その手が離れて、実感する。
交わした言葉が。
重ねた肌が。
共に歩いた時間が。
それらがどれだけ大切な記憶として自分を支えているのかを。
だから、取り戻さないと。
何度でも何度でもこの手を伸ばして。
この
左手にアストルフォの剣を持ち、その手の甲を被せるように右手を置く。
緊張を悟られないように白野はいつもの調子で話す。
「迎えに来た、ね……戻ってくるのはそっちのほうでしょう?いつまでも余所に行ったままなのは困るんだけど」
その様子から再び天声同化されているな、と確信して小さく息を吐く。
そこで傍に居たアルトリアが前に出た。
「ハクノ、あとは私が」
「うん、お願い」
不可視の剣を構えながらアルトリアはアストルフォと対峙する。
アストルフォを取り戻すのに先ずは行動不能にする。もしくは正常に戻った際にまた、向こうが令呪を使用した時のタイミングが勝負だ。
再び、連れていかれて今度も天声同化で済む保証はない。今回で絶対に取り戻さないと。
その為に他の敵は仲間のサーヴァントに任せてある。
「え!?ちょっとっ!?」
「問答無用!!」
アルトリアが魔力放出の波に乗り、爆発的な速度で接近する。
「おわっ!?」
ギリギリのところで手に持つ突撃槍で防ぐが、大きく後退させられた。
息も吐く隙も与えずに追撃し、攻撃を加える。
「こ、のぉ!!」
突撃槍を横薙ぎに振るうがアルトリアは腰を低くし、低姿勢で槍を避けるとそのまま腰を捻り、斜めに剣を切り上げてアストルフォの槍を弾き飛ばした。
「ヒ、ヒポグリフッ!?」
空中に待機させていたヒポグリフの足に掴まりアルトリアの剣から脱出した。
「もう!危ないじゃないか!?」
「問題ありません。あっさりと同化されて奥方を泣かせる愚者にはこれくらいの制裁が丁度良い」
「ひどいよ!ボクはただ――――」
アルトリアは不可視の剣を地面に向けて剣に纏っている風を解放する。
その風に乗り、アストルフォの位置まで移動し、剣の腹で叩き落とした。
「イタタタ……」
空中から叩き落とされて頭に手を置くアストルフォにアルトリアは剣を突き付けた。
再び見えなくなった不可視の剣。しかし間違いなくその剣先はアストルフォの身体に突き付けられていた。
それを少し離れたところで見ていた白野の周囲に異変が起こる。
突如、白野を大きな影が覆った。
「?」
見上げるとそこにはジル・ド・レェが召喚した海魔の1体だった。
その妖魔が傍に降り立ち、その触手で白野の身体を弾き飛ばした。
「キャッ!?」
幸いなことに手にしていたアストルフォの剣が偶然盾代わりになってくれたので体に傷はつかなかった。
「ハクノッ!?」
それに気づいたアルトリアが一足飛びで白野の下へ駆けつけようとする。
しかし、空から降って出現した無数の海魔がアルトリアを囲う。
「邪魔だ!」
剣を振るい、一振りで前方の海魔数体を斬る。だが、斬られた海魔は再生し、むしろその数を増やした。
「!?」
それに驚いている間も無く、海魔は白野へと接近していく。
コードキャストで応戦するが、白野の術式では一瞬怯ませるだけで精一杯だった。
壁を背にしているために逃げる事も出来ず、白野は意を決したようにアストルフォの剣に巻いた巻き布を解いた。
「無茶だっ!?やめなさい、ハクノッ!」
アルトリアがそう叫んでいる間にも海魔の職種は確実に白野を捉え、その凶器を振り下ろす。
だがここには行動を封じられていないサーヴァントがいた。
「だぁああああああああっ!?」
天声同化によって大帝側に就いていた筈のアストルフォが、全力で走り、間に入った。
槍も剣もない、その身で白野を庇うように背を向けて。
「あ……」
そしてその姿に、いつか、黒騎士に刺された記憶が白野の中で重なった。
