中編が大体8500文字。
バランス悪いな。
白野から言われた一言にアストルフォと桜の頭の中は真っ白になった。
どこか自分たちを怯えた表情で見上げ、誰なのかと問う最愛の人。
真っ先に動いたのはアストルフォだった。
「ちょ、ちょっとハクノ!?その冗談面白くないよ!」
詰め寄って腕を掴む。すると白野は痛みに顔を歪める。
「いや!?離してっ!」
振り払おうと腕を動かすが仮にも英霊であるアストルフォに腕力で勝てる筈もなく僅かに腕が動いただけだった。
しかしその必死な姿が身体ではなく心に傷を入れた。
ショックで僅かに緩んだ握力から白野は腕を放させる。
「あ……」
僅かに体を退くと白野もベッドの端まで移動して怯えを深めさせてアストルフォを見る。
それにどうしたら良いのかわからなくなると桜がアストルフォの肩に手を置いて眼で任せてくださいと立ち位置を入れ替えた。
「白野さん。わたしたちのことがわかりませんか?」
桜の質問に白野はコクリと首を縦に動かす。
「では、ご自分のお名前は?苗字から分かりますか?」
それに今度は首を横に振った。
その答えに桜は一度目を閉じて思案するように息を吐く。
「少し、わたしたちの話を聞いていただけますか?」
とにかく今は話をしなければならないと自分たちの現状を説明した。
自分たちはアムネジアシンドロームという記憶喪失の病気に罹り、その治療の為長い事眠っていたこと。
つい最近病が完治し、目を覚ましたこと。
とある人の庇護で身寄りのない自分たちはここで共同生活を送っていること。
白野は1番最後に目が覚めたために現在はリハビリ中ということ。
という、
「覚えていませんか?わたしたちがここで暮らしていたのを」
やはり白野は首を横に振るだけだった。
「そうですか……少し、ここで待っていてください」
それだけ言うとアストルフォを連れて桜は部屋を出る。
「サクラ!?ハクノはどうしたのさ!!」
部屋を出て、手を引っ張られながら桜に問い質す。
まるで別人になってしまったかのような白野の様子にアストルフォは取り乱していた。
「すみません。今はなんとも。とにかくレオさんに連絡を」
桜は今の白野の状態にある推測を立てていた。それがもし当たっているとしたら。
(わたしたちはもう二度とあの白野さんに会えないかもしれない)
その身震いするような仮定を首を振って払い、レオへと連絡を入れた。
レオに連絡を入れると彼は即座に動いてくれた。
そして必要な設備を確保し、使用許可をくれた。
頭の下がる思いだが今は白野の状態を診るのが先決だった。
恐がっている白野をなんとか説得し、車で移動し、寝台の上で検査を受けている。
今回調べることはかなりの専門知識と技術がいるのだがそこはムーンセルが生み出した元健康管理AI。設備さえ揃っていれば今の白野の状態を調べることは可能だ。
一通りの検査を終えて待っていたアストルフォとレオが結果を待っている。
「それで桜さん。白野さんの状態は?ここに来た時の様子からある程度は当たりをつけていたのでしょう?」
電子の世界では呼び捨てにしていた桜をさん付けで呼ぶのは彼なりに桜の現在を考えてのことだ。
「……始めに言って置きますと彼女はわたしたちの知る岸波白野さんではありません。少なくともその
「へ?どゆこと?」
アストルフォの疑問に桜は僅かに眼を閉じ、懺悔するように語り始める。
「月の白野さんはSE.RA.PHのNPCが偶発的に自我を持ち偶然聖杯戦争に参加したイレギュラーということは以前お話ししました。そしてわたしは月の裏側の事件の最後に辿り着いた聖杯の力を使って月の白野さんの魂を地上で眠るオリジナルの白野さんの肉体に移すことで彼女を生存させました。月ではたとえ聖杯戦争に優勝したとしてもイレギュラーとして処分される可能性が高かったから」
だからこそBBは聖杯へと辿り着き岸波白野を生かそうとした。その願いは魔性菩薩によって歪められてしまったが。
「ですが元から白野さんの肉体に存在した魂が消えたわけじゃないんです。今までは肉体が目覚めても魂までは目を覚ましていなかった。だから月の白野さんは表に出て来られていた。身体の支配権は元からあった本来の岸波白野さんの方が強い筈ですから」
