終末なにしてますか?あなたじゃない誰かに助けて貰っていいですか? 作:Re:o
「ははははは、ヴィレム……私、やったよ、やったんだよ。生きて、帰れるんだ……」
体中から血を流す妖精の少女は、砕けた大地の上で体が動かず、ただただ空を見上げる。
穏やかな青空の髪と凪の海のような色の瞳を持つが、15番浮遊島の大地を貫通させるほどの一撃を聖剣セニオリスから放ち、ティメレとティメレの中から出現した未知の獣を倒した。
それは長い戦いの末だった。しかし、その代償により崩壊してできた今にも崩れそうな岩に岩盤に囲まれた裂け目から脱出することもできず、既に手傷を負い戦闘不能になった仲間も助けに来ることができない。
「は、は、は……でも、もうダメ、かも」
力のない笑みを浮かべじんわりとした涙を浮かべる少女――クトリ。そして、青空の髪は急激に赤く染まって行った。
『こちら捕獲部隊。クトリ・セニオリスを確保した、近くに護翼軍などは見当たらない。速やかに帰投する』
軍服を着た男は携帯用通信晶石で手早く通信を終え、仲間とともに運んでいった。
「んんっ……えっ、く、鎖!? 私、捕まってる!? くっ、なにこれ、なんで! ヴェネノムがなんで……!?」
1つのランプで照らされた窓の無い部屋の中ベッドの上、身奇麗な格好――飾り気の少ない清楚なベビードール――をした妖精の少女はガチャガチャと繋がれた鎖を軋ませて暴れた。
ダグウェポンを持てば強大な十七種の獣を屠る妖精も今はただただ無力だった。異常な状況にパニックを起こし凪の海のような瞳が涙に濡れる。
その時近くで経過観察をしていた男は少し目を細めた。
……クスリの効果が抜け始めるのが、思ったより早い。
「女の子に鎖と手荒にして悪いね、ヴェネノムは薬で抑えさせてもらっているから安心してくれ」
でっぷりとした腹を持つ徴無しの白衣の男だ、中年と言って良い外見だろう。
「ヴェネノムを薬で……そんな薬聞いたことが無い?!そんなことより私は護翼軍の者よ、すぐに開放しなさい!」
「まぁまぁ待ちなさい、コレには事情があってな。その護翼軍から貰った情報で、これ以上君の身体は持たないのは分かっていてな」
「しかし今使われている薬を使えば、ヴェネノムの力を抑えて自己崩壊をほぼ完全に止められるぐらい安定させられる、その為の保護……というのが建前だ。実際使い捨ての兵器なんてのは質を整えにくいし、非効率の極みだよ」
中年の言葉はこちらに取り入るようで逆に警戒感を与える。
しかしクトリがヴェネノムの流れを感じるのに集中してみると、戸惑うような顔に変わった。
「ええっ、ホ、ホントにヴェネノムが完全に止まってる……? で、でもあなた達が本当に護翼軍の味方ならこんな誘拐なんてする必要無いじゃない!」
「色々とそこら辺は込み入った事情でね……この作戦は軍内でも強硬な反対意見が出かねない。そのため実際誘拐紛いのことしてるわけだし」
ブツブツと独り言のように距離感の遠いような言葉を発し白衣の姿は、医者というより正にマッド・サイエンティストだった。
クトリは状況を理解し始めると、男の手には薬物と思われる透明な緑色の液体の入った注射器と@酸素などの気体を送るための吸入器のようなものがあるのに気づく。
そして得体の知らない薬物と注射器の針を見て自然と身震いをしてしまう、戦闘の訓練を受けているとはいえ@人ではなくただただ虐殺を行う十七種の獣との戦いのためであり、拷問などの耐性は全く無かった。
「という訳で、悪いけど護翼軍の上層部とは話がついていてね、獣と相討ちになって地上に堕ちたということになっている。薬も十分に確保されてるから人間並みとは行かないが、短命の種族より生きられると推定されてるよ」
「そんな事信じられるか!」
「まぁそう言わずに死ぬよりはずっと良いよ、それにこの任務は慣れてしまえば戦で死んだり傷付くよりずっと良いものだと思うけどね」
「肉体的苦痛は与えない、むしろ快感で満たされるだろうね。それにそろそろ薬の追加投与が必要そうだ」
こちらを無視して話し続け、そして男は欲望に満ちた下劣な笑みを浮かべた。
クトリの感情は爆発する――
「くっっ! 私は、私は……私は帰るんだ! あの人の所に!」
鬼気迫ったクトリからヴェネノムが僅かに噴出しはじめる、それは今までの臨床データ上あり得ない自体だった。
「っクトリ君!そんな事をしたら暴走するぞ! 本当に危険だから止めるんだ!」
男はしたり顔の笑顔は一変させ、すぐに手に持った吸入器を口に当てた。強力な麻酔だ、すぐに動きが鈍くなり慣れた手つきで注射器で薬剤を注入した。
「ヴィレム……ヴィレ、ム……」
最初は無理に抵抗を続けようと苦しそうな表情で暴れる少女だっだが、次第に力が抜け気が朦朧としていく。
その目が閉じられると涙が一筋流れた。