「ハクノッ!?」
言葉にするより速く、白野はアストルフォを突き飛ばした。
だから、海魔の触手は容赦なく白野に振るわれ、その体を貫き壁に叩きつけられる。
グチャリッという衝突音の次に地面に人が落ちる音がした。
「え……?」
倒れている長い茶髪の女性。その体から止め処なく血液が流れている。
「あ……あぁ……!?」
自分は家族を大帝の下へと連れて行こうとした。
でも、その家族をこうしてしまったのは大帝側で。
そう考えているうちに、頭の中の靄が晴れ、歯車がカチリと噛み合う音がする。
「ハクノッ!?」
心を捕えていた鎖を全て千切り、白野の下へと走ろうとするアストルフォ。
しかし、彼の身体は光に包まれる。
「また、令呪でっ!?この、やめ―――――」
そうして再び元の場所に連れ戻されようとした時、地に伏していた白野がゆらりと自分の左手を掲げた。
「令呪を、持って命ずる―――――アストルフォ、帰ってきて……!」
左手に刻まれた二画の令呪。その一画の紋様が左手から消える。
自身の居城で大帝が命じた令呪が白野の令呪で打ち消される。
故にこの場で消えることなく、留まった。
ルーラーがサーヴァントひとりに使える令呪は2つ。
これで、大帝はアストルフォを自由にすることは出来ない。
それを確信するより早く動き、アストルフォは白野の下へ駆け寄った。
「ハクノ!?ゴメ……」
血は今も流れている。
早く治療を施さないと。
そう思っていた矢先に海魔を突破したアルトリアも来た。
「アルトリア!ハクノが……!?」
マスターの状態を見て、アルトリアは一瞬だけ目を閉じた。
「アストルフォ。彼女は私が治します。それまでここの死守を」
「出来るの?」
「えぇ。だからここを」
「う、うん!わかったよ!」
アストルフォは白野が持っていた自分の剣を持って、海魔の群れに突撃した。
それを確認してからアルトリアは白野に目を向ける。
「まったく無茶をする。これで貴女を失っては意味がないではないですか。この戦闘が終わったら覚悟していてください。言いたいことが山ほどある」
言いながら、アルトリアはある宝具を取り出す。
それを白野の傍に置いた。
「契約をしていてよかった。これなら、私の魔力でマスターを治療できる」
するとその宝具は形を失っていき、白野の身体に吸い込まれるように消えていった。
そしてアルトリアはその真名を開放する。
「――――――
ソレを喚ぶと決めたのは、アストルフォが天声同化の鎖から解き放たれた時だ。
遅々として進まない侵攻に業を煮やし、キャスター、ジル・ド・レェは自身の宝具たる魔導書を最大稼働させる。
「さぁ!最高のCOOLをお見せしましょう!!」
「なんだあれは!?」
ネロは突如出現したこれまでとは比べ物にならない巨大な海魔に声を上げる。
相手にしていた無数の海魔が突如姿を消したかと思えば現れた巨大な魔、そのもの。
玉藻の前から通信が送られる。
『どうやら向こうのキャスターが宝具を全開に使用したようですねぇ。住民の避難が済んでいたことが幸いでした。アレ、どうみても見境なく食い散らかしそうですし』
会話をしていると、巨大な海魔が動くとローマの街の一部が潰される。
「余のローマがぁああああっ!?」
『まぁ、あれだけデカい生き物が動けばそうなりますね。いや~私の千年京に出現しなくて良かったです、アレ』
「冷静に言っとる場合か!早くなんとかせねば余のローマが壊滅だぞ!?」
『と、言われましても。あれだけ巨大だと生半可な攻撃では足止めが精々。こう一気にドバァーとやっちゃわないと再生するんじゃありません?』
自身もキャスターであることからか冷静に分析し告げる。
現に、今はおそらく天声同化が解けただろうアストルフォがヒポグリフで飛び回って応戦しているが大した戦果は挙げられていない。