そこから先はレオが自分の推論を述べる。
「そして何かを切っ掛け……いえ、この場合肉体が目覚めた以上魂が目覚めるのも時間の問題だったと見るべきですね。今の白野さんに真実を話さなかったのは正解でしたね。数カ月とはいえ、自分の身体を別の誰かが勝手に使っていたなどと言われれば好い感情を抱かなかったでしょう」
「はい。こうした隠し事を出来るようになったのも人間になったおかげですね。AIのままなら本当のことを話すしかありませんでした」
自嘲気味に笑う桜にアストルフォが質問する。
「それで?肝心のボクたちが知ってるハクノはどうなったんだい?」
「魂は依然として肉体に存在します。ですが、本来の白野さんが目覚めた以上、わたしたちの知る白野さんが表に出るのは難しいと思います」
「それって、今あの子が眠ってるときとかじゃないと出てこれないってこと?」
アストルフォの質問に桜は首を横に振る。
「ただ眠っているからと言って魂が表面に出ていない訳じゃありません。それこそ、コールドスリープと同じくらい意識を押し込めないと。ですが―――――」
「あの肉体が本来、今の白野さんの物である以上、下手に月の白野さんの存在を教えれば自分の身体を使わせないためにより深く彼女を封じ込めようとしてしまうでしょうね。意識的にでも無意識的にでも」
「えぇ。最悪、白野さんの魂を消しにかかる可能性もあります。そんなことはないと信じたいですが……」
沈黙が流れる中、アストルフォが自分の頭を掻き毟る。
「う~、なんか混乱してきた!ボク、今のハクノにどう接すればいいんだろう」
肉体は同じでも
「アストルフォは今まで通り、彼女に接すればいいですよ。心のままに彼女を振り回してね」
「なんかバカにされてる気がするんだけど!」
「気のせいです」
実際アストルフォはマイペースに相手を巻き込むほうがいいのだ。無理に合わせても場の空気が悪くなるだけだから。
「この診断結果に関しては伏せておいた方が無難でしょう。伝えるのは今回の検査に関わった医師の方がいいですね。桜では少々説得力に欠ける」
「そうですね。お願いします」
いえいえ、とレオ返されて桜とアストルフォは白野を迎えに行くことにした。
「えっと……なんかごめんね」
「気にしない気にしない!誰が悪いってわけでもないんだからさ!」
「ありがとう、アストルフォ、さん……」
「アストルフォでいいよー!」
「うん」
車椅子に乗る白野を押す中で桜は少し後ろにいる。
余所余所しい白野にアストルフォはニコニコと話しかける。
レオの言う通り、アストルフォのペースに巻き込むことで白野もだんだんと笑う表情が増えていく。
そんな白野を見ながらアストルフォは少しだけ懐かしい気持ちになる。
(この子、最初に会ったときの
何もわからなくてひとつひとつ自分の存在を形作っていった自分のマスター。
ならあの時と同じように接すればいい。
幸い、ここは月と違って命の危険に溢れているわけでもない。
それさえ理解すれば今の白野と距離を縮めることは難しくなかった。
そんなアストルフォと接しながら白野の印象は明るくて楽しい人。
最初は腕を強く掴まれて怯えはしたが話し始めてみると自然と肩の力を抜ける。
そうして前を進む2人を後ろから眺めながら気付かれないように桜は自分の腕を強く掴んだ。
「わたしのせいです。他の魂を元から存在する肉体に移し代える。もっと慎重に行うべきでした」
白野を迎えに行く途中。桜は自分の目を覆って内心を吐露した。
消えるべきだった自分の手を助けたいというワガママで引っ張ってくれた尊い人。
聖杯という反則を用いてでも消失する未来を変えたかった。
その結果がこれだ。
地上で白野が目を覚ました時、その喜びからそれから先のことを考えることを放棄した。
いや、きっとこう考えていたのだ。
真っ白な地上の岸波白野の魂は月の岸波白野に上書きされたのだと。
古いデータは新しいデータに更新されたように。
人の魂がそんなに単純な筈はないのに。
