それとそろそろ短編と言い張るのもきつくなってきた気がするので連載表記と作品名を少し弄りました。
黒い霧の中心でアストルフォは寝かされていた。
その顔は悪夢を訴えるように眉間に皺が寄っている。
「このSE.RA.PHで生まれた赤子。あれは底知れぬ未知です。導き方を間違えればこの月を、地獄に変えるだろう程の」
「だから、あなたはあの子を手元に置きたかったのですか?」
「そう。未知とは未来を切り開く可能性であり、全てを可能性を閉ざす絶望だ。だからあの赤子は余も下に置かなければならない。あの赤子が絶望の未来を歩まぬように」
そんな会話を聞きながら、アストルフォは薄らと開いた眼で天井を見つめる。
その唇は、何かを求めるように呟いていたことは、誰にも気づかれぬまま。
拠点に戻った白野はアストルフォの剣を手にして桃野を抱えて部屋に戻った。
寝台に体を預けながらさっきまでの戦闘を思い返す。
連れ戻せなかった。
そのことだけが白野の頭を占めていた。
もう少しで取り戻せた最愛の人。戻ってきた白野に皆が何か言っていたような気がするが殆ど頭に入ってこなかった。
次こそはと思うが、そもそも次があるのだろうかという不安。
それでも大丈夫と自分に言い聞かせる。
諦めるなんて選択肢はない。ないのだが。
そこで桃野の泣き声が聞こえた。
「どうしたの、桃野!」
起き上がり、娘がなにを伝えようとしているのか考える。
「あ、そっか……お腹空いてるのか」
それを察して白野は貰った哺乳瓶を桃野に飲ませた。
当たり前だ。食事前に戦闘が始まったのだから桃野がお腹を満たしているわけがない。
そこで白野は自分が拠点に戻ってから碌に娘のことを考えてなかったことに思い至る。
取り戻せなかったアストルフォのことばかりで娘のことすら頭に追いやっていた。桃野自身が泣いて主張するまで。
そんな自分の不甲斐無さに嫌気がさし、涙が出る。
「ごめん、桃野……だめなお母さんで、ごめんね……」
流れた涙が、娘の頬に落ちた。
「ガウェイン。先程は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「いえ、王よ。私は当然のことをしたまでです」
アルトリアの礼をガウェインはそう返した。
あの黒騎士が生前の友であり円卓のひとり、ランスロットだと判明して、アルトリアはショックから動きを止めてしまった。
その隙に襲いかかられた猛攻。かつての武芸そのままに襲いかかってくる彼に防戦一方を強いられる。
そこで助けてくれたのがガウェインだった。
最終的にランスロットは討ち逃してしまったが、彼が駆けつけてくれなければやられていたかもしれない。
「我が王のために剣を振るうのは当然のこと。礼を言われることではありません」
「ガウェイン。今の私は貴方の主君ではなく、ハクノに仕えるサーヴァントに過ぎません。そして貴方も月の王に仕える身。違いますか?」
「そうですね。ですが、主君は違えどまたアーサー王と戦場を駆けることが出来ることを嬉しく思います」
「私もです、ガウェイン」
そういうと、アルトリアは椅子から立ち上がる。
「どちらへ?」
「マスターのところに。彼女も。今回のことで気持ちが沈んでいるかもしれませんから」
自分に慰めの言葉がかけられるとは思わないが、放置しても置けない。
彼女のサーヴァントとして。何よりも友人として。
白野の部屋の前に行き、ノックする。
「私です。少し、宜しいでしょうか?」
『アルトリア?開いてるから入ってきて』
言われてドアノブを回すと本当に鍵がかかっていなかった。不用心さを注意しようと決める。
中に入ると白野は桃野に哺乳瓶を吸わせていた。
「食事中でしたか」
「うん。アルトリア、そこで立ってないで入ってよ」
中にはいる許可をもらい、アルトリアは白野の横に座って哺乳瓶を飲み終えた桃野に触れる。
「可愛いですね」
SE.RA.PHに生まれた新しい命。新たな可能性。
その存在に触れて自然とアルトリアは頬を緩ませる。
そこで白野はふと先程の戦闘を思いだす。
「そういえば、さっきの戦闘で動揺が回路を通して伝わってきたけど、どうしたの?」