この戦場で高火力を持つサーヴァントと言えば。
「申し訳ありませんが、彼女を頼みます!」
ふわりと着地したのはアルトリアだった。
彼女はマスターである白野を抱えて、現れた。
「む、どうした?傷を負わされたのか?」
「もう治しましたが。それより、彼女を頼みます。あの魔は私が消し去ります」
不可視になっていた剣を開放し、黄金の聖剣がその場に現れた。
「おぉ!!お主の宝具ならアレを打倒すのにお誂え向きだな!」
「まったく称賛されている気がしませんが……とにかく彼女を。私はアレがこれ以上進攻する前に仕留めます」
「うむ!任すがよい!」
意識を失っている白野を受け渡すとアルトリアは巨大な海魔の下へと急いだ。
白野が意識を取り戻したのは戦闘が終わった後だった。
巨大な海魔はアルトリアの対城宝具、
「ん……」
「目が覚めましたか?」
寝台の横に自分のサーヴァントであるアルトリアが立っていた。
「アルトリア………………アストルフォは!?」
ガバッと起きて質問する白野にアルトリアが呆れたように息を吐く。
「最初にそれですか。本当に貴女は……彼なら――――――」
アルトリアが指をさした位置にアストルフォがやや気まずそうに立っていた。
彼は自分の両指を絡ませながらいつもよりぎこちない笑顔でいる。
「えーと……やぁ、久しぶり?」
「……!?」
アストルフォの姿を確認すると白野は顔を伏せて手招きする。
それに首を傾げて近づくと白野がアストルフォの胸蔵を掴んだ。
そして無理矢理顔を近づけさせて唇を重ねる。そのまま寝台から床に押し倒して舌を絡ませ、ディープキスを始めた。
唇を離すとあろうことかそのままアストルフォに拳を振るい出した。
「わっ!?ちょっとハクノ!?」
だがさすがは英霊。慌てながらも手で捌く。
それにアルトリアが後ろから羽交い絞めして止めさせた。
「まったく貴女は。少し落ち着いて―――――」
「ヒック……ヒック……」
見ると、白野は顔をぐしゃぐしゃに歪めて大粒の涙を流していた。
これまで溜め込んでいた不安やらなにやらが噴き出したのだろう。それで情緒不安定な行動に移ってしまっただけなのだ。
アルトリアの拘束から外れると白野は寝台に戻って毛布を全身をずっぽり隠すように被った。
「ちょっとハクノ!?ゴメンってば!」
そんな白野の身体を揺さぶるアストルフォを見て、アルトリアは付き合ってられないと苦笑して部屋を出た。
「よーしモモノー!お父さんがお風呂に入れてあげるよー」
数日間、触れ合えることが出来なかったからか、戻って来てから積極的に構っていた。
もう本当に嬉しそうに。
桃野を寝かしつけると白野とアストルフォは寝台の上に座って肩を寄せ合っていた。
ここ数日、アストルフォと離れ離れになってからのことを話す。
サーヴァントと遭遇してアルトリアと契約したこと。
ローマ勢力と合流して戦ってきたこと。
話しを聞き終えてアストルフォが口を開いた。
「大変だったみたいだね」
「うん」
「それにしても、アルトリアと契約したんだ。んー」
「何か問題あるかな?」
「そういうわけじゃないけどね。ただ、ボク以外と契約したのがちょっと悔しいか、な!」
押し倒されて白野が声を上げた。
「ちょっとアストルフォ!」
「久しぶりにハクノが欲しいんだ。いい?」
「ここ、他所の家なんだけど……」
「ボクは気にしないけど。ダメ?」
訊かれて顔を赤く染めて顔を逸らす。
だが、近づいてくる唇に拒絶することはしなかった。
「ア……ンッ……フゥッ」
白野は寝台に座るアストルフォの肉棒を胸と口で慰めていた。
「最初は戸惑ってたのに、始めたら、積極的だね」
アストルフォの言葉に赤くなっていた頬はさらに赤みを増す。