自分に都合の良い言い訳に逃げてきてしまった。
地上の岸波白野を何処までも蔑ろにして。
「最低です……わたし……」
泣くのを堪えて首を上げる桜。そんな桜にアストルフォは桜の両頬を叩く。
「なーに勝手に落ち込んでるのさ!まだなんにも結果なんて出てないでしょう!」
怒ったアストルフォに桜はでも、と言い淀む。
「でもも何もないんだよ!まだ2人のハクノは生きてる。なら僕たちがやることは
「ふたり、とも……?」
「そうだよ。まだ間に合うんだ。ボクたちが頑張れば。桜はどうしたい?大切なのはそこだろ?」
真剣な顔で問うアストルフォに桜は自分が何を望んでいるのか考える。答えはあっさりと出た。
「あいたい……会いたいです。わたしたちの知る白野さんに……」
桜は抑えようと思った涙を抑えることが出来なかった。
月で言った。BBが人は愛のためなら世界さえ引き換えに出来ると。その言葉の意味を改めて桜は理解する。
温かいものを信じていたい。
温かいものを守っていたい。
自分はそういうモノで出来ていたのだと。
そう言った尊い人を失うくらいなら世界なんていらないと。
今の桜は本気でそう思っていた。
「でも、今の白野さんにも消えてほしくないんです」
「うん。ボクもそうさ。ボクたちの知るハクノを取り戻すために今のハクノを犠牲にしたくない。だから考えないと2人を、助けられる方法を。やっちゃったことの責任は果たさないとね」
最後に笑顔でウインクするアストルフォに桜は力強く頷く。
「必ず、2人とも助けて見せます!」
「うん。方法はお願いね!ボクにできることならなんでも手伝うからさ!」
「え?丸投げですか!?」
「当然だろ!ボクに頭脳労働なんて期待しないでよ!」
胸を張って言い切るアストルフォに桜は笑いを堪えることが出来なかった。
(これはわたしの行動の結果。だから責任はとって見せる。方法は必ずあるはず!)
決意を新たに桜は2人の岸波白野を助ける方法を探す。
夢を見ている。
そこでは私を含めた3人が同じベッドに居た。
「はくの、さん……白野さん!」
自分の下では青の混じった長い黒髪の少女が聞いたことのないような蕩けた声で自分を求めている。
応えるように口づけをし、その乳房に掴む。
「ハクノ、ハクノォ!!」
また、後ろからはピンク色の髪の少女が普段の三つ編みを解き、その性別ではある筈のない物が自分を貫いてくる。
それに自分が考えられないような甘い声を出した。
そんな、あり得ない夢を見た。
目が覚めると岸波白野は顔を真っ赤にさせて自分の頬に触れた。
夢で見た3人の情事。
それを思い出すと顔が熱くなる。
同性を相手にあんなことをするなんてありえないし。そもそもアストルフォに関しては性別が変わってさえいた。
あまりにも失礼な妄想を夢に見て居た堪れない気持ちになった。
「わ、わたしにそういう趣味があるわけじゃないよね……?」
その想像に震えながら白野は松葉杖を手にベッドから下りた。
検査を受けてから既に10日ほど経過している。
その間に白野は見知らぬ少女たちと同じ部屋で過ごしてきた。
白野の視点から見ても2人はとても善い人で打ち解けるのにも時間はかからなかった。
そんな2人であんな夢を見るなんて!と思いながらもリビングへと移動する。
「おはよう、桜、アストルフォも」
「おはようございます、白野さん」
「おっはよー白野!早く食べよ」
食卓には桜が用意した食欲を刺激させる朝食ご用意されていた。
食卓に着くと桜が白野の顔を見て質問する。
「白野さん。ちょっとお顔が赤くないですか?もしかして熱があります?」
看護学校に通っているせいか、桜は2人の体調。特に白野に対して過敏に反応する。
その優しさが嬉しくもあるが今は正直放って置いて欲しかった。
「ううん。ないよ」
首を振るが桜はんー、と目を細める。
「でもやっぱり顔が赤いです。今は季節の変わり目ですし、気をつけないと」
そう言って桜の手が白野の額に伸びる。
白い手が触れると今朝の夢を思い出して更に顔を赤くさせた。
「わっ!?ホントに熱いです!?もしかして風邪!?」
「ち、違うから!?今朝ちょっと変な夢を見ちゃって」
