疑問は有った。
桜は電脳世界の岸波白野の魂を地上で眠る【岸波白野】に移したと。
ならば、地上で眠っていた【岸波白野】の魂は何処へ行ってしまったのか?
疑問に思いながらも考えないようにしていた。
それを自覚したら、今の私が消えてしまう気がして。
ねぇ、
「白野さん。もう少しですよ」
「ハクノ、頑張って!」
「ん!」
2人に応援されながら白野は一歩一歩足を進める。
学校やアルバイトのある2人に余計な負担をかけてはいけないと気合いを入れる。
もう少し手を伸ばせば届く距離。そこまで来て白野は姿勢が崩れる。
「アッ!?」
「よっ!」
転ぶ前にアストルフォがフォローに入ってくれた。
「ありがとう、アストルフォ」
「これくらい御安いご用さ!白野もちょっとずつ歩ける距離が伸びるのを見てると嬉しいしね!」
嫌な顔ひとつせずにそう言ってくれる彼に白野は頬を綻ばせる。
この英霊は表情自体コロコロ変わるが基本的に喜か楽の感情が多く、こうして白野のリハビリを手伝っても本当に嬉しそうにしてくれる。
「白野さん。焦らず、ゆっくり行きましょう。徐々に体力もついて来てますし、いずれは月でのように動けますよ」
「うん。ありがとう、桜」
こうして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる人もいる。
満たされて、いるのだ。
「それじゃあ、行きましょうか、白野さん」
「うん。お願い。アストルフォもね」
「まっかせてよ!」
アストルフォに車椅子を押されながらマンションの部屋を出る。
目的はお墓参り。
ユリウス・ベルキスク・ハーウェイの墓参りだった。
白野が地上に出てやりたかったこと。それは聖杯戦争で関わったマスターたちのお墓参りだった。
謝罪ではなく自分が生きていることの報告に。
その最初の墓参りに近場であったユリウスのお墓から回ることにしたのだ。
まだ起き上がることにさえ四苦八苦していた当初にレオから何かしたいことはありますか?と問われた際に真っ先に思いついたのがこれだった。
それにレオは僅かに驚いた表情を見せたがすぐにいつもの笑みで白野や桜の口頭の情報から聖杯戦争のマスターたちの墓を割り当ててくれた。
ネットのゲームチャンプとして名を馳せていた間桐シンジと西欧財閥と関わりの深かったダン・ブラックモアの墓の場所はすぐに割れた。
ありすに関してはやはりと言うか白野の情報だけでは特定が難しく今だ知りえていない。
臥藤門司は世界中の国だけでなく宗派を転々としていたらしく、墓があるのかさえ定かではない。
ラニは西欧財閥と敵対しているわけではないが折り合いの悪いアトラス院の出であるということで、レオの名前を使っての接触は難しいらしい。
遠坂凜に至っては西欧財閥に対するレジスタンスに所属していたためなおのこと。
調べてみれば、凜のお墓は中東の治安の悪い国にあるらしく、今の白野では難しいだろう。
そして殺生院キアラ。
月の裏側の黒幕であり、究極の快楽主義者。
今も生きている彼女の信者によって建てられた墓の位置も判明したが行くかどうかは検討中だ。
過程はどうあれ、彼女が起こした事件で自分はこうして結果的に生きていられる。
許すつもりもは毛頭ないが、そのことだけは報告しておきたかったのだが桜とアストルフォからは猛反対されている。
2人からすれば、墓に近づくだけで精神が汚染されそうとのこと。
意外だったのは月の裏側で知り合ったマスター。ジナコ・カリギリが生存していたことだ。
聖杯戦争に参加した彼女がどうやって生きて地上に戻ったのかは不明だが、おそらくは彼女のサーヴァントであるカルナがなにかしらしたのだろうと桜は述べている。
いずれは会ってみたいがそれもまだまだ先の話。
今は対戦相手であり、命の恩人でもある戦友の墓参りだった。
ユリウスの墓に来る途中で買った花を添えて祈りを捧げる。
昨日、電話でレオに今日、ユリウスの墓参りに行くと言ったとき、レオから礼を言われた。
そのお礼は王としてのモノではなく、兄弟としての色があったと白野は感じた。
祈りを捧げながらユリウスの最後を思い出す。
彼が居なければ自分はBBの作った空間に今だ監禁されていただろう。
そして彼の言葉が無ければ殺生院キアラに辿り着くこともなかったかもしれない。
自分を友と言ってくれた青年。彼がどうしてそう言ったのかは未だわからないが、少なくともあの月の裏側の脱出を目指した戦友だと思っている。
(ありがとう。ようやく、その言葉を送れた)
ずっと言いたかったお礼を墓の前で祈りと共に送れたことで白野は若干肩の荷が下りた気がした。
「そろそろ、行きましょう。もう戻らないと日が暮れてしまいます」
「うん。じゃあ、帰ろうか」
桜に言われ、アストルフォに車椅子を押される僅かな間に墓へ視線を向ける。
「次はちゃんと自分の足で歩ける姿を見せに来るわね、ユリウス」
その小さな宣言を胸に白野たちは帰路に着いた。
いつも通り同じベッドで3人は眠っている。
少し寝相の悪いアストルフォは白野の頭を自分の胸に押し付ける形で。
反対側に居る桜も腕を絡ませている。
最初は窮屈に感じたそれも慣れてくれば問題なくなり、少し遠出した疲れもあってか白野はすぐに眠りに落ちた。
しかしその表情は僅かばかり苦痛の色がある。
沈んでいく。
電脳空間で見たあの海と同じ景色の中を抵抗できずに下へ下へと沈んでいく。
身体に蔦のような物が巻き付き、白野をゆっくりと引っ張っていくのだ。
それと入れ違うように何かが浮かび上がっていく。
自分とそれが交差する瞬間、その姿をはっきりと視認した。
その姿は間違いなく
瞼を上げて目が覚める。
そこは全く知らない部屋だった。
大きなベッドに眠っていた私は上半身を起こす。
長い事眠っていたのか頭に重りでも入っているような倦怠感を覚える。
それに妙に足が重い。動かないわけではないが硬く、立ち上がることが難しく思える。
「ここ、どこ……?」
ポツリと呟くと部屋のドアが開かれる。
「あ、白野さん起きました?今日の朝は和食にしてみたんですけど良いですよね?」
青色の混じった長い黒髪の愛らしい少女が同性から見ても魅力的な笑顔を自分に向けてくる。
「はく、の……?」
呼ばれた名前を復唱する。それは自分のことを指しているのだろうか?
「あれ?まだ寝ぼけてますか?なら先に顔を洗ってきましょう」
そう言ってベッドの横に置かれていた車椅子を自分に向けてきた。
今がどういう状況か判らずに混乱していると別の人が中に入ってくる。
「ね~ハクノォ!早く起きて来てよ!ボク、お腹すいたよ!」
そう言って入って来たのは男の子のような口調で話すピンク色の髪を三つ編みに纏めた女の子。
ただただ頭に混乱が広がって目の前の女の子2人を交互に見る。
恐怖を押さえ込むように。また、身を守るように近くにあった枕を抱きしめた。
そして僅かに怯えの混じった声で自らの疑問を口にする。
「あなたたちは、だれ……?」
岸波白野(オリジナル)覚醒。
ここから中編・後編へと続きます。
書き上がったら順次投稿します。