しかし、それでも行為を止めようとせずに、亀頭を唇で撫でるように触れて、割れ目に舌を入れる。
「ン!それ、刺激強い!!」
少しずつ尿道に侵入する舌にアストルフォは気持ち良さそうに目を閉じた。
白野は攻めて、射精に導こうとするが、そこでアストルフォが腰を引く。
なにかマズかった?と上目遣いをする白野にアストルフォは首を横に振った。
「まだ射精したくないんだ。それに、白野の身体、しっかりと味わいたいしね!」
そう言ってアストルフォは白野をベッドの上に倒す。
太腿の当たりから口づけし、舐めて少しずつ上に移動して行き、白野はそのくすぐったい感覚に意識を委ねた。
舌が秘部に到達するとアストルフォが話しかけてくる。
「そういえばさ。ハクノ、モモノを産んでから肉付き良くなった?前よりもっちりしてる気がするんだけど?」
「どう、だろう……わかんないよ」
「ふ~ん」
這うように動かされる舌。
ヘソに到着すると太腿の感触を楽しんでいた手が陰茎に触れる。
「そんな、いきなり!?」
「ここを弄ると、ハクノの身体がビクッて動いてカワイイね……!」
下乳から乳首に舌が辿り着き、反対の胸を手で揉む。
「はぁ……っ!」
甘い声を出して与えられる快楽に酔う白野。
瞳を閉じて身を委ねていると、アストルフォの口が胸から外れる。
「そこ、は……」
「ここも弱いよね、ハクノ」
アストルフォは腋を広げさせてキスをし、舌を這わされ、軽く歯を入れる。
そうしているうちに指が秘部の中へと侵入した。
「もう、こんなに濡れてる。ボクも限界だから良いよね?」
愛液の付いた指を白野の口に入れる。それを舐めながら小さく頷いた。
「それじゃ、片足上げて」
「え?」
「この体勢はまだしたことなかったからさ!」
少し、躊躇しながら白野はゆっくりと右足を上げた。
「ハクノの大事なところが良く見えるよ」
「そういうのはいいから!はやく、ちょうだい……」
「うん。じゃ、いくよ!」
アストルフォが白野の太腿に持ち上げて、肉棒を白野の秘部に押し入れた。
「んあっ!?」
充分に濡れていた膣内は容易くアストルフォの肉棒を受け入れて、中に納まると離さないとばかりにきつく締めつけてくる。
それでも肉棒が前後に動かされ、白野の膣内の奥を突いてきた。
「っあ……あ、あぁ…‥」
次第に声を抑えることを忘れて絞り出される。
徐々に体位が変わっていき、白野は寝台の柵に手を付いてアストルフォに尻を向けて後ろから攻められていた。
覆い被されて背中から出された手が胸を揉んでくる。乳首を転がし、時折抓むたびに堪え切れずに声が漏れる。
「ハクノ、こっち向いてよ!キス、したい!」
「うん……!」
首を後ろに回し、舌同士から触れて唇がくっつくと互いの口内を描き回し、唾液がベッドに落ちる。
そうしているうちにアストルフォの射精が近づいているのを感じた。
「ん、んんんーっ!?」
熱に浮かされ、唇を離すことも忘れて白野はアストルフォから射精された精液を受け止めた。
「――――トルフォ―――――アストルフォ……」
朝、白野がアストルフォの身体を揺さぶって起こした。
それに目を覚ますと、アストルフォは眠そうに目を擦った。
「もうあさー?」
「そうじゃ、ないんだけど……」
「どうしたのさ?」
「ちゃんと、アストルフォはここに居るんだよね」
一度眠って起きたらまた同化されているのではないかという不安。
それを確かめたくて起こした。
「もっちろん!ボクはハクノのサーヴァントで夫だからね!もう離れたりしないさ!」
そう言って抱きついてくるアストルフォ。
甘えてくる仕草と根拠のない明るい自信。
ようやく戻って来てくれたのだと実感した。
それが嬉しくて、岸波白野は再び涙を流した。