慌てる桜に白野は訂正する。
「夢、ですか?それはどんな?」
言った後に白野はしまった、と口を押さえる。しかし言わなければ桜が納得しないだろうとも思った。
「お、怒らない?」
「どうしてです?怒りませんよ」
むしろ話してくれないと怒りますと言った感じの態度に白野は顔を伏せて話す。
「その、私達3人がベッドの上で裸になって――――」
最後は声を小さくしていたが、もじもじと話す白野の様子から察したのか桜も顔を赤くさせた。
「そ、そうですか」
「ご、ゴメン」
白野と桜が互いに顔を真っ赤にさせているとアストルフォが口を出した。
「ねぇ、早くご飯食べようよ~。ボクお腹空いた~」
空腹でテーブルに顔を突っ伏しているアストルフォに2人はくすりと笑う。
「そうですね!冷めないうちに食べちゃいましょう!」
「う、うん」
そして朝食を摂りながら桜は頭の中で新しい情報を入れる。
(記憶が共有され始めている?でもおそらく共有出来るのは地上に出てからのモノだけの筈)
予想ではあるが、岸波白野の肉体の経験を今の白野が夢として見ているのではないかと仮定する。
(何にせよ、急がないと)
顔に笑顔を張り付かせながら桜は内心で焦りを生み出していた。
白野は室内とマンション周辺を松葉杖で散歩できるくらいには体力を取り戻していた。
そのことを喜んでくれる2人を見て白野も自然と笑う。
桜がやけに忙しそうにしているのが気にかかるが白野の日常は緩やかに過ぎていった。
(シャワー浴びたい……)
夕方に周辺を散歩して帰って来た白野は汗を流そうと補助を桜に頼もうとするが彼女は台所で料理をしていた。
そして浴室はアストルフォが使っている。
看護学校に通っているからか桜は白野のこうした補助や世話は自分の仕事としている感じがある。
しかし白野としてはいつも桜の手を煩わせるのは悪いと感じ始めていた。
(足もだいぶ動けるようになってきたし、アストルフォに頼めば滅多なことにはならないよね……)
そう思って白野は自分の着替えを取って来て浴室の扉をノックする。
「だれ~」
「アストルフォ。私もシャワー浴びたいんだけど、手伝ってもらっていいかな?」
「ハクノ~?いいよ~」
承諾を得られたことに安心した白野は浴室の扉を開ける。
そこにはシャワーを浴びていたアストルフォが居た。
(あれ?)
アストルフォの裸体を見て白野は疑問に思う。
まっ平な胸は服の上からもわかっていたのでそれはいい。
視線を下の方へと向けるとそこには―――――。
「どうしたのさ、ハクノ?早く入りなよ」
「き――――――〇✕△✩◇」
室内に響いた白野の悲鳴に驚いた桜が手にしていた味見用の小皿を落とした。
「いや~ごめんねぇ。言うの忘れてたよ!」
「すいません白野さん。わたしたちの中でアストルフォさんの性別に関しては当たり前になっていたので」
笑いながら謝罪するアストルフォと申し訳なさそうに頭を下げる。
確かにアストルフォが男性ならお風呂とか一緒には入らせなかったわけだ。
「だってアストルフォいつも女物の服着てたし……なんで……?」
「趣味?」
「……」
アストルフォの答えに白野は溜息を吐く。女装男子と知って嫌悪感が湧かないのはあまりにも似合い過ぎるからか。それとも彼の人徳の為せる業か。
「……もういいよ。私も聞かなかったし」
これはみんなが悪かったのだ。そう思わなければ何かが爆発してしまいそうだった。
その後、白野がアストルフォを異性として意識する場面こそあるが、概ね何かある訳でなく再び日々が重なる。
だから、みんなこのまま上手くいくのではないかと考え始めていた。
それが甘い見積もりだったと思い知らされることとなる。
アストルフォがアルバイトに出かけて桜は学校がお休みで。
白野は紅茶と菓子を用意していた。
日頃からお世話になっていてここの所忙しくしている桜を労おうとしたのだ。
「よ!うん!大丈夫大丈夫!」
松葉杖と物が乗ったトレイを危なっかし気に運びながら桜の部屋のドアをノックする。
「桜。入っていい?紅茶、用意したんだけど」
返事はない。
