「ほう、だいぶ腕を上げたな」
「これでも家事。特に料理の上達には力を入れたからね」
「感心なことだ。オリーブオイルとごま油の違いも判らなかった時とは大違いだよ」
「……忘れたい過去を掘り返すのは止めてくれないかな?」
ローマ勢力が拠点にしている空中庭園。そこで白野は厨房で調理をしていた。
アルトリアのマスターとしてローマ勢力に合流した白野だが実はあまりすることがなかった。
元々マスターが居なくともアルトリアの行動には支障はないし、赤ん坊を抱えている白野を戦場に出すのは却下だと満場一致で可決された。
それでもただ飯食らいはさすがに気が引けたのでこうして庭園内の家事を引き受けているのだ。
今もこうして中華鍋を掻き回して炒飯を作っている。
そんな中で隣で観察しているのが無銘だ。
彼は白野が目覚めてからアストルフォと住まいを構える間に白野に家事を仕込んだ師匠だったりする。
最初の失敗を思い出すと今では顔を顰める思いなのだが横にいる弓兵はそれをチクチクと突いてくる。
ローマの軍勢には名立たる英雄たちが多く、中には本当に大食なサーヴァントも当然いる。アルトリアとか。
とにかくそんなわけでローマ勢力には後方支援タイプの人材が不足していたので白野の存在は割と重宝されていた。
「それで、どうする気かね?」
無銘の質問に白野は鍋を掻き回していたお玉を止める。
「君の夫は間違いなく大帝の先兵として現れるだろう。君はその時にどうするつもりだ?」
「どうするって?」
「分からないフリをするな。君とて予測しているだろう。天声同化されたサーヴァントを正気に戻す例など、まだ観測されていない。一度大帝に同調した者が元に戻る保証はない。そして戦場ともなればサーヴァント相手に手加減できるとは言い切れない。そして躊躇っているうちに大きな被害が出る可能性もある。そんな、もしどうしようもなくなった際に、君はどうする?」
横目で確認を取る無銘に白野は一拍を置いて答えた。
「取り戻すよ、何があっても」
「……」
「出来るとか出来ないとか。それは会ってみないと分からないことだし。桃野に片親なんて思いはさせたくない。それに何より私にはあの人が必要だから」
約束したことがたくさんある。
それを少しも叶えられずに別離など、冗談じゃない。
「だから、どんなことがあっても取り戻す。幸い、アルトリアも協力してくれるしね。私は、諦めない」
誓うように握り拳を作る白野に無銘はヤレヤレと息を吐く。
「私は別に惚気話を聞きたい訳ではないのだがね。だが、この程度の問答で揺らぐような半端な気概なら止めていたところだが。まぁ、及第点としておこう」
そんな話をしていると戦闘の知らせが庭園内に伝えられる。
作戦室に訪れると映像に千年京を襲う無数の蛸などに似た怪物が暴れていた。
そしてその騒動の中心には大きく目が開かれたサーヴァントがいた。
「青髭、ジル・ド・レェか。また厄介な奴が出向いてきたな」
敵を認識してシャルルマーニュは舌打ちをする。
無尽蔵に海魔を召喚する宝具を持つジル・ド・レェは本体こそ大したことのない英霊だが、集団戦ならば厄介なサーヴァントだ。
その他にも白野たちを襲った黒騎士のバーサーカー。今のところは確認できるのはそれだけだ。
(アストルフォは、いない……)
まだ天声同化出来てないのか、それとも温存か。
彼が居ないことに安堵を半分と歯痒さを心の半分が占めている。
戦況を確認して月の王は意見を求めた。
「誰が行く?できれば3人ほど行ってもらいたいんだ」
「ご主人様のお傍を離れたくねぇですが、千年京が襲われている以上、私が参じるのが筋でございましょう」
真っ先に手を挙げたのは玉藻の前だった。彼女なりに自分の都には思い入れがあるのかもしれない。。
「姉御も行くんなら俺も行こうか。戦争云々に正義なんてないが、非武装の民を守るのはその例外が適応される数少ない例だからな!」
「だ~か~ら~!その姉御って言うの止めてくださる!!」
次に立候補したのはシャルルマーニュだった。
彼はこの大帝との戦いに出来得る限り参加している。今回もそれに則ってのこと。
最後に手を挙げたのはアルトリアだった。
「なら、最後は私が行きましょう。あのバーサーカーは強力なサーヴァントです。長時間打ち合える者は限られている」
「いいのか?」
月の王が白野に視線を投げかけると彼女は頷いた。
「気をつけてね、アルトリア」
「えぇ、マスター」
頼もしい笑みとともにアルトリアは出撃をした。
