしたのだった。
「出して貰えませんか?」
先輩は真剣な目付きで神楽坂さんを睨み付けている。
「う~ん…没だしえねぇ~」
「私はこれらの続編が読みたいのです!しかし、出版されないとわかっている作品を書くモチベ-ジョンなんか無いって言うのもわかります。ですから…」
ドン!
先輩がテーブルを叩いた音で、皆がこちらを振り向いた。
「千寿先生の言いたい事はわかりますが、売れないとわかっている物を出す訳にはいない…」
神楽坂さんの言い分は分かる。俺の創作力が悪いんだと。しかし、
「それでは、出してくださる出版社へ、私とマサムネ君で移籍します」
事は大事へと展開し始めた。元はというと、売れない作品、要するに没原稿を書いた俺が悪いので、口を挟まず静観している。
「そっ…それは困ります。千寿先生も和泉先生も、我が社にとって大切な作家先生ですから」
「では!」
「う~ん…和泉先生、何か妥協策はありませんか?」
って、俺に話を振る神楽坂さん。って、言われてもなぁ…う~ん…あっ!自主出版…
「エリさん、自主出版できる印刷所って、わかりますか?」
コミケの常連、同人誌の専門家に訊いてみた。
「知っているよ。紹介できるよ。いつでも言ってね♪」
「神楽坂さん、自主出版してもいいですか?」
「それなら…没だしねぇ」
「先輩もそれで良いですか?」
「かまわないが…それでは売上が…」
心配そうに俺を見る先輩と神楽坂さん。
「俺の一番のファンが読みたいって言うんです。儲けゼロはモチベーションの問題も有りますが、多少でも印税が入るのでしたら、自主出版したいです」
「わかった。マサムネ君、経費は折半にしよう。儲けは…これは、君優先で取ってくれて構わないからな」
うっすらと笑みをこぼした先輩。
「販売ルートはどうするの?」
っと、神楽坂さん。
「知り合いの本屋に置いてもらいます」
「それなら、『縁』ブランドで出せばどうかな」
っと、詩羽さん。
「シリーズ名は『千寿ムラマサコレクション 和泉マサムネ没原稿シリーズ』とか。話題性としては悪くない」
「おぉ~、有りですね」
詩羽さんのアイデアを、ノートに書き込む先輩。そんな俺達を暖かい目で見ているクリスさん。
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午後、一人であの場所へ行く。森の中の池だ。スケッチブックに鉛筆でラフデッサンをしていく。朝霧の新作『湖のエルフ』に使いたい風景だったから。
「兄さん…絵を描くんだ…」
デッサンに集中していて、ギャラリーが増えているのに気が付かなかった。紗霧、エミリー、恵、エリさんがいた。
「紗霧みたいなかわいい絵は無理だけど…朝霧作品の挿絵は自分で描いているんだよ」
「あれって、ムネ君が描いていたの?」
エリさんが驚いたような声をあげた。
「そうです。エロマンガじゃなくて、紗霧以外にイラストレーターの知り合いはいないから…」
エロマンガ先生と呼ぶと、機嫌の悪くなる紗霧。なんで、そんなペンネームにしたのやら…
「原画集とか出せば売れるんじゃないかな?」
って、エリさん。売れる物は売りたい…でも、俺の本質から離れて行くような…俺の本質…売れないラノベ作家…いや、待ち望んでいるファンがいるラノベ作家くらいにしておきたい。
今回描いたデッサンをエリさん達に見せた。
「これって…エルフちゃん…」
紗霧が指摘した。
「エミリーってことは無いけど、まぁ、イメージはそんな感じだよ。どこかしら儚いエルフってイメージで…」
エミリーの顔が真っ赤に染まり、顔を俯かせている。
「詩羽さんや先輩だと胸が…恵やエリさんだと健康的だし、紗霧だと…エルフってイメージでないし」
皆の視線がエミリーに集中すると、困ったような表情になっていく彼女。
「兄さん…私のイメージってなぁに?」
紗霧に訊かれた。
「妖精かな?」
妖精のデッサン画を見せた。今度は紗霧の顔が赤く染まっていく。
「ラノベ向きでは無いけど、私はこれはこれで好きだよ」
エリさんが、スケッチブックに魅入っている。
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翌日からは、詩羽さんの書き上げた物を皆で回し読みし、改善点と、挿入話のストーリーと担当の割り振りなど、具体的に動き始めた。