それに首を傾げつつ、心の中で謝罪して鍵がかかっていないドアを開く。
部屋の中ではパソコンを付けたまま転寝している桜が居た。
「寝てるんだ。起こした方がいいよね」
看護学校生って大変なんだなと思いながらこの体勢で寝るのは体に悪いと思ってトレイを備え付けられているテーブルに置いてから起こすことにした。
「さ――――」
そう起こそうとしたとき、画面に映る名前に目をやる。
岸波白野。
「なんで私の名前が?」
もしかしたら普段私にしてる看護をレポートとしてまとめているのかもしれないなどと思いながら興味本位で読んでしまった。
すぐにそれを後悔した。
転寝をしていた桜が目を覚ました時、唖然としている白野が目に入った。
「桜、なにこれ……?」
白野が指差していたのは今の白野の状態を記したデータだった。
それを見られたことで桜に悪寒が走る。
とっさに電源を落とすが後の祭りである。
「ねぇ。私の中に魂が2つあるってどういうことっ!?これ、ただの冗談だよね」
何所か縋るように自分を見る白野に桜は観念したように話し始める。
「ごめんなさい。ここに書かれていたことは全て真実です。わたしは、とある事件で失いそうになったある人の魂をコールドスリープで眠っていた貴女に移しました」
「なんで……」
怯えた表情で後退り、ドアを背にする白野。桜はそれに感情を抑えて機械的に答える。
そうでなければ泣いてしまいそうだったから。
「都合が、良かったんです。あの人の魂を入れる器として貴女がもっとも適していた。だから――――」
「私の、魂を消すの……?」
「そんなことはしませんっ!?」
聞いたことがないほど桜は大声を上げる。
「わたしたちは、貴女たち2人が存在できるように、その道を探して――――――」
「嘘だっ!!」
桜の言葉は白野によって遮られた。
「あなたたちは私の中に居る人に戻ってきてほしいんじゃないの!?だから、桜はその方法を探してたんでしょう!?それにその人がこの身体を使ってる間に、もしかしてあの夢で見たことは――――」
夢を思い出す。
3人で交わる夢を。アレがもしや、自分の身体を乗っ取られている間に起きたことだとすれば?
自分が眠っている間に貞操などを奪われていたとすれば?
その可能性に白野は悪寒で鳥肌が立った。吐き気もきたような気がする。
「……そのことに関しては弁明のしようもありません。ですが、わたしたちは……」
「来ないでっ!?」
そうして近づいてくる桜に白野は近くにあった目覚まし時計を投げつけた。
投げつけた目覚まし時計の尖った部分が桜の頭に当たり、血が流れる。
「あ……」
流れた血を気にも留めずに哀しそうに自分を見る桜に白野は逃げるようにその場を後にした。
それを追いかけることも出来ずに桜は流れた血を手の平で拭う。
「本当に、最低だ。わたし……」
手に付いた赤い血に透明な雫が混じった。
マンションの部屋を出た白野の頭はぐちゃぐちゃだった。
全部嘘だった。
与えてくれた優しさも勇気づけてくれた言葉も。
そう思うと涙が流れてくる。
エレベーターに近づくと中から見知った顔が出てきた。
「あれ?ハクノ?どしたの?」
アルバイトから帰って来たのだろう。アストルフォが不思議そうにこちらを見ている。
その顔を見た時、夢で見たあの情事が過ぎった。
あれも、事実だったのなら。
「ひっ!?」
「え?」
怯えた顔で後退り、近くの階段を下りようとする白野。
「どうしたのさ!それにそんなに急いだら危ない!?」
アストルフォの不安は的中することになる。
松葉杖で急いで移動した結果、白野は階段で足を滑らせる。
「ハクノッ!?」
アストルフォが手を伸ばすと白野は過ぎった
そのまま、岸波白野は階段から転落した。
意識の海に落ちるとそこには自分と同じ姿をした少女が身体を鎖に繋がれ、台座のような場所で座り、眠らされていた。
これが、そうなのかと無意識に理解する。
彼女は自分にそっくりな少女の首に手をかけた。
自分の身体が乗っ取られていた。
その間に処女とか失っていたって本人的には相当ショックだと思った。
次回の後編で自分的にはCCC編のエンディングみたいな感じです。