アルトリアの能力は信頼している。自分と契約したことでフリーの時より生前に近い能力が発揮できているとも聞いた。
心配が全くないというわけではないが、信じて送り出せるはずだ。なのに―――――。
(嫌な、予感がする。胸の奥がすごくざわついて……)
それがアルトリアに対してのものなのか、それとも自分のものに対しての不吉な予兆なのか。白野には判断が出来ない。
ただ漠然とした不安を抱えながら戦況のモニターを注視した。
シャルルがジル・ド・レェの撃退に進みながらアルトリアはバーサーカーを抑え込んでいる。
玉藻は呪術や宝具で2体のサーヴァントを援護している。
戦闘開始の時こそ劣勢だったが、徐々に押し返していく。
海魔と敵性プログラムを蹴散らしながらシャルルマーニュはジル・ド・レェに近づき、手にした剣で敵の体を一閃する。
その一撃に致命傷ではないが、深手を負い、ジル・ド・レェは一時撤退をした。
同時刻にバーサーカーと闘っていたアルトリアも敵バーサーカーの兜を弾き飛ばした。
その素顔を見てアルトリアの表情が凍り付く。
「――――――――」
彼女がその時になんと呟いたのか。モニター越しではわからなかったが、繋がれた回路から大きな動揺が伝わってきた。
そして―――――。
「この感じ……!」
同じく繋がれた別の回路が令呪を通してその接近を白野に伝える。
モニターに映ったのは空を駆ける上半身が鷲で下半身が馬というあり得ない生物。
その背に跨っていた人物が飛び降りる。
ピンク色の髪を三つ編みに束ねて、少し目立つ犬歯。
底抜けに明るいその表情。
『やぁ、王様!久しぶりー!』
その間の抜けた、嬉しそうな声に白野は震えた。
無事だったことへの喜び。そして回路から伝わるなにか阻害を受けているような違和感。
『大帝に取っ捕まったって聞いたが』
『まぁね。最初はイヤだったけど、されてみるとそこそこ気持ち良いんだよ。ね、だから一緒に天声同化しよう!』
『チッ!やっぱり同化されてんのか、このポンコツ英霊!』
『なんだよー。ボクが同化しちゃ悪いのかよー!』
『悪いわ!そんなことしてねぇで、さっさと嫁さんと子供の所に帰ってやれってんだ!』
『今から迎えに行こうとして王様を見つけたから降りてきたんじゃん!』
そんな会話を聞きながら、白野は体を震わせていた。
無銘にはあんな啖呵を切っておいて、いざその時が来るとどうすればいいのか判断が鈍る。
今から転移装置で千年京に降りてアストルフォのところまで単体で辿り着けるのか、とか。なにより。
(桃野を、どうしよう……)
娘を戦場で連れ歩くわけにはいかない。
だけどこの機を逃すとアストルフォにいつ接触できるか。
悩んでいると後ろから小突かれる。
「何をしておる!そんな泣きそうな顔をするくらいならさっさと行かぬか!」
「ネロ……」
「赤子のことはそこの弓兵にでも預けておけ!道なら余が切り拓いてやろう!」
自身の大剣を手にするネロに無銘が溜息を吐く。
「私は文字通り子守かね?」
「うむ。余もその赤子に構いたいが、この状況だ。乙女が愛する男を取り戻す舞台などそう鉢合わせることもないからな!まぁ、余がその子の面倒を見ても良いのだが」
「いやわかった。私がその子の面倒を見よう。君は前線に赴くといい」
「えーと。よろしくね、アーチャー」
一瞬迷ったが今回はネロと無銘の好意に甘えることにした。
もしかしたら自分は母親として最低な行為を選んだのかもしれないと思いながら。
(ごめん、桃野。でもお母さんはお父さんを取り戻さなくちゃ……!)
ネロに案内されるがままに現場へと急いだ。
元々敵の殆どは掃討されていたために、アストルフォの下へは簡単に辿り着けた。
「ハクノ!」
「アストルフォ……」
そう長い時間離れていた筈はないのに、一緒に平穏の中で過ごしていたのが遠いことのように感じた。
白野は向かい合って剣を構えている2体のサーヴァントの間を歩く。
そして、アストルフォに手を差し出した。
「帰ろう、アストルフォ……桃野も、待ってるから……」
差し出した細い腕。だが返ってきたのは別の回答だった。
「白野こそ、こっちに来て。向こうの王様が、天声同化でみんなを笑顔にしてくれるんだ。だから白野もこっちにおいでよ!」
その笑顔も、在り方もきっと変化していない。
それでもやはり違うと感じるのは。
「違うよ、アストルフォ。そんなものに頼って無理矢理笑顔にさせるなんて、アストルフォらしくないよ」
聖杯戦争からの付き合いだ。
もしアストルフォに天声同化の力が有ったら、彼はそれを使っただろうか?