質問をすると桃野に触れていたアルトリアの手が僅かに引く。
「……貴女たちを襲った黒騎士のバーサーカー。その真名はサー・ランスロットでした」
告げられた真実に白野の肩が僅かに跳ねた。
円卓最強とまで呼ばれた湖の騎士。
彼とギネヴィアの不義の恋がキャメロットの崩壊へと導いた裏切りの騎士でもある。
「そっか……辛いね……」
アルトリアがランスロットをどう思っているのかは正確に読み取れないが、その口調から決して嫌っているわけではないことは理解できる。
そんな白野にアルトリアは目を丸くした。
「怒らないのですか」
「え?なんで?」
アルトリアの言葉に白野は意味が分からず首を傾げる。
「いえ、貴女たちを襲ったのは……」
「今のSE.RA.PHじゃあ仕方ないんじゃないかな?それにアルトリアは助けてくれたしね」
白野にとってはそれが真実だ。あの危機的状況でアルトリアに助けられた。例え夫を攫ったのが彼女のかつての仲間だったとしても、怒りをぶつける理由は何もない。
それでも聞いておきたいことがあった。
「……アルトリアは次にそのランスロットに会ったら、どうするの?」
「戦います」
白野の問いに迷いなく答える。
「先程は動揺しましたが、彼が大帝に与する以上、私は相手がランスロットであろうと倒すことを躊躇うつもりはありません」
きっぱりと言い放つアルトリアに白野は目を細めた。なにか眩しいモノでも見るように。
「強いなぁ、アルトリアは。ううん、アルトリアだけじゃなくて、皆……」
自分は、そう言えない。
アストルフォを取り戻したい。その選択が周りに危険を及ぼすことになっても。
彼を倒す覚悟など、持てる自信はない。
「それでいい。貴女が私たちと同じ結論に至る必要はない。そして私は白野のサーヴァントとして貴女の願いのためにこの剣を振るいましょう」
そう言って微笑むアルトリア。
騎士としての彼女を見て、白野は目を見開いた。
「?どうしました、白野?」
「ううん。ただ、アルトリアが女の子で良かったなって思って」
「いきなり何を言うのですか貴女は……」
少し怒ったように腰に手を当てるアルトリア。
それにクスリと笑う。
「だって今のアルトリア、すごく格好良かったから。もしあなたが男の人だったらクラっとなってたかもしれないでしょう?そんなことになったら浮気になるじゃない?」
冗談めかして言う白野にアルトリアは笑みを見せた。
「それは良くありませんね。ならば私も自分が女で良かった。ランスロットと同じ轍を踏むところでした」
そう言って互いに笑い合う白野とアルトリア。
その様子は気兼ねなく過ごす親友同士の画だった。
ローマの軍勢も少しずつ
クー・フーリン。ロビンフッド。エリザベート=バートリー。
人類で最高峰の能力と我を持つ彼らサーヴァントが集まったのだから拠点内は賑やかなになった。
白野もそんな彼、彼女たちに振り回されながらも笑顔で過ごす。
そこに、1番居て欲しい人を欠いたまま。
大帝の侵攻も少しずつ盛り返し始める。
これは未だ広がり続けるSE.RA.PHで守る土地が少ないという理由もあるが。
白野もアルトリアのマスターとして戦場に居る。
娘をまた無銘に預けて。本人は諦めたかのように息を吐いていたが。
彼女が戦場に出れば、自ずと契約で繋がっているアストルフォを呼び寄せられると考えて。
そのワガママを承諾してくれた月の王やシャルルマーニュたちには感謝してもし切れない。
その線上では通常の敵性プログラムの他にキャスター・ジル・ド・レェが宝具で生み出した海魔で溢れている。
「来た―――――」
サーヴァント契約の繋がりが教えてくれる。彼がそばに来ていることを。
「やぁ。迎えに来たよ、ハクノ!」
現れた最愛の人に白野は刀身に巻き布が巻かれた彼の剣をギュッと抱きしめた。
没案。
アルトリアが白野の部屋を訪ねて来た場面でアストルフォの奪還に失敗して情緒不安定になった白野がアルトリアに襲いかかってアストルフォの名を呼びながらアルトリアとレズプレイするとかいうトンでもシーンがありましたが、作者的にその行動自体がしっくりこなかったので没に。
次はちょっと長めになるかもです。