俺の没原稿は、神楽坂さんとクリスさんが校正作業をしてくれている。ゲラ刷り段階で、紗霧が挿絵を描くらしい。その作業を先輩が楽しそうに見守っている。本当に続編が読みたいらしい。
朝方の涼しげなうちに海を満喫して、炎天下は室内で作業をしていく感じで、合宿の後半を消化した。そして最終日の夜…
「それぞれが出逢い、皆が揃ってから、本編に突入なんだけど、これは今後、彼にアタックした方法と結果も包み隠さず報告していね。実録物に近いからね♪」
って、詩羽さんが楽しそうに言う。
「詩羽さん、縛られたら報告してください。いや、縛ったら、兄さん、私にみせてくださいね♪」
って、狩る様な目付きで詩羽さんを見る紗霧。これには苦笑いをする詩羽さん。
「じゃ、私は1巻が出版できたら、コミカライズしていくわ」
エリさんも楽しそうだ。先輩は、没原稿の発行に興味が有るようで、エミリーは朝霧の新作の原稿を何度も読んでいる。恵はそんな僕らを嬉しそうに見ていた。
「クリエーターで無いのに、参加しているようになれるなんて」
「恵は大切な一員だよ。恵が紡いだ縁でも有るから」
「そう言ってもらえると、嬉しいな~」
こうして、夏合宿は終わった。
---加藤恵---
夏休み明けて、新学期。所属しているサークルに退部を伝えに行く。
「退部?有り得ない。どういうことだ!おい、加藤!」
サークルのリーダーの安芸倫也君が怒ったように言ってきた。サークルの内容はギャルゲーを作ることなのだけど、私の役割がよくわからないんだけど…
「う~ん…っと、安芸君よりも、私を大切に思ってくれる人の為に、なりたいんだよ」
「はぁ?お前みたいなモブに近い女に、そんな者が現れる訳無いだろ?それは、ギャルゲーな世界だけだ。加藤、現実を見ろよ!」
安芸君は熱く語っているけど…
「だって、私のこと、知らなかったでしょ?昨年も同じクラスだったのに…彼は覚えていてくれたんだよ」
「おい、加藤!騙されているんだ。気づけよ」
どちらかと言うと安芸君に騙されたような…
「おぉ、やっているな♪倫也、私も辞めるから♪」
エリさん、登場…彼女は安芸君を名前で呼ぶ。
「何を言っているんだ?おい、キャラデザのお前がいなくなると困る!」
「困ると言われても…もう、決めたことだから」
「おい!俺に断り無く、何を決めたんだ?」
安芸君の良い処で悪い処…引っ張っていく力は凄い。纏め上げる力も凄い。だけど、強引で有る。ロンパして諭すタイプだ。ムネ君とは真逆かな?
「あぁ~、そうそう。私は彼に捧げたから♪」
呆然とする安芸君。
「捧げた…おい、加藤!何を捧げたんだ?」
「何って…初めてだよ、安芸君」
あぁ、耳が熱いなぁ。
「お前…俺に断り無く何をしているんだ」
「おい!倫也、恵はお前の物では無いんだぞ!」
エリさんが、私の代わりにキレてくれた。
「俺の物だ。俺のゲームでヒロインになるんだよ」
「じゃ、倫理君は恵だけを手にすれば良いのね」
詩羽さんがやってきた。彼女は安芸君を倫理君と呼ぶ。
「何を言っているんですか?詩羽先輩のシナリオも大切ですよ」
「倫理君、私も辞めるわ。もう、次の道を決めてあるの」
「次の道?俺が道を示します。一緒にゲームを作りましょう!」
「倫也、そこが問題なんだよ。彼は私達を個人として見てくれた。倫也は、役割で見ているだけだろ?」
「役割は大切だよ」
「あぁ、倫理君、私は彼に捧げたから♪」
「えっ?どういうことですか?」
狼狽えたように見えた安芸君。私のドロップアウトには、動じなかったのに…何故か少し悔しい。
「言葉通りよ。まぁ、事故と言えば事故だけど…でも、彼は必死に私を看病してくれた。恵のことも、エリのこともね。ねぇ、倫理君、君は三人に対して必死に看病って出来る?」
「出来るに決まっているでしょ」
そんな安芸君に抱きつく詩羽さん。たじろぎ、距離を取ろうとする安芸君。
「出来無いじゃない。彼は逃げなかった。君と彼の違いよ」
「そいつは俺から三人も引き抜いたのかぁぁぁぁ~!」
「引き抜かれた訳では無いわよ。私達が進んで彼の元へ行くの。彼は無理強いはしない。彼は生きる為に必死なの。だから、私達の為にも必死になってくれる。たぶん、去る時は追わないと思う。倫理君、君とは真逆なんだと思うわ」
私達は、安芸君の元を去った。これで諦める安芸君だとは思わないけど、言いたいことは言ったはずだよね?