答えは否。絶対に使わなかった。
きっと逆の立場なら、アストルフォも自分に違うと言った筈だ。
白野はアストルフォに近づく。
「私たちの子供が大きくなって、色々なことを見て聞いて、知って。その嬉しさを分け合いながら生きていこう。大帝が与えてくれるモノじゃなくて、自分たちの手と足で。私は、そういう風に生きていきたいの」
戦うことも仲良くなることも誰かに選ばされて生きていくなら、それはなんて楽で、無責任な生き方だろう。
「そんな生き方を、私はあの子に教えたくない。いつか桃野が自分の生き方を選べるようになって欲しい」
それがどんなに素晴らしくきれいに見える楽園だったとしても。
子が親から離れて、それを寂しいと感じても、胸を張って送り出せるようにお互いに強く。
剣を握っていた手に触れる。
「だから、帰ろう。
「あ、あれ?」
握っていた剣はアストルフォの手から滑り落ちた。
玉座に座り、大帝はアストルフォの同化が解けかけているのを感じた。
それに大帝は腕を掲げた。
「アストルフォよ、余の下へ戻るがいい」
大帝の腕から令呪がひとつ消えた。
「わっこれ!?」
突如アストルフォを中心に陣が展開される。
「アストルフォ!?」
「令呪!?まさか一度同化されたサーヴァントは、
「っ!無粋なことを!!」
シャルルマーニュの推測に怒りを露わにするネロ。
「ごめん、ハクノ。まだ戻れそうにないや……あの子を―――――」
そこでアストルフォが令呪によって連れ戻される。
彼の手からこぼれ落ちた愛用の剣だけがその場に残された。
※ここから先は本編とは一切関係がありません
嘘予告『Fate/Kaleid liner EXTRA プリズマ✩桃野!!』
それを見つけたのは本当に偶然だったのか。
「なぁに、これ?」
岸波桃野が倉庫部屋から見つけたのは1本のステッキだった。
この倉庫はアストルフォが仕事で見つけてきた。しかし危険かどうかも不明なとりあえず押し込めて置いた物体の溜まり場だった。
それでも好奇心旺盛な幼子にとっては一種の宝の山。桃野は倉庫は危ないから近づいてはいけないという両親の言いつけを破って度々ここに入り浸っていた。
そこで見つけたステッキ。
左右に鳥の翼を思わせる装飾が成された星型を中心に据えたステッキ。
幼児である桃野は好奇心に動かされるままにそのステッキを手に取った。
「ハクノ~。今日のお昼ご飯はなに~」
「鹿肉を使ったシチューだよ。この間ロビンに良い鹿肉をお裾分けしてもらったから」
「やったー!」
「あぁ、もう!調理している時に抱きつかないで!」
夫であるアストルフォが出来上がる料理を楽しみにしていると白野は自分のお腹を撫でた。
まだお腹に大きな変化はないが、お腹の中に2人目の子供を授かっていることはこの間の診察で判明した。
この事実をどのタイミングでバラすかというのが白野の密かな楽しみだった。どうせだったら盛大に驚かせたい。
だがきっと夫はどんな風に報告しても喜んでくれるという確信がある。
それと、落ち着きがない長女もこれで少しは落ち着きを持てるかもしれないという期待もある。
そこでこの場にまだ来ない娘に疑問を覚えた。
「そういえば桃野は?ご飯の時間が近づけばいつも勝手にやって来るのに」
「ん~。ボクは朝ごはんから見てないよ?」
「ならまた倉庫の方に行ってるわね。まったくあの子は……」
父親譲りの好奇心というか冒険心と言うか、娘の桃野は妙にあの倉庫が気に入ったらしく探査している。
危ないから止めるように言い聞かせているのだが今のところその気配はない。
溜め息を吐きながらも仕方のない部分もあるかな、と白野は思う。
SE.RA.PHには桃野と同じ年の子供はいない。
訪れる霊子ハッカーも未成年自体希少だ。聖杯戦争時の間桐シンジなどは本当に例外なのだ。
そんな中であの倉庫は桃野にとって唯一親の目から逃れられて遊べる場なのだろう。
だからといって危険なことには変わりなく後で少しだけお説教しようと決める。
「アストルフォ!悪いんだけど桃野を―――――」
呼びに行って、と言おうとしたら突然爆発音が響いた。
突然のことに夫婦揃って目が点になる。
「アレ?今のって倉庫の方じゃない?」
「――――っ!?桃野っ!?」
アストルフォの言葉を聞いて白野は顔面蒼白になって家から飛び出した。
するとそこには我が娘がピンク色のフリフリとした服装で舞い下りた。
『新生、マジカルルビー!プリズマ桃野、爆・誕ッ!ですよー!』
「はい?」
突然の事態に頭を石化させていると桃野が手にしている杖がハイテンションに語り出す。
『やっぱり魔法少女と言えばロリティーンですよー!私、運命のマスターを見つけちゃいました!!』
なんか、朗らかかつイタズラ好き。大人だけど少女っぽい、割烹着とかが似合いそうな女の子の声が頭の中に響いた。
『あ、桃野さんのお母さんですか?私、愉快型魔術礼装、カレイドステッキに宿る人工天然精霊、マジカルルビーと申します!』
やたらと甘ったるい、脱力しそうな声が自己紹介してくる。というか天然なのに人工ってどういうことだろう?