---和泉正宗---
新学期が始まり、学校の帰りに久しぶりに、たかさご書店へ足を運んだ。
「あぁ、ムネ君♪」
俺に抱きついて来た智恵。学校では無視をしていたのに…
「学校では…ごめん…他の人の目を意識しちゃって…」
意識するような事は無いはずだ。
「なぁ、頼みが有るんだけど…」
「和泉先生の本を、平積みの件はダメよ!」
ダメなのか…でも…
「なぁ、置いてくれないか?」
「うん?置いているよ」
「そうじゃないんだ。自主出版するんだけど、それを置いて欲しいんだよ」
「はぁ~い?」
どんな本かを説明した。
「え…ムネ君の没原稿のサルベージ…あの千寿ムラマサ先生が?」
「うん…出版にかかる経費は、俺とムラマサ先輩の折半することになって、今、エロマンガ先生に挿絵を依頼している。どうかな?平積みでなくても置いてくれないか?」
「それは…う~ん…買いたい人っているの?」
「置いてくれたら、朝霧沙樹先生の原画集を自費出版するときに、それも置いて貰うけど…どうかな?」
「え?あの朝霧先生の原画集?買いたいです!」
作者は同じ俺なのに、この差は何だ?
「でも、なんでムネ君が、朝霧先生の原画集の出荷先を決められるの?売れないラノベ作家なのに…」
ぐさっ!
智恵に言われる『売れないラノベ作家』って言葉は、身に浸みて痛い…どう説明すれば良いかな?制作現場を見て貰えば良いのかな?
「じゃ、週末、制作現場に連れて行く。それでどうだ?」
「制作現場?」
説明するより見た方が早いと思った。
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土曜の朝、智恵を迎えに行った。
「どこに行くの?」
「制作現場…」
それしか答えようが無い。山田さんの家と言ったら、訳分からないだろうし。そして、山田さんの家の間借り部分へ連れて行った。
あの惨劇を起きた部屋を改装し、隣の部屋と合わせてワンルームになっている。入り口を入ってすぐは共同の作業場で、部屋の真ん中には螺旋階段が有り、宿泊スペースへと行けるようになっている。部屋の奥には各自の作業スペースが有り、一人で作業に集中できるようにもなっていた。
「ここって、誰の作業場なの?」
智恵に訊かれた。
「俺達『縁プロジェクト』の共同作業スペースだよ」
中学生組は揃っていた。高校生組は、まだ来ていないみたいだ。
「あぁ、紹介するよ。紗霧は知っているから省いて…」
エロマンガ先生なんて言葉を口にすると、機嫌が悪くなる紗霧。なんで、そういうペンネームにしたのかを訊いたのだが、思い入れのあるペンネームらしい。
「華奢な方が山田エルフ先生だ。ここの屋敷の所有者で、大家さんに当たる。で、ふくよかな方が千寿ムラマサ先輩で、二人とも中学2年生になる」
売れっ子作家が中学生だったことに驚いている智恵。
「え…」
言葉が出ないようだ。
「先輩、たかさご書店の看板娘を連れて来ました」
「そうかぁ。私が千寿ムラマサだ。この度は『千寿ムラマサコレクション 和泉マサムネ没原稿シリーズ』を置いてくれるそうで、感謝します」
千寿ムラマサ、山田エルフのサイン色紙をそれぞれが智恵に手渡した。
「あ…本物のサイン…」
ラノベを愛する女、高砂智恵はサインの真偽を見極める能力が有るらしい。
「中学生だったんだ…ムネ君…負けているのね」
えぇ、負けています。否定しません。そうだ。本棚から、原画集にセレクトした物を集めたデッサンを、取りだして見せた。
「一応、これらを原画集にして売り出そうかと」
「あ…あぁ…本物だぁ~♪未発表の物も有るんだ…って、なんで、ムネ君が管理しているの?」
言葉に詰まる俺。
「マサムネ君、話していないのか?」
先輩の言葉に頷く俺。
「話さないと、話が進まないと思う。話すよ」
先輩の眼力に負けた俺は頷く。
「彼が朝霧沙樹先生だ。ペンネームに妹の名前が入っているだろ?」
「あっ!さぎり…本当に入っている…ムネ君、マジ?」
智恵に頷く俺。
「内緒だよ、智恵…」
「何で?」
「和泉マサムネとして売れなくなるから…」
「えっ?そんな理由で?」
「智恵にとって、そんな理由でも、俺には大切な理由だよ!」
俺と見つめ合う智恵。
「秘密を知ったからには、モデルになってもらおうよ♪」
って、紗霧。ペンタブレットを手にして、目付きはエロマンガ先生モードになっている。下手にジャマ立てをすると、機嫌を損ねてしまうし…
「あの時の写真バラ蒔いてもいいけど…」
紗霧は智恵を脅して、返事を聞かずに調教部屋へと連れて行ってしまった。