それにアストルフォがなになにーと出て来た。
するとピンクのフリフリ衣装を着た桃野がやたら眩い瞳で口を開く。
「パパ、ママ!ももの、ようやくわかったよ!もものがやるべきこと……ルビーが教えてくれたの!」
「桃野?」
「このSE.RA.PHに真の平和をもたらすのがもものの使命だったの!一刻も早く!太陽よりも強く!SE.RA.PH中の子供たちにストロベリーな血濡れの愛を!」
『その通りですマスター!次週、新番組魔法少女カレイドルビー第1話、駆け抜けろ、ファイナルルビー!玉砕のムーンカタストロフ!開始ですよー』
「えっ?1話からファイナル!?」
「ツッコむところそこじゃない!」
白野が呼吸を落ち着かせると娘に話しかける。
「桃野!その杖渡しなさい!なんかすごく禍々しい!」
「ママ!待っててね!ももの、立派な魔法少女になってこのSE.RA.PHを本当の愛と正義で救って見せるから!!」
「話が通じてない!」
「うわぁ。なんか天声同化されてた頃のことを思い出すなぁ。というかさらに危ない?」
「5倍増しでね!」
そうこうしているうちに桃野が背を向けてその場に飛び立ってしまった。
「アハハ……どうしよっか?」
「すぐに追いかけなさい!?」
白野はアストルフォの背中を叩いた。
マジカルルビーと共にSE.RA.PHを飛び回り様々な事件に遭遇する!
「エリーちゃん!もものはエリーちゃんに勝負をもうしこむよ!」
「ふふ、モモノ。貴女とはいずれこうなると思っていたわ……勝負よ!」
月のトップアイドルたる竜の娘と歌唱大会を行い。
『さぁ桃野さん!あの行き遅れた狐を制裁してやるのです!』
「たまもおばさん、しょーぶ!」
「あはは、よし、徹底的にぶっ潰す!それとおばさん言うな!それにしてもあの杖、なんだか私とキャラが微妙にかぶってそうな匂いがしますねぇ」
伝説の九尾に戦いを挑み。
『桃野さん!魔法少女に必須なマスコットキャラをこの場でGETです!』
「うん。まかせて、ルビー!」
『A―――――ruuuuuuッ!!』
念願のマスコットをゲットするために黒騎士と戦う。
そして旅の果てに出会うもうひとりのカレイドルビー。
「えぇっ!?ここどこ!?わたしなんでこんなところに居るの!?」
『おやや~。ムーンセルさんは一体どこの世界の記録を再現したんでしょうねー』
並行世界より現れたカレイドライナー、プリズマ☆イリヤ!彼女との出会いが桃野に何をもたらすのか!
「イリヤおねえちゃん!これから、よろしくおねがいします!」
「……もう1回お姉ちゃんって言ってくれないかな、桃野ちゃん!」
同じステッキを持つ2人の魔法少女に待ち受ける運命とは!?
Fate/Kaleid liner EXTRA プリズマ✩桃野!!連載開始…………しません!
洗脳された人物の1回目の説得イベントって大抵失敗しますよね。
独自設定。一度天声同化されたサーヴァントは大帝による神明裁決の使用を可能にする。
ルーラーの最高特権が宝の持ち腐れだから使